betubanasi part 5

 * 今回のお話は椎凪達が高校生のお話。
 椎凪と耀を一緒に通わせてあげたかったのと全員を一緒にいさせたかったので…
 このお話基本は本編のままですが多少 違いますのでご説明を…
 椎凪 : 高校三年生。(キツイか?)性格・過去設定は本編通り。本編程過去は引きずっていません。
 耀 : 高校一年生。トラウマ有り ですが既に右京によって治療済み。そのせいもあり本編より幼い性格設定になってます。
 今回は始めの方から耀は椎凪LOVEです。 祐輔 : 高校三年生。耀との関係は 本編通り。耀とはとても仲が良い。
 慎二 : 23歳。本編のままです。本編では椎凪より年下なので『さん』呼びなのですが今回は慎二の方が年上…
 でも違和感ありまくりなので本編通り『椎凪さん』と呼ばせてます。
 右京 : 28歳。本編のままです。既に耀の親代わり。なので耀の事は溺愛。
  本編とは違った椎凪と耀の恋愛話。どんな感じでしょうか?本編と被る所も多々ありますが…
 別話編なのでイラスト付き(あえて大人キャラ)
 どんな事があっても2人は付き合う!これ基本です!! *
    


09


パ ア … ン !! 

空気を裂く様な音が響く…


直ぐに全ての音が消えて沈黙が戻る…
その音はその殺気に満ちた空間の中で右京君がオレの頬を思いっきり手の甲で叩いた音だ…


オレは殴られて…
少し横を向いたままで
動けないでいた…
殴られた左の口元から…
一筋の血が流れた…
口の中を斬ったらしいが…
今のオレにはそんな事すら
気付かない…




「君が付いていながら… 何だい?このザマは…」

右京君が怒りで身体が震えて…
その瞳が殺気に満ちたものに変わってるのがわかる…妖気まで発してるみたいだ…

バ シ ッ !!

そのまま次は手の平で殴られた…オレは反対によろけたけどまたそのまま動かない…
今度は反対の口の端から一筋の血が流れる…

「なぜ耀の傍から離れた?なぜ耀を一人にしたっ!!」

押さえきれないほどの怒りをオレにぶつけて叫ぶ…

ビ シ ッ !!

もう一度手の甲で 殴られた…

「今回の事は君の責任だっ!!僕は君を許さない!
早く僕の目の前から消えたまえっ!!君に耀を任せたのは間違いだったよ!
もう二度と耀に 近付く事は許さないっ!!早く出て行きたまえっ!!僕が力を使う前にっ!!」

オレは右京君の声を聞きながら…ギュッと拳を握りしめていた…

「それは… 出来ない…」
小さな声だった…搾り出してやっと声になった…俯いたまま…右京君が見れない…

 「聞えなかった のかい?
 僕は出て行けと言ったんだよ…」

 「だから…それは…出来ない…」
 泣きそうな声でもう一度言った…

 「なら僕がやるっ!! 僕の力で
 耀の事を君の記憶から消…」

 右京君の動きが一瞬止まる…


「お願い…だから…オレから耀くんを…取り上げない…で…」

そう言って オレが右京君にすがり付いたから…

「 ! 離したまえ!」

右京君はオレが掴んだ腕を振りほどこうとするけど…オレは必死に掴んでた…


「オレ…耀くんがオレの傍から
いなくなったら…
生きていけない…」
やっとの思いで言葉にした…
「お願い…右京君…
耀くんと離れるなんて
オレには出来ない…
オレのせいなの分ってる…
オレが悪いの分ってる…
でも耀くんの傍にいさせて…
お願い………お願いします…」
涙が零れた…


オレは右京君の腕にしがみ付いたまま膝の力が抜けてその場に座り込んだ…


今から2時間前…
耀くんといつもの様に学校から帰っていた。
今日は祐輔はいなくて耀くんと2人きり。
途中美味しいソフトクリームとクレープを売ってると言う情報を仕入れて
来た 耀くんが帰りに寄りたいと言い出したから寄り道をして行く事にした。
場所は耀くんしか知らなくてあと少しだと言っていた矢先…
珍しく数人のグループに 絡まれた。
昼間から仲がいいだとか耀くんが可愛いと言い出して
オレなんか放っておいて自分達に付き合えと言い出した。
まあ…良くあるパターンでオレは 呆れ少しの怒り100%
よりにもよってオレに絡んでくるなんて…
身の程知らずもいい加減にしろっての…
耀くんとの2人の時間を邪魔されてオレの怒りは頂点 だった。
この位の人数なら楽勝!
オレは耀くんを少し離れた場所に押しやると『絶対ここからこっちに来ちゃダメだよ。』
って耳元で囁いて頬にキスをした。
耀くんが心配そうな顔をしてる…
オレは手を振ってウインクした。

案の定…オレの敵じゃない。
余裕で勝負が付きそうだった…でも…オレの考えが甘かった。
そう言えばオレが喧嘩してる所なんて耀くんは見た事が無かった…心配そうな顔してたのに…
オレはサッサと耀くんを連れてその場から立ち去れば良かったんだ…

殆んどの奴は動けなくなってた。
当然の結果だった…オレは手を叩いて埃を落とした。
耀くんもホッとした顔してる…オレが耀くんの方に気を取られてる時倒れてた 2人が
起き上がってオレに襲い掛かって来た。

「椎凪っ!!危ない…」

言いながら耀くんが慌ててオレの傍に走ってくる。
オレは振り向いてまず 一人に蹴りを入れて倒した。
残りの一人はいつの間に拾ったのか飲み物の空き瓶をオレに向かって投げつけた。
悪あがきだったけど…狙いは微かにずれてオレの左を 掠めて後ろに飛んだ…

…オレの…後ろ?

ガ ツ ン ッ !!

「……わっ!!…」

何かに当たる音と耀くんの声…

「………」
振り向いた先には…額を押さえてうずくまる耀くんと地面に転がる空き瓶…
額を押さえた耀くんの手から真っ赤な血が流れ落ちてる!

「なっ…耀くんっ!!」
オレは慌てて耀くんの傍に駆け寄った。
「耀くん…大丈夫?見せてっ!!」
痛みを堪えながら耀くんが手を離した…
オレは絶句した…左の額がパックリと割れて 次から次へと血が溢れ出してる…
「耀くん…」
オレは頭が真っ白になってた…耀くんが…怪我をした…こんな血が出て…
「大丈夫ですか?」
女の声でハッと 我に返った…何処から来たのか何人か人が集まって来てた。
「今救急車呼びましたから。」
そう言って耀くんの傷口をハンカチで押さえてくれた…
「……うっ……」
耀くんが痛みを堪えてる…
「……耀くん…」

オレは耀くんを抱き寄せた…ゴメン…オレの…オレのせいだ…オレの…
抱き寄せてる腕に 力が入った…それに気付いたのか耀くんがオレを見上げる…

「ごめ…ね…椎凪…オレが…勝手に…動い…たから…」
「………」
オレは無言で「違う」と首を 振り続けて耀くんをギュッと抱きしめた…


耀くんの病室の前…
病室に入れずオレは入り口で一度立ち止まった…
額から左目にかけて包帯が巻かれてる…
もう少しずれてたら失明してかもしれないって医者に言われた…
シャツの袖口に…耀くんの血が付いてる…
良く見るとシャツの至る所に耀くんの血が付いていた…

─── 耀くん…

目を瞑ると耀くんの姿が瞼の裏に映し出される…
額を押さえて…耀くんの手から血が流れ続けてる…オレの…オレのせいだ…
「………」

ゴ ッ !!
思いっ切り廊下の壁に自分の頭を叩き付けた。

「ちょっと…椎凪さんっ何してるんですか!!」

ちょうどやって来た慎二君が止めに入った…
「離してっ慎二君!!オレも耀くんと同じ痛みをあじあわないとダメなんだっ!!」
オレは泣き叫んで慎二君の手を振り解こうとしたけど慎二君がしっかりとオレを掴んでた。
「右京君の言う通りオレが一緒にいたのにあんな怪我させて…
あんなにたくさん血が出て…オレのせいだっ!!オレの…」
「確かに…今日の件は僕も許せない気持ち ありますけど…
耀君がずっと…あなたのせいじゃないって言い続けてましたよ…」
慎二君が溜息をついた…
「怪我の治療も受け付けないほど取り乱して… 右京さんにあなたが怒られるって…
ずっと心配してました…自分が悪いんだって…
あなたが安全な場所に連れて行ってくれたのに勝手に動いた自分が悪いからって…
右京さんが怒ればあなたに何をするか分ってるんです…
だから自分の事よりもあなたの心配をしてた…
まったく…どれだけ耀くんの心掴んでるんですかね…
一体どうやってそこまで思って貰えるんですか…あなたみたいな人が…
色々調べさせてもらったんで何とも言いがたいんですけどね…」
慎二君が呆れた様に話す… オレは…涙が…止まらなかった…

オレは病室のベッドから少し離れた所で耀くんを見守ってた…
傍になんて行けなかった…
もうバカな事はするなと慎二君に 念を押された…
そんな事をしても耀くんが悲しむだけだって…
これ以上耀くんを辛い目に遭わせるなって…怒られた…

「……椎…凪…?」

耀くんが 目を覚まして…オレの名前を呼んでくれた…
でも…オレは泣きながら微笑むだけで…そこから動こうとはしなかった…
動けなかった…
「どうしたの?椎凪… オレの傍に来てよ…」
「…………」
オレは無言で首を左右に振った…
「なんで?椎凪…お願い…オレの傍に…来て…」
仕方なく…ソロソロと近付いた… 余計泣けてくる…
ベッドに腰を掛けて耀くんを見つめる…真新しい包帯が痛々しい…
「椎凪の…せいじゃないよ…」
一つしか見えない耀くんの瞳がニッコリと 笑ってそう言ってくれた…
「違う…オレのせいだよ…オレのせいでこんなヒドイ怪我…」
「オレに…キスして…椎凪…」
「出来な…い…そんな資格…ない…」
オレはフルフルと首を横に振る…
「何?資格って…じゃあオレが椎凪にしてあげる…こっちに来て…くすっ 」


優しく笑ってオレに手を伸ばす…
その手がオレの頬に触れた…
「椎凪…
オレ起きれないんだから…
椎凪がこっちに来て…」
「う……」
オレは 泣きながら耀くんに
近付いて…
ベッドに片手を付くと
そっと耀くんにキスをした…



「頬が…赤くなってる…唇も血が出て…る…」
耀くんの指先が 優しくオレの頬と唇を撫でていく…
「右京さんに…殴られたの…?ごめんね…オレのせいで…オレが椎凪の言う事聞かなかったから…」
オレを見つめる耀くんの瞳が 潤んでる…
「耀くんは悪くないよ!!オレが悪いんだ!!オレが…」
オレは次から次へと流れてくる涙を止められなくて…掌で自分の目を覆った…
「何で? 椎凪は悪く無いだろ?くすっ…もう…泣かないでよ…オレより年上のくせにさ…
オレ大丈夫だから…ね!もう泣かないで…」

耀くん……

「ずっと…オレの傍にいてね…何処にも行かないでオレの傍にいて…絶対だよ椎凪。」
「うん…ずっといる…ずっと傍にいるから…」
寝てる耀くんに抱きついた… 身体が…ずっと震えてる…震えが止まらない…
「オレの傍から離れたらダメだよ…椎凪オレがいないとダメなんだからさ…」
オレを抱きしめながら言って くれた…
「うん…オレ…耀くんがいなかったら…死んじゃう…うっく…」

オレは耀くんにしがみ付いて泣いた…
女々しいとか…女みたいって言われたって 構わない…
オレは自分が許せなくて…怪我をした耀くんが痛々しくて…出来る事なら代わってあげたかった…
それが出来なくて…辛くて苦しくて…耀くんに申し 訳なくて…涙が…止まらなかった…

「…………」

そんな2人を病室の入り口で右京が黙って見つめていた…


病院のロビー…もう夜も更けて 誰もいない…

「右京さん大丈夫ですか?」
そんなロビーに一人佇んでる右京さんに声を掛けた。
「…そうだね…少し疲れた…」
小さな溜息をつく…
「人に対してあんなに感情表したの初めてじゃないんですか?」
「そうだね…今まであれほど感情的になった事は無かったかもね…
耀の事となると周りが見えなく なる…本当親バカだね…」
「仕方無いですよ…右京さんにとって耀君は本当の娘と同じなんですから。」
「耀はね…僕が…僕達が支えて守ってあげなければいけ ないってずっと思っていた…
たくさん傷ついて自分を責めて責め続けてた耀には周りから優しく包んで
あげなければいけないとずっと思っていたんだ…だから何で 椎凪君なんだって…
どうして椎凪君じゃなきゃだめなのかっていつも納得できなかった…
でも…今日分ったよ…何で椎凪君なのか…」
ふっと…右京さんが小さく 笑った…


 「耀は…支えてあげられる人を探してたんだ…
 椎凪君に支えられてると思っていたけど…
 さっき2人 の会話を聞いて分ったよ…
 耀は彼を支えてる…そして椎凪君も
 耀に支えられてるのが分っている…
 だから耀じゃないとダメなんだ…
 きっと今まで 誰もいなくて
 彼も探していたんだろう…
 自分をわかってくれて支えてくれる人を…
 そして耀に出会ったんだ…
 2人共…耀は自分を必要としてくれる 人
 椎凪君は自分を支えてくれる人…
 その2人が出会った…
 だから2人は…離れられないんだ…」



「今頃わかったのかよ…コレだから お坊ちゃまは困るんだよ。」
「祐輔…」
「大体耀がオレ達以外の奴と一緒に居れる事自体おかしいんだからそこで気付けよな…」
「そうだね…そうだった… でもきっと僕は認めたく無かったんだ…
はー…もう子離れか…思った以上に早かったね…」
もの凄く残念そうな右京さん…気持ち…わかりますよ…
「でもよ… 右京の事はきっとオレと慎二とは違うと思うぜ…
あいつ本当に右京の事信頼しきってるし親だと思ってる…」
右京さんがチョットびっくりした顔をした…そうだろう… 僕もびっくりした。
「珍しいね…君が僕にそんな事を言うなんて。」
「鈍いお坊ちゃまに優しく話してやってんだろ?感謝しろよなっ!」
「本当…君は一言 多いね!可愛くない!」
「お前に可愛いなんて思われたかねーよっ!!気色悪い…」
「もー祐輔…!!」


僕達は耀くんが僕達よりも椎凪さんを選んだ 事を改めて認識した…
こればっかりは仕方が無い事だけどだからって
全面的に椎凪さんを認めるなんて事は僕達がするはずは無い!
もしかして2人が別れるって 事だって有り得る。(多分無いと思うけど…一応…ね。)
だからこれからは今まで以上に2人を…特に椎凪さんを厳しく監視していこうと決めた。

それから耀君が退院するまで椎凪さんは耀くんに付っきりだった。
随分落ち込んで耀君が退院した後もしばらくの間口数も少なかった。
やっと以前の椎凪さんに 戻ったのはそれから大分経ってからだっだ…
あまりにも暗いので耀君に怒られたんだよね。