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「…椎凪…オレもう…だめ…やぁ…無理…アッ…もうむ…り…」

オレに散々攻められて既にグロッキー状態の耀くんが
虚ろな目と上気した頬でオレを見下ろし てる。
そう今耀くんはオレの上で乱れてる…
「椎凪…お願い…もう…やめ…」
眉を寄せて瞼を軽く閉じた顔はオレを余計にその気にさせる…
「あうっ…」
だから耀くんの腰に手を絡ませて押さえ付けて攻めた。
「アッ…やっ…椎凪…ヒドイ…あっ…あっ…あっ…やあぁ…!!!」
「……っつ!」
オレの胸に両手で 爪痕を付けながらのけ反った耀くんがオレの胸に倒れ伏した…
呼吸が浅く早い…
そっと身体に触れるとピクンとはねて 『…あ……』 って可愛い吐息を漏らした。
もうオレの背中はゾクゾクしっぱなしでぐったりしてる耀くんに
舌を絡めたキスをしながらオレの下に抱え込んだ…
今度はオレの下で乱れてもらう為に…

二人の夜は…これから淫らに更けていく…


「どうしたの?」
「……別に…」
まったく別にの顔じゃない瑠惟さんがかったるそうにグラスを口に運んだ。
仕事帰りいつものごとく瑠惟さんに捕まって飲みに付き合わされている。
ただいつもと違うのは妙にテンションが低い瑠惟さんと此処が個室だって言う事だ。
だから思わず何かあったのかと聞いてしまったと言うわけ。
居酒屋に飲みに来て個室に入るなんて初めてだ。
「ウソだ。何かあったんだろ?」
いつもは邪険に あしらうけど今日はそれじゃダメだと何かがオレに訴える。
大体飲み始めて30分以上経ってるのにオレに絡んで来ないのがおかしい。
「………」
無言で無視か?
「瑠惟さん…」
ズイ…
「え?」
瑠惟さんが急に四つん這いでオレに近付いて来る。
オレは成り行きを見守ってじっとしていた。
ペタペタと進んでオレの 膝に右手が掛かった…肩に左手が掛かる…
顔は俯いたままだ…右手も肩に掛かった。
「…チュッ…」
やっぱりキスしてきた。
「…ん…」
いつの間にか 両腕が首に廻されて本格的になりそうだ。
「瑠惟さんマジにするつもりなら止めなよ…オレそんな相手しないよ。」
瑠惟さんの肩を掴んで押し戻しながら優しく言った。
いつもは酔って遊びのキスだから付き合うけど本気じゃそう言う訳にはいかない。
「馬鹿椎凪…」
また俯いたまんまだ…
「ホントどうしたの?」

何でオレが ここまで気を使うかと言うと瑠惟さんはオレの初めての相手に似てる…
雰囲気や性格…ちょっとした仕草や考え方…だから他の女とは違って邪険には出来ない。
自分 がそんなお人好しとは思わなかったからちょっとびっくりだ。

「瑠惟さん!」
流石にキツメに問い質した。
「…今日…聞き込みしてる時…アイツに会ったのよ…」
諦めて吐き捨てる様に言った。
「アイツ?」
「会いたくなんてなかったのに…」
「え?別れた彼氏?」
「そうよ!あたしが一番会いたく無くて大キライな男。」
瑠惟さんはそのままオレに背中を向けてもたれ掛かって来る。
座椅子か?オレは…
「話したの?」
「見掛けただけ…」
「何でそこまで嫌うの?何かされた?」
「何にも…」
しばらく沈黙…ホントこんな瑠惟さん珍しい。
「ン?」
急に瑠惟さんがオレに向き直っておもむろにオレのシャツの前を広げた。
「何?」
「コレ耀君に?」
オレの胸についてる爪の後をジッと見ながら聞かれた。
「うん。」
表情を変えずに頷いた。
「あんたさぁ少しは照れるとかバツの悪そうな 顔するとかしなさいよ。
何その澄ました顔…ホントムカつく!!」
小さなため息を瑠惟さんがついた。
「アイツもそうだったのよね…
恥ずかしげも無く 人前でも好きだの愛してるだのほざいてたわ。」
ほざいてた?
「あたしも若かったわよねーそれで舞い上がってニコニコしてたんだから…
騙されてるとも知ら ないで。」
「騙されてたの?」
瑠惟さんが?

「アイツあたし以外の女にも同じ事言ってたのよ!しかもあたしの目の前でもよ!
人の事バカにすんじゃ ないっつーの!!!」

何?いきなりヒートアップだ…
「浮気してたって事?」
瑠惟さんに向かって二股とは言えなかった。
「本人は仕事だからって言って たけどね。」
「仕事?仕事って?」
「美容師。結構女受け良くて水商売の女も良く利用する店だったから
馴染みのお客は女ばっかでさ…街でも良くばったり会って…
そのたんびに『好き』だの『愛してる』だの…毎日がバーゲンセールみたいだったわよ。」
「それって浮気じゃないじゃん。社交辞令的なもんじゃないの。本人だって 違うって言ってんだし。」
美容師が客に言う言葉かは疑問だけど。
「社交辞令でもあたしは嫌だったのよ!
あの同じ口であたしに同じ事を言うのよ!冗談じゃ ないっつーの!!」
まぁ…瑠惟さんじゃ怒るの仕方ないか…
「だから別れたの?」
「別れてやったのよ!!アイツは別れないって言い張ってたけど
あたしその後 転勤になったから住所も教えなかったし
携帯も変えちゃったからそれっきりよ。」
「はぁ…」
「何よ。」
瑠惟さんが横目で睨む。
「振った方が引き ずってどうすんの?
見掛けただけでコレじゃ話し掛けられたら引きこもりじゃないの?」
「引きずってなんか無いわよ!」
「引きずってるくせに。」
「もうこうなったら新しい男見つける!」
突然ヤル気満々で拳まで握り締めてオレに宣言した。
「エエ?何でいきなりそうなんの?」
「前の男を忘れるには 新しい男よ!だから椎凪あんた紹介しなさいよ!」
「ええ?!オレ?何で?意味わかんない?」
ホントわかんねぇ…
「本当は耀君がいいのに諦めてあげるん でしょ!だから当然でしょうよ!」
本当に当然と言う様な態度だ。
「どんな理屈?それって?」
「何?文句あんの?」
いつの間にかいつもの瑠惟さんだ…
「大体どんな相手がいいんだよ…なんか注文多そうなんだよな…」
「そうねぇ…あたしの事好きって言わない男。」
「自分で探せ!!!」
「薄情な男ね。あたしの為に一肌脱ぎなさいよ!裸になるくらいの気持ちないの?」
「何で瑠惟さんの為にオレが裸になんなきゃ いけないんだよ。」
「あんたエロイんだからいいじゃない。」
「変な理屈捏ねんな!」
「でもさ何でアンタと付き合わなかったのかしらね…
そんなに 悪いわけじゃなかったのにさ。」
「お互いがその気になんなかったからだろ。」
「そうなのよね…あんたの事最初っからデキの悪い弟としか見れなかったもんねー。」
「デキの悪いは余計だろ!オレだって手のかかる姉貴みたいな奴としか思ってなかったよ。」
「はー生意気!じゃあこーんな美人のお姉様が出来て涙が出るほど 嬉しかったでしょ!」
「ふざけてんの?縁切りてーよ。」
「はぁ?誰が切ってやるもんですか一生纏わり付いてやる。
老後の面倒も看させてあげるから楽しみに 待ってなさいよね。」
「旦那に看てもらえよ…」
「いい男がいたらね…」

「!」
瑠惟さんが力無くオレに抱き着いて来た。
「あんたってアイツに ちょっと似てるけどさ…根本的に違う所があんのよね…」
「は?」

「好きでもない相手にお世辞でも『好き』って…『愛してる』なんて絶対言わないトコ…」

いつも小競り合いばっかしてる瑠惟さんだけど意外なコトに時々的を得た事を言う。
『好き』は倫子さんに言った事があるような気がする…
ただ倫子さんにフラれて からは誰にも言って無い。
『愛してる』を生まれて初めて言った相手は耀くんだ…
それは耀くんの為にとっておいた言葉だから…

それから瑠惟さんは今日の 事を忘れるかの様にお酒を飲みまくってた…
オレに絡んで我が儘言って…でも今日は黙って言う事を聞いてあげるよ。

チョットだけ…瑠惟さんの女の子らしい 一面に免じて…ね…
そんな事言ったらどんだけ文句言われるか分からないから
コレはオレの胸の内にしまっておくけどさ…