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今夜は帰り間際に事件が起きて帰るのが遅くなった…
もう耀くんはベッドに入っている時間…
でもリビングに入ると真っ暗な部屋の中に耀くんが
タオル ケットに包まってソファに座っていた…

「耀…くん?」
オレは静かに声を掛けた…様子がおかしかったから…
「あ…」
一瞬身体をビクッとさせて耀くんがゆっくりと オレを見た…
「耀くん…」
オレは急いで耀くんの所に駆け寄った…
「どうしたの?何かあったの?」
耀くんの前に膝を付いて覗き込んだ。
「ごめん…大丈夫…夢…見ただけだから…」
無理して…微笑んでオレに話す…
「夢って?いつもの?」
「うん…」
掴んでる耀くんの肩が震えてる…
「ごめん…一人にさせてごめんね…耀くん」
そう言って耀くんを抱きしめた…
「ううん…だって仕事だもん…仕方ないよ…」
耀くんもオレを力を込めて抱き返した…
きっと…ずっと…怖かったんだ…
「でも…もう平気だよ…椎凪が帰って来てくれたから…もう平気…」
そう言ってオレの胸に顔をうずめる…
「ずっと抱きしめててあげる…耀くん…オレがずっと… 傍にいるから…」
さっきよりも強く耀くんを抱きしめた…
「うん…ありがとう…椎凪…」

最近…耀くんが怖い夢を見る回数が増えてる…
頭痛もするって 言ってた…どうしたんだろ…
何か…負担になることがあるんだろうか…
いや…そう…オレはわかってる…耀くんが怖い夢を頻繁に見る様になったのは…

オレと…愛しあうようになってからだ…


耀くんがオレに攻められて…息をするのも…苦しいほど…感じて…乱れてる…
今夜は珍しく耀くんがオレを誘った…
オレの首に腕を廻して…激しくキスをして…
怖い夢を見た事を忘れる様に…オレを求めてた…
オレはそれに応える様に耀くんを抱いて…抱いて…抱き続けてる…
オレは止められなくて…きっと耀くんの身体に負担…かかってるよね…

オレは相手を求めずにはいられない…求めて求めて…オレに気付いてもらいたい…
オレを感じて…わかって欲しくて…相手を求める…
でも…耀くん…もう無理だよね…でももっと耀くんの事抱きたい…嫌がられるかな…
そう思いながらもそっと 耀くんに手を伸ばした…
それに気が付いて耀くんがオレに抱きついて来た…

「 !! …耀くん?大丈夫なの?」
「え…?ハア…ハア…」
耀くんはキョトンとした顔してる。
「辛く…ないの?」
顔を近付けて聞いた。
「別に辛くないよ…え?なんで?」
不思議そうな顔でオレを見る。
「…いいよムリしなくて…もう…ムリでしょ?」
特に今夜は心配だった…
「え?オレ何か変?普通もうしないの?え?…」
「あ…耀くん…?」
あれれ?何かパニックになってるんだけど…?
「今夜はオレから誘ったから…でもオレ…どの位とかわかんなくって…
うーごめんね…椎凪…オレやっぱり… ダメなのかな…」
物凄く落ち込む耀くん…えーっっ…
「あーいや…それで落ち込まなくっても…違くてさ…
耀くんが辛くないかなって…心配してるの…本当に 大丈夫?」
「辛くないよ…オレの事好きなら…愛してくれるなら…オレの事もっと抱いて…椎凪…
いっぱい…もういいって言う位オレの事抱いて…オレを… 不安にさせないで…」
「耀くん…」
そう言ってオレに抱きつく耀くん…抱きついてる腕に力が入ってる…

耀くんもオレと同じ…
誰かを愛したくて… でも本当は…愛して欲しいんだ…
この世に生まれて来ない方が良かったと…ずっとそう思って生きてきたオレと耀くんは…
やっと愛せる人と…愛してくれる人を 見つけた…
だから底無しに相手を求めて…ひたすら求めて…自分を捧げる…

でも…耀くんはオレに抱かれる事に抵抗があるんだ…
以前オレに言った… 男なのに女みたいに抱かれるのが嫌だ…って…
でもオレの為に我慢してくれてる…
耀くんが辛いのはオレのせい…オレと愛しあうようになったから…
ただ生きていくだけなら何の問題も無かったんだ…
でもオレが耀くんに愛を求めるから…耀くんは不安定な心でオレに愛をくれる…
オレに抱かれるたびに自分の 身体は女なんだと思い知らされて…男の心でそれに耐えてる…
こんなに感じてる自分に嫌悪して…感じるほどに…きっと自分が嫌になってるはずなんだ…

それが辛く なって…今…苦しんでる……耀くん…


夕べの椎凪は少し変だった…
オレを見る目が…辛そうで…オレに辛いって聞いてたけど…椎凪の方が辛そうだった…
この頃椎凪に抱かれて感じても…前ほど自分の事をイヤに思わなくなった…
椎凪に抱かれて感じるのが…気持ちよく思える様になって…
だって…椎凪の身体が… 大きくて…広くて…暖かくて…触れ合う肌が気持ちよくて…
壊れる位オレの事抱き続けるのにでも優しくて…
愛し合うって…こう言う事なのかな…言葉や キスと違う…
椎凪に抱かれるとオレ…すごく幸せだ…
オレ…椎凪が好き…こんなに人を好きになるなんて思わなかった…
涙が出ちゃう位好きだ…椎凪…

オレ…男の身体が良かった…心と身体…同じになりたい…椎凪の為に…
オレ未だに身体の事気にしてる…身体が女なら…女でも良かったのに…

ズ キ ッ !!

「 うっ!! 」
突然激しい頭痛が始まった…なんで?…すごく…痛い…頭が…割れそう…
目が…廻る…頭が…痛い…うっ…

『━━…君は…男の子だよ…』
え?
『男の子なら…許してくれる…』
『今日から……君は…男の子だよ…』
『……男の子として…生きるんだよ……』

あ…なに?…何これ…?頭に中に…話し声が…
オレ…何を思い出したの…ダ…ダメだ…思い出しちゃダメだ…思い出しちゃいけない…
心臓がバクバク言ってる… 息が苦しい…頭が痛い…倒れそう…

…こわい…こわいよ…椎凪…オレ…こわい…!!


携帯が鳴った。
「 あ! 耀くんだっ。 」
オレは嬉しくて ワクワクしながら出た。
「 もしもし…!!…耀くん? 」
電話から漏れる耀くんの声は…苦しそうで…泣き声だった…何?何があったんだ?
「 …耀くん今どこ?」

オレは一秒でも早く耀くんの所へ行きたかった…
大学の近くの川沿いの遊歩道…川を眺められる様にベンチがある…
その一つに耀くんが座ってた…

「耀くんっ!!」
何かに怯える様に自分で自分の身体を抱きかかえてる…
「椎凪…」
ゆっくりオレの方を見た耀くんはオレを見つけると両手を広げてオレに 飛びついて抱きついた…
「どうしたの?何かあったの?」
オレは耀くんの顔を覗き込んで聞いた。

「椎凪…椎凪…オレ…こわい…オレただ思っただけなのに…」

オレの胸に顔をうずめて怯えながら叫んだ…

「ダメなんだ…思い出しちゃいけないのに…思い出しちゃいそうでこわいっ!!
やだ…やだよっ椎凪!こわい…うっ…」

すごい取り乱して…怯えて…こわいって…何だ?何があった?
「どうしたの?耀くん。ちゃんと話して…」
耀くんの顔を両手で挟んでオレに向かせた… 涙が零れてる…耀くん…

「う…オレ…思ったんだ…心と身体一緒ならいいのにって…
そしたら頭が痛くなって…男の人がオレに言うんだ…
オレは今日から男の子 だって…
どうして?オレ生まれた時から男なのに…ううっ!!」
「耀くん?!」
耀くんが頭を抑えてうずくまる…オレは耀くんを支えて抱き起こした…

「思い出しちゃいけないんだ…でもどんどん思い出しそうになるの…
きっと…思い出したらオレ…壊れる…思い出しちゃいけないんだ…!!」

泣き叫びながら話す 耀くん…何で?何で急にこんな…
「耀くんっ!」
オレは強く耀くんを抱きしめた…

「大丈夫…オレがいるよ…オレがいるから…もう何も考えないで…
オレの事考えてて…オレと耀くんが楽しく一緒に居るところ…」
「う…椎凪…」
「大丈夫だから…オレが耀くん守るから…何も心配しないで…怖がらないで…
オレがいるよ…」

自分に言い聞かせるように耀くんに話しかけた…
「耀くんにはオレがいるから…大丈夫…何も心配いらない…」
「う…ん…オレの傍に いて椎凪…ずっと…オレの傍に…オレを離さないで…」
「ずっと傍にいるよ…ずっと…抱きしめててあげるから…」

オレは耀くんが何処にも行かないように… 力一杯抱きしめた…



「ごめん…オレ…どうしても一度署に戻らなきゃいけないから…こんな時に…
でも耀くん一人にしておけないから…」
「いいですよ。 僕見てますから…」

あの後昨日の事件に進展があって署に戻れと連絡が入った…
耀くん一人にはしておけないから慎二君の部屋に連れて来た…今耀くんは眠ってる…
「耀くん心に負担かかると深く眠るから…今日もあんなに負担かかって…
それに興奮してたから眠った方が良かったんだ…
深く眠ってるから朝まで起きる事無いと 思うけど…万が一起きたらお願い…」
「わかりました。大丈夫…ちゃんと見てますよ。」

ずっと…傍にいてあげたかったのに…早く帰るから…待ってて耀くん…
オレは重い足を引きずって慎二君の部屋を後にした…


目が覚めると…すぐ傍に祐輔がいた…ベッドに腰を下ろしてる。
「祐輔…」
「おす。大丈夫か?」
「オレ…ずっと寝てたの…?ここ慎二さんの所だ…」
昨日からの記憶が無い…確か椎凪に迎えに来てもらって…そのまま椎凪に抱きついて…
寝ちゃったのか…もう …朝になってる…
「椎凪は?」
「仕事行った。慎二に怒られて…すんげーイヤイヤ行ったよ…
寝てる耀にキスしまくってたぞ。」
「もー椎凪は…」

そんな椎凪の想像がついた…思わずフッと笑った。
「……ごめんね…祐輔…また迷惑かけちゃった…椎凪にも…」
泣くつもりなんて無いのに…涙が込み上げてくる…

「やっぱりオレ…ダメだ…こんなんだから…いつもみんなに迷惑かける…もーやだ…」

「誰も迷惑なんて思ってねーよ…椎凪もオレも…慎二も…」
そう言ってオレの 頭に祐輔が軽くキスしてくれた…

「オレ自分でも良くわからないんだ…今まで自分の事そんなに深く考えた事なんてなかったもん…
別に平気だったよ…この身体で 生きていくの…何も気にしてなかった…
でも…どうしてだろ…椎凪の事考えると…この身体嫌なんだ…
オレ…普通になりたいだけなのに…心が男なら身体も男に なりたい…
身体が女なら心も女になりたいって…椎凪の為に…そう思う様になったの…」
祐輔は黙ってオレの話を聞いてくれてる…

「でもそれは 許されない事なんだ…そんな事叶うはず無い事だし…
それに…それに…母さんを殺した罰から逃げるって事だもん!
だから頭が痛くなるんだ…!!」
オレは だんだん声が大きくなる…
「罪を逃れようとするから…母さんは…そんな事許してくれない…」
「耀!お前のせいじゃないって何度言えば分かんだよ!! お前のせいじゃないんだぞっ!!」
「ちがうよっ!オレのせいなんだ!オレが生まれたせい…」
涙が…止まらない…

「それが…事実…本当の事だもん… オレは罪を犯したの…だから…償うんだ…この身体で…」


その日の夜…耀くんはまた深く眠ってしまった…
オレもそのまま慎二君の部屋に泊まる事にした… 祐輔も心配して帰らずにいる…

「耀は…罪を償う事で生きる事を許されてると思ってる…
だからそれを逃れるのと同じ心と身体が同じになる事を考えると
生きていけないと思い込んで恐怖を感じるんだ…
だからそう思わない様にその事を考えると激しい頭痛がするんだと思う…」

「自分が女の子だって分かった時… 耀君生きていく気持ち…持てるのかな…?」

慎二君が心配そうに呟く…
「…………」
「何考えてんだよ?椎凪?」
祐輔が真面目な顔で考え込んでいたオレに声をかけた。
「え?あ…ううん…いや…さ…耀くんがずっと女の子として生きて来てたらどんな子だったのかなぁって…
きっともっと可愛くて綺麗なんだろうなぁ…って…へへ…」
「お前…何考えてんだよ…」
「椎凪さん…」
2人に呆れられてしまった…

耀くん… 耀くんはオレのために生まれて来てくれたんだ…罪を償うためじゃない…
だから…オレのために生きて…そして…自分のためにも生きるって思って…耀くん…


       その時オレは…ある決心していた…