01









「お疲れ様。大丈夫?帰り…途中まで送ろうか?」
職場の社長さんが気を使ってそう言ってくれた。
社長と言っても大学の先輩でオレが大学に通ってた時から
ここの 仕事を手伝ってたからもう付き合いも長い。
オレの事も理解してくれてるし…だからそう言ってくれたんだと思う。
「大丈夫です。まだ早いし…」
オレはそう 答えるとオフィスのドアを開けた。

時間は8時ちょっと前…まだ人通りも多いから大丈夫だろう。
ふと目が留まって立ち止まった。
「アイスか…食べて行こう かな…」
若い子達が集まってる…まぁオレもまだ若い方だと思うけど…
あのノリにはついていけないから…外に置かれたイスに座って食べる事にした。
端っこで… 誰にも気付かれ無い様に…誰にも見付からない様に…

アイスを食べる口がいつの間にか止まって…ボーッとしてた…
…なんだか疲れちゃったな…心の中で呟いた。
オレ…これから先どうやって 生きて行くんだろうな…そう思うと胸の奥が重くなった…
祐輔も慎二さんもちゃんと自分の生活持ってる…オレは…
そんな事を考えてたらアイスが溶けてきた… ヤバイ早く食べなきゃ。
そう思って顔を上げた瞬間店の前にいた男の人と目が合った。

街で声を掛けた娘のベッドのお相手を1時間程しての帰り道…
今まで何人の女の子の相手したんだろう…
なのにいつまでたっても胸の穴は塞がらない…
オレの求めてるものは一体いつ手に入れる事が出来るのか…
何だか一生 無理の様な気がして思わず深いため息が出た。
キャアキャアと女の子の声が響いた。
見ればアイスクリームのお店…女子高生のグループがアイスを頬張りながらは しゃいでた。
オレにしてみれば喧しいの一言…ガキは煩い。
視線を逸らしかけて止まった…何だ?今なにか…?
視線を戻した先に…女の子が一人…お店の端っこで 唯一点を見つめて座ってた。
目線はアイスじゃない…ボーっと放心状態だ…暫く眺めてしまった。
結構長い時間その子は動かなかった…
目明けてるから寝てるわけ じゃないとは思うが…どうしたんだ?
そう思った瞬間彼女がハッ!っと気が付いて溶け掛かったアイスを食べ始めた。

─── …お互い目が合った… ───

オレはそのまま視線を外さずにその子の傍に歩いて行った。
理由なんか無い…身体が勝手に動いたから。

顔を上げた途端に男の人と目が合った!しかもその ままオレを見つめて近付いてくる…
マズイ…これって…声掛けられる…逃げなきゃ…ってアイスがまだ途中だった…
どうしよう…?仕方ないけど歩きながら食べる事に した。
掴まるよりはマシだ…オレは早々に席を立って歩き出した。
もの凄い早歩きで歩いた…もう少しで駆け出すくらいに…
それくらいオレは知らない男の人が 苦手だ…
話掛けられたりしたら叫ぶか動けなくなるかどっちかだ…
だからさっさとそう言う所から逃げ出さなきゃ…
もう大丈夫かな?結構歩いたし…そう思った 途端…
ガ シ ッ !!
「……ひ っ !! 」
突然腕を掴まれた!
「 ぎゃああああっ!! 」
叫んだ拍子に両手を上げたらアイスのコーンから 上だけがボテッと道路に落ちた。
「ああーーっっ!!オレのアイスがっっ!!」
「え?オレ?」

「はい。どうぞ。」
「あ…ありがと…」
さっきいたアイスクリームのお店…結局戻って来てしまった。
この人が落としたアイス弁償してくれるって言うから…
オレはいいって断ったのに…半ば強引に連れて 来られた。
「ホントごめんね。まさかあんなに驚くとは思わなくてさ…」
「……オレが…変なんだから気にしないで…」
なんでこんな事になってるんだろう… 知らない男の人と向かい合って座ってるなんて…
「君が可愛くて思わず追いかけちゃいました。でもまさか男の子なんてね。いやぁ…ビックリ。」
ニッコリ笑いなが らふざけた様に言う。
「ごちそうさま。じゃあ…これで…」
普段より倍速でアイスを食べた…早くこの場から立ち去りたいから。
「ホント悪かったね。じゃあ 気をつけてね。」

遠ざかる彼の背中をじっと見送ってた…
なんであんなに追いかけたのか…しかも男の子だって…まいったね…
男の子…男の子…か…なんだ… そっか…
オレは心の中でそう呟くと彼とは反対の方向に歩き出した。

偶然っていうのは何処までなんだろうか?

もう彼とバッタリ出会うのは4度目だ…
しかも毎回違う 場所で会うなんてこれって一体何なんだろう?
1度目は自分の住んでる所じゃ無い駅でバッタリ会った。
お互い目を合わせただけだった…2度目は街の中…
3度目はとあるデパートの食料品売り場…4度目はコーヒー豆の専門店…
どう言う事だ?何でこんなに偶然に会うんだ?
生活範囲がダブってんのか?誰か教えて くれっっ!!

何で?なんでこんなにあの人に会うの?オレの事つけてるの?
そんなはず無いよね?ホント偶然みたいだし…
だからってオレに声を掛けてくる わけじゃ無いし…
いいよね…このまま放っておいても…オレには関係ないもん…

最初に会ってから3週間…今日今まさに5度目の偶然がオレ達に起こった。
しかも今度はオレの住んでるマンションに近いときた…何?オレンちの近所?
流石にお互い見詰め合ってしまった…
ヤバイ…これじゃ心に決めてた事…実行しなくちゃ いけない…
もうこれは偶然なんかじゃない…必然でその為にオレ達は出会ってる…

「こんばんは。」
オレから声を掛けた。
「こ…こんばんは…」
「良く会うね?この近くなの?」
「ううん…会社がこの近くで…今日はこっちで食事会があって…」
「そう…じゃあ今帰りなんだ…明日休みなの?」
「うん… だから少しくらい遅くなってもいいだろうって…あなたは…仕事?」
だよな…金曜だもんな…
「そう…でもオレも明日は休み…」
これまた偶然だね…いや… これも必然か?
「そうなんだ…じゃあ…オレ…もう行くね…また何処かで会うかもね…」
「決めてたんだ。」
突然話し掛けたオレにビックリした様に振り向いた。
「え?」
「次に会ったらそれは偶然じゃないって…」
「?」
突然話し始めたオレをキョトンとした顔で見つめてる。
「最初会った時は女の子だと思った… でも男の子だって聞いて諦めた。
だけどもしまた次に君に会えたら男でも構わないって決めてた。」
「え?何の事?」
何言ってるんだろ?この人…
ガ シ ッ !! 
「 !! 」
突然腕を掴まれた。
「 え?何? 」
そのまま引っ張られて連れていかれる!
「ちょっと…離して…やだっ!」
オレの抵抗なんて皆無に等しい…オレなんかよりずっと背が高くて力も強い…
「あ!」
結局担ぎ上げられて近くのマンションの一室に連れていかれた。
「わっ!」
オレはベッドの上に放り出された。
オレはパニックで動けなくて…身体も震えてる…
「本当はあの店で初めて会った時抱きたかった…でも男だから諦めた。
何度も偶然出会って4度目に出会った時…次に会ったらその時は…
男でも抱こうって決めてた。」
そう言ってオレに腕を伸ばしてきた。
「あ…や…」
逃げなきゃ… 逃げなくちゃ…でも恐くて…動けないよ…
祐輔…助けて…祐輔!!
「あ!」
シャツの前が引きちぎられる…
抵抗しようと動かした両腕はあっさりと頭の上で 押さえ込まれた。
中に着てたTシャツを乱暴に捲り上げられる。
「あ!や…」
オレは顔を背けた…
「なっ…?」
彼の驚いた声が聞こえた。
「お前… 女?」
サラシを巻いたオレの胸を見て彼が困惑気味に呟いた。
「違…う…」
「は?」
「オレは…男だ…」
「嘘つくなっ!どう見たって女だろ?」
サラシ の下にはしっかりとした膨らみがある…
「違う!オレは男だっ!離してっ!!離せっ!!」
やっと声が出た。
「説明しろ!何で男だって言い張る?」
「言わない…」
「ああ?」
思わず眉が寄った。
「あんたなんかに絶対言わないっ!!」
オレの方を見もせずに叫ぶ様に言う。
「いいから話せ!」
「ヤダ!!あなたには関係ないっ!!」
「いいから……話してみろよ…聞いてやるから…」

オレの腕を押さえる力は緩めないままさっきより優しい声で彼がそう言った…

「…………オレは…罰を受けるんだ…」
オレを見つめてポツリと話し始めた。
「罰?」
「そう…母さんを…死に追いやった罰…
だから…男なのに女の体で 生きていかなきゃいけない。」
「………」
「わかってくれなくてもいいよ…あなたに分ってもらおうなんて思わないから…」
そう言って横を向いた。

暫く頭の中が混乱してた…
妄想を言ってるとは思えないしきっとこの子にとってはそれが真実なのか…?
それとも何か他に理由があるのか?オレから背ける顔を ジッと見つめてそう思った。

「死に追いやったって…亡くなったのか?」
「オレの…目の前で…自殺した…飛び降りて…」
「 ! 」
「もういいだろ? そんな事知ったって仕方ないじゃないかっ!離して!お願い…」
そう訴える瞳には困惑と恐怖と怒りが一緒くたになってて…オレを睨んでる…

あの時…一瞬で目を 惹いた…
あんなに人がいたのに…この子の周りだけ静かで…別の世界だった…
身体が何かを感じて…無意識に追いかけてた…
それは…オレの真実…オレはそれを 信じる…

「……んっ……あ…やめ…」
離してと訴える答えの代わりにキスをした。
離す気なんか無い…こんなの初めてだった…
無理矢理なんて今まで したこと無い。
誘って…相手にその気がなければそのまま別れる…いつもそうだった…なのに…
「……あっ…あっ…ハァ…」
両手は…サラシで身体の前で縛られた…
縛られたその手は相手の首に廻されて…
オレが引き寄せてるみたいになってる…何度も何度も…思いっきり押し上げられる…
痛いし…苦しい…やだ…こんなの…やだ… どうして…?

「お願い…もう…やめ…て…おねがい…」
彼の目を見つめてそう言った…見つめた瞳がとても近い…
「 ! 」
彼の手が伸びてオレの 目元を擦る…
いつの間にか溢れたオレの涙を指ですくった…
「悪い…それ無理…諦めて…」
ペロリとその指を舐めた…
「………そ…んな…」
「なるべく優しく抱いてあげたいけど…それも無理みたい…ホント悪い。」
「どうして…?オレにこんな事…」
震える声で聞いた…
「どうして?オレが聞きたい よ…」
「え…?」
言いながらオレの顎に指をかけて持ち上げた。
「どうしてオレをこんな気持ちにさせる?」
「 ! 」

オレに尋ねるみたいに 彼の舌がオレの舌を絡めていく…

何時間経ったんだ…さっきからずっと攻め続けてる…
抵抗も無くなってから随分経つ…今はオレのされるがままだ…
後ろから攻めて… オレの膝に座らせて攻めて…今はオレの下で攻めてる…
その顔は…もう苦痛を耐えてる顔じゃない…ほんのり頬が昂揚して息も弾んでる…
でも…何でオレは初めての 子に加減もしないで…攻め続けてるんだ?
自分でも分からない…この子がそうさせるのか?

もう…どのくらい続いてるんだろう…
身体ももう動かない…痛さ じゃない感覚がオレの全身に廻って…力が入らない…
今まで知らなかった感覚を…何度も何度も身体に覚えさせられた…
もう…自分で自分が分からない…
この人 にされるがままに身体が反応する…
ほら…今だって相手がキスを求めれば…
オレは何の抵抗も無く…受け入れて…舌を絡ませ合うんだ…
でも…今まで生きて きて…こんな身近で人と触れ合ったのは……
この人が初めてだ…

目が覚めて…起き上がると裸の身体が見えた…
身体中…何か赤い痕が一杯付いてる…?
赤くなってるけど別に痒くは無い…何これ?
「おはよう。」
そんな事を考えてたら突然頭の上から声を掛けられて…
彼が自分のシャツをオレに掛けてくれた。
「ぐっすり 眠れて何より。」
優しく笑ってる…ああ…オレ…夕べあのまま寝むちゃったんだ…
あんな事した彼だけど…今は凄く優しい…
ああ…夕べも縛った手を解いてから 優しかった…様な気がする…

「何か食べる?それとも何か飲む?」
そう言いながらオレに優しくキスをする…
あ…もうキスされても…何とも思わなく なちゃった…
逆になんだかくすぐったい…そんなオレの頭に手を乗せる…
「?」
「夕べは無理させて悪かったな…オレの事殴っていいよ。
君にはその権利が ある。」
申し訳なさそうな顔をしてオレを見つめてる…反省してるの?
オレは彼の顔に手を伸ばした…伸ばした手で彼の頬を抓んだ。
「………」
彼が 戸惑った顔してる。
「あったかい…」
「 ! 」
「あったかい…」
「………」
もう一度言って抓んだ頬をムニッと引っ張った…そしてゆっくりと彼に 抱きついた…

「あったかい…これが人の温もりなんだよね…オレ…初めて知った…」
今まで誰の温もりも知らなかった…祐輔だって素肌なんて知らない…

「もしかしてずっと一人だったの?」
オレの頭をそっと自分の方に優しく抱き寄せてながら彼が囁いた。
「ううん…オレの事分ってくれる人はいたよ…
でも… いつも甘えてばかりはいられないから…」
オレは彼の広くて暖かい胸にもたれ掛かってそう言った…いつも思ってる事だ…
「迷惑ばっかりかけられない…」
「 ! 」
そんなこの子の一言がオレの胸に響いた…
子供の頃嫌って言うほど思ってた言葉…

『 ── 施設の人に迷惑掛けるわけにはいかない ── 』

自然に力を込めて抱きしめた。
「あ…あ…え…?あっ!!」
そのままベッドに押し倒したから慌ててる。
「んっ…」
キスをしながら自分が着せたシャツをまた 脱がせた。

「なんでだ…また…抱きてー…」
そう呟いてた。
同じ子を…こんなに何度もしかも自分の家で…抱くなんて初めてだった…
もう抵抗なんか しない…オレを当然の様に受け入れてくれてる…
その証拠にオレの腕の中で感じて…乱れてる…

「ん?何?」
耀くんがオレを見上げて何か言いたげだ。
ついさっき…今頃お互いの名前を教えあった。
本人が男だと言うならオレはそれを受け入れて『耀くん』って呼ぶ事にした。
オレの事は『椎凪』だ。

「これって…消える?」
「え?」
心配そうな耀くんが自分の身体に付けられたキスマークを触りながらオレに聞く。
「ああ…2.3日で消えるよ。でも消えたら 死んじゃうよ。」
冗談を言った…つもりだったんだけど…
「ええっ!!うそだっっ!!」
思いの外耀くんが過敏に反応した。何だ?
「本当。オレが念を 込めて付けたから。
消えたら本当に死んじゃうから消える前にオレがまた付けてあげる。」
悪乗りしてそう言った…どうなるのか楽しみだった。
「えっ?ウソだっ!!絶対ウソだっ!!そんな事出来る訳ないもんっ!!」
あ!面白い。
「それがさぁ出来るんだよなぁ…オレ特別な訓練受けたから。
ウソだと 思うならそれでもいいけどね。」
「本当に本当?ウソついて無い?消えてもまた付ければ大丈夫なの?」
もしかしてキスマーク知らないのか?
今時珍しいだろ? 小学生だって知ってるんじゃないのか?
「えー?じゃあずっと椎凪に付けてもらわないとダメなの?」
「そうだね。」
すごい…マジで真に受けてるよ… 耀くん…ホント面白い。
オレは笑うのを必死で堪えた。
「ずっと?」
「うん。ずっと。」
「本当にずっとなの?」
「本当にずっと!」
なんだ? もしかしてもの凄い世間知らずなのか?
「えーーーっっ!!」
「しかも『H』の最中につけないと意味が無いからね。」
とことんウソをついた。 流石にバレるかな?
「えーーっ!!また『アレ』するの?」
「そう。」
「オレ…無理だよ…だってあれやだもん…」
「やなの?なんで?もう痛くないでしょ?」
オレは耀くんのオデコに軽くキスをした…耀くんは嫌がらない…
「だって…オレがオレじゃなくなる…
恥ずかしいし…なんか…大きな声…たくさん出ちゃうし…」
「大丈夫。見てるのオレだけだし…きっとすぐ気にならなくなるよ。」
今度は口にキスをした…これも耀くんは受け入れてくれた。
「それとも毎日一緒にいる?毎日 付ければ消える事気にしなくて済む…」
じゃれる様なキスを繰り返しながら自然とそんな言葉が出た。

自分でもビックリで…これって交際申し込んでるのか?
オレ…いや…それ飛び越えて同棲持ちかけてんのか?自分でも良くわからん?

「考え…とく…」
あれ?拒否されなかった…?
ああ…命には代えられないか? そうだよな。
「って言うか…だったらそれ解いてよ!椎凪だったら出来るんでしょ?」
閃いた顔をして耀くんが嬉しそうに言って来た。
甘いよ…耀くん。
「残念!一度かけたらオレが死ぬまで解けないの。オレの事殺す?」
「そんな事出来る訳ないだろっ!!もー…」
面白いほど耀くんがガッカリした。
「良かった。 実行されてたらオレスゲー悲しかった。」

そんな事を言うオレを恨めしそうに耀くんが見つめる。
出来ればそのウソをずっと信じてくれる事を願ってる自分がいた。
きっと…耀くんとオレは似てるんだ…だからオレは耀くんが気になって…惹かれる…
昨日までのオレを一晩で180度変えさせてしまった耀くん…
ずっと一緒にいたら 一体オレはどんな風になるんだろう?
オレは救われるのかな?

いつの間にか胸の穴が小さくなってる事に気が付いて…

すぐにバレそうなウソがバレた時…
次はどんな口実で耀くんを口説き落とそうかと真剣に考えてるオレがいた。