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「…あっ…んっ…んっ…椎…凪…」
「…耀くん…愛してるよ…ちゅっ…」

今日は2人共お休みの日…
相変わらず朝から愛し合っております。
眠ってる耀に 絡みつきあっという間にパジャマを脱がせ
もう結構な時間が過ぎようとしています。

しかし…今日はもう一組…お休みのお2人が…
椎凪達に負けず劣らず朝から 愛し合っている様子…

此処は耀のマンションから歩いて15分程の高級マンション。
…の最上階の祐輔のお部屋…の寝室。


「…んっ…んっ…アッ…」

ベッドが軋む度に和海さんの声が漏れています。
久しぶりの和海さんのお泊りで昨夜からアツアツの2人。
と言うか祐輔が和海を離さないのですが…


「…祐輔さん…」
和海が小さな声でオレを呼んだ。
「何だ?」
返事をしながら…でも和海を攻めるのを止めたりはしない。
「…私の事…好き…?」
和海はいつもオレに聞く…
「好きだよ。」
だからオレはいつも同じ答えを言う。
「…たまにしか…会えなくても?…私が仕事で忙しくても?」
何でそんな 困ったような顔するんだかな…いつもいつも…
「それでも和海が好きだ。いつも言ってんだろ?オレは和海以外誰も好きにならないって…
信じられねーのか?」
「……だって」
「そんな不安そうな顔すんな…オレは和海だけだ…」
そう言って和海にキスをした。
「はい……」

和海は仕事でたまにしか会えない事に 後ろめたさを感じてる…
だったら毎日オレの所に来ればいいのに…
そんなオレの気持ちなんて全くお構い無しに和海は事件に没頭する…

だからたまに2人 っきりになれるこの時間がずっと続けばいいのにといつも思う…
でもそれはオレの我が儘だ…
だから一緒にいられる時間を誰にも邪魔させない…

オレを 身体で覚えてろ…
どんなに和海の事が好きか身体で覚えて忘れんな……

「…んっ…あっ…祐輔さん……」
和海の限界はとっくに超えてる…でもオレはまだ 止める気なんかない。
「和海…」
後ろから和海の身体に覆い被さった…
「ハァ…ハァ…はい…」
「まだバテんなよ…まだまだこれからだぞ。」
「…んっ…」
和海の顔を片手で持ち上げて無理矢理後ろを向かせて口を塞いだ。
「和海…」
「…は…い…?」
「…愛してる…」
耳元に囁いた。
「……私も……愛してます…」


和海にしか言わない言葉…その事を和海はわかってるのか……



「あ!祐輔と深田さんだ。」
「え?」
椎凪がオレ達の前を見てそう言った。
お昼を外で食べようと2人で街を歩いてたらバッタリと祐輔たちに出くわした。
オレと椎凪は祐輔達の後ろにいたから祐輔は まだオレ達に気付いていない。
「あ!本当だ。」
「深田さんも今日休みだったんだ。」
オレと椎凪はしばらく2人の少し後ろを歩いてた。

「祐輔ってさ 深田さんと2人っきりだとすっごくイチャイチャするんだよ。」
耀くんがクスって笑いながらそう言った。
「えっっ!!うそっ!?祐輔が??」
オレは想像 出来なくて…
「あ!ほらっ!!」
耀くんのそんな言葉につられて前を歩いてる祐輔達に視線を移した。

久しぶりに祐輔さんと外を歩いてる。
いつも 会うのは夜が多いから昼間2人で出掛けるなんて本当に久しぶりで…
嬉しくてつい祐輔さんに甘えてしまう。
「祐輔さん…」
「ん?」
「…あ…あの…手繋 いでいいですか?」
普段そんな事した事が無いから…照れて嫌がるかしら祐輔さん…
だからダメかなって思いながら聞いた。
「ん。」
「!!」
素っ気 ないけど…返事をしながら手を差し出してくれた。
私はニッコリと祐輔さんに笑って差し出された手をぎゅっと握った。

「あっ!!手繋いだっ!!うそっ!!」
椎凪が思いの外ビックリして叫んだ。
「ね。」
オレは人事なのにちょっと自慢げ。
「へぇ…」
オレはビックリ……あの祐輔がこんな恋人同士みたいな事する なんて……
って恋人同士なんだけど……
「それにすごく優しい顔になるんだよ。」
確かに深田さんを見てる顔は軽く笑ってる様に見える。

「あっ!! キスしたっ!!」

本当にごく自然にあっという間の出来事だけど今祐輔から深田さんにキスしたよな??
こんな公衆の面前で…オレじゃあるまいし…って変な 比較だけど……

「祐輔…深田さんの事が好きで好きでたまらないんだろーな…きっと…くすっ。」
「はぁ…何か意外だな…」

オレは不思議なモノでも 見る様な眼差しをずっと2人に向けていた。



「一緒にお昼食べない?」

後ろからこっそりと近付いて祐輔の耳の元に囁いた。
「 ビ ク ッ !!」
祐輔がもの凄く驚いて振り向いた。
「椎凪さん!!??」
深田さんももの凄い勢いで振り向いてそう叫んだ。
オレと耀くんは意味ありげにニッコリと笑顔で2人 を迎えた。


合流した場所から近くのイタリアンのお店に入った。
お互い向かい合って座る。
「いや〜〜いいもの見せてもらったよぉ。」
オレは さっきからニヤニヤ笑ってる。
「うるせー!黙れっ!!」
祐輔は照れ臭そうにオレに凄むけどオレはもう可笑しくて可笑しくて笑いっぱなし。
「次はすぐ声 掛けろ!じゃなきゃ声掛けんなっ!!」
だんだん顔に怒りマークが浮かんできそうなのでいい加減からかうのを止めた。
「もー祐輔ってば照れない照れない!」
ダメだ…余計な言葉が口から零れる。
「……ったく…」
祐輔が諦めた様に溜息をついた。


「2人っきりの時間邪魔されたからってそんな顔しない。 祐輔!」

慎二君が合流して不貞腐れてる様に見える祐輔に向かってそう言った。
「だからって何で慎二君がオレと耀くんの間に座ってんの?」
オレは思い っきり不満ありありの態度で右隣に座る慎二君に向かってそう言った。

「あなた達はくっ付いてるとろくな事しないからですよ。
公衆の面前って事すぐ忘れるんで すから。仕方なくです。」
「はぁ?何それ?失礼なっ!!」

その後もブツブツと文句を言うオレの事なんかお構い無しに皆サクサクと
料理を注文していった…この薄情モンっっ!!!!


「そう言えば椎凪さんってピアス開けないんですか?」
「え?」
急に慎二君がそんな事を言い出した。
「撮影の時思ったんですよね…椎凪さんなら開けてても不思議じゃなかったから。
どうしてです?」
「そお?オレは祐輔の方が不思議だけどね。似合いそうなのに。」
「え?祐輔してますよピアス。両耳に…あまり目立ちませんけど。ねぇ?」
祐輔に目線だけ送る。
「え?ウソっ!?」
オレは何の迷いも無く祐輔に手を伸ばして 左耳にかかる髪をかき上げた。
「……!!……」
ビ ク ン っ !!
祐輔が思いの外身体をビクントさせた。
「あ!ホントだ。ある…」
真っ赤で小さな ピアスがちゃんとあった…今まで気が付かなかった。
「いきなり触んじゃねーーーっ!!!ぐあぁ…気色悪ぃ……」
もの凄い嫌がり様だ…そんなに???
「妹さんの形見なんだよね。」
耀くんがそっと呟く様に言った。
「形見?」
そう言えば祐輔の家族ってみんな事故で亡くなったんだっけ…
「中学生だった 妹さんが亡くなった時付けてたんだ…」
「そうなんだ…」
当の祐輔は知らん顔でタバコをふかしてる…
へぇ…祐輔って意外と優しいんだよな…なんてちょっと 感心してしまった。

「で?椎凪さんは何でピアスしないんです?」

「いや…高校の時友達が自分で安全ピンで穴開けたらさ血が止まんなくなっちゃって…
もう耳朶からダラダラと…それ見たら何か開けるのいいかなぁ…なぁんて思ってそれで…」
「はぁ?」
慎二君が呆れてる…
「ケチってんじゃねーよ。今時簡単に 開けれんのあんじゃねーか。」
祐輔まで呆れてる…
「って!オレの事じゃないだろ??何でそんな目で見られなくちゃいけないんだよっ!!」
オレは自分の 正当ないい訳を2人に主張した!!


支払いを済ませて店を出た。

入り口から出た所でパトカーのサイレンが鳴ってる事に気が付いた。
「事件かしら?」
深田さんが素早く反応する。
「和海。」
祐輔が即深田さんの名前を呼んだ。
「和海は今日休みだろうが。イチイチ気にすんな。」
「あ…ごめんなさい…」
「そうだよ。深田さん休みの日ぐらい仕事の事忘れなくっちゃ。」
「テメェはいつも暇してんだから休日返上で仕事行って来い。この税金泥棒野郎っ!!」
そう言って 睨まれた!
「何だよっ!!オレだってちゃんと仕事してるって!!」
思わずムキになる。
「まぁまぁ椎凪さんも本当の事言われたからって怒らないで下さいよ。 やだなぁ。」
慎二君がそう言いながらオレの肩を叩く。
「違うって!!ちゃんと仕事してるしオレっ!!」
「そういや前からお前に聞きたかったんだよな。」
祐輔が疑ってる様な顔でオレを見た。
「……なに?…」

その時オレと祐輔と慎二君は耀くんと深田さんより先を歩いていた。
耀くん達は途中のお店で何か 見つけたのか2人で立ち止まって何か見てる。
オレ達の間は10メートル以上間が空いていた。

そのオレ達の間の店と店の間の路地から男が飛び出して来た。

見るからに普通と違う事に気が付いた。
動作が荒々しいしゼエゼエと肩で大きく息を繰り返してる…
何より一番目を引いたのはそいつの右手にナイフが握られてた からだ。
オレと深田さんが真っ先に気が付いた。
次に祐輔と慎二君が振り向く。
そいつに見覚えがあった…コイツ先週コンビニに押し入って店員刺して逃げてる 男だ。

そいつはオレと深田さんと目が合った。
交互にオレ達を見ると狙いを定めたのか耀くんと深田さんの方に走り出す。

「耀くん!!!深田さん!!」

叫んだけどオレは間に合わない…祐輔も無理だ!
というか祐輔は動く気配すらない…何でだ?
くそっ!さっきのサイレンコイツだったのか…しても仕方の無い後悔が オレの頭を占める。
耀くんの傍離れるんじゃなかった!!!

「耀くんっ!!」

もう奴の手が2人に届く距離だ…くそっ!!!

「 ハアァァァァァァ………!!!! 」

「へ?」
オレは何ともマヌケな声を出した。
深田さんが空手の型を取って戦闘態勢に入ってる…うそ…

「 は ぁ っっ !!」
ぱ し っ !!
伸ばされた奴の腕を深田さんの腕が下から跳ね除けた。
バ キ ッ !!
左手が奴の顔面を 直撃した。
「 が っ !!」
「 ヤ ッ !!!」
殴られて仰け反った奴の首めがけて深田さんの後ろ回し蹴りが叩き込まれた。
ド コ ッ !!!
「 ぐ っ !!」
そう呻き声を上げて奴は道路の上に叩き付けられて気絶した。
「……ふうぅぅ……」
深田さんが静かに深い息を吐いた。


街の中に サイレンが鳴り響く。

「休みなのにご苦労さんだったな。」
内藤さんがのんびりとオレ達にそう言った。
「深田さん強かったんだね…オレ知らなかった。」
オレは深田さんが戦ってる所なんて見た事無かったからもうビックリで…
まあ刑事だからそれなりに護身術くらいは身に付けてるとは思ってたけど…ここまでとは…
「和海さん強いんだよ。」
耀くんがニッコリと笑う…無事で良かった……
「だから祐輔動こうとしなかったの?オレ知らなかったから焦ったよ。」
「あの程度の 奴なら和海の相手にならねーよ。ナイフくらいならな。」
ナイフくらいって…祐輔…
「オレ強い女好きなんだよ。」
そう言って深田さんを後ろから抱きしめた… うわっ珍しい…
「祐輔さんには勝てた事ないんですけどね…」
祐輔に後ろから抱きしめられながら深田さんが照れ臭そうに顔を赤くしてる。

祐輔に抱きしめ られて赤いのかそれともさっきの大立ち回りを見られて赤いのか…??
それに祐輔深田さんの事可愛いから好きになったんじゃなかったんだ……なんか意外……

「おい。椎凪!」
深田さんを抱きしめながら祐輔がちょっとムッとした様な顔でオレを呼ぶ。
「ん?」
「前から聞きたかったんだけどな…和海は毎日忙しくてオレと 会えないのに
何でテメェは毎日暇なのかオレが納得する説明してもらおうか?」
そう言ってオレを睨んでる。
「ええっ!?」


偶然にも重なったオレ達の休日は
オレにとって新たな発見をもたらしてくれた有意義な一日になった。