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「へー意外と早かったですね?」

慎二君は自分の部屋にいた。
「どうも…」
とにかく来ちゃったよ…
「耀くんは?」
「まだ大学から帰ってませんよ。」
「そっか…」
「まったくあなたって人は…耀くん耀くん言ってるわりには良く怒らせますよね…
もしかして怒らせて楽しんでるんですか?」
真面目な顔でオレに 聞く。
「そんな訳無いじゃんっ!!今日だってオレ倒れそうなんだよっ…!!」
今のオレ見て分かんないのか??
「ダメですよ。自分中心に考えちゃ…」
「え?」
「軽い怪我なら言わなくていいなんて思ってるんでしょ?」
更に真面目な顔でオレに聞く…真面目と言うより少し冷たい感じだ…
慎二君が変わり始めてる のか…?
「…だって…知らない方がいいだろ?
たいした怪我じゃないのに耀くんに心配させるわけいかないから…」
慎二君は黙って聞いている…
「オレ耀くんの心配する顔…見たくない…」
「その結果がこれでしょう?いい加減自覚しましょうよ。
耀君は知りたがってるんですから…」
「そうだけど…」
「椎凪さん……」
「 ! 」
「もし耀君が大学で怪我をしたとしてその事黙ってても許せます?
もし怪我をしてると分かってたら労わってあげる事も 出来るし
癒してあげる事も出来るでしょ?耀君は心配してるだけじゃないんですよ!
心配もありますけどあなたの傷を癒してあげたい…
労わってあげたいん です!」
オレを真っ直ぐ見つめて話す慎二君の視線は……痛い…
「………」
オレは返事をしなかった…
「本ー当!!大バカですよね!自分の事は軽く扱う んですから…」
突然慎二君が思いっきり呆れた声を出してそう言った。

「 出直して来て下さい!! 」

「は?」
そう言って呆けてるオレを玄関の外に 突き飛ばした。
「え?」
オレは振り向きながら慎二君を目で追う。
「十分反省してしばらく顔見せないで下さい!!
大学に逢いに行ったら許しませんから!!」

慎二君が怒ってる…?
「僕…本当に頭にきましたから!ちょっとやそっとの事じゃ許しませんから!!
じゃあそう言う事で!さよなら。椎凪刑事さん!」

バタンッ!!

思いっきり勢い良く玄関のドアを閉められた…ドアを呆然と見つめるオレ…
えー?うそ…オレ…そんなに悪い事したか…??
そう言えば慎二君を 怒らせるなと耀くんにも祐輔にも言われていた事を
…今頃思い出した…

オレは祐輔の帰りを待って急いでマンションを訪ねた。
「だからっオレんトコ来んなっつ ーんだよっ!!ウッゼェなっっ!!!」
そう言って祐輔にしがみ付いてるオレを引き離そうとする。
「だって…祐輔しかいないんだもーんっ!!慎二君マジで 怒っちゃうし…
耀くんからメールも来ないんだよーっ!!耀くん元気だった?ねぇ祐輔ぇ……」
こうなったら祐輔に耀くんの事を聞くしかない!
同じ大学だから 今日だって会ってるんだ…オレは会ってないないのにっっ!!
「あーホントウゼーなっっ!!!!」
オレは祐輔に引っ付いてしばらく離れなかった。

あれから2日が経とうとしている…
こんなに長く(たった2日…)耀くんと離れてるなんて耀くんが実家に帰る以外初めてだ…
もう…耀くんを抱きしめたくて…キスしたくて…身体が変になりそうだよーっっ!!
もちろんオレは祐輔の部屋にお泊り中。もう祐輔は慣れたもんで諦めている…
大学から帰って来た祐輔がオレに話してくれた…

「え?耀くんが怪我した?うそ…」
「マジ。今日大学でな…耀から連絡無いのか?」
「うん…」
心臓がドキドキしてきた…ジッとしてられない…
「あ…おい!椎凪…」
祐輔が何か言ってたけどそんな事は耳に入らずオレは慎二君の家に向かっていた…

慎二君の部屋のドアのインターホンを乱暴に鳴らす。
ドアが開くまでの間が異常に長く感じた…しばらくして静かにドアが開いた。

「…何ですか?」
慎二君が冷たく問いかけた。
「耀くん…大丈夫なの?怪我したって祐輔から聞いて…」
玄関に入ろうとするオレの前に立ち塞がる様に慎二君が立った。
「ええ…平気ですよ。別にたいした怪我でも無いですし…
コケてオデコぶつけてたんこぶが出来ただけですから。」
「え?そうなの?…良かった…」
ホッとした…
「でも何でオレに知らせてくれないの?ホントそこまでする?」
「しますよ!別に怒る事じゃないでしょ?あなたと同じ事しただけじゃないですか?
軽い怪我なんですから言う必要ないでしょ?」
「慎二君…オレ…いい加減…マジで怒るよ…何なの一体…」
あまりの言い分に勝手に『オレ』が出た。
慎二君にも分かったはず。

「 はぁ…? 怒るぅ…? 」

ピシッっと慎二君の顔に怒りマークが出た!
……え?…オレは変に心臓がバクバク言い出した…
「へー…怒るですって?それって逆ギレって言うんですよね?僕に逆ギレ?」
あれ…なんか…ヤバイかも…もの凄い凄まれてる…オレ??
「大体もともとの原因は椎凪さん!あなたですよねっ?それを何ですかっ!!
耀君に会えないからって僕に当たるんですかっ!!
僕を怒る?ふざけんじゃないって 感じなんですけど?
それに僕が耀君と会わせてないみたいに思ってますけど
耀君も会いたくないって言ってるんですからね!
そこんとこ分かって言ってるん でしょうねっ!!」
「耀くん…が?オレに…?会いたくないって?」
うそだ…そんな事…更に心臓がバクバク言い出す…眩暈まで起きそうだ…
「そーですよっ!メールだって来ないでしょ?」
意地悪そうな顔で次から次へとオレに言葉を浴びせ続ける…
「とにかく!今回はとこっとん反省してもらいます から!!
今ので更に追加ですからっ!!早く帰って下さい!!」
「 ぎゃんっっ!! 」
そう言って今度は玄関の外に蹴り出された。

オレは目の前が 真っ暗だ……悪夢だ…早くこんな夢から目を覚まさなくちゃ…
って…夢なんかじゃ無い事はおれ自身が一番分かっていた…

「椎凪…どうだった?」
ソファに座って心配そうな顔でクッションを抱え込んでる耀が慎二に声を掛ける。
「まだまだ持ちそうだよ。」
何気に愉しそうな慎二の顔。
「えー…もう そろそろいいんじゃない?オレ椎凪の事心配になってきたよ…」
絶対イジケモードのはずだもん…もしかして泣いてるかも…
あの時は本当に頭に来て懲らしめて やろうと思って飛び出しちゃったけど…

「もー…耀君は甘いなぁ!!」
慎二さんが呆れた様にオレに言う…だって…
「あの様子じゃ椎凪さん 分かってないよ。自分がどれだけ危険な仕事してるかさ!」
「椎凪刑事天職だから愉しいんだもん…仕方ないよ…」
そう…椎凪は刑事の仕事が愉しいんだ。
「でもさ椎凪さん祐輔と違って自己犠牲型だから…」
「自己犠牲型?」
思わず首を傾げた。
「そう。祐輔も和海ちゃんの為に命掛ける…
でも祐輔は自分を 犠牲にするつもり無いんだ…絶対2人共助かるって思うの。
でも椎凪さんは耀君を助ける為ならあっさりと自分を犠牲にしちゃう人…」
「慎二さん…」
「本人はさそれで満足かもしれないけど残された耀君はたまったもんじゃないでしょ?」
「………」
「問題は本人が自覚してないって事!本当分かってないん だよね…」
そう言って大袈裟に溜息を吐いた。
「でも…椎凪オレを一人にしないって言ってくれるよ…」
「いやっ!絶対その時になると自分を犠牲にして 『耀くんオレの分まで生きて!』
とか言って死のうとするよきっと!辛いの耀君だよっ!!」
ビシリと言われた。
「ありえそー…かな…」
ホントそう思う… その時の光景が頭に浮かぶ程…思わず顔が引き攣った。
でもオレは椎凪の事が心配だった。

その頃強制的に帰らされたオレは嫌がる祐輔に絡みついていた…
「ねー祐輔ェ…慰めてよぉ…」
「ダアーーー!ウゼェなっ!!」
まったくさっきからコレだっ…ってか2日前からコレか?いい加減にしやがれっっ!!
「オレ…そんなに悪い事した? ねぇ?祐輔…」
半ベソのまま祐輔を覗き込んだ。
「………!!!」
泣いてんじゃねーっっ!!ったく…引くぞっ!!
「何で?心配させちゃいけないのって悪い事?」
もうどうしてだか分からない…
「お前さぁ…」
祐輔が呆れた様に話し出した。
「基本忘れてねーか?」
「基本?」
「怪我したら耀に話すって2人の約束なんじゃねーの?お前ソレ簡単に 破ってんだぞ?」
「 !! 」
頭を殴られたみたな衝撃が走った。
「心配させねーって結局怪我した時点でもう無理なんだよ。
だったら怪我すんな! 耀だって分かってる。刑事なんだから危ねーってのは…
オレだって怒るぞ…和海が怪我したの隠してたらな…お前だってそうだろ?
なのに心配させたくなかった なんて理由にならねーんだよ。正直に話せ!
約束は守れって事。」

祐輔の…言う通りだった…
オレ…耀くんとの約束…守ってなかったんだ…今ごろ…気が付いた…
…オレって…ホント馬鹿だ…人に言われるまで気付かなかった…


次の日慎二君の部屋を訊ねた…
相変わらず慎二君は怒ってる…顔見れば分かる。
「何ですか?」
もの凄い冷たい言い方だ…でもオレは…
「耀くんに…会わせて…慎二君…」
そんな一言を 言うだけでもの凄い勇気がいって思わずシャツの前をギュッと
握りしめていた。
「………」
慎二君はジッと無言でオレを見つめてる。
「ごめん…もう…約束守る から…ごめんなさい…」
オレは半べそ状態だった…
「もう…怪我しない様にもっと気をつけるから…お願い…耀くんに会わせて…」
心の底からお願いした…
「怪我…しないだけじゃダメなんですよ…」
「 !? 」
「あなたは死ぬ事も許されない。あなたが死んだら耀君も死ぬと思って下さい。
耀君がいなく なったらあなたも生きて行けないのと同じ様に…」
「慎二君…?」
「あなた自分が危険な仕事してるって自覚本当無さ過ぎです!
これからは注意して下さいね! 耀君を悲しませる事絶対にしないで下さい!!
…2人共…僕の大切な家族なんですから…」
そう言ってとっても優しく笑ってくれた…
「慎二…君」

僕は一人っ子だ…そのせいかも知れないけど耀君の事は弟(妹)みたいに思ってる…
祐輔に対する気持ちとは違う…耀君と知り合った頃…耀君は傷ついてて…
とっても辛い経験をしてるの知って余計気になって仕方なかった…
だから…祐輔が耀君を守るなら…僕も耀君の事守ってあげる…
僕の全てをかけて耀君を守る… だから…耀君の好きな人も僕が守るよ…
耀君には…幸せになって欲しいから…耀君は僕の家族と同じ…
だから椎凪さんも…僕の家族なんだ…

慎二君が ニッコリオレに微笑んでくれた…
オレは嬉しくて…思わず慎二君に抱きついた。
「慎二君ーー!!オレうれしーっ!!!」
「うわっ!ちょっ…椎凪さん… やめっ…」
もの凄く嫌がられてるけどオレは気にせずしばらく抱きついていた。
「ありがとー慎二君!!ありがとーうれしー!!キスしたいくらいっ!!」
そう言って慎二君に目をつぶって近づいた。
「ホント…ちょと…止めてくださいってばっ!!」
あれ?マジに嫌がってる?折角オレの感謝の気持ちなのに…

捨て子のオレにとって家族なんていないと思ってた…
でも亨が家族だって言ってくれて…慎二君も言ってくれた…
オレ…本当に…嬉しい…君達に…耀くんに出会えて…本当に良かった…


「ちょっ… 少し…休…休ませて…」

2人で仲良く家に戻ったその日の夜…当然耀くんと愛し合う。当たり前だっ!!
そんな耀くんがあっという間に弱音を吐いた。
「ダメダメ。3日分するんだからまだまだ足りないよん。」
オレは後ろから攻めてる姿勢のまま耀くんに顔を近づけてそう言った。
「え?3日分…?」
ウソでしょ…?って言う顔を耀くんはしてる。
だからオレは本当って言う顔でニッコリと笑ってあげた。

結局毎晩の様にオレに足りない足りないと迫られ攻められ続け た耀くんが
過労でダウンした!
慎二君の知る所となって…またヤバイんですけど…オレ…

「あなたって人はっっ!!ホント懲りないですねっ!!
反省するまで耀君僕が預かりますからっっ!!」

と…また慎二君にこっぴどく怒られた!!
「えー……」
一応反抗してみた…けど…
「何か文句があるんですかっ?ギロッ!!」
「……!!!…」
って一睨みされた…ダメだ…

どうにも慎二には頭の上がらない椎凪でした。