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今日は以前耀くんの学園祭で手に入れた旅行宿泊券を使って出掛けている。
もちろん祐輔と慎二君も一緒。
深田さんは休みが取れず今日の夜に合流する事になってる。
2泊3日の予定だ。
場所は都心から一時間ほどの海辺のリゾート地。
レンタカーを借りて移動中と言う訳。
祐輔も慎二君も免許を持ってるって言うんだけど 祐輔は他の車と対抗意識をすぐ燃やすし
慎二君は車線変更が出来ない事が車を運転して発覚した。
そう言うのは早く言って欲しいんだけどね…
耀くんはもともと 免許持って無いからオレが運転する事になった。
運転は快調なんだけど…気分は段々重くなる…なぜかって?
それはこれから向かうホテルに右京君が待ってるから…
あーオレの夢の様な耀くんとの旅行は右京君と言う最大の強敵の前に
脆くも崩れ去っていく…まあ人数多い方が楽しいんだけど…
相手が問題なんだよな…


慎二君の言う通り出来たばかりのそのホテルはすっごく綺麗で上品だった。
近くに人気のテーマパークがあることもあって家族連れやカップルの宿泊客も多い。
オレ達は右京君が待つ最上階のスイート・ルームに向かった。
「右京さん大丈夫でした?」
1人部屋で待っていた右京君に慎二君が声を掛ける。
大丈夫だろう? 子供じゃないんだから…
オレは心の中で文句を言う…口に出して言えないのがミソだ。
「ああ…ホテル久しぶりだからね。楽しみにしていたんだよ。」
ニッコリ微笑む。
その笑顔は慎二君と…もう一人…耀くんの為に向けられたものなんだ…

「おいで…耀。」

そう言って耀くんに手を差し伸べる…
その言葉を聞くと耀くんは催眠にかかったみたいに右京君の所へ行ってしまう…
オレの事が見えなくなるみたいに…

「久しぶりだね…耀。」
「はい。」
右京君が耀くんの頬にそっとキスをする…
「また綺麗になったね。どんどん女の子らしくなる。」
「右京さんにそう言ってもらえると耀嬉しい。」
耀くんが照れた様にニッコリと笑う。
「でももう少し女の子らしい服を着た方がいいと思うよ。」
「でも…なんか恥ずかしくって…」
耀くんは右京君の所から 戻った後も今までの服を着てる。
女の子っぽい服じゃないのは確かだ。
流石にサラシは巻いて無い。
『右京さんが女の子はサラシなんかまかないって…』って 言われたんだって。
「そんな事は無い。ねえ?慎二君。」
「そうですね。今度洋服見てあげるね。」
…3人で盛り上がってる…ああなるとオレは中に入れない…
振り向くと祐輔がタバコを吸おうとしていた。
オレも暇だから吸おうかとタバコを取り出すと
間髪入れずに右京君の声が飛ぶ。

「 そこの2人!! この部屋は禁煙だから!! 」

「 !! 」
オレと祐輔はタバコに火を点ける寸前で身体が停止した。
右京君はタバコが大嫌いだから目の前でタバコを 吸おうとするともの凄くウルサイ…
まったく…仕方なくオレと祐輔はタバコを吸うのを諦めた。


午後から近くのテーマパークに皆で出掛けた。
メンバーみんなそんな所はあまり縁が無い。
オレと耀くんは2人で1回行った事がある。
あと慎二君が一番多くこう言う所に来ているらしい。
この場所が似合わないのが約2名…祐輔は慎二君情報だと一回行った事があるとか…
問題は右京君…こう言う所は初めて…しかも世間知らずだから…

入場早々このテーマパーク人気キャラクターが出迎えてくれたのに…そのキャラクターに向かって…

「 僕に気安く触れるな!!近づくな!!」

不機嫌オーラ出しまくって睨むからキャラクターのぬいぐるみがビビッて
その場から動けなかったんだよな…
「右京君…それここのメインキャラクターだから…みんなの人気者だから…脅すのやめて…」
一応お願いした…まだまだ 困難は続く…
平日とは言え金曜日の午後だから来場者も多い。
右京君はこんな人混みは気に入らないらしい…
「これならここを今日一日貸し切りにすれば よかった。」
「 は?!何言ってんの?右京君…そんなのムリでしょ?… 」
オレは流石に呆れた顔で右京君を見た。
「なぜ?ここの責任者を出したまえ。 僕が話を付けるよ。
ここの経営者は僕の一族の者だから…当主の僕の命令を聞かないはず無いからね。」
「…はぁ?…」

ちょっと…待て…なんだ? 話が良く…理解できないんですけど…?

「でも右京さん。こうやって他の人達と一緒に待って時間をかけて
乗り物に乗るって言うのもいいもんですよ。 遊びに来たって感じじゃないですか。」
慎二君がそう言うと
「そう言うモノなのかい?」
納得いかないといった顔だ。
でも慎二君と耀くんが頷くと 右京君はヤレヤレといった顔で納得した。
そんな耀くんも人混み苦手なのんだよな…だけど…
「みんなと一緒だから平気だよ。それに椎凪がずっと手を繋いで くれるもん。」
あーもう耀くんってば…可愛いなぁ…

場内を歩いているとグループで行動している人が目立つ。
順番待ちの間もオレ達の前にも若い子達の グループが並んでいた。
待ってる間も仲間同士で話が弾んでる。
ただ周りを気にしないのがチョット気になる所だけど…
案の定すぐ後ろに立っていた右京君に 男の子が一人ぶつかった。
「あー!わりぃ。」
軽く謝る。
「…………」
不気味な右京君の無言…
「あ…あのさ右京君…」
オレは恐る恐る声を 掛ける…
「なんだい?」
「あの…寛大な心で…ね?」
「僕に命令…」
言いかけてまたぶつかられた…今度は女の子だ…
「あ…ごめんなさいね。」

…… ブ チ ッ !!!

切れた音が聞えたような気がした…

「君達は周りの迷惑と言うものを考えたまえっ!!」

瞳が変わってる…!! マジかよっ…ちょ…
オレと慎二君耀くんが慌てていたその時…

…… ビ タ ン !!!

「ったく…!!」
祐輔が右京君の目を隠すように 左手を思いっきり叩き付けた!
「………ひぃ……!!!!!」
オレ達はビックリして固まった…右京君にこんな事出来るなんて…祐輔…

「こんなトコで… しかもこの位の事で『邪眼』使うんじゃねーよっ!状況考えろっ!!」
「……何をした…」
「ああ!?」
「今…僕に…何をしたのかと聞いているんだよ…新城君…?」
うわっ…右京君スゲー怒ってる…
「世間知らずのおぼっちゃまに世間のルールを教えてやったんだろ?
何か文句あんのか?右京!」
わー祐輔もそんな風に そんな事言わなくたって…
二人の周りでは怒りのオーラが凄い事になってんだけどーーー…

「この僕にそんな事許されると思っているのかい?いい加減に したまえ!君はいつもいつも…」
「何だよ?許されるに決まってんだろーがっ!!上等だっ右京!やるならやってやるぞ?
オレにはお前の能力は利かねーんだから なっ!!腕力で勝てんのか?」
「勝てるかどうかやってみようじゃないか!
それに僕の邪眼の力は今まで本当の力の半分も出してないんだよ!全力でやってみるかいっ?」
「ああ!やってみろっ!!」
「あーもう…ちょ…祐輔!やめなってば…」
慎二君が間に入る。
「祐輔も…右京さんもやめて…椎凪…助けてよ…椎凪!」
耀くんも割って入った。

…って言われても…もう…すっごい疲れるんですけど
…一体これから先…どうなんの?あの…眩暈がするんですけど…

結局逃げる様にその場を立ち去った…周りが何事かと集まり出したからだ…

「そろそろ夕飯にしません?ホテルに帰って食べるよりもここで食べて帰りましょうよ。」
慎二君が提案してみんな賛成した。

「あ!ここですよ。このお店です。」
そう言ってたどり着いたお店はちょうど夕飯時のせいか行列が出来ている。
ここだけじゃなくて他のお店も同じ様なものだったけど…
「中に入るのにも時間かかりそうだね…」
またモメなきゃいいけど…オレは気分が重くなった…!…あれ?
「慎二君?」
慎二君が行列をよそにスタスタとお店の中に入っていく。
そして案内の係りの人を見つけると
「あの橘ですけど。竜崎さんから聞いてますよね?」
「あ!はい。承っております。こちらに…」
あっさり通された。
「慎二君…?」
行列の待ってる人の視線が痛い…オレ達はその人たちを横目に奥へ通された…
一般の席じゃなくて更に奥の個室の部屋…
こんな所あるんだ…これなら他の人の事気にせず食べれるよ。
「すごいね慎二君。何かコネでもあるの?」
オレは 不思議で聞いた。

「いえ…ここのお店は僕の父の会社の系列でしかもここの社長が
女性問題で失脚しそうだった時僕がちょっと手助けをした事がありましてね。
その繋がりです。裏技でしょ?こう言う時に使えるコネは使わなきゃ損ですよね。」
何とも爽やかな笑顔で話す慎二君…でも…裏技って…

「一般の人は使えない裏技だけどね…」

「え?そうですか?」

真面目な顔で慎二君が言った…