08
「え?あの年下坊やのお兄さんがあんたが前付き合ってた男だったぁーーー?!」
「正確には彼のお姉さんの旦那。」
「義理のお兄さんって事か?いや…それにしても何て偶然!怖いわぁ〜〜〜」
「…………人事だと思って……」
あの後桂子の所に転がり込んだ。
自分の家には帰る気がしないのと帰れないから…
「で?彼は?」
「携帯の電源切ってるから…」
「何で?」
「何でって…一体何話せばいいのよ!」
「別に昔付き合ってましたで良いじゃない?」
「だってあたし和裕とどんな事してたか洸クンに話しちゃってるのよ!
自分の義理のお兄さんと身体の関係持ってる彼女なんて嫌に決まってるじゃない!」
「……何でそんな話するかな?」
「だって…お互いのそう言う話になっちゃって…
それにまさか彼の義理のお兄さんが和裕だなんて思わないじゃない!!」
「そりゃそうだ。……まったくついてないねぇ…どんな偶然なんだか…
せっかく上手くいってたのにね…」
「………ねぇ…桂子…」
「ん?」
「しばらく泊めて。」
「え?何で?」
「だってきっと彼あたしんチ来るもの。」
「……何で?会いたくないの?」
「会いたくないんじゃなくて会えないの…」
会えるわけないじゃない…
「いいけど…話し合わなくていいの?」
「……そりゃ…話はしなきゃって思うけど…今は無理…」
「あんたって気の強い所あるくせにそう言う所は案外臆病だね。」
「…だって…」
「だって?」
「こんな事…初めてなんだもんっっ!!」
そう…今までの恋愛経験で初めて経験した…
今会ってもきっとぎこちなくて…これからはいつも気を使って会う事になるのかな…
「……深雪さん…」
携帯も繋がらない…メールも返事が来ない…部屋にも戻って来ない…
「何で急にそんなにオレを避けるんだ…」
確かに驚いた…どんな偶然なんだって…前付き合ってた人を時々思い出すって言ってたけど…
でも今は…オレを想い出すって言ってたじゃないか…
それってオレの事の方が深雪さんにとって大事になったって事だろう…
違う……?深雪さん…
「?何してんの?深雪?」
「え?」
次の日の夕方…あたしは会社のロビーで外の様子を伺ってる…
「もう観念して話し合いなって。」
「………」
「何で?別れるから?」
「!!!」
「彼と話したら別れなきゃいけなくなるから会わないの?」
「…!別にそう言うわけじゃ…」
「あんたは別れる気無いんならいいじゃない!大丈夫でしょ?」
「そりゃ…そうなればいいけどさ…」
本当に何事も無かったみたいにやっていけるのかな…
「うわ!」
久々に携帯の電源を入れてメールを確認したら洸クンから何通ものメールが届いてた…
ほとんどが会いたいって…会って話がしたいって…
「洸クン…」
でも最後のメールには新しい会社の新人研修があるから3日間留守にするって……
「そう…だよね…いつまでこのままって訳には……いかないもんね…」
あたしは携帯を閉じて…そんな事を呟いた……
「お疲れ様。」
「深雪さん…」
研修が終わった日…彼に連絡して駅まで迎えに行った。
「やっと会えた…」
「………」
彼はいつもの様にニッコリ笑う…あたしは苦笑いにも似た笑顔を見せて俯いちゃった…
「深雪さん…」
駅から近い公園で話す事にした…お店とかお互いの家は避けたかったから…
夕方と言う時間はとっくに過ぎてもう公園には誰もいない…
「驚いちゃったね…お互いに…まさか和裕が洸クンの義兄さんだったなんて…」
「……義兄さんがオレの姉さんと結婚したのは1年とちょっと前かな…
2人とも子供頃からの幼なじみでさ…でも姉さん子供の頃から喘息が酷くて…
中学の時姉さんだけ空気のいい田舎に行っちゃったんだ…
今はもうほとんど発作も出ないんだけどね…」
「じゃあ…和裕が好きだった人って洸クンのお姉さんだったんだ…」
なんだ…幼なじみだったんだ…それじゃ勝ち目無かったの仕方ないか…
「仕事の関係もあったんだけど2年前にこっちに戻って来た…」
「……2年前…」
洸クンがすまなそうに…辛そうな顔で話す…
そう…これからも付き合っていけばこんな辛そうな洸クンを何度も見る事になる……
「やっぱり…無理だよ…」
「え?」
「元カレが悪すぎ…」
「深雪さん…」
「あたし洸クンのそんな顔見たくないから…」
「深雪さん…」
「罰が当たったんだよ…」
「?」
「洸クンには黙ってたけど…あたし和裕と別れた後身体だけの関係の相手がいたの!
あの日…初めて洸クンに会った日もその彼と会った帰りだったのよ!」
「!!」
「そんないい加減な付き合い続けてたから……
だからあたしは洸クンと付き合う資格なんか無いのよ!!」
「え?ちょっとなんか話がズレてない?」
「と…とにかくもうダメなのっっ!!!さよならっっ!!!」
「深雪さん!!」
夜の公園を走った…走って…走って…とにかく走って…
「きゃっ!!」
走ってる所を後からタックルされて横の茂みに倒れ込んだ。
「いった…ちょっと洸クンやり過ぎ…」
冗談でしょ?いくら何でもこんな事までする?
走ってるのを止めるのにタックルって…か弱い女性にするかな…普通!?
「ちょっと重…」
あたしに覆いかぶさったままどこうとしないから…
「はあ…はあ…」
「………え?」
身体を捻って振り向いたあたしの目の前にいたのは…
真っ黒な目出し帽を被ったどう見ても怪しい男!!!洸クンじゃない!!