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オレの隣で椎凪が気持ち良さそうに眠ってる…
何だか目が覚めて…でももう外は明るくなってる…
椎凪の寝顔を見ながらオレは人差し指で椎凪を確かめる…

椎凪の胸は広い…指先でそっと触れる…
肌は薄い小麦色…余計な贅肉なんか付いて無くて…全身引き締まってる…
指を肩から腕の途中まで滑らせた…
手は大きく て…指は細くて綺麗で長い…
背も高くって…髪の毛はくせっ毛で少し茶色…それから…

なんて遊んでたら椎凪がオレを見ているのに気が付いた。
「…あっ…」
ちょっと恥ずかしかった…
「何してるの?耀くん。」
「あ…ごめん…起こしちゃった?あのね…椎凪の身体確かめてたんだ…」
「オレの身体…?」
「うん… あ…」
椎凪がオレの身体を抱き抱える…
「じゃあ今度はオレが耀くんの身体確かめる…」
パジャマのボタンを外しながらスルスルと椎凪の手がオレの胸に 入ってきた…
「あっ…ちょっと…椎凪…オレそんなつもり…やっ…
…それに夕べだって…いっぱい…した…ん…」
抵抗しても無駄なのはわかってる…
オレは椎凪が求めてくれば…余程の事が無い限り拒んだりはしない…
椎凪もそれが分かってる…
「耀くんが悪いんだよ…オレをその気にさせるから…」


「…あっ…」

しばらくしてオレが椎凪の邪魔をしたって…また後ろ手に縛られた…
そんな事…しないのに…椎凪が言うにはオレは感じ過ぎると無意識に
椎凪の身体を押し 戻そうとするんだって…
本当かな…自分では良く分からない…
でも…きっと違う理由でオレを縛ってるんだと思うんだ…
「耀くん…」
「ん…椎凪…あっ…」
椎凪はいつもどんな時でもオレを思いっきり抱く…
だから…感じやすいオレは…最後はわけがわからなくなる…
「ああっ…椎凪もう…やめ…て…ハァ…オレ… もう…ダメ…」
瞑った瞼から辛くもないのに涙が零れる…
いつもそうだ…なんでだろう…
「もう…ダメなの?耀くん…」
椎凪が優しく囁く様にオレに問い掛ける
「う…ん…お願い…あっ…」
足を引き上げられて…腰を押さえつけられた…
さっきよりも…さらに激しくなる…
「やあ…椎凪…だめっ…変になるっ…お願い… やめっ…んっ…」
縛られた両腕に力がこもる…でもビクともしなくてオレは椎凪にされるがままだ。
「いいよ…変になって…オレで乱れて…耀くん…」
「あっ…あっあっあああ……っっ!!」

椎凪に「やめて」は通用しない…余計激しくされるだけなのに…
分かってるのに…でも…本当に感じすぎて…おかしくなり そうなんだ…


やっと椎凪が縛った腕を解いてくれた…オレは動けずベッドの上で喘いでる…
「椎凪ひどい…やめてって言ったのに…余計激しくした…」
もうオレは半ベソ状態…だって本当に変になりそうだったんだもん…
「やめてって言われると「もっと」って聞えるんだよねー。にこっ!」
もー違うから…椎凪って ば…
オレのそんな眼差しも椎凪には痛くも痒くもないんだよな…
ベッドで椎凪には絶対勝てない…


今日はオレが通ってる大学の学園祭。
祐輔は 興味無いって言ってサボってる…
逆に椎凪は行く気満々で夕べと…朝とあんなに激しくオレの事抱いたのに
何事も無かった様に元気に出掛けた。
オレは椎凪に 引っ張られる感じでヨロヨロと足を動かしていた…
すごい人混み…オレは相変わらず人見知りは激しいまま…
あの男の人の記憶は医者の人達と判ったんだけど元々 苦手だったらしくて
椎凪の腕にしっかり掴まってギュッと手を強く繋いで歩いた。

「どこ行こうか?それとも何か飲む?」
校舎と校舎の間のキャンパスで 一際人だかりの多い一角を見つけた。
椎凪が行ってみようとオレを引っ張る。

司会の女の子の声がマイクで大きく響いてる。
『さあ!自分達こそはと思う カップルの皆様。是非参加して下さい。
優勝者には豪華賞品用意しております。』
どうやらカップル相手のイベントらしい…良く見ると周りにはカップルが目立つ…
「耀くん。出ようよっ!面白そう!!」
「ええっ!?マジでっ?」
椎凪はやる気満々でオレがイヤだと言っても聞いてくれそうに無かった…
オレは仕方なく 参加する事になった…うー…大丈夫かな…

それからしばらくしてイベントが始まった。
『では6組のカップルが挑戦です!まずは初級編。
お互い質問に 答えて頂いて答えが当たった回数を競ってもらいます!』
観客に向かって小さいテーブルに一組ずつ立っている…
うわぁ…人が一杯いるよぉ…ドキドキしてきた…
『第一問!2人の誕生日は?』
テンポ良く答えのフリップを出していく…
ピンポーン♪♪
『では2人の血液型は?』
ピンポーン♪♪
『彼女の好きな 食べ物は?』
ピンポーン♪♪
どんどん質問が進んでいく…
『彼女の趣味は?』
『彼の趣味は?』
『2人の身長差は?』
『ファースト・キスの場所は?』
ピンポーン♪♪
答えのフリップを出しながらオレは疑問でしょうがない…
何でオレ達の事…こんな所で暴露しなくちゃいけないんだ?…
隣を見ると椎凪ってば 楽しそう…軽キャラモードになってるし…

10問の質問が終わった…オレは変な緊張感で疲れた…思わず溜息。

『なんと!全問正解で椎凪・望月ペア 1位です。』
「やったぁ!!」
椎凪がワザとらしく喜ぶ…
何故か周りの観客もテンションが上がってるみたい…歓声が上がってる…
『さあ上位3組のカップル は次の試練!彼の手を捜せ!だあっっ!!』
椎凪が舞台の裏に呼ばれた…うーオレ一人じゃ心細いよーっ…
オレは1人ステージの上でオドオド…
『カーテンの 下から出ている手だけを見て彼の手を捜し当ててください!偽者は7人。
見事自分の彼を捜し当てられるかな?』
長いテーブルの上にカーテンが引かれ後ろが見え ない…
カーテンの下の隙間から手だけが見えてる…
『これだと思ったら手を握り合ってください!
違う相手でも後々の責任は持ちませんので!あしからず!』
えー…違う手って…そんな事になったらオレ…悲鳴あげちゃうよー…絶対当てなきゃ…
一人ずつ見ていく…椎凪の手だけなんて…そんなにじっくり見た事無いけど…
この人…指輪の後があるから違う…この人は…違う…椎凪はもう少し肌が小麦色だし…
この人は…椎凪はこんな骨っぽく無いし…んー…椎凪の手は…
…目をつぶって 思い出す…
大きくて…綺麗な指で…細くて長い…そう…こんな感じ…
4番目の人の手を見た時気が付いた…あ!椎凪の手だ…
そっと…触れてみた…相手もオレが 触れた瞬間ピクッとなったけど…
お互いに手を握り合ってオレは確信した。
この手の感触…握り方…絶対椎凪だ!
『宜しいですか?では!時間切れです。
相手は ちゃんとパートナーでしょうか?カーテンオープン!!』
徐々にカーテンが開けられていく…
心臓が…ドキドキ…遂にオレの前のカーテンが開いた…
「 ! 」
椎凪がニッコリ笑ってオレの目の前に立っていた。
他の2組のカップルは相手を当てられなかったらしい…
「耀くんならきっと捜してくれるって思ってたよ。」
『おーっと!見事相手を捜し当てたのは椎凪・望月ペアだけだ!
それでは最後の試練に挑戦して頂きましょう!』
なにやらステージの上が騒がしくなり…
『彼氏は こちらにお願いします!』
椎凪が司会の人に呼ばれてステージの端に移動する。
オレはと言うとその場で一人立ち尽くしていた…椎凪…オレ…
「 うわっ!! 」
耀くんの叫び声で振り向くと見知らぬ男が耀くんをお姫様だっこしている所だった。
「何してんの?彼は?」
オレのムカつき度のゲージが一気にMAXまで上がる。
耀くんはそのまま抱きかかえられて王妃が座る様な大きな椅子に下ろされ
身体を鎖で椅子に縛られた。
ご丁寧に鍵まで掛けられて身動きが出来ない。
『さあ彼は彼女を 助け出す事が出来るのかっ!』
…は?
『あなたには彼女を助け出していただきます。ルールは簡単!
我が大学のボクシング部のエース片桐君と戦ってもらいます!
ハンディとして片桐君には挑戦者より重いグラブを付けております!
片桐君に一発でも当てる事が出来たのなら彼女を縛る鎖を外す鍵をゲット!』
オレの両手には グラブが付けられる…ボクシングなんて初めてなんだけど…
『そして万が一!片桐君をノックアウト出来ましたなら
豪華賞品高級ホテル二泊三日の旅行券をプレゼント! さあ!いざ勝負!!』
観客達の声援が湧き起こる。
オレは両手に付けられたグラブをジッと見つめていた…うーん…どうすっかなぁ…
『情報によりますと片桐君は 望月さんの隠れファンの一人とか!
いつも近寄りがたい望月さんのはかなりの隠れファンがいるとの事!』
「え…?何なのそれ?」
聞いてる本人が初耳なんです けど…
『それをいきなり恋人と参加されかなりのご立腹の片桐君!この勝負彼氏には不利か?!』
そう紹介され片桐と言う男はオレに挑戦的な態度をとる。
自分は負けるわけが無いって言うのをオレに見せ付けてるらしい…ふーん…
「彼を倒せばカギも旅行の券も貰えるの?」
司会の女の子に聞いた。
『はい! 本気出していかないとカギも彼女も手に入りませんよ!』

「じゃあ…本気でいこっかな…くすっ。」

その時のオレの笑い方はきっと腹黒い微笑だったに違いない…
ただグラブで誰にも見られていなかったとは思うけど。
『では健闘を祈ります!ファイト!!』

カ ー ン !!

周りのテンションも一気に上がる。
歓声や口笛の音…なんだよ…
まさかこの中にも耀くんの隠れファンがいるんじゃねーだろうな…
まったく油断も隙もあったもんじゃない…
さてと…コイツには見せしめに なってもらおうかな…
などと考えながらステージの中央に出て行った。
彼もやる気満々で進んでくる。

「椎凪っ!!」
大丈夫かな椎凪…うーどうしよう…

耀くんが心配そうにオレの名前を呼んだ…
片桐と言う奴はオレを素人と思ってか手加減して打ち込んでくる。
だからオレも余裕でよけてやった。
『おっと! 彼氏よけたぁ!!』
よけたのが気入らなかったのか紹介通りオレが耀くんの恋人で気に入らないのか
段々パンチにスピードが乗ってくる。
どう見ても耀くんの 前でオレをノックアウトしたいのと
自分をアピールしたいのが顔に出てるよ…片桐君!
逃げ回ってるのも飽きたし耀くんに心配かけるのもイヤだから
サッサと 終わらせようと前に出た。
左でボディに一発入れた。彼は平気な顔してた。まあ当然だよな…
続けて右を顔面に叩き込んで…そのまま肘鉄を顎に叩き入れた!
素早くやったから周りは気が付いていないだろう…ボクシングと喧嘩は違うから…
悪いね…オレずるいんだ…喧嘩なら自信あるもんで…
そのまま彼はリングの上に 思いっきり倒れた。

シーーーーーン…

予想外の展開に辺りは声も無く沈黙。
我に返った司会の女の子が叫ぶ。
『ダッ…ダウンですっ!!片桐君 ダウン!!
わずか20秒足らずでKO!!恐るべし望月さんの彼氏っ!!』
一気に歓声が湧き上がった。
オレに肘鉄を喰らった彼はずっと気を失ったままで仲間に 介抱されてるけど
当分起きて来れないだろう。

耀くんを抱き上げたりするからだよ…べー…ざまあみろっ!!

『おめでとうございます!』
賞品の 宿泊券をもらった。
「やったね椎凪。」
耀くんが嬉しそうに笑う。
「良かったね。耀くん!」
『さて皆様お待ちかね。
本日の優勝者のお2人にアツアツ ぶりを見せて頂きましょう!』
司会の女の人がそう言ってオレ達の前から離れた。
「え?な…なんで?」
そんなの…聞いてないし…それにこんな公衆の面前で なんて…
「はーい!!OKでーす。」
椎凪が元気良く上機嫌で返事をした。
「ええーーっ!?」
うそ…オレはそんな…心の準備が…
「え…?ちょ…椎…」
なんで?なんで口にしようとしてんの?
頬でいいんじゃないの?椎凪…あ…ん…

「おおおおおおーーーーーーっ!!!」

観客がどよめいてる…
椎凪ったら…そんな…舌…絡ませなくても…

公衆の面前で思いっきりディープ・キスを延々とされたっ!!


家までの帰り道…耀くんは黙ったまま…
「どうしたの?耀くん。」
オレはちょっとドキドキ…怒ったのかな?
「え?ん…椎凪と知り合ってからオレ…初めての事ばっかりだなぁ…って…
今日だって 椎凪がいなかったら絶対体験できなかったもん…」
「イヤだった…?」
心配そうな顔でオレに聞く…
「ううん…椎凪と一緒だったから楽しかったよ。」
「よかった。オレはみんなの目の前で恋人宣言出来たし色々挑戦出来て楽しかったよ。」
「………」

恋人宣言って…それが目的で出場 したのか…もー椎凪は…


次の日慎二さんの所に遊びに行って昨日の事を話した。
「え?旅行?どこ?」
「ここ。」
そう言って昨日手に入れた 宿泊券を見せる。
ここからそんなに遠くない海辺のリゾート地のホテル。
「あれ?このホテル…僕の知り合いの人がオーナーだよ…素敵なホテルだよ。」
「え?本当?」
相変わらず慎二さんは顔が広い。
「なんだ…僕も行こうかな…祐輔達も誘ってさ。いい?それともお邪魔かな?」
「本当?全然OK! 楽しみだなぁ!!」
「じゃあ今度皆で集まって相談しようね。」
「うん。」

後日皆で旅行に行く事になった…嬉しいな。
やっぱり椎凪が一緒だと オレは楽しくて嬉しくて退屈しないんだ…

それに…椎凪がいれば…オレは何も不安じゃないから…