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「ちょっと堂本君。」
「ふぁい?」

椎凪さんに呼ばれて返事をして振り向いた。
「ん?何?どうしたの?」
「へ?…いえ…別に…」
「別にって… ぴとっ!」
椎凪さんが言いながら俺の額に手を当てた。
「………」
じっくり5秒はジッとしてた…

「!!うわぁっっ!!!なっ… 何すんですかっっ!!
俺はそう叫ぶと思いっきり椎凪さんから離れた!
「何?その態度?人が心配してあげてるのに。」
「しっ…心配?」
「堂本君…君熱 あるよ。しかも結構高い…違う?」
「え?熱…ですか?」
「うん…どう見ても熱い。ほら…」
そう言ってまた俺の額に手を置こうとした…から…
「わぁぁっっ!!だっ…大丈夫です!この位の熱なんて!!」
「何?そのオーバーリアクション?オレに触られるのイヤなの?」
「いっ…いやぁ…そんな事は…」

ヤバイ…どうも椎凪さん相手だと過敏な反応しちゃうんだよな…
自分でも不思議なんだけど椎凪さんに近付かれたり
触られたりすると身体が勝手にビクリとなる…
心臓もバクバク言うし…ホントなんでなんだろう…

「君が風邪引くとオレにうつるだろ?前それで耀くんに心配かけたからさ。
だからオレにうつされる前に隔離 しなきゃと思ってさ。
だからオレの半径2メートル近付かないでね。オレに話しかけないで。
って言うか帰れ!帰らないとオレが君殺す!!」
「ちょっ…椎凪さん… 仮にも刑事がそんな事言っちゃ…」
「大体気付かなかったの?今まで?」
「はぁ…まあ身体がダルイなぁとは思ってましたけど…はぁ…」
「まったく…これだから彼女のいない男は…」
もの凄い呆れた顔された…

「だからいつも言いますけど関係ないでしょ?彼女がいようがいなかろうがっ!!」

って…あーもう怒鳴ったから頭がクラクラしてきた…
「ほら…もう今日はいいから内勤勤務してな。じゃあね。」
「あっ…椎凪さん!!」
冗談かと思ったら 本当に俺を置いて椎凪さんはサッサと何処かに行ってしまった…
そんなに俺に風邪うつされるのイヤなのか?まぁ誰でもそうだろうけど…
そう言えば前椎凪さんが 俺に風邪うつされたって凄く怒ってお仕置きと称して
膨大な量のケーキ買わされたんだっけ…思い出した…

その後流石に辛くて…自分でもヤバイと思い早退して 医者に行く事にした…
これで満足ですか?椎凪さんっっ!!


医者からの帰り道…もう夕方になってた…
タダの風邪と判断されクスリをもらってボーッ としながら歩いていた。
あーこれから家に帰ってメシ食って…クスリ飲まなきゃ…って面倒くせー…
なんて思いながら歩いてたら…

「あ!」  「あ!」

バッタリとあの人と出くわした…椎凪さんの恋人…耀さん…
相変わらず可愛いな…これで男の子なんて信じられないよな…

堂本君は教えてもらっていないので 未だに耀が男の子だと思ってます。

「こんにちは…」
「あ…こん…にちは…」
極度の人見知りなんだよな…でも何度か俺とは顔を合わせてる…ほんの チョットの時間だけど…
「いつもスミマセン…俺が椎凪さんの足引っ張ってるから帰るのいつも遅くなっちゃって…」
ペコリと頭を下げた。
「え…!あ…いや… そんな…気にしなで…
それよりも椎凪その事で君の事イジメてるんじゃないの?」
「あ…いや…それは俺がドジだからで…」
「椎凪仕事の話あんまりオレにしない からさ…仕事なら仕方ないのに…
オレの事となると椎凪ちょっとやり過ぎな所あるから…」
そう言って溜息をついてる…
確かにやり過ぎって言えばやり過ぎな所が 無きにしも非ず…
最初はビックリしたけど最近はもう慣れてしまった…
慣れって怖い…
「ホントに…ごめんね…」
そう言いながらちょっと照れた様な…はにかむ 様な顔をした…
俺はそんな耀さん見てドキリとする…

「!!」

思わず目を引いた…襟元の隙間からチラリと覗いた…アレは…キスマーク!!
「…ド キ ン !!!」
ブンっ!!と音がしそうなくらいの勢いで耀さんから視線を外した。
その反動で後から死にそうなほどの頭痛に襲われた。
「どうした の?」
「…い…いえ…」
そうだよな…恋人同士なんだから…当たり前だよな…
でも男同士ってどんなんだろう…
それに…椎凪さんってどんな風にする んだろう…
きっと慣れてて上手なんだろうな…ハッ!!!!って俺何考えてんだっっ!!!

「あ…耀さんすいません…俺これで…」
これ以上一緒にいたら なんか訳わかんなくなりそうで…フラつく頭で帰ることにした。
「あ…はい…じゃあ…」

自分では真っ直ぐ歩いてたつもりなのにヨロめいていたみたいだ…
「大丈夫?何かフラフラしてるけど…」
後ろから耀さんに呼び止められた。
「大丈夫です…ちょっと風邪ひいてて…
でも今医者行ってきましたから…クスリも もらったし…」
一応笑って見せた。
「でも…顔色悪いよ…」
「あ…平気です…それに…これ以上話したら…君に…うつる…」
「え?ちょっ…堂本さん??」

何なんだ…
世界がグルグル廻って…目がまわる…
何だよ…ただの風邪なのに…何でこんな風になるんだよ……


「 …… くん ……」
ほぇ…誰かが 呼んでる…?
「堂…本……ん…」
「…ん……?」
「堂本君!大丈夫?」
「へ……!?」

目の前の視界一杯に椎凪さんの顔があった!
もの凄い ドアップで覗き込まれてる??

「…うわぁぁぁ!!!しっ…椎凪さんっ!!??」

横になってた体勢から飛び起きた。
「あれ?」
飛び起きて自分が ベッドに寝てた事に気が付いた。
「ここ…」
「オレん家だよ。憶えてないの?君外で倒れたんだよ。」
「え?倒れた??」
「そう耀くんから連絡あって君 全然目覚まさないから
仕方なくウチにつれて来たって言うわけ。
感謝しろよな!ウチに同僚連れて来るなんて滅多にないんだから。」
「は?え?椎凪さん家…?俺… どうしたんですか?」
「だから熱のせいで倒れたんだよ。ったくヤワな身体しやがって…
最近食事も満足に食べてなかったんじゃないの?
だから余計体力ないんだよ… 今何か消化の良い物つくってあげるからしっかり食べなよ。」
「え?でも…」
「耀くんに感謝しなよね。君が耀くん目の前で倒れるもんだから耀くん心配しちゃって…
本当なら速攻帰って貰う所だけど今日一晩ゆっくり休んで行きな。」
「え…?いや…でも…」
そんな大それた事…今すぐ帰らなきゃ…
「そんな迷惑掛けれません から…俺帰りま…」
言いながらベッドから下り様とした時…何?殺気??
恐る恐るその殺気の送られる方を見ると…椎凪さんがもの凄い眼差しで俺を見てるっっ!!
「えっ?いや…だって…そんな…」
俺は訳がわかんなくて…
いつもの椎凪さんなら2人の邪魔するなってもの凄く怒るだろうに…だから俺は…

「今お前が帰ったら耀くんが余計心配すんだろうがっ!!
耀くんにこれ以上心配させんじゃねーよっ!!
ってか耀くんにこれ以上お前の事心配させるんじゃねー…
何でお前の事耀くんが心配しなきゃなんないんだよ?ああ?
いいからお前は大人しくメシ食って薬飲んで寝てろ!!
いいな?1秒でも早く風邪治せっ!!わかったか?」
「…は…はいっ!!」
もう…これ以上帰るなんて言えませ〜〜ん……
何でこんな事に?

「お前今明らかにガックリきてただろう?ああ?何か?何か文句ある のか?」
「いえっ…そんな…とっても嬉しいですっっ!!」


「美味しい…」
「当然だろう!」

椎凪さんが作ってくれたお粥…
お粥なんて 食べたの何年ぶりだろう?
しかも白の塩味じゃなくて醤油味の卵と野菜が入ってる…
「すいません…何だか迷惑かけちゃったみたいで…」
本当はこんなつもりじゃ なかったのに…
俺が風邪をひくと何故か椎凪さんに迷惑が掛かる…
「…何故かオレはガキンチョの面倒見る運命みたいだから…」
「は?」
「だから気にする なって事。」
「はあ…」
ガチャ…
「椎凪…お水…」
「あ!ありがとう。耀くん。」
「はい。堂本さんこれでクスリ飲んで。」
「あ…ありがとう ございます…スイマセン…迷惑かけちゃって…」
言いながらお水を受け取った…何だか恥ずかしい…
「ううん。あんまり無理しないでね…椎凪の料理食べれば元気 出るから。」
そう言ってニッコリ笑ってくれた。
「ほら耀くんは風邪うつっちゃうから早く出て出て!!堂本君の風邪は性質が悪いんだから!」
「大丈夫だよ…」

そんな2人を見ながらふと目に留まった…
あれ?なんだ?耀さんの胸…なんか膨らんでる??

本当に何も考えず手を伸ばした…
何で耀さんの胸が膨らんでるのか 不思議で…
まさか筋肉なのか?なんて思ったのかもしれない…
もしかして熱のせいだったのか…

「 ぴ と っ !」
ムニッと…柔らかかった…

「 !!!! 」

「 うわぁぁぁぁ!!! 」

「 わあああああああああ!!!」

椎凪さんはビックリした顔して俺と耀さんは2人で叫んだ!


「 堂本ぉぉぉぉっっ!!!お前何やってんだぁぁぁ!!! 」

椎凪さんが耀さんを自分の後ろに引っ張って俺の胸倉を掴んで怒鳴った。
もの凄く怒ってる…でも… でも…

「…む…胸…胸が…ムニッて…ムニッて…」

触った手がブルブル震えてる…触った時の感触がまだ手に残ってる…
「当たり前だろっ!!耀くん 女の子なんだからっ!!」
「…え?女…の子…?」
俺は首を絞められてるのと熱のせいで頭が朦朧としてきた…え?女の子??え?
今の俺には理解不能らしい。
「し…椎凪…やめて…堂本さんオレが女の子だって知らなかったんだから…」
耀くんが堂本君の胸倉を締め付けてるオレの腕を引っ張った。
「そうだけど…耀くんの 胸に触ろうと思った事事態がおかしいだろうがっ!!」
最後は俺に向かっての台詞…
「だっ…なんで…胸膨らんでるか…不思議で…つい…」
フラフラになり ながらやっとの思いで答えた…ヤバイ…食べたばっかで…

「…う…吐く…」
「!!!なにいっぃぃぃ!!バッ…待て!堪えろ!!」
「もー椎凪が乱暴にする からだろう!!」


もうその後は3人でパニック状態…
俺って…どんだけ椎凪さんに迷惑かければ気が済むんだろう…

結局風邪が良くなるまで2日間 も椎凪さん家にお世話になってしまった…
耀さんの事も事情が分かって…
男の子にときめいてたんじゃなかったんだ…と分かって何となくホッとした自分がいた。

でもその後も椎凪さんに近付かれたり…
触られたりするとドキッとしてしまうのナゼなんだろう…