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「いつも後をつけられてる気がして…気持ちが悪くて…
携帯も替えたばっかりなのに掛かってくるし…」

「へー…」


今日いきなり私に一目惚れしたと告白された男の人にそんな話をしてる。
この人だって十分に怪しいと思うのに人懐っこい笑顔に負けて家まで送って
くれるって言うから…一緒に帰ってる…
しかもストーカーを捕まえてくれるって言うし…

「番号だって眞子にしか教えてないのに…あ…ここでいいです。 どうもご苦労様でした。」

彼女がペコリと頭を下げてさっさと目の前のマンションの中に入って行く。
警戒してるわりにはオレを正直に自分の住んでる所に連れて来ちゃって…甘いなぁ…

「冷たいなぁ…お茶ぐらいどうぞって…言ってくれるかと期待してたのにな…」
「何で初対面の変な人を部屋に上げなくちゃいけないんですか。」

そりゃそうなんですけどね…まぁ仕方ないか…今日は…
あんまりしつこいのも敬遠されるかな…

「おやすみ耀ちゃん ♪ また明日ね ♪ 」
「明日なんて会いませんからっ!!それに『ちゃん』なんて付けないで下さい。
そんな風にあなたに呼ばれる理由はありませんから!!」

足も止めずに歩きながら 言い続ける。

「じゃあ…おやすみ。明日会いに行くから待っててね。」

話さずにあっかんべーをされた…くすっ…可愛いね…
彼女の姿が見えなくなるまで見送った…何だか胸の中がこそばゆい!

さてと…オレは帰る振りをして暗闇に身を潜める…
案の定…しばらくしていかにも怪しげな男がやって来てマンションを見上げてる…
しかも…紙に何か書いてるし…
オレは足音を立てずにそいつの傍に近づいた…

「お宅何やってんの?」

ビ ク ッ !! 

あからさまに男は驚いていきなり逃げ出した。

「逃がすか!」

追い駆けて…背負っていたリュックを掴むと急に暴れ出した。
そんな事はお構い無しにオレはそいつの顔面に一発!腹に三発入れたら大人しくなった。

「チョロイね…」

オレの足元でぐったりとしてる男を見下ろしながら携帯で警察に連絡した。




「本当に…捕まえて…くれたんだ…」
「約束しただろ?」

警察からストーカーをしてた男が捕まった知らせを聞いて彼女はそう言った。

大学で彼女を見つけて話しかけたんだ。
ただ…ちょっと引っかかる事はあるんだけどね…

「だからって…あなた何大学まで押し掛けて来てるのよ?信じらんない…」
もの凄い呆れ顔…
「オレの君への気持ちの表れだろ?評価して欲しいな…」
「え?…ああ…あ…ありがと…」

何だかイマイチ納得出来てないのにお礼を言ってる自分がいた…

バ ン !!

「 !! 」

彼女の後ろの壁に両手を突きつけて…彼女を 捕まえた…
建物の陰で人は来ない…そんな場所に彼女を連れて来たんだから当たり前だけど…

「お礼…欲しいな…」

彼に覗き込まれてそんな事を言われた…どう言う意味?

「はぁ…?お礼…?お金…出せって…事…?ちょっと…近い…から…離れ…」

うわぁ…顔を近付けただけでこんなに真っ赤になっちゃって…可愛い…
オレは内心ニコニコ。

「お金?お金なんて要らない…オレは君のキスが欲しい…」

「はぁ?…何…言ってるの…」

真面目な顔で何言っちゃってるんだろ?この人…

「感謝…してくれてるんでしょ?それ以外のお礼受け取らないから…」

もの凄い呆れた顔された…でもオレは気にしない。

「絶対…あなた…おかしい…わよ…ストーカーよりも…性質が悪い気がする…」
「えー?心外だな…言っただろ?君に一目惚れだって…しぃ…もう黙って…」

そう言って…彼の顔が…近づいて来た…嘘でしょ??

「わーーーーっ!!タンマ!ちょっと…ストップ!!」

「なに?」
「こっ…こんな昼間っから…ムードも 無くて…その……ちょっと…いやかなぁ…」

って…その前に何でキスなんかしなくちゃいけないのよっ!!
明らかにそっからして変でしょ?!

「…ムードねぇ… オレは別に何処でも構わないんだけど…君がそう言うなら…じゃあ…何処がいい?」

そう言って…彼が耳元に口を近付ける…
思わずビクリとなった…ホントに ヤバイって…

「どこがいいの?ホテル?君の部屋?オレの部屋?…それとも夜の公園?それとも夜の海がいい?」

何処もイヤですっっ!!

「…あ…後ほど…連絡… しますから…」

何とか迫って来る彼から顔を逸らした。

「じゃあ携帯の番号教えて。」
「番…号…?」
「当然でしょ?どうやって連絡取るつもり?」
「あ…ご…ごめんなさい…今…携帯持ってなくて…
まだ替えたばっかりで…番号覚えてないから… また…今度…」
「そ?別にいけど…」
「ほっ…」

彼が私から離れた…随分アッサリと引き下がったわよね…
まあいいや…このまま教えずに…何とか済まそう…
問題は…この…この人の行動力と強引なアプローチよね…
今までこんな風に積極的な人…いなかったもん…

見た目は背も高くて…整った顔立ちで…笑顔が人懐っこくって……
そんな笑顔に警戒心が緩む…なんで??

「じゃあオレから連絡する。番号知ってるし。」

彼がサラリとそんな事を言った。

「 え!?…なっ…何で知ってるの?? 」

おかしいでしょ?教えてもいないのに…

「え?眞子ちゃん。『TAKERU』のバックだよ。いくらすると思ってんの?」

当然とでも言いたげな顔で横目で見られてそんな事言われた!!
冗談じゃ無いんですけどっっ!!

「ちょ…冗談でしょ!消して!今すぐ!!ここで消して!!」

彼の携帯を掴もうとしたけどかわされた。

「消すわけ無いじゃん。あ!番号変えても無駄だよ。
眞子ちゃんオレに 全面協力体制だから。じゃあ今夜ね ♪ 楽しみに待ってて!」

そう言ってにこやかに彼は帰って行った…

「………うそ……」



遠ざかって行く彼の後ろ姿を眺めながら…眩暈がした…

悪夢…だ…何で私がこんな目に遭わなくちゃいけないのよ…

もう…目の前が真っ暗なんですけど……