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「なあ…優しくするから俺と付き合ってくれよ…一唏」
「ふざけんな!離せよっ!!ったく…」
「なんだよ…冷てーな…あーあ…彼女欲しいー…」
「だからって 俺で間に合わせんな…ほら…離せよ…」
「別に付き合ってくれなくてもいいんだぞ。時々相手してくれれば。」
「何の相手だよっ!!気持ち悪りーんだよ… それに俺男だし。」
「だってよーこの学校女子少ねーし…いいなって思う子殆んど彼氏いるしさぁ…
一唏なら女みたいだし…目つぶって我慢するよ。なっ! …ごほっ!! 」
腹に一発入れてやった。冗談じゃない。
コイツは同じクラスの本宮智志。彼女募集中だそうだ。
ただ…もう見た目で軽いってのが分かる… 付き合ってもすぐ振られるし…
その度に俺に付き合えって言う…本気じゃないんだろうけど…流石にウザくなって来た…

俺は椎凪さん達と知り合ってから… 男同士でも…ありかなとは思うけど…
男同士でもあんなに愛し合ってるんだもんな…現実に見ちゃうとさ…
でも…相手がこいつじゃなぁ…てか…俺には央がいるし… ただ…耀さんとなら…
まあ…有りでも…いいか…なんて…

そう…一唏はまだ耀が男の子だと信じています。
耀が右京の所に行った辺りから椎凪は祐輔の所に 行ってしまって
死んだ様になっていたので会っていなかったのでした。

「おい。咤鐺」
「ああ!俺用事あるからもう行く。じゃあな。」
クラスは違うけど 同じ学年の世良と一緒に行く約束してたんだ。
「何だよ?2人で…合コンか?」
「んな訳ねーだろっ!共通の用事があんだよ。」
「俺も行きてーっ!連れてけ。」
「ダメだよ。無理!学校関係の繋がりじゃ無いからさ。」
そう俺と世良は今日は慎二さんに呼ばれてる…時々皆で食事するんだ…
オレ達も呼んでくれたってわけ!
だから行きながら耀さんを大学に迎えに行かなきゃいけない…
それは椎凪さんに頼まれた事。
だからコイツは連れて行くわけにはいかないんだ。
「ついてくんなよ! お前には関係ないんだからさ。」
「いいじゃんかよっ!少しぐらいっ。俺何も予定無いから暇なんだよ…」
「じゃあバイトでもしろよ…
とにかくお前は連れて 行かねーからなっ。じゃあな!」


「うおー!!俺大学なんて来た事ねーよ。」
結局強引について来やがった…世良は違うクラスだからあんま口出せないし…
でもいい加減にしろって顔してる…それに…

「おい…咤鐺…こいつに耀さん会わせて平気なのか?なんかヤバくね?」
世良の直感は当たってる…と思う… 俺だってそう思ってるんだから…
「なあ?何で大学なんて来たんだよ?ここ確か結構頭いいトコだろ?
何?見学?何?何?」
あーウゼぇ…やっぱコイツには 帰って…

「ごめんね…2人共…」
そんな時…耀さんの声がした…
「あ…いや…」
俺は思わず言葉に詰まる…何だろう…久しぶりだから…か?
なんか…前にも増して…耀さんが女らしくなってる様な…
世良も同じだった…黙って…耀さんを見つめてる…

何を隠そう…俺達2人共耀さんの隠れファンなんだ… 慕ってると言うか…
世良とはそれで意気投合したと言ってもいい…
でもだからって耀さんとどうにかなりたいとか思った事は無い…
椎凪さんを知ってれば… そんな事考えられないから…

「…?どうしたの2人共…?あ…えっと…彼…は?」
耀さんが警戒信号を出した。
しまった!本宮の事忘れてたっ!!
見ると 耀さんをじっと見て…今にも飛びつきそうだった。
「じゃ…じゃあ本宮…俺達行くからさ…
ホントこっから先はお前の知らない人ン家だからさ…またな!」
そう言って呆けている本宮を一人残し俺達は耀さんを半ば強引に引っ張って
その場を早々に立ち去った。


「なあ…昨日の彼女誰だよ…お前とどう言う関係? なあ…」
あーウゼぇ…やっぱそう来たか…
「知り合いの人だよ…それに恋人いるからなっ!あの人。」
「んなの分かってるよ!あんな美人なんだからさっ! ただな…」
本宮が俺の肩を抱きかかえながら言う…
「俺は年上のお姉さまとお近付きになりたいだけなんだよ…
一度お前と3人でお茶する位いいだろ?
デートって訳じゃないんだし…な?」
「いや…それも無理…あの人の彼氏って…スゲーやきもち妬きだから…
許してもらえないと思うぞ…」
椎凪さんだもんなぁ… コイツには分かんないだろうけど…
「別に黙ってりゃいいんだよ…偶然装ってさ…頼むよ…お前ばっかズリーぞ!」
「ズルイって…別に…そんなわけじゃ…それに あの人…男だぞ?」

未だに一唏達は耀が女の子だと教えてもらっていない。

「…!はぁ?またまた俺を諦めさせようとしてそんなデタラメを…
騙されねーよ!あんな男いる訳無いじゃん!」
「ホントだって…耀さんはああ見えても…」
「耀さんって言うのか…可愛い名前だ…」
「…ちっ…しまった…」
こいつに名前知られた…
「ホントに無理だからな!俺あの人の彼氏に殺されたくないし…」
俺は本宮を相手にするのを止めた。
「なんだよ…そんな事いつまでも 言ってるとな…」
本宮が意味ありげに笑いながら俺に近づいた…
「な…何だよ…」
「お前と彼女が5年も前から「H」してるって彼女のかあちゃんにバラすぞ…
しかもお前が力ずくでしたって…なあ?言ってもいいのか?一唏?」
「…本宮ぁ…」
俺はジロリと本宮を睨んだ。

すっげぇ…気が重い…
隣で本宮は ニコニコしまくってるけど…
俺達は大学の近くで耀さんを待ち伏せていた…
俺…殺される…絶対…椎凪さんに…
でも…央のおふくろにも…バラされるのもマズイ し…
俺はどうしたら…耀さん来ないでくれっ…

2時間待ったけど…耀さんは出て来なかった…
「お前さホントメルアドとか知らねーの?」
「知らねーよ… 直接耀さんと連絡取るなんて事俺しないんだよ…
いっつも彼氏の方と連絡取り合ってるからさ…」
ウソだけどなっ!
良かった…耀さん今日は大学来てなかったんだ… 命拾いした…
俺はブツブツ文句を言い続ける本宮を横目で見ながらそう思っていた…


次の日…やっと学校終わった…かったりぃ…
でもサボると央の おふくろに連絡行っちゃうからな…
余計面倒くせーから…説教が半端じゃねーんだよな…
ん…?何だ?校門で…女どもがきゃあきゃあ言ってる…?
うわっ…え? まさか…あれって…

校門の所で女どもより頭2つ分くらい背の高い人影が1つ…

「椎凪さんっ??」
「 あ!一唏!やっと来た。ありがとね君達。 話し相手になってくれて。」
そう言ってニッコリと笑う…いつもの人懐っこい笑顔だ…
「どうして…?なんで?…」
「ねぇ一唏この人とどんな関係なのよー。」
「まさかデート?」
今まで話してた女どもが興味津々で俺に聞いてくる…
「え?あーこの人…」
言いかけた時椎凪さんがオレを後ろから抱きしめて…

「オレ一唏の彼氏。でも皆には内緒ね!これからデートだから迎えに来たんだ。ちゅっ!」

「……!!!…なっ…」
そう言ってオレの頭にキスをした!
「きゃーっ!!キスしたぁ…わっ…分かりました。内緒ですね!!」
もの凄い興奮してるのがわかる。
「うん。じゃあねー!!」
愛想良く手を振ると有無を言わさずオレに腕を回したままスタスタと
歩き出した。
「もういいだろ?離せよ!!歩きにくいし…」
「歩きにくいし…?なに?」
ワザとらしく聞いてくんなっ!!
「いいからっ!!離せってのっ!!」
心臓がバクバク言ってんだよ…でもそんな事言えねーし…
「ちょっと椎凪さん…何であんな事言うんだよ…
オレ明日には男と付き合ってるって学校中の噂になっちゃうだろ?もー…」
「えー?そう?気にしない気にしない。」
「するよっ!!」
何言ってんだか…まったく…
俺はブツブツと小さく文句を言っていた…でも…

「オレとしてはその位のお仕置き…必要だと思うんだけどな… ねえ一唏…」

「…え?」
一気に心臓がドキドキしだした…
「昨日耀くんの大学に何しに行ったの?
しかもオレの知らない同じ学校の子…連れてったん だってね…どうして?」
椎凪さんが…静かに変わっていく…
俺はもう何も言える筈も無く…
「…………」
「なんで知ってるかって思ってるの?やだなぁ… 祐輔も一緒の大学だろ?
昨日見掛けたんだってさ…気が付かなかった?ねえ…教えてよ…何で大学に行ったの?一唏…
言いたくないなら…それでもいいけど… そうすると強制的に喋ってもらう事になるけど…
オレとしてはそんな事したくないんだけどなぁ…」
いつもと違う暗くて重い瞳が俺を見つめる…
……ヤベー…俺… マジ殺される…

学校から程近い公園…
「何だよ一唏。こんな所に呼び出してさ…あの年上の彼女に会わせてくれんのか?」
「………」
俺は何も言わず… 黙って本宮を見つめていた…
椎凪さんに呼び出せと言われて…
耀さんの事で話があるってメールしたらすぐ来やがった…
…お前…殺されるぞ…
「なぁ一唏?」

「君が本宮君?」

本宮の後ろから椎凪さんが声をかけた…
「!?誰だ?あんた?」
「オレ?オレは耀くんの彼氏。」
「…え?…おい…一唏…?」
本宮が引き攣った顔で俺を振り返った。
「一唏の事責めないでね…一唏がバラした訳じゃないんだからさ…
オレの知り合いが君達の事見てたの…で!確かめに来た訳…
君が耀くんの事…どんなつもりで追いまわすのかさ…」
静かな物言いだけど…椎凪さんスゲー怒ってる…
ピリピリとした空気が漂ってる…
「いや…別に…そんな…」
「へー…別になんだ…じゃあさ…もう二度と耀くんの事追い回さないでね…
まあ耀くんが君の事相手にするなんて絶対有り得ないんだけど…
君はさ…オレと耀くんの 周りを飛んでるハエと同じなんだよね…飛んでても害は無いんだけどさ…
…目障りなんだよね…だから…」
そう言うと椎凪さんは本宮近づいて…本宮の両肩に自分の 腕を乗せた…
そしてそっと耳元に唇を近づけた…
「次…見かけたら叩き落すよ…わかったか?クソガキ…なんなら今ここで一回体験しとく?」
甘く囁く様な声… 背筋がゾクリとなった。
「えっ?いっいえっ…けっ…結構です…」
本宮の奴…敬語になってる…顔も顔面蒼白だ。
「そ?良かった。わかってもらえて…あ…それからさ…
一唏の彼女の母親に一唏の事バラしたら同じ目に遭うからね…わかった?」
本宮の顔が更に蒼くなった。
………椎凪さん…
「は…はいっ…!」
「悪かったね呼び出したりして…」
そう言っニッコリ笑った椎凪さんだけど…目が笑ってない…怖えー…
本宮が逃げる様に公園から走って行った…

俺は椎凪さんと2人…非常に気まずい…
「あ…あの…」
「ヒドイなぁ…一唏…オレより彼を選んだんだね…」
俺の方を見もしないでそう言った。
「え?いや… それは…そう言う訳じゃ…」
上手く言えない…
「まっ!今回は特別に許してあげる。彼女との事…お母さんには内緒なんだろ?」
「…うん…」

「ホント…今回だけだよ…許してあげるのは…わかった?一唏…」

チラリとオレを横目で見ながら椎凪さんが…そう言った…
「うん…ごめん…」
俺は叱られた 子供みたいにシュンとなって椎凪さんを見れなかった…

「じゃそう言うワケでこれからオレとデートしよう!!」

いきなりハイテンションの椎凪さんだ!!
「は?」
俺は気持ちの切り替えが上手く出来なくて…しばしパニック!!
「今日耀くんがいないんだよぉ…だから一緒に晩ご飯食べようっ一唏!!」
そう言って 俺と腕を無理矢理組んでグイグイと引っ張る。
「ちょっ!!待てって…やめろって!!恥ずかしいだろっっ!!離せってば…」
「照れない照れない。なんならまたキス してあげようか?」
ニッコリと椎凪さんが俺を見て笑った…本当にしそうで怖い!!
「バッ…そんな事したらブッ飛ばすかんなっ!!」
「えー?オレに勝てない のに?」
からかう様に覗き込まれた…ムカつく!!
でもそれからの椎凪さんはずっと笑ってて…
もう怒ってないんだと俺はホッと胸を撫で下ろした…

次の日… 廊下ですれ違う奴らがオレを振り返って行く…なんだ?

「オス!一唏」
「本宮…」
「昨日は怖かったぜぇ…お前あんな人と付き合ってんのか?
気を付けた方がいいんじゃねーの?年上のお姉さまは残念だったけどな…
仕方ね…殴られたかないかんな…あっ!小百合ちゃーん…」
そう言いながらサッサと女の方へ 走って行った。
まったく…ホント軽い奴…
お前のせいでオレがどんな目に遭うか…わかってんのか…くそっ…
でも…取り合えず…良かった…

教室に入ると 一斉にクラスの奴等が俺を見た。
ホント…何だ?
「一唏君てっさ男の人と付き合ってるんだって?」
数人の女のグループが俺に近づいてそんな事を言った。
「は?」
「昨日校門の所にいた人なんだってねぇ…もーさあ…いっつも女の子みたいって言うと
怒るクセにさ…しっかり男の人と付き合ってんじゃないよーっ」
「ええっ?」
俺は思いっきり大きな声を出した!!
嫌な予感が頭をよぎる…
「昨日女子の前でキスまでしたんだってねぇ…フフ…」
「もう学校中の噂だよぉ ーきゃははははっ!!」

……だからすれ違う奴…俺の事振り返って…うそだろぉ…
もー…椎凪さん…どうしてくれんだよぉ…
俺はもう目の前が真っ暗だ……


お仕置きと称して度々一唏には内緒で学校に訪れては一唏の彼氏と触れ回っていた椎凪。
耀が女の子とはまだ2人には知らせていない…
「男の子って思われてた方が都合が いいからね!」
大分経ってから知らされた2人でした。

「 「 ええっ!! 」 」