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数日の間をおいて耀の記憶を思い出させている…
催眠状態にして自分が体験した記憶をもう一度今の耀に思い出させる…
今日は…問題の11歳の記憶…
予想通り激しく動揺して…パニックになっている…

「耀のせいだ!!耀が愛人の子供だったから…
だからお母さん耀の事もう育てられないって言って… 死んじゃったんだっ!!
だから耀は生きてちゃいけないの…生まれてきちゃ…いけなかったの…
でも…こわい…死ぬのは…こわい…だから…耀は…男の子になる…
男の子なら…お母さん…耀の事…少しは…許してくれる…うっ…」
そのまま顔を両手で押さえてうずくまってしまった。

強制的に信じ込ませたんだね…
まあ耀もそうしなければ生きて行けなかったからなのか…

「耀…泣かなくてもいいんだよ…耀が死ぬ事なんてないんだから…
誰も耀を責めたりしない… 耀のせいでは無いんだからね…生きていていいんだよ…」

涙を拭いながらそっと話しかけた…

「本当?右京様…本当に耀は…死ななくていいの?
生きて…いいの?お母さんは耀の事許してくれる?」

「ああ…母親も分かっていたはずだよ。耀のせいじゃ無いって…」
「じゃあ…何で耀の目の前で 死んじゃったの?」
「死を選んでしまったけど…耀の事が好きだったから…最後まで耀を見ていたかったからかな…」
「耀の事が好き…?」
「ああ… 思い出してごらん…母親は耀の事好きだっただろ?」
「………」

そう言われ右京さんの瞳に見つめられると…だんだん思い出してくる…あの時の事…
今までお母さんと過ごした昔の事は思い出しちゃいけないと思っていた…
思い出すと…今のままでは いられないと思っていたから…でも…そう…お母さんは…

『耀の…せいじゃないのにね…ごめんね…耀…』
『お母さん…?』
『何でもないのよ… お母さんね…耀の事…好きよ…でも…ごめんね…耀…ごめん…』
『お母さん…?』
『お父さんを…許せないの…ごめん…もう…耀を育てる事出来ない… お母さんを…許して…』

あの日…オレを育てられないって…耀が愛人の子供だったからじゃない…
父親の事が…許せなくて…自分はここで死んでしまうから…
だから…耀の事…育てる事が出来ないって…そう言う…意味だったんだ…
子供だった耀には…理解できなくて…今まで…思い出しちゃいけないと思っていたから…

「う…」
涙が…溢れた…
お母さん…耀の事…好きでいてくれたんだ…
「耀…」
「右京様…」

力一杯右京様に抱きついた…右京様は優しく耀を抱きしめて… 頭を撫でてくれる…
安心して…ホッとする…でも…ずっと前から…

こんな風に誰かに安心をもらっていたような気が一瞬頭をよぎった…


「耀にこれを渡して おこう。」
そう言ってペンダントを渡された。
「 ? 」
「耀がここに来る時に持っていた物だよ。もう耀が持っていた方がいいからね…」
「はい…」
見た事がある様な…でも…何も憶えていない…耀が持っていた?

「耀おいで。」
右京様に付いて行くと大きな鏡のあるへやだった…
その前に立たされると 右京様が耀の上着のボタンを外した。
前がはだけると耀の胸が鏡に映る…

「耀…見てごらん。耀はね女の子なんだよ。」
「耀は…女の子?」
「そうだよ… だからもう男の子として生きていかなくていいんだ。」

鏡に映った自分の身体をまじまじと見た…胸が…膨らんでて…確かに女の子の身体…
お母さんは… 許してくれた…耀の事好きって…言ってくれてた…
男の子じゃなくても…生きて…いいんだよね…

「耀は女の子…可愛い女の子だよ。」

右京様が優しく 耀の髪の毛をかき上げる…
「可愛い…?」
「ああ…いいかい。これから毎日鏡を見て自分の身体を確かめるんだよ。
そして自分は女の子だって実感するんだ… わかったかい?」
「右京様?右京様も毎日耀は可愛い女の子って言ってくれる?
そうしたら耀もっと自分が女の子だって思える…」
「…可愛いお願いだね。 いいよ。耀の為に僕が毎日言ってあげるよ。」
「有り難う御座います。右京様。」

鏡に映った右京様はとっても優しく耀に笑ってくれた…右京様…大好き…



ベッドの上で右京様に寄りかかって…夢を見る…
そして少しずつ少しずつ…思い出していく…
男と思って暮らしてる耀をもう一人の耀が後ろから見ている感じ…

「耀は今いくつ?」
「耀は…高校一年生に…なりました…クラスに一人…とても目立つ人がいる…
瞳がとても…印象的で…耀は…彼の事が… とても気になる…」

フワフワして…気持ちがいい…右京様の声も…心地いい…

「あ…彼が…耀の家の近くで…怪我をして動けなくなってる…
手当てをしてあげて…耀の生い立ちの事とか…話しました…」
「彼は何て?」
「耀の…せいじゃないって…だから泣くなって…頭を撫でてくれた…」
「彼は誰?名前分かるかい?」
「ん…と…祐輔…新城…祐輔…」
祐輔…ね…
「祐輔は耀の事理解してくれた…許してくれた…初めての…友達…」
「そうかい…じゃあ今夜は祐輔の事思い出してごらん。おやすみ。耀…」
「おやすみなさい。右京様。」

右京様はいつもそう言って優しく頬にキスしてくれる…
それから何日かの間…祐輔の夢を見る…

…耀の…記憶の夢…


耀君が右京さんの所に来てもうすぐ2ヶ月になる…

「どうですか?耀君は…」
「順調だよ。椎凪君はどうしてる?」
「毎日ただ生き延びてるって感じですかね…こんなに長く耀君と離れた事無かったから…
祐輔達が面倒見てますけど…彼… 結構性格複雑だから…難しいですね…」
今の椎凪さんを思い浮かべてそう思った…あそこまでとは思わなかった…
「耀君は良く分かってて上手くやってたんですけど… 僕達じゃちょっと…」
「まだ椎凪君の事は思い出してないよ。このまま思い出させずに終わらせてしまおうかな…」
「 え? 」
「何か変なんだよ…初めは君に 頼まれたから始めたけれど…
今は娘を育ててるみたいなんだよ。おかしいだろう?」
右京さんが照れ臭そうな顔で話す…
「僕もそうですよ…耀君だとつい守って あげたくなって…祐輔とは違うんですよね…」
「このまま僕の所に置いておきたいよ。娘を手放したくないね。しかも相手は椎凪君だもの…」
「はは…でも彼は 一途ですよ。耀君がいないと生きていけない人ですから…」

右京さんが真面目な顔をしていたから…ちょっと心配になった…
本当に手放さなかったりして… 有り得そうで…怖いと思った…


今夜は大学に入った頃の事を思い出してる…
高校まで思い出したから…祐輔の事も慎二さんの事も思い出した…そして…

「あ…慎二さんの知り合いで…右京さんだ…」
突然気が付いて目を開けた。
「!?…あれ?…右京様…?え?」
何か変な感じだ…
「やっと僕を思い出して くれたのかい?
僕は以前あまり耀に接して無かったから今の状態に驚いて当然だよ。
今までの事忘れてしまったかい?耀?」
「いいえ…昔の右京様の記憶もあります…それにここに来てからの記憶も…
だから…何だか恥ずかしくなってしまって… ごめんなさい。」
色々思い出してしまった…一緒にお風呂に入ってた事も…

「いいんだよ…本当に耀は可愛いね。」

右京さんが微笑んでくれる…
右京さんって 本当はこんなに優しい人だったんだ…何か…幸せ…

シャワーを浴びながら自分の身体を見る度に自分は女の子なんだと理解する…
最近色々な事を思い出す…
でも…それは自分が男として過ごして来た事だから…
今自分が女だったと分かってから思い返すのがちょっと変な感じ…
お母さんの死も理解した… 今までの事も…もう過去の事だと思える…
男として体験した事だけど今の自分には支障は無い…

「あとはこれか…何だろう…見た事がある様な気がするんだよな…」

首にかかるペンダントをマジマジと見たけど…何も思い出せなかった…


「おはよう。今日も耀は可愛いね。」
「お早う御座います。右京さん。耀もちゃんと毎朝鏡で見てますから。」
テラスで朝食を食べながら話した…この時間が好き なんだ…
「いい表情だね。ほとんど思い出してきたみたいだね。」
「はい。でもこれがまだ思い出せなくって…」
ペンダントを見せながら聞いてみた。

「ああ…それかい? 別に思い出さなくても支障は無いかもしれないね。」

何だか素っ気ない返事が返ってきた。
「え?そうなんですか?」

へーそうなんだ… 別に大した物じゃ無いのかな…
そう思いながらもペンダントを見る度に何とも言えない気持ちになるのは…
…何でなんだろう…


今日は祐輔が訪ねて来てくれた…
珍しく携帯で撮って来た映像を見せてくれた。

『これでいいですか?』
『うん。ありがとう慎二君。』
男の人が2人…料理をしている…一人は慎二さん…
もう一人は…

「この人誰?オレの知らない人だ…」
携帯から 視線を逸らさずに祐輔に聞いた。
「…オレと慎二の知り合い…」
「ふーん…名前なんて言う人?」
「こいつ?…こいつの…名前は…」
「 耀ーーー。 おいで! 」
「はーい!右京さん。2人の知り合いだからオレ知らないんだね。
行こう。右京さんが呼んでる。」
そう言って携帯を祐輔に返した。
「 耀 」
「 ん? 」
「お前何処まで思い出したんだ?」
「え?ああ…大学2年になった頃の事思い出したよ。あともう少しだって。」
「そうか…あと…もう少し…か」

祐輔が何か考え込んでいる様に見えたけど…
オレはもう一度右京さんに呼ばれたから急いで右京さんの所へ駆けていった。