04





あれから3日後携帯に彼から連絡が入った。

『洸ですけど…身体どう?』
「至って元気よ。」
『良かった…で…あっちは?』
「あのねあれから3日でわかるわけないでしょ!って言うか出来てないから大丈夫だって。」
『そうかもしれないけど…心配でさ…』
「心配しなくて大丈夫だから。じゃあ切るわよ!」
『また電話するから。』

「…………」

もうしなくていいって言いたかったけどアイツが一生懸命なのと
もう少しアイツと繋がっててもいいかな…なんて思って黙って電話を切った。



「なに?新しい男?」
「違う。年下の可愛い僕ちゃん。」
「何それ?」
「ちょっとしたきっかけで知り合ったんだけど真面目な子でさ。」
「へー」
「新鮮だからちょっと付き合ってもらってるんだ。」
「あんたが?」
「そう。やっぱ年上のお姉さんより年下の可愛い娘の方がいいでしょ?
だから話しの分かるお姉さんって事で電話だけね。」
「フーン…楽しい?」
「今時珍しいタイプでさ…変に捻てなくて…話してて楽しいわよ。」

そう…本当はあたしの方がこの繋がりを切りたくないのかも…
でもほんのちょっとの間だけ…直ぐにサヨナラするつもりだもの……

恋人はいらない…だから…悪いけどもう少し独身女の癒しの相手…付き合ってね!洸クン!



「あれ!」

「あ!」

「深雪さん!」

同僚の女の子達と飲みに入った居酒屋に何でだかあの子がいた!

「………」

参った……

「どうして?」
それはこっちが聞きたい。
「そっちは?」
「ああ…オレは職場の男性陣と合コン…メンバー足りないって引っ張り出されちゃって…」

照れ臭そうに笑って頭まで掻いてる…そんな仕草が演技なんかじゃなくて素朴でいいのよねぇ…

「どなたですかぁ?海藤さぁん。」

「!!!」

しまった!コイツがいたんだ!!
緑川里奈22歳。今年入社の我社のアイドル的な存在!
見た目可愛く話し方もおっとりの舌っ足らずでいつもニコニコお嬢様タイプ!
実際結構なお金持ちらしいけど…
そんな彼女が静かにニッコリ笑いかければ落ちない男はいない…
案の定ほとんどの男性社員が彼女の術中に嵌まってる!

そんな彼女に彼を会わせるわけには!!ってもう目の前にいるから無理か…

「えっと…」

あ!でもなんて紹介すれば?
まさか酔った勢いで一夜を共にした相手です。とは言えないし…

「オレ如月洸22歳深雪さんの婚約者です!」

「!!!」 「ええっっ!!」

「!!……は!?…」

あたしが一番驚いた!!

「ちょっと深雪!どう言う事!!」
社内で一番仲の良い同期の桂子があたしを睨んで叫んだ。



「お!」

彼の首根っこ掴んで表に引きずり出す!

「ちょっと!どう言うつもりよっ!婚約者って?」

「だって深雪さんが妊娠してたら結婚するんだからそうでしょ?」

「だ・か・ら・っっ!妊娠なんてしないって言ってるでしょ!!…ハッ!!」

道端でそんなセリフを叫んで慌てて自分の口を押さえた。
行き交う人がこっち見てる!

「だってまだわからないじゃん。」
「わ…わかるわよ!自分の身体だし女だし…それに…ゴニョゴニョ……」
流石にそれは恥ずかしいから彼の耳元に囁いた。
妊娠してない証拠があったって…

「…!!そっか………」
「そこまで言わせないでよね!まったく…」

あたしは流石に顔真っ赤で彼から視線を外してちょっとだけ口を尖らせた…

「何よ…もっと喜びなさいよ。良かったじゃない責任とって結婚しなくていいんだから!」
「……え?ああ…そうだね…」
何逆に落ち込んでんのよ?
「だからもう電話掛けて来ないでね。」
「え?」

「だってもう必要無いでしょ?」

本当ならもう少し付き合ってもらうはずが…こんな状況じゃ仕方ないか……
ちょっと残念な気もするけど引き際も肝心だし…なんて自分を納得させる。

「……もしかして深雪さんオレの事迷惑だった?」

「え?」

彼からの意外な返事にちょっとビックリ!?

「いつも言われるんだよね…オレ真面目で窮屈だって…」
「………」

「オレはただ真剣なだけなんだけど…特に深雪さんは…酔ってたオレを介抱してくれたのに…
そんな深雪さんを無理矢理…!!」

「ちょっ…ちょっと…」

通行人がチラチラと見て行く…黙れ!!話す場所考えてよっっ!

「迷惑なんかじゃないけどもうあたしとの事は忘れてって言ってるの。
なにもかも丸く収まったんだからいいじゃない…さっさとちゃんとした恋人作りなさいよ。ね?」

年上の物言いで言いくるめる…言う事聞きなさいよ!

「その事なんだけど ♪」
「…何よ?」
急に彼の顔が明るくなった 。
「深雪さん今誰とも付き合って無いんだろ?」
「そうだけど?」

「 じゃあオレ深雪さんの恋人に正式に立候補しまぁーすっ!! 」

「はあ!?」

「いい?」
にっこり笑顔で覗き込まれた。
「ちょっと…何で?あたしあんたより年上だし…お互いの事良く知らないし…」
「オレさ…」
「!?」
「はっきり言ってあの時の記憶まったく無いんだよね。」
「でしょうね…あんだけ酔ってれば…」

「なのに凄く快かったって身体が覚えてる…」

「!!!」

真っすぐ見つめられた!!

「きっとオレと深雪さんの身体の相性バッチリなんだよ!」
「は?」
「だからきっと上手くいくと思うんだよね!」
「……呆れた…」
「え?」

「それってただ単にあたしとしたいってだけじゃない!最低!」

「違う!相性が良いって言ってんの!誰も深雪さんの身体目当てなんて言って無いし…」

「同じ事でしょ!?何よ?彼氏いないいい年した独身女からかう気?」
「からかうわけ無いだろ!結婚まで考えた相手なのに!」
「成り行きで仕方無くでしょ?」
「成り行きだけどこれも1つの出会いだろ!」

「…………」

言い返す言葉が見付からない……

「何も言い返せないだろ?」

勝ち誇った様な顔しちゃって…

「ムカっ!生意気な…!!」
「ホントはさ徐々に深雪さんに近付くつもりだったんだ。まずは電話からって…
毎日掛けたいの我慢して…やっとこの前掛けたのにあっさり切られちゃったから。
どうしようかと思ってたんだけど…良かった!今夜会えて。」

ニッコリとまた微笑まれた!もう……

「これも運命だって!ね!いい?」
「……いいわよ…」
軽いノリで返事をした。
「本当?」
「どうせすぐ飽きるんだから。」
「え?何で?」

「すぐに年下の可愛い女の子が良くなるのよ!だからそれまでの間の繋ぎで付き合ってあげる。」

「え!?」
「嫌ならやめる?」
「………深雪さん…」
「何よ…」

「昔何かあったの?」

「!!!なっ…何でよ!?」

「なんか言葉の端々に滲み出てる。」
「カチン!!余計なお世話よっっ!!」
思わずムキになっちゃった…
「やっぱり図星?」
「………」
ホント生意気っっ!!大人しそうな顔して……

「なら尚更オレと付き合おう。」
「何でよ?」

「オレと一緒にいると癒されるんだって!」

「何?元カノにでも言われたの?」

「職場のパートのオバサン達に…」

「!!……ぶっ!!」

思わず噴出した…女の子ならまだしもパートのオバサンだなんて…
きっと自分の息子代わりに可愛がられてんの?

「あ!笑う事無いじゃん。これでも職場のアイドルなんだからさ。」
「ごめん…ごめん…」
って…職場のアイドルって…笑える…
「じゃあ…OKしてくれるんでしょ?」
「……本当にあたしなんかでいいの?」
「なんで?」
「酔ってる何処の誰ともわからない男と平気で寝るような女なのよ?」
「それはオレが強引にしたからで…」
「でも嫌がらなかった…いいの?そんな軽い女…しかも年上で…」

「深雪さんと付き合いたい!」

「………じゃあその真面目さに免じて……付き合ってあげる。」

「やったっっ!!!!ありがとう。深雪さん!!」

そう言ってブンブンとあたしの手を握って上下に振った。
ちょっと……


「…話…まとまったの?」

お店の入り口から桂子と数人の人影がこっちを見てニヤケてた。

「 「  ビクッ!!!! 」 」

2人で心臓が飛び出るくらい驚いた!!

そうだ…此処…お店の前でお互い連れがいたんだった…今更気が付いた。