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 * 途中ちょこっと挨拶程度のBL要素あり。ご注意を! *



「お前さえいなければっ!!」

そう言って叔父と名乗る男の人が僕をナイフで切りつけて来た…
僕は怖くて一歩も動く事が出来なくて…殺されるって…思った…
でもその時…後ろのドアが開いて男の人が飛び込んで来た…
僕の腕を引き寄せて…その人の腕の中に抱え込まれた…
目の前に大きくって暖かい胸がある…心臓の音が トクントクンって…聞えるくらい
僕はその人に強く抱かれてた…
お母さんが死んでから…こんな風に抱きしめられたのって…この人が初めてだった…
僕はその人の身体に腕を廻してギュッと抱きついた。

ホテルや輸入関係で日本や海外で幅広く事業を展開している
南条グループの会長・南条大治郎の隠し子が 見付かった。
母親が南条氏に息子の誕生を知らせずにこの世を去ってしまったのと
息子に自分が南条氏の子供と知らせずにいた為に13年間
お互いの事を 知らずにいたらしい…
跡取りのいなかった南条氏がその事を知ったのは数ヶ月前。
あらゆる手を使って彼を捜してやっと捜し当てた時には
彼は叔父に命を狙 われていたと言う訳だ。
その子がいなければ自分が時期社長になるはずだったから。
オレ達が保護しようとした矢先追い詰められた叔父が
今まさに彼を殺そう とした所にオレが飛び込んで来たと言う訳。

「ばーか。させるかよ。」
オレは彼を抱き寄せながら男のナイフを持った腕に蹴りを入れた。
ナイフが飛んで 離れた場所の床に突き刺さる。
オレのすぐ後から警官が入って来て男を取り押さえた。

「大丈夫か?」
オレは震えながらしがみ付いている『柚月翼』と言う 13歳の少年の顔を
両手で挟んでオレに向かせた。
その子は何も話さず震えながらジッとオレを見つめていた。
「椎凪。大丈夫?」
ルイさんが声を掛ける。
「ああ…何とかね。」
「しかし…あのオヤジも思い切った事したわね…自分で手を下そうなんてさ。」
連行される男を見てルイさんが言った。
「焦ってたんじゃ ない?オレ達にこの子保護されたらもう手が出せないからな。」
「君ももう少しで危なかったわね。」
「………」
「あら?どうしたの?この子…」
オレにしがみ付いて離れないこの子を見て言った。
「さあ…離れないんだよね…」
オレの言葉に余計きつくしがみ付く始末…
「まぁショックでしょうししばらく そのままにさせてあげたら?」
「んーいいけどさ…」
「別に構わんでしょ?」
確かに構わないんだけど…
オレなんかになんでこんなにしがみ付いてるのかが 不思議だった…

署に帰り一服しているとルイさんが言った。
「あの柚月翼って子あんたの所で2日間預かってよ。」
「はあ?オレんトコ?」
何言ってんだ?この人。
「耀くんいるからムリっ!!」
オレは即答で却下した。
「耀君いるから頼むのよ。」
ルイさんはオレと耀くんの一緒にいる時間を 邪魔するのが目的だ…
「どうしても大治郎氏自ら迎えに来たいんですって。
でも事情があってどうしても2日後になるんだってさ。」
「課長?何でオレんトコ なんですか?そう言うの預かってくれる所とか…
堂本君だっていいじゃないですか。」
オレは断然抗議した。
「残念でした。だって本人たっての希望ですから。 好かれたわね椎凪。」
ルイさんがワザとらしくニッコリと笑ってオレを覗き込んだ。
「あの人の…所がいい…」
「ええっ?」

オレはルイさんの後ろに隠れる 様に大人しく立っている少年を
マジマジと見ていた…


耀くんと翼が見詰め合っている。
「あ…いらっしゃい…こんばんわ…」
「あ…はい…こんばんわ…あ…ごめんな…さい…」
何ともぎこちない2人の挨拶…
「柚月翼13歳だよ。望月耀くんオレの恋人。」
一応紹介した…結局押し付けられて連れて来た…

無理矢理面倒を見てもらおうなんて…迷惑だろうなと思う…
でも…あの時のホッとした感覚がずっと1人だった僕に安心と安らぎをくれた…
だからこの人の傍にいたかった…僕の事も守ってくれた…だから…
でもやっぱり恋人がいたんだ…当たり前か…大人の…男の人なんだもん…


夜も更けて耀くんはおねむの時間。
「オレ先に寝るね…」
「うん。」
「おやすみ耀くん。愛してるよ。」
「オレも愛してるよ。おやすみ椎凪。」
オレ達はおやすみのキスをした。
「おやすみ。翼君。」
別の部屋のドアの前で翼がオレ達を見ていた…
「おや…すみなさい…」
耀くんが寝室に入ってドアを 閉めた。
気が付くと翼がこっちをじっと見ている…
ああ…お子ちゃまにはキスが刺激的だった?
「なに?」
いつまでもこっちを見てるから思わず声を掛けた。
「………」
無言でオレを見続けてたかと思ったら急にオレの所に走って来て…

オレに飛びついてキスをした…

微かに唇が触れるような軽いキス…そしてすぐ俯いて
「おや…すみなさ…い」
って小さな声で囁く様に言った。
「あ…!ああ…おやすみ。」
そのまま用意した部屋に入って行く…
オレはそんな翼を 部屋のドアが閉まるまで眺めてしまった。
ああ!おやすみの…キスね…
今頃納得してしまった。
もしかして…オレあの子に好かれてんのか?まあオレ子供は 嫌いじゃないけどさ…
しかし…一唏といい應祢君といい…何で男のガキばっか面倒見なきゃいけないんだよ…
つくづくオレはそう言うのに縁があるんだと… 思い知らされた…

…何であんな事しちゃったんだろう…僕はベッドの上でうつ伏せになって
自分がたった今した事を思い返していた…
恥ずかしい…きっと 変に思ってる…男の子が…男の人にキス…するなんて…
しかも…今日初めて会ったのに…こんなに…年下なのに…子供なのに…
でも…あの2人がキスしてたの見てたら… なんだか無性に僕もあの人にしたくなって…
…おやすみのキスって…思ってくれたかな…
ホント…僕…どうしたんだろう…


ベッドに入ると耀くんはもう夢の中…オレは耀くんに擦り寄ってほっぺにキスをする。
横を向いてる耀くんをオレの方に向かせて上に乗った…
パジャマのボタンを一つ外した所で部屋のドアが勢い良く開いた。

バ ン ッ !!

「え?なに?」
「…ん…?」
耀くんも目を覚ました…珍しい。
見ると翼がドアの所で枕を抱えて立っていた。
かと思うとベッドの足元の方から潜り込んでどんどん上に上がってくる…
「え?なに?寝ぼけてんの??ちょ…」
が ば っ !!
「「うわっ…!!」」
耀くんと2人で思わず叫んだ。
翼が計算したかの様にオレと耀くんの間に顔を出したから。
そしてそのまま持って きた枕にうつ伏せで寝てしまう…

「何なんだよ…一体…」
オレはさっきから翼の行動が意味不明でワケがわからん!
「不安なんじゃない?」
耀くんがそんなオレを察してか静かにそう言った。
「え?」
「だってさ…お母さんが亡くなってからずっと一人だったんだろ?
しかも会った事無いって言っても 身内に命狙われるなんてさ…
まだ小さいのに…だから助けてくれた椎凪に頼りたいの…分かるよ…」
「耀くん…」
そうだよな…まだこんな子供なのに…きっと 凄い心細かったんだろうな…
「それに椎凪頼りがいあるし…きっと優しく笑いかけたりしたんじゃないの?」
耀くんが鋭い所を突いてくる。
「え?…記憶… 無いけど…?」
「もしかして助けた時抱きしめたとか?」
「ええっ!?いやっ…それは…仕方なく…」
オレは耀くんが怒るのかと思って慌てて説明しようとした…
「怒ってないよ…やだな椎凪は…違くてさ…」
耀くんが優しい顔で話す…
「椎凪に抱きしめられるとさ…すっごく安心できるんだよ…
オレ何度も経験してるから 分かるんだ…
だからこの子も椎凪に抱きしめられて安心したんだよ…」
「そうなの?」
初めて知った…
「うん。椎凪の胸と腕は魔法みたいなんだ…」
耀くんがそう言ってニッコリと笑った…
「2日間でしょ?その間だけでも安心して過ごさせてあげたいな…
これから先この子大変になるだろ?きっと…」
「そうだね…きっと嫌な事も沢山…あるだろうね…」
オレと耀くんはうつ伏せている翼に視線を移した…
そして2人で翼の頭をそっと撫でてあげた…

オレは耀くんと翼の間で寝る事にした…一応翼も男だからね…


次の日の朝…ちょっと困った事になった…
目が覚めると耀くんと翼がオレに抱きついている…
まあそれはいいとして…オレはどうしたらいいんだろう…
朝ご飯の支度をしたいんだけど…オレが起きたらこのベッドに耀くんと翼で寝る事になる…
オレとしてはいくら翼が幼いとは言え…男と耀くんを同じベッドで寝せるのは
何とも納得がいかない…
かと言ってどちらかを起こすのも時間が早いから可哀想だし…
はー…どうしたもんか…
あーもういいや!起きんの止めた。

オレは片腕ずつ腕枕をしてる2人を抱き寄せて2人のオデコにキスをした。
「おやすみ。2人共…」
そう言ってオレもまた眠りについた。

ゆっくりと朝食を 取ると耀くんは大学に出かけた。
オレは2日間翼の面倒を見るのが仕事だから…(ちゃんと課長命令だしね。)
部屋に居ても仕方ないから外に出る事にした。
とにかく大人しい子だった…
ずっと控え目に生きて来たからなのか…行動には時々驚かされるけど…
2人で並んで歩いていると…翼が控え目にオレの手を握った。
オレが翼を見ると…困った顔をする…
オレはそんな翼の手をギュッと握ってあげた。
一瞬にして嬉しそうな顔になる…現金な奴…
「何か食べる?翼。」
「…アイス…食べたいな…」
小さな声だ…
「そっか。じゃあアイス食べよう。」
オレはそう返事をすると翼の手を引っ張って歩き出した。

勇気を出して… 手を繋いでみた…
夕べも2人が寝てる所に入って行くなんて…後から考えたら凄い事したんだと思った…
でも…一人じゃ心細くて…怖くて…耐えられなかったんだ…
2人共僕の事怒らなかった…優しい人達なんだな…今も…手を握り返してくれた…
嫌な顔しないで…この人何だろう…今まで僕の周りにいた人達と違うんだ…

アイスを食べて…ウィンドウ・ショッピングをして…楽しかった…久しぶりに笑った気がした…

「翼…」
「?」
「オレはね…親がいないの…だから… 今まで会った事無い父親と一緒に暮すのって
不安があると思うけどさ…でもずっと翼の事捜してくれてた人だから…暮してみたら?」
そう言ってこの人は優しく笑った… 親が…いないんだ…この人…そうか…
「うん…」
僕は自然に頷いてた。

2日間オレは翼とずっと一緒に過ごした…夜は3人で眠った…
3日目… 南条氏が迎えに来た…翼が…オレと耀くんの傍から離れようとしない…
でも…実の親なんだし…お金には苦労しないだろう…でも…
これから先翼は嫌な事も沢山 体験すると思う…翼の事を良く思わない奴だっているだろうし…
でも…それは翼が乗り越えなくちゃいけない事だから…

「元気でね…翼君…」
「翼…楽しかったよ。いつでも遊びにおいでね…」
きっと無理だろうとは思ったけど…本心だった…翼はこれからは父親と外国で暮すから…
泣き出しそうな翼… オレはそんな翼を抱きしめた…

「負けないでね…」

色々な意味でそう…言った…
翼の父親が深々と頭を下げて…翼の肩を抱いて車に乗り込んだ…
オレと耀くんは車が見えなくなっても…ずっとその場に立っていた…


その日の夜…椎凪が思いの外落ち込んでいた…
ずっと…付きっ切りだったもんな…
「椎凪…元気出して…」
「耀くん…」
椎凪が真面目な顔でオレを呼んだ。
「ん?」
「2日間出来なかったから朝まで頑張ってね。」
「えっ?そんな事 考えてたの?」
「うん。耀くんもつかなぁって…?なに?」
「ううん…なんか…なって…」
オレは何とも納得のいかない顔をした。
「ああ…翼?そりゃ 心配だけどさ…なるようになるよ…きっと…
オレ調べたんだけどさあの翼の父親…見かけによらず結構いい人らしんだ…
慎二君も悪い人じゃないって言ってたしさ…
だから心配する事ないかなぁって…」
いつのまに調べてたんだ…椎凪…
「あ…」
そんな事を考えてたら椎凪がオレの上に覆いかぶさって来た…
「オレの事… 心配してくれてたの?耀くん。」
「だって…元気なかったみたいだから…さ…」
「ちょっとはね…気が抜けたって言うかさ…ねぇ…耀くん…」
「ん?」

「オレの事…慰めて…」

そう言ってオレの胸に顔をうずめる椎凪…やっぱり…落ち込んでたんじゃん…
「いいよ…今日はオレやめてって…絶対言わないから… 椎凪の好きにしていいよ…」
「…うん…」
椎凪がオレの胸に顔をうずめたまま小さく返事をした。

その日…結局椎凪はオレの事を抱かなかった…
その代わり…ずっとオレの胸に顔をうずめながら眠ってた…
オレはそんな椎凪を…ずっと抱きしめて眠った…