92





椎凪と喧嘩して…家を飛び出して慎二さんの所に押し掛けた…
慎二さんに理由を聞かれたけど…オレは何も答えずに…
ただしばらく置いて欲しいって頼んだ…

その日の夜…

「耀…」
「 !  右京さん?!何で…?」
右京さんが来てくれるなんて…オレは知らなくて…
「慎二君がね…耀に会って欲しいって…」
右京さんが優しくオレを抱きしめてくれた…
「どうしたんだい?」
じっとオレを見つめて優しく微笑んでくれる…
「右京さん…うっ…」
オレは右京さんに 抱きつきながら堪えていた涙が次から次へと溢れてきて…
右京さんの胸に顔をうずめて泣いた。
「僕にも話せない事なのかい?全部話してごらん。椎凪君にも… 誰にも言わないから…」
「………」

ガチャ…
「どうですか?」
部屋から出てきた右京さんに声を掛けた。
「ああ…大丈夫だよ。心配してくれて ありがとう…今眠ってる。」
いつもの優しい笑顔だ…
「何か言ってました?」
「ああ…全部話してくれたよ。詳しい話は誰にも言わないって約束したから話さないけれど…
まあ…結局…耀は可愛いって事かな…ふふ」
右京さんが面白そうに 笑う…
「え?」
僕はその意味が分からなくてキョトンとしてた。
「耀の目が覚めたら僕の屋敷に連れて帰る。実家に帰るのは当たり前だからね…
それに僕の 所なら椎凪君も気楽に会いに来れないだろう?」
「右京さん…」
「このまま別れさせるって言うのもいいね…」
右京さんがニッコリと笑ってそんな事を言う。
「右京さん!!」
僕は本当にやりそうで怖かったから珍しく強めに右京さんの名前を呼んだ。
「わかっているよ…慎二君…」
右京さんがまたニッコリと笑う…
「もう…」
僕はつい軽い溜息を吐いた…
椎凪さん…早く仲直りした方がいいんじゃないの?
僕は心の中でそう思っていた。


次の日の夜…オレは すこぶる機嫌が悪かった。
仕事でも誰とも口を利かず…と言うか誰もオレ近づいてこなかった…
オレは全開に『オレ』を出してたから…
祐輔達と待ち合わせを していたけど…店の中に入る気がしなくて
店の目の前の道路でタバコを吸って時間を潰していた…
今因縁をつけられたら問答無用で速攻相手をブチのめす!…オレは その位機嫌が悪かった…

耀くん…何でなんだよ…

昨日から…その言葉がオレの頭の中で回り続けている…
その時ポンッ…と肩を叩かれた。
「ねぇ?一人で暇してるなら…あたしと付き合わない?」
「………」
振り向くと女が微笑みかけながらオレを誘った。
何気にオレの腕に自分の腕を絡めて来る。

「 気安くオレに触んな!! 」

『オレ』に睨まれた女は 無言で早々にオレの傍から離れて行った…
今のオレに触れていいのは…耀くんだけだ…
くそっ!余計気分悪りぃ…

「女性に八つ当たりなんて最低ですよ。」
慎二君が近寄りながらオレに言う…
『オレ』で睨んでも全く気にしない…
「自業自得だろうがっ!!キレってんじゃねーよっ!!」
祐輔も『オレ』で睨んでも 全く気にしない…ったく…こいつらは…
「自業自得なんかじゃ無い。オレは何も悪い事して無い。」
オレはずっとこの言葉を繰り返していた…


「右京ん所に行った?」
「うん…実家に戻るのが当たり前だって言って…
ゴメン…椎凪さん…僕右京さんには逆らえないから…」
慎二君が申し訳なさそうに オレに謝ってくれた…
イタリア料理のお酒も飲めるお店のボックス席でオレと慎二君はお酒
祐輔は飲めないからアイスコーヒーを飲みながら話してる。
「いや…いいよ…仕方ないから…」
「でも…どうしたんですか?椎凪さんまで…いつもはすぐ仲直りするのに…」
慎二君が不思議そうな 顔でオレに聞いて来た…
「ちょっとね…ショックだったんだ…
耀くん…オレの事信じてくれなっかった…何でなんだろう…」
その事を考える度に辛い気持ちになる… グラスを持つ手に力が入った…
「右京さんが言うにはさ…『 結局耀君は可愛いって事だ… 』 って…」
「ああ?何だそりゃ?」
「しばらくそっとしとくんです か?時間経てば経つほど気まずくなりません?」
「このまま別れても知らねーぞ?」
2人がオレを脅す…
「そうやって脅さないでよ…」

オレだって… このままで良いなんて思ってない…
浮気したなんて思われてるのも…浮気したがってるとか思われてるのも嫌だった…
何より…未だに輪子さんの事どうにか思って るって…思われてる事が…一番嫌だった…
オレには…耀くんだけなのに…耀くんだって…分かってるはずなのに…なんで…

何だか今日は悪酔いしそうな気分だった…


耀くんが出て行ってから一週間が経った…
その間耀くんから何も連絡は来ない…大学もずっと休んでるって祐輔が言ってた…
その間も…耀くんは右京君 と2人っきり…オレは我慢出来なくなって…右京君の屋敷を訪ねた…

いつもの執事に案内されて…いつもの応接間に通される…

「耀くんは何処?」
オレはムッとしながら聞いた。
「オレは耀くんに今すぐ会いたいんだ…耀くんは何処?」
もう一度聞いた。
「今…参りますので…しばらくお待ちを…」
丁寧に頭を下げる…でも今のオレにはそれすらも不快に思う…
「いいから耀くんの所に案内しろよ!オレは耀くんに 会いに来たんだ! 」
「………参りましたな……右京様に耀様一人で会わせるなと仰せつかっておりまして…」
「……!!…なら自分で捜す!!どけよっ!!」
オレは…歯止めが利かなくなっていた…オレの耀くんだっ!!誰にも邪魔なんかさせないっ!!
執事の制止も聞かずオレは応接間から出ようとしていると…反対の扉から 耀くんの声がした…
「椎凪…やめて…」
「耀くん…」
「耀様…」
「大丈夫だから…2人にして…」
そう耀くんが言うと執事の男は一礼して出て行った…

2人の…距離が遠い…
耀くんはオレに近づいて来ない…オレも…その場に立ったままだった…

「オレ…謝らないよ…だってオレやましい事何もしてないからっ!」
耀くんを責める様にオレは言い続けた…
「何でオレの事信じてくれないの?オレ耀くん以外の人好きになんかならないよ…
寝言で言ったから疑うの?オレの話も 聞かないで?」
「 ……… 」
耀くんが黙って…でも…今にも泣き出しそうな顔でオレの話を聞いている…
でも…オレは止められなくて…

「 そんなにオレの事信じられないの!! 」

「………信じてるよ…」

耀くんが…小さな声で返事をした…
「 え…?! 」
「椎凪がオレ以外の 人…好きになんかならないって…わかってる…」
涙が…耀くんの頬を流れて落ちる…
「じゃあどうして?何怒ってるの?」
オレは耀くんの傍に近づいて詰め寄った。
「 オレ…何かしたっ?! 」

「 好きって…椎凪…好きって言ったんだっ!! 」

「 え…? 」
耀くんが涙を溢しながら…叫ぶ様にオレに言った…

「 寝言でも…オレ以外の女の人を…好きって言ったっ!!」

「耀くん…」
「わかってる…バカみたいだって…自分でも…わかってるよ…
でも…すごく 嫌だったんだ…オレ…椎凪がオレ以外の人に…
好きなんて言ったの…聞いた事…無かったから…うっ…
自分が…こんなに…ヤキモチやくなんて…思わなかった…」
涙を擦りながら必死で話す耀くん…
「でも…どうしようもないんだもんっ!!
なのに…椎凪が浮気してるってオレが疑ってると思ってたんだろっ?」
「…耀くん…」

「 椎凪はオレのものだもんっ!!オレだけのものだもんっ!!
椎凪が言ってくれる好きも愛してるも…オレだけのものだもんっ!!
寝言でもオレ以外の人に好きなんて言っちゃヤダっ!! 」

耀くんが…涙をポロポロ流しながらオレを見た…
「あ…ごめん…」
「うー…うっ…ぐずっ…」
耀くんが泣き始める…オレはそんな耀くんの肩を掴んで顔を覗いた…
「ごめん…ごめんね耀くん…オレ…気が付かなくて…
耀くん初めっからオレの事信じてくれてた んだね…」
泣きながら…コクンって頷く耀くん…

『 耀は可愛いって事だよ… 』

右京君の言ってたのって…こう言う事だったんだ…
耀くんヤキモチ… 妬いただけ…
でもその感情を上手く自分でコントロール出来なくて…どうしていいかわかんなくて…
でもオレにも言えなくて…1人で苦しんでたんだ…
そっか… そうだった…耀くんのヤキモチはちょっと分かりにくいんだった…
忘れてたよ……

「オレの事…ヒック…怒って…ない?」 
耀くんが泣きながらオレに聞く…
それが余計…愛しくって…泣きじゃくる耀くんにキスをした…
「うん…」
「オレの事…呆れちゃった…?」
「ううん…」
「オレの事…嫌いになっちゃった…?」
「ううん…だってオレ…耀くんにこんなに愛されてるんだもん…嬉しいよ…」

オレは深い深いキスを…耀くんにしてあげて…
そのまま抱き上げてソファに運んだ…
「え…?椎凪…なに…?え?」
何故か耀くんが慌て出した…
「何って…耀くんの事…抱きたいから…ここで抱くの…」
「えっ!?あっ…だっダメだよ椎凪…ここ… 応接…間…あっ…」
そんな事お構い無しに耀くんをソファに下ろすと
両腕を一緒に片手に握りしめて上着のボタンを外し始めた…
「あっ…ダメだってばっ!! 椎凪…やめてっ…んっ…」
やめてって言う耀くんの口をオレの口で塞いで舌を絡ませて黙らせた…
「…あ…んっ…」
ズボンも下着と一緒に膝まで一気に引き下ろした…
慌てる耀くんを押さえつけてオレの手を耀くんの身体に這わせる…
そう言えば…こんなに嫌がる耀くん抱くの…初めてかも…
なんか抵抗されるのを強引に抱くのって…燃える… 久しぶりって言うのもあるのか…?
口を離した瞬間耀くんが叫んだ…
「お願い…椎凪!…やめてっ…いやっ…ん…」
胸に…舌を這わせながらきつく吸った…
「 うー…… 」
耀くんが必死で感じるのを我慢してる…今度は歯を立てた…
「ああっ…やっ…椎凪…お願い…」
「なんで?」
「だって…ここ…右京さんの… 屋敷だし…ここ…応接間で…うっ…」
抵抗しながらも耀くんが感じ始めてる…
「なんで右京君の屋敷だと…しちゃいけないの…?」
オレは耀くんの耳元で囁いて 聞いた…

「 それは耀に何かあれば僕がすぐわかるからだよっ!!!! 」

ド ッ キ −−−− ン ッ !!!

心臓が飛び出そうな位驚いたっ!!
「何を…やっているんだい?…君は!!」
「 右京君っ!!! 」
いつの間にか右京君が腕を組んで…オレ達が絡み合っていたソファの傍に立っていたっ!
もの凄く怒ってるのが一目見てわかる…ワナワナ震えてるし…
「あ…右京君…オレ達…恋人…同士なんだからね…しかも…仲直りして…久しぶりに会えたしさ…」
オレはシドロモドロになりながら…必死に言い訳をしていた…
何でだっ?!

「 君は僕に挨拶もなしで…一体何をやっているんだい?
応接間でこんな事… 信じられないよ!!しかも嫌がってる耀を…」
「 …右京…さん… 」

耀くんが必死にはだけた洋服でハダカに近い身体を隠そうとしてる…
見えそうで 見えない耀くんのハダカの身体…それが余計にエロイったらありゃしない…

「 父親の目の前で…恥を知りたまえっ!!
耀はこのままここに置く!君は一人で 帰りたまえっ!!そして二度と来るなっ!! 」

そう言って耀くんを抱き上げるとさっさと部屋から出て行こうとする…
ちょっ…ちょっと待て!!ふざけんなっ!!

「そんなのオレが許すわけ無いだろっ!! ちょっと…右京君!!」
オレは右京君を追い駆けた。

くそぉ…何で…いつもいつもこんな苦労しなきゃいけないんだ…
言っても仕方ない愚痴を飲み込み ながら…
あの怒りまくった右京君から…耀くんを取り返さなければならなかった…