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記憶喪失の一件以来椎凪は時々あの椎凪になる…
滅多にオレの前ではならないんだけど…

「なに?椎凪?」
帰宅した椎凪がベッドに横になっていたオレに 紙袋を見せた。
「仕事で時々お世話になってる人がさぁどうぞって。」
「……… ? 」
中を覗くと見た事も無いいかにも怪しげな皮製で鎖が付いた
手錠らしきモノが入っていた…
「なに?これ?オレにどうしろと?」
大体察しはついたけど一応念の為に聞いてみた。
「たまにはさっ。こーゆーので遊んで みない?」
「はぁ?」
思いっきり下心丸見えの笑顔でオレに笑いかける。
「絶対にイヤっ!!それにこんなの使わなくたって椎凪オレの事縛るじゃんっ!! 」
そう…いつもオレが椎凪の邪魔するって椎凪のシャツで後ろ手に縛られる…
「だってさぁこれって手足のセットだよ?そんなのした事無いじゃない?」
そんな事 頻繁にするもんかっ!!
「 余計イヤだよっ!!椎凪のばかっ!! 」
即却下!!
「ホントにダメ?」
「ダメったらダメっ!!普通しないだろっ!!」
「すぐ外すから…ね?それでもダメ?」
椎凪がしつこいくらいに食い下がる。
「イヤだよっ!!もー…いい加減に…」

「ね?耀くん。お願い。」

「 …!! 」
あんまりしつこいから睨んでやろうと振り返ったら…
椎凪ってば…いつの間にか『あっちの椎凪』になってるぅ…

「耀くん…オレのお願い…聞いてほしいなぁ?本当にすぐ…外すから…ね?」

言いながら首を 少し傾ける…もうオレの心臓はドキンってなった。
「 ……… 」

ズルイ…椎凪…オレがこっちの椎凪に弱いの知ってて…


「…んあ…ほ…本当に…すぐ外してくれるの…?」
オレはあの椎凪にコレでもかって言う位キス されて…
パジャマまで脱がされて…身体中舐め回された…
散々遊ばれて…もう感じすぎて…目の前がクラクラして…息が弾んでる…
「うん…約束する…」
そう言ってニッコリ笑った…


両手にしっかりベルトで締められた手錠が付けられた…
その先は鎖が繋がっていてベッドに固定された…
足首にも同じ様に 付けられてベッドに固定される…

「本当にすぐ外してよ…チョットだけだからね…オレが言ったらすぐ外してよっ!!」
何度も何度も念を押した。
「…くすっ」
「……?椎凪?」
意味ありげに笑う椎凪の手には小さな筒の様なものがある…
「え?…ちょ…椎…んっ!!」
オレは口にそれをはめられて 話せなくなった…

「耀くんってばすぐ騙されるんだから。可愛いね…
さてと楽しい時間の始まりだよっ!耀くん。」
もの凄く邪悪な瞳で椎凪が薄く口元に 笑いを浮かべながらそう言った…
しかもペロリと舌で唇まで舐めて…
『椎凪のうそつきぃーーーーっっ!!』
オレは塞がれた口で文句を言った。

「……ううーーっっ…んっ…んっ…」
それからオレは何時間もその状態で椎凪に抱かれた…
口では言えない様なあんな事やこんな事をされても
縛られてる オレにはどうする事も出来なくて…
もう涙まで勝手に零れてくる…
すぐ外すなんて…嘘ばっかりだっ!!椎凪の大ばかっ!!
オレの乱れた呼吸の音… 鎖が揺れる音…
そして…ベッドの軋む音がいつまでも寝室に響いていた…

どのくらい経っただろう…オレはやっと開放された…

もう…クタクタだった…身体中キスマークだらけだし…
「ハァ…ハァ…う…椎凪…」
「ん?なに?」
椎凪はニッコリ笑ってオレを見てる…
「ひどい じゃないかっ!!口にこんなの付けるなんて言わなかったじゃんっ!!
すぐ外してくれるって言ったのにっ!!」
息も絶え絶えに文句を言った… 言わずにはいられない…
「だって最初に言ったらさせてくれないも〜ん。せっかく貰ったのに使わないとね!」
「 ばかっ!!本当にヒドイっ!!」
「えーーでもそのお陰でいつもより燃えたでしょ?
耀くんもいつもより激しかったよ。身体は正直だよねぇ。」
意味ありげにニコニコ笑う…
「 !!! 」
オレは見る見る顔が赤くなった…確かに…いつもより…その…
「もー椎凪のせいでオレどんどんエロくなってくよっ!!もーやだっ!!」
真っ赤な顔で椎凪に文句を言った。
「いいじゃん。2人でエロくなって一杯いーっぱい愛し合おうよっ!!ね!」
まったく…椎凪は反省の色が無いっ!
「いいよ…オレは…普通でいいもん…」
脱がされたパジャマで身体を隠しながら不貞腐れてそう言った。
「 えっ!!なんで?オレの事嫌い?」
そう叫ぶと椎凪が急に落ち込んだ…
「…誰も嫌いなんて 言ってな…」
「じゃあいいよね!ねっ?」
途端に顔が明るくなる。
「………うー……」

なんか椎凪…ズルい…
こうやってオレはいつも椎凪に負けちゃうんだ…あっちの椎凪だと尚更勝てない…

オレ…椎凪に甘いのかな…?


「椎凪さーん」
「 !? 」
仕事中歩いてたら声を掛けられた。
髪長の色気タップリのお姉さんがオレに手を振りながら近付いて来る。
大人のオモチャの入手先…とある事件でお知り 合いになったAV女優さん。
「また撮影で使ったのあげるぅ。」
そう言って紙袋をオレに渡す。
「え?いいの?」
「うん。本当はあたしに使って欲しいんだけどぉ」
そう言ってトロンとした眼差しでオレを見上げる。
「んー…何年か前だったらねぇ…喜んで相手したんだけどね。残念でした。」
「じゃあ今度飲みに付き合ってよ。 それでチャラにしてあげる。」
「はは。残念オレ下戸なの。ごめんね…でもありがとう。」
そう言うと普段は見せない表向きの優しい作り笑顔で笑ってあげた。
これでも感謝のお礼のつもり。
何とか受け取ってもらえたらしくお姉さんは頬を赤くしてた。

もらった紙袋を見つめて思わず口元が緩む。
耀くん『オレ』の お願い絶対聞いてくれるからなぁ…
フフッ…今夜も楽しみだなぁ…

オレはさっさと仕事を終わらせて早く家に帰ろうと心に決めて足早に歩き出した。