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「え?うそ?」

寝起きのベッドの中…
オレは上半身だけ起き上がって正面に座ってる耀くんを見てる…
洋服を肩までずらして素肌を見せる耀くんを…

「本当だよ。みんな椎凪がやったんだよ。」

そう強めな物言いでオレを見つめる耀くんの身体には…
信じられない程のキスマークと…歯型がついていた…
その歯の跡が何とも痛々しい…
くっきりと付いてる所を見ると結構な力で噛んだに違いない…オレが… 

「うわ…歯型いっぱいついてる…痛そう…」
そっとその跡に指先で軽く触れた。
「身体中にキスマークと噛み付いた跡があるんだからね…憶えてないの?」
耀くんが疑うような眼差しでオレを見つめながらそう 聞いた。
「う…ん…ごめん…」
正直に答えた…ウソなんてつけない…
「オレ…他に何かした?」
聞くのも怖かったけど恐る恐る聞いた…どうか何もしてない でくれ…オレ…

「玄関でオレの事押し倒してパジャマ破いた。ほら!」

破かれたパジャマをオレの目の前にズイッっと出された…
しかも何個かボタンが 取れてて残ってるボタンは引き千切れかけてる…

 ……… 何やってんだよ……オレ………

「それにベルトでオレの事縛ってさ。」
そう言って微かに 赤くなってる手首をオレに見せる。
「……………」
穴があったら入りたい…いや…無くても自分で掘って入る…
オレはもうベッドにめり込むほど沈んだ。
「本当に憶えてないの?」
そんなオレを見て耀くんが更に念を押す。
「…………コク…」
無言で頷くしかないオレ…もう顔面は真っ青だったろう…



……昨夜……

「ガチャ!………どさっ!!」

玄関のドアが閉まる音がして倒れこむ音がしたから気になって
様子を見に行ったら椎凪が玄関の床に座り 込んでた。

「どうしたの椎凪?大丈夫?」
「………うーー……ただいまぁよーくん 」
「うわっ!お酒くさっ!!」
顔を真っ赤にしてニコニコ笑ってる 椎凪からはお酒の匂いがプンプンしてる。
「どうしたの?飲んでこんなになるなんて珍しいじゃん…」
「んー…チョットねーー…はは…」
何が可笑しくて笑って るんだか…
「とにかく靴脱いで。立てる?」
「んーーーよーーーくーーん…」
言いながらオレにしがみ付いてくる。
「よーじゃないよ。”耀”だろ?」
「愛してるよーーーー」
「オレもだよ。ほら椎凪…」
椎凪を立たせようとしたけどビクともしない…まったくもー…
そんな椎凪がギュッとオレのパジャマの前を 鷲掴んだ。
「わっ!え?なに??」
ぶちっと勢い良く前のボタンが弾け飛んだ。
「ここで愛し合おーよ…ここでしたい…」
真っ赤な顔のトロンとした瞳で 椎凪がオレを見上げながらそんな事を言い出した。
「え?ここで?もー何言ってんのさ!!ここ玄関だよ!酔っ払ってるんだから…
とにかく靴脱いで上がって…」
「やだっ!!」
椎凪が子供みたいに大きな声でそう叫んだ。
「え?」
「ここでするっ!!」
ガバッっと勢い良く立ち上がると素早くシャツを脱ぎ始めた。
「え?ちょっと…椎凪…」
オレはビックリで…わけがわかんなくって…
立ち上がってシャツを脱ぎ始めた椎凪をただ見上げてた。
「え?あっ…ちょっ…やだ… やだってば…椎凪!!」
乱暴に椎凪がオレのパジャマを脱がし始めた。
酔ってるせいか上手くボタンを外せないとじれったいと言う様に
今度はパジャマを破き始めた。
「あ…やっ…」
あっという間にパジャマが脱がされる…
椎凪に力づくで来られたらオレなんて勝てるはずが無い。
両手を後ろに掴まれてそのまま廊下にうつ 伏せに押さえられた。
それにカチャカチャと音がする…何かと思って顔だけ椎凪に向けると…
片手で一生懸命自分のベルトを外してた。
「え?椎凪?」
外したベルトで両手を縛られた。
「もー椎凪!!何すんだよっ!!!」
「だってよーくんが言う事聞いてくれないんだもん。」
ヨロめきながら 赤い顔の椎凪がトロンとした目でそう言った。
「 ム カ ッ !!」
廊下にうつ伏せにされたままそんな椎凪を見て頭にきた!!

「もーーー椎凪のばかっ!!! 絶対しないからっっ!!
椎凪なんかと絶対しないっ!!来るなぁーーーーっっ!!」

オレは自由になる足で椎凪の顔を押し戻した。
グイグイと!!
「いでででででで………」
椎凪が顔だけ後ろに仰け反る。
「あっ!!」
そんなオレの足をヒョイとどかして椎凪がオレの足の間にスルリと入った。
「あっ!やだ…椎凪!!」
もうそんなオレの声なんか聞えやしない…
って言うか最初からオレの言う事なんか聞いちゃいないんだ!!
「…うあっ!!いっ……たぃ …んっ!!」
椎凪が何の躊躇も無く最初っから思いっきりオレを押し上げた…
だから…すごく痛くて…
「椎…凪…やめ…やだよ…こんなのやだっ!!」
「なんで?よーくんオレの事キライ?」
呂律のまわらない口でそう聞きながら思いっきりオレを何度も何度も押し上げる。
廊下の床が冷たくて…硬くて…椎凪が 乱暴で…こんなの…イヤだ!!
「今の椎凪はキライだっ!!あっ!…もー椎凪のばかぁっっ!!」
「キライだなんて言わないでよ…よーくん…ぐずっ…」
そんな気弱な台詞を言いながら身体はオレの上で動き続けてる…
だんだんオレもそんな椎凪につられて…
「あっ…あっ…や…だ…んっ…」

痛いからじゃない声が… 廊下に響き始める…



「…………」
…うそ…そんな…オレまったく記憶に無いんだけど…

椎凪が引き攣った顔でオレの話を聞いてる…
「その後全部の部屋でするって言ってオレの事肩に担いで廻ってさ…
キッチン…リビング…洗面所…お風呂…最後に寝室でさ…」

もうオレの話しに椎凪は 心此処に在らずで…放心状態に近い。

「本当ーーーに憶えてないの?オレすごく攻められ捲くったんだけど…」
椎凪がベッドに両手を付いてガクッと項垂れて オレの問い掛けに頷いた。

「 椎凪のばかぁぁぁぁ!!! 」

ド コ ッ !!

オレは言いながら椎凪の胸に足蹴りを叩き込んだ!!

「当分椎凪とはしないからねっ!!憶えてないなんてヒドイよっっ!!」

そう耀くんがオレに向かって叫ぶと寝室から出て行った。
オレは胸を押さえたまま 動けなかった…
オレの身体に何トンものおもりが乗っかった様に身体が重い…
オレ…なんて事したんだ…でも本当に記憶が無い…
耀くんがウソつくはずないし耀くんの 身体を見ると本当なんだ…

大体何でオレ飲んで帰ったんだ?
ルイさん達と飲んだんだっけ?ヤバイ…その辺も記憶無いぞ???

……… ってそんな事 よりどうやって耀くんに許してもらえばいいんだーーーーっっ!
絶対嫌われちゃったよっっ!!オレっっl!!!どーすんの??オレ???

オレはベッドの上で 1人のた打ち廻っていたっっ!!



キッチンの冷蔵庫のドアに背中がぶつかった。
椎凪がオレを乱暴に肩から下ろしたから…
「あっ!!…んっ!」
片足を抱え上げられて下から思いっきり押し上げられる…
「う……あっ…」
次はリビングのソファだった…
もうオレは息が乱れて…声も出ない…
「…はぁ… はぁ…ん…椎…凪…」
「んー…よーくん」
「…いっ…た…」
言いながら椎凪がオレの肩をガブリと噛んだ…
「好きなんだ…よーくん…愛してる…」
「い…たい…椎凪…」
椎凪はオレを噛む事を止めない…
反対の肩を噛んで腕を噛んで…どんどん下に下がっていく…
「…んっ…」
胸も噛まれた…
「愛してるんだ…好きだよ…よーくん 」
椎凪は寝言みたいにそんな言葉を繰り返す…
「 ちゅっ…ちゅっ…ちゅーーー」
今度はキスマークをつけ始めた らしい…身体のあちこちでチクリと痛みが走る…
酔ってるから加減出来ないらしい…
…もう好きにして…オレは諦めて目を瞑って…椎凪のされるがままに任せる ことにした…
「好きだよ…よーくん…初めて会った時から…ずっと…」
椎凪がオレに優しくキスをしながらそう囁く…

ズルイな…椎凪…
ずっと そんな事言われたら…全部許したくなっちゃうよ…
こんなに強引に…乱暴に抱かれても…オレの事が好きだから…思いっきりしたいんだ…

リビングのソファの 次は洗面所だった…
そこで椎凪にベルトを外してもらって2人でシャワーを浴びながら浴室でも愛し合った…

『……椎凪…そんなにオレの事抱きたいの?』
『うん…ずっと抱いてたい…』
『オレの事好き?』
『うん。好きだし愛してる…』
そんな言葉のやり取りを繰り返してた…

最後は寝室のベッドの中で 愛し合った…
『よーくん』
『椎凪…』
唇が触れるだけの軽いキスを繰り返す。
『よーーくん…よー…』
オレの名前を呼びながら椎凪から力が抜けて オレの上にクッタリとして動かなくなった。
ちょっと動くと椎凪がコテンとオレの身体から落ちた。

「ホッ…やっと寝た…」
オレはそっと椎凪から離れた。
「うわっ…すご…」
自分の身体を改めてマジマジと見ると…何とも凄い事になってた。
身体中キスマークと歯型だらけ…この分じゃきっと背中も凄い事になって るんじゃないかな…
「もー椎凪は…」
「…ん…」
寝返りをうって仰向けになった椎凪は気持ち良さそうに寝息を立てて眠ってる…
「明日今日の事憶えて るのかな…椎凪…怪しいんだよな…」
椎凪の寝顔をじっと見つめながらそう思った。

…ちょっと脅してみようかな…
あんなに強引に乱暴にしたんだから 少しは反省してもらわなきゃね……ふふ…


リビングを覗くと耀くんがソファに座ってる…でもその顔はどう見ても怒ってる顔だ…
耀くんの周りには 『怒ってますオーラ』が渦巻いてるのが見える…
オレは怖くてリビングには入れずにずっと入り口で隠れながら耀くんの様子を見ていた…
もう心臓はドキドキ しっぱなし…
でも…頑張れオレ!!26歳だろ?大人の男だろ?行け!行くんだ!!オレ!!

そんな心の叫びも虚しくまったくその場から動けず…ただ時間だけが 過ぎる…

でも…そーだよな…怒るの当たり前だよな…
無理矢理抱きまくって憶えてないなんてさ…
どうしよう…別れるなんて言われたら… オレが悪いんだけど…そんなのイヤだ…
どーしよう…どうしたら許してくれるかな…

オレは眩暈がしてズルズルと壁にすがり付きながらその場にへたり込んで しまった…
情けないけど…

「そんな所で何してんの椎凪?」
「 ビ ク ン !! 」
見上げると耀くんが怒った顔で オレを見下ろしてた…

椎凪がリビングの入り口でへたり込んで座ってた。
何となく気が付いてはいたけど…案の定見上げた椎凪は瞳に一杯涙を溜めて
それが オレを見上げた途端ポロポロと零れた。

「ご…ごめん…ね耀…くん…許…して…オレの事…キライにならない…で…
オレ…もう…ヒドイ事…しないから…もう…お酒…飲まない…から…ひっく…」

しゃくり上げながら椎凪が一所懸命オレに謝る。
「反省してる?」
オレは 椎凪に顔を近付けてそう聞いた。

「う…ん…オレすっごく…反省…してる…ぐずっ…だから…許して…
オレの事…キライに… ならないで…
別れるなんて言わないでよーーーーーっっ!!」

最後の叫びは意味が分からなかったけど…もういいか…十分反省してるみたいだし。

「もう二度とあんな事しない?」
「うん!!しないっ!!約束するっっ!!」
そう言って屈んでるオレの首に椎凪がしがみ付いてきた。
「約束だよ椎凪。」
「うん。絶対守る!」
約束しながらオレにキスをする何度も何度も…
「これで赤ちゃん出来たら椎凪のせいだ。」
「ごめんね…でも出来ちゃってもいいもん!」
2人でそんな事を言いながらずっと軽いキスを繰り返す。
「2人に勝てるの?」
「…うっ!!」
椎凪が思いっきり身体をビクリとさせた。
それが返事だ… やっぱ勝てる自信無いんだ…椎凪…

「オレの事キライじゃない?」
「うん」
「オレの事怒ってない?」
「怒ってないよ。」
「本当?」
「本当。」

だって椎凪ってばオレを抱いてる間中ずっとオレの事『愛してる』って『好きだよ』って
『初めて会った時からずっと好きだ』って
何度も何度も 繰り返すんだもん…そんなの聞いたら怒れないじゃん。
本当は全然怒ってなんかないんだ…
でも強引だったのは確かだから少しは反省してもらわなきゃね。
作戦成功!ちょっと効き過ぎたくらい…

オレってやっぱり椎凪に甘いのかな…

なんて未だに目に涙を溜めながらホッとした顔で オレを見上げてる
椎凪を見ながらそんな事を思ってしまった。