05






通りを1本奥に入って人気のない路地に入った。
ここなら人目につかない。

「何よあんた。何で人の邪魔すんのよ」

ロイスは自分の邪魔をされて随分とご立腹だった。
それにもの凄い迷惑そうな顔までされた。
といってもオレだって用があるから声をかけたまでで……

「君に話がある」
「何?」

返事をしながらもオレのほうは見ようともしないで腕を組んで自分の足元に視線を落としてる。

「何でこんなことをする?」
「は?」

今度は顔を上げたと思ったら何言ってるんだと言わんばかりにオレを睨んでくる。
もの凄い”ガン”を飛ばされてるオレ。
それでもオレは気を取り直して話を続ける。

「昨夜この近くのラブホテルで衰弱死寸前の状態で見つかった男がいた」

言った後ロイスを見たけど彼女はまったく顔の表情を変えなかった。

「君だろ?」

これは確定してることだ。

「だから?」

まったく気にも留めてない態度で挑発するような言い方だった。

「止めてほしいんだよね。そういうの」
「余計なお世話よ。生きて行く為だものやめられないわよ」
「は?どういうこと?」

「妖魔は人間界で生きていく為に必要な主食がそれぞれ違うのよ。
あたしの生きていく為に必要なものは人間の精気なの!
人からそれを奪う方法は人と……男と交わるしかないのよっ!
でもひとりの男からギリギリ奪ってもせいぜいもって1日……
だから毎日男を誘うしかないじゃない!あたしに死ねっていうの?」

「宿主の子は?それでいいって言ってるのか?」
「こいつ?イヤだって言ったって無駄よ。同化したこの子はもうあたしがいなけりゃ
生きていけないんだから」
「?」
「この子はね……死にたくないって言ったのよ。病気で……治る見込みの低い病気だった。
身体が欲しかったあたしは言ったの。あたしを受け入れれば助けてあげるって。
あんたもわかるでしょ?妖魔と同化すると自分の身体がどんなふうになるのか?」
「…………」

確かにロストと同化してから体調はすこぶるいい。
オレは病気だったわけじゃないから同化が病んでいる身体にどんな効果がもたらされるのかはわからない。
でもロイスの言うことを信じれば妖魔との同化は宿主を最善の体調にすることができるってわけか?

「この子はあっさりとあたしを受け入れたわ。そのお陰で病気は治った。
だから今度は私が助けてもらう番よ。あたしが死んだらこの子も死ぬしね。
だからあたしは永遠に男と交わり続けるの……生きる為にね!!
だから誰にも邪魔なんかさせない。コイツにも……あんたのもねっ!!」

自分の胸を指差しながらもの凄い瞳で睨まれた。
これが妖魔の瞳か……

「わかったでしょ?もうあたしにかまわないで!」

そう言い捨てるとオレに背を向けて行きそうな素振りを見せる。
だから行きかけた彼女の腕を掴んで引き止めた。

「ちょっ……何よ?離しなさいよっ!!」
「彼女を出せ……」
「離せって……痛いじゃない!!」

オレが掴んでる腕を振りほどこうとする彼女の腕を更に強く掴んだ。

「彼女と代われ……今すぐ」
「…………」

きっとロストの能力の方が上なんだろう。
直接触れたことでロイスにもわかったらしい。
抵抗を止めて大人しくなった。

「……………うっ…」

小さく声を出して項垂れた顔を上げるとさっきとは別人の……歳相応の女の子の顔が現れた。
「………あ……」

みるみる瞳が潤んで涙がポロポロと零れた。

「怯えなくていい……オレは君の仲間だ。オレも君と同じ宿主」

そう言って洋服の襟元を引っ張って肩を見せた。
宿主には普通の奴には見えない真っ黒な刺青が身体にある。
これが見えるのはよほどの霊力の持ち主かロストと同じ妖魔だけ。

「あ……」
「ね?見えた?君と同じだろ?」
「……わ……私……うっ……」
「もう大丈夫だから……オレが何とかしてあげるから安心して」

そう言って彼女をそっと抱き寄せた。
一瞬ビクリとなったけどそれ以上抵抗することもなくオレの胸で彼女はしばらく泣いていた。


「自分ではどうしようもできなくて……彼女を受け入れたのは私だし……
もう離れることもできないし……ぐずっ……」
「彼女の行為を受け入れたんだ」
「…………」

彼女がコクンと頷いた。

「でも君には耐えられなくて……ずっと入れ替わってたんだ」
「はい……でも……彼女が私の身体で感じることは……私も感じてるから……
ただその時心が違うだけで……私も一緒に体験してる……」
「……そっか」

俯いてどんどん声が小さくなってる。

「本当はもうイヤ。毎晩毎晩どこの誰とも知らない男の人と……
でも…そうしないと彼女は生きられないから……」

俯いてる彼女から涙がポロポロと落ちる。

「ちょっと彼女と代わってくれる?」
「……はい」

一瞬キョトンとしたけどすぐに泣きながら彼女は頷いた。
瞑ってた目をあけると今度はすぐにキッとキツイ眼差しでオレを睨みつけた。

「何よ!もう話は済んだでしょ?いい加減離してくんない?
それと何?あたしをこの子から引き離すつもり?」
「それはもう無理だ。君は完全に彼女と同化してるしできたとしても
そうすると彼女が死ぬんだろ?」
「そうよ。だから男をさがすの!じゃあね」

そう言ってロイスはオレに背を向けた。

「……オレが相手をしてやる」

「は?」

行きかけたロイスは振り向いて呆れた眼差しでオレを見る。

「男なら誰でもいいんだろ?なら身体に妖魔がいるオレの方が普通の……
人間の男を相手にするより精気吸い取れるんじゃねーの?」

「………何……言ってんの?」

「試してみようか?」


そう言ってオレはロイスに向かってニッコリと笑ってみせた。