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 * ハッキリした描写はありませんがBL話です。ご注意を!! *




郊外にある一般向けの野球場の駐車場にワゴン車が1台。
中には20代とおぼしき男が3人。
後部座席は畳んで寄せることができるタイプらしく寄せて広くなったスペースで
ふたりの男が絡み合っていた。

「……ハッ……ハッ……あぁ……」

短髪で茶色い髪の男の下に組み敷きられてるのはまだ成人して間もないような男。
たった今ひとり目の相手を終えてその余韻に浸ってる最中で息も浅く早い。
ふたりは折り重なったまま動こうとしない。

「オラ!さっさとどけよ!次はオレの番なんだからな!」

繁華街で今相方の相手をし終わってその余韻に浸りながら浅い息を繰り返してる若い男に声をかけた。
相手もその気で場所を移動するならと言われ人気のないここに来た。
声をかけた相手は男から見ても男受けする顔で話した感じは随分慣れてるなと思わせる態度だった。
だから車に乗ってすぐに後部座席に誘うと簡単に相方を受け入れてた。

移動してる最中もふたりの出す喘ぎ声と身体を重ね合う音を男は焦れる思いで聞いていた。
運転している自分が損な役回りだと相方に運転させればよかったとずっと思っていた。

だからいつまで経っても起き上がらない相方に業を煮やし肩を掴んで乱暴に押しのけた。
押しのけられた男はそのままゴロンと力なくすぐ傍に横たわる。
ずっと待たされたもうひとりの男はそんな相方の様子に気づくこともなく焦りながら
自分のシャツに手をかけた。
やっと自分の番だと気持ちだけがはやる。
誘った青年に覆い被さろうとして未だに横になったままの相方の身体が自分の足に当たって
それがどうにも邪魔だった。

「チッ!」

まったく邪魔なんだよ!早くどけよ!!
舌打ちして心の中で愚痴ったがあまりにもぐったりしている相方の様子に男はやっと異変に気づいた。

「え?オイ……竹内?」

呼んでも返事がない。
今までヤッたあとで相方が寝たことも失神したこともない。

「竹内?」

「ハァ……ハァ……気を失ってるだけだよ。
ちょっと夢中になりすぎて加減すんの忘れちゃった。クスッ ♪」

「!!」

そんな声が自分の下にいる男からしてもうひとりの男はビクリとなる。
声のほうに視線を向ければ一度男ひとりを受け入れた全裸の男が肘を着いて
起き上がり自分を見上げていた。
浅い息を繰り返し上下に動くその身体は妖しげでそこにいるだけで悩ましく思える。

「…………」

「ハァ……人間ってホント愉しいことしてんだね ♪ 僕この感覚病みつきになりそう……くすっ」

そう言って青年は妖しく笑う。
その顔は人間にしては妖艶で……禍々しすぎる……

「………ぅ……」

男はただ見つめられてるだけなのに勝手に声がもれる。

「おいでよ……」

スッと滑らかな動きで男にむかって青年の手が差し出された。
妖しい瞳は真っ直ぐ男を見つめ続けてる。

「僕にお前の精気をちょうだい……」

そんな視線から逃れられる術はなく……伸ばされた手にゆっくりと自分の手を伸ばしていた。





「……ふう」

ガコンと音がしてワゴン車の後のスライド式のドアが開いた。
乱れた服もお構いなしに車から下りると青年はちょっと不機嫌にため息をついた。

「まったくよくやるな」

車から少し離れたベンチに座る男がひとり。
歳は車から降りて来た青年より多少年上で茶髪の彼とは対称的な真っ黒なショートな髪。
一見優等生タイプに見える。

「仕方ないだろ?これが僕の主食なんだし食べ方なんだから。男しか相手にできないのは
この器の人間の趣味だ。僕じゃない」

しれっと言いながら茶髪の長い髪をかき上げる。

「今はお前の趣味にもなりつつあるんだろ?嘘つくな」
「今まで知らなかった感覚だよ。身体の奥からゾクゾクとして最高だよ。
ルースも一度してみればいいのに?きっと病みつきになるよ。
そしたら僕のこと言えなくなるんじゃない?」
「オレはいい。男と交わるの勘弁だ………どうでもいいが殺さなかっただろうな?」
「ああ。いつものようにギリギリのところで解放したよ」
「ならいい……」
「たまには思いっきり満足するまで喰らってみたいな〜〜」

軽い足取りで黒髪の男……ルースが座るベンチにストンと座る。
ふたりはこの駐車場で待ち合わせをしていたらしい。

「そんなことをしたら人間は死ぬ。殺すのはダメだ」
「なんでなんだよ?」

青年は不服そうにルースに食ってかかる。

「いつも言ってるだろ?それがオレ達がここで暮らす最低限のルールだし色々不都合が出る」
「そんなの残らず食べちゃえばいいんだ。跡形も無く」

サラリと恐ろしいことを言う青年にルースは眉間にシワを寄せて青年の顔を覗き込んだ。

「オレ達は人間の肉体は食べないだろ?それに人を殺しすぎるとオレ達は精神が
変化するらしいしな……リッシュだって何度も見ただろ?人を殺しすぎた妖魔がどうなったか?
オレは御免だ。やっと手に入れた器もこの生活も手放す気はない」
「はいはい……まったくいつも真面目だなールースは。まあ前からそうだったけどここに来てから
さらにだね。器のせい?」
「らしいな……まあオレは気に入ってるがね」

リッシュの顔を覗き込んでたルースは腕を組んでベンチの背凭れに背中を預けて夜空を見上げた。
妖魔の国と違って綺麗な星空がどこまでも一面に続いている。

「お互いよかったじゃない。最適な器が手に入って」
「そうだな……そうだ。噂で聞いたんだがもっと東の方に妖魔が何人かいるらしい。
人間と共存して生活してるそうだ。行ってみるか?」
「ほんと?行く行く ♪ いい加減野宿も飽きたしゆっくりしたい!!」

ルースの提案にまるで子供のようにはしゃぐリッシュ。

「じゃあ行くか」

クスリと笑ってルースがベンチから立ち上がった。

「OK!あ……まさかまた車乗せてもらうの?僕相手誰でもなんてヤダよ。
最近好みがハッキリして来たんだ」

ズボンのポケットに両手を入れ肩を窄めてルースに渋い顔を見せる。

「オレも女の相手はあんまりしたくないな」

はぁ〜〜とルースも溜息をつく。

「じゃあ飛んでく?」

リッシュが名案と言いたげにルースの顔を覗き込んで提案する。

「ああ……たまには思いっきり飛ぶか」
「やったぁ ♪♪ 久しぶりだ…うれしい〜〜〜 ♪♪」

いつもは却下されるリッシュの提案も今夜はなんの否定もなく受け入れられた。
いつも目立たないようにと過ごしてきたが最近そんな生活に疲れてきてたのも事実だった。

「オレもだ」

そう言うとふたりの背中に真っ黒な翼が音もなく現れる。

そして……月夜の空に羽ばたいて……あっという間に見えなくなった。