08






椎凪の事をすべて受け入れたその日から…
私達は本当に恋人同士になった…
私が椎凪の部屋に泊まる事も多くなったし…

そんなある日の夕食の時…
ご飯を頬張る私に椎凪がなんの前触れも無く言った。



「ねぇ…耀…」
「ん?」

椎凪がとっても真面目な顔に見える…

「 オレと結婚して!明日婚姻届出そう。 」

「は?」

…またこの男は訳の分からない事を言出だす……

「あのね…まず私達知り合ってたった一ヶ月でしょ?
私は椎凪の 事まだ良く知らないし…それにお互いの親の事だってあるでしょ?
一応そう言う大事な事は親にも知らせなきゃいけないし…
ってその前に私今結婚する気ないからっ!!」

一気に反論する間も ない様に早口で喋った。
椎凪がキョトンとした顔をしてる…でも椎凪も負けていなかった。

「まず知り合って一ヶ月なんて関係ない!時間は問題じゃない。
オレの事は結婚してから知ってくれればいいし親はオレはいないから
気にしなくていい。耀の親の事は心配ない。」

自信満々の椎凪の顔…怪しい…

「ちゃんと 話着けて来たから。耀の両親の承諾貰って来たよ。」

「 !!! 」

既に親の署名と捺印のされた婚姻届を私に自信満々に見せながらニッコリ笑う椎凪…


…… は ? ……この男… 今…なんて?…それにその手に持ってるものは……なに??


「わかった?他に何か?」

そんな事を言いながら手に持ってた椎凪曰く婚姻届を大事にしまってる……

「……え?…」

話が…理解出来なくて…しばらく考え込んでしまった…はぁ?

「ちょ…ちょっと!?どう言う事? どうしてウチの親の署名と捺印があるのよ?」

どう考えても変よね??変だよね??

「会いに行ったからに決まってるだろ?」
「一人で?」
「当たり前。」

何!その当然と言いたげな態度!!

「耀が妊娠したって言ったら快くOKしてくれた ♪ 」

「 なっ!!! 」

なっ…なんですってーーーっっ??
ちょっ…ちょっと!ちょっと!ちょっと!!!こ・の・男・はぁーーーっっ!!

「 こ… 」

「こ?」

「 こ・の・大 バ カ 野 郎 ────── っっ !!!! 」

ガ シ ャ ー ン !!!!

思わずテーブルを乱暴にどかして椎凪に詰め寄る。

「 何?どうしたの?耀!? 」

椎凪がびっくりした顔で詰め寄った私を見上げる。

「どうしたもこうしたもないっっ!!!あんたなんかと絶対結婚なんてしないからねっ!!」

椎凪の顔面に向かって思いっきり怒鳴ってやった!!
冗談じゃ無いってのっ!!勝手に話し進めちゃってっ!!

「 結婚してくれなかったらオレ気が狂って無差別殺人犯しまくるからなっ!!! 」

椎凪も立ち上がって負けじと私に向かって叫んだ!

「はぁ?それが警察官の言・う・言・葉?」

思いっきり呆れた顔と眼差しを送ってやった!

「そんなの関係ないっ!オレは耀が欲しいのっ!!他の誰にも渡したくないのっ!!」

目に涙を浮かべて力説してる…マジですか??

「結婚して二人の関係形にしないと安心出来ない!!
本当は結婚だって安心出来ない…でも…」

更に涙目…

「ただの恋人じゃもっと安心出来ないっ!!毎日オレの 傍にいて欲しいんだ…
もう一人は耐えられない…いつも耀に傍にいて欲しいんだよっ!!! 」





昨夜…いきなりプロポーズされた…
私の気持ちなんて お構いなしのこの男に呆れて…返事はしていない…

だから昨夜からものすごく椎凪は不機嫌。


「やっ…ちょっと…イヤだってば…」

昨日の夜から抱かれ続けてる…もう寝不足の 筋肉痛の空腹の散々…

「耀は今オレがどんな気持ちかわかんないだよ…グズっ…」

後ろからグズりながら私にしがみつく…もう鬱陶しいっ!!

「だからって… もう朝じゃない…身体もたないよ…椎凪だって仕事…ん……」

言ってる途中でキスされた。
問題の一つはこれ…結婚なんかしたらどうなるかと思うと気が重い…
すぐ子供出来ちゃいそう…大学も残ってるのに…

でもそれ以外は椎凪は優しいし…明るいし…仕事も真面目だし…私の事もとっても大事にしてくれる…

ただ…椎凪の性欲は… 底無しだといつも思う…

どんなに長い時間愛し合っても椎凪は満足と言う言葉を知らない様に私を求め続けてくる…
人前でのキスなんて当たり前…いつも私にくっついて…まとわりついて…

仔犬みたい……



そんなある日…私は椎凪に切り出した。


「あ…あのね椎凪…結婚を前向きに考える為の提案があるの…」

「提案?」

「もし結婚しても私すぐに子供つくる気無いから…
大学もちゃんと卒業したいし…就職だってしたいから…」

私は顔を真っ赤して…勇気を出してそれを出した。

「だから…これ使って…」

恥ずかしい…

「これって…」

椎凪がそれを持って…じっと見つめる。
赤ちゃんができない為のもの…

「これ使えば子供の事心配しなくていいでしょ?
椎凪そう言うの気にして 無いみたいだし…それなら考えていいかな…って…」

もの凄い譲歩だと思うのよね…
結婚は前向きに考えるって言ってるんだから。

「耀が買ったの?」

横目でチロリと見られた。

「え?ううん… 眞子がくれた…」

私は何だか視線を合わせられなくて…逸らしてしまった。

「ふーん……」

椎凪は『ふーん』って言いながらそれをポイって…ごみ箱に投げ捨てた。

「え…?」

椎凪が私をベッドに追い詰めて迫って来る…何?何なの??
なんか怒りマーク が顔に出てる?
そんな怖い顔で…近づいて来ないでよ…何なのよ??

「な…なに…」

私はベッドの上を後ろへ逃げる。

「いいこと思いついた!!」

「 ……え? 」

また何か変な事思いついたの?この人…
絶対!きっと!!ロクでも無い事に決まってる!!

「本当に子供作っちゃえばイヤでもオレと結婚するよな?そーだ!
何で今まで思いつかなかったんだろ ♪ 」

「 へ…? 」

名案とでも言いたげな何とも明るい顔の椎凪…ウソでしょ??

「ちょ…ちょっと待ってよ!そんなのイヤっっ!!」
「だってオレ絶対耀と結婚したいんだもん。オレ育児とか全然平気だから ♪ 」

ニッコリと笑顔付きで言われた…でも…

「そう言う問題じゃ…人の話聞いてる?」

呆れた…本当に呆れて…何処まで自分勝手で…

「 あ… 」

椎凪の手がそっと私に伸びて…優しく私の頬に指先が触れた……

「だって仕方ない… 今結婚OKしてくれたら子供我慢する。本当は今すぐ欲しいけどさ…
今結婚OKしてくれないんだったら強引に子供作る。そんでオレと結婚する。」

私の顔を撫でながらジッと見つめる椎凪…
その顔も瞳も…とっても優しくて…穏やかだった……

やだ…ずるいよ……椎凪ってば……そんな顔されら……

「何それ?どっちにしても結婚じゃないのよー… 」

どっち選択しても私には不利な条件じゃない?

「当然でしょ?耀はオレのもんだもん。」

だからその笑顔やめて…誤魔化されないんだからっ!!

椎凪の笑顔で迫られるとどうも拒否をすると言う事が出来なくなっちゃう…
もっともらしい顔で私を見つめるし…きっと私がどんな理由を言っても…
もう椎凪の耳には入らないんだろうと分かる…

そんなに…思い詰めちゃって…どれだけ私の事が好きなのよ…

そりゃ…悪い気はしないけど……

きっとこの後…椎凪が詐欺同然でウチの 親から貰って来た婚姻届に…
2人で自分の名前を書いてる姿が想像できる…

気分が重くなる反面…椎凪ならいいかな…なんて思ってる自分がいて…



いつの間にか笑ってる自分がいる事に気が付いた…



                                    …Fin