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「は?しばらくここで面倒みてくれだと?」

オレ達はソファに座って飲み物を飲んでた。
オレと黒髪男はコーヒー茶髪男はリクエストどおりにアイスココア。
お子ちゃまめ。

「ああ……こちらも色々事情があってこの宿主の生活をすることができない」
「は?どういうこと?」
「………この身体を見つけた時……」

「椎凪ぁ♪♪ オハヨー」

「!!!!」

いきなりリビングに入って来たロイスがガバっとオレに向かって飛びついて抱きついた。
目が覚めたのか。

「んーーー抱っこ抱っこ ♪♪」
「ちょっと……待てってロイス……周りよく見ろ」
「え?」

ロイスはオレを見つけると所構わず抱き着いて絡んでくる。
そんでそのままコトに及ぶパターンが多い。

とにかくロイスは元気だ。

「何だ!このハレンチな女はっっ!!」

茶髪男が嫌悪感丸出しでロイスを指差して叫んだ。

「はあ?何こコイツ等?あたしがちょっと寝てる間にどっから来たの?」

オレの首に腕を絡ませて抱きついたままロイスのほうも敵意むき出しで言い返す。

「彼女も宿主か?その身体の模様……」

黒髪男は落ち着いた眼差しでロイスを見てる。

「ああ……ロイスだ。ロイスいつも言ってるだろ?せめて服着てこい」
「えーーだってぇ〜椎凪と2人きりだと思ったんだもん ♪」

唇を尖らせて拗ねたそぶりだ。
耀の身体に巻かれてるタオルは胸も下半身もギリギリでオシリは絶対見えてるだろ!

「耀がかわいそうだろ」

って言うかオレが困る。
他の男に耀のこんな姿見せる気なんてない。

「何よ!椎凪は耀…耀って!!知ってるんだからあたしが眠ってる間に
2人してイチャイチャしてんでしょ!!」
「知ってんなら何も言うことはないな」
「!!!」

ロイスがオレの言葉でショックを受けたらしい。
どうぜ隠したってずぐにバレることで……というかもうバレてるし。

ロイスのことは嫌いではない。
でもオレのタイプではないから申し訳ないけどどうしようもない。
姿かたちは耀だけど“ロイスはロイス”だ。

「う〜〜〜」

ロイスはオレの言葉に唸って眉間にシワを寄せてちょっと涙目になってオレを睨む。
あ……拗ねたかな?

「フン!」
「ロイス?」

プイッと横を向いたロイスの瞳が遠く沈む。

「……はぁ……」

次の瞬間戻った瞳は……耀だ。

「え?」
「耀?」
「椎……凪?え?え?」

どうやら突然代わられて状況が飲み込めてないらしい。
多分耀は眠ってたんだと思う。
その間に勝手にロイスに入れ替わったんだろう。

まあ……あんな長い時間オレと絡み合ってたんだから眠るのは当たり前だろうけど。

「耀?」

焦ってる耀の顔を覘き込んで名前を呼んだ。
チラリとオレの顔を見て気配に気づいたのか正面を見て2人の男に気づいたみたいだ。

「いやああああーーーーー!!!な……なんで!?」

叫んでオレの後ろに隠れた。
隠れたって言ってもソファの上だからオレの後に隠れても丸見え状態だけど。

ほとんど裸に近い身体だもんな……そりゃ恥ずかしいよな。

「お前ら見んなっ!!」

肝心の2人はポカンとしながらでもジッと耀を見てたから少し身体をズラして耀をオレの背中に隠す。

「僕女には興味ないから」

茶髪男はそう言ってアイスココアを飲み始めた。

「オレも別に……」

黒髪男もそう言ってソファの背凭れに寄りかかる。

「あっそ……だって耀」

ホント関心のなさそうな2人の態度に背中に隠れてる耀に気にしなくてもいいという気持ちで
声を掛けたんだけど……

「もう椎凪のバカっ!!」

涙目の耀に初めて怒られた。
なんか嬉しい。

そのあとご機嫌ナナメの耀を抱き上げて寝室に戻って着替えさせた。
ロイスもヘソを曲げて出てこないらしい。

そのままリビングに戻って耀にカフェオレを出して一緒にソファに座る。

「話しが中断したが……」
「ちょっとストップ!」

黒髪男が何事もなかったように話し始めたのをオレはすぐに止めた。

「今度は何だ?」

話を中断されてあからさまに黒髪男にムッとされた。

「どうせ話すなら右京君に直接話したほうがいい」
「なぜ?」
「オレが何言っても右京君がダメだって言ったらアウトだから」
「え?なんで?」

今度は茶髪男が割り込んでくる。

「最初に言っただろオレは居候の身だって」
「だからって人間に頭下げんの僕ヤだよ!」

茶髪男が思いきりふて腐れた。

「じゃあこの話しはこれでお終いだな」

「!!」

「はあ?ふざけないでよ!どんだけ苦労してここまで来たと思ってんだよ!冗談じゃない!」

黒髪男は眉間にしわを寄せて茶髪男は勢い良くソファから立ち上がっていきなり文句だ。

「勝手に来てそっちの都合に合わせられるか。嫌なら今すぐ出てけ」

オレはそう言い放ってプイと横を向く。
別に気分を損ねたわけじゃないが右京君のことは本当のことだから結局オレが何を言っても
仕方ないことだから彼等に納得してもらうしかない。

「なっ!!……お前……調子に乗んなよ」

茶髪男の雰囲気がガラリと変わってオレを睨みつけながら妖気をぶつけてくる。

「は?どっちが?」

一瞬で部屋の中の空気が変わる。
これが妖魔同士の睨み合いか。

そんな妖気にオレは臆したりしない。
隣にいる耀のほうがビクリとしてオレの腕にしがみついてきた。

「やめろリッシュ。彼の言うとおりだ」
「ルース!!」

黒髪男の静止の声で茶髪男……リッシュが納得いかないという声で黒髪男……ルースに向き直った。

「右京という人物に会わせてくれ」

ルースが落ち着いた声でそう言った。





「なんで僕達がワザワザ会いに行かなくちゃいけないのさ」

あのあとオレから草g家の執事である佐久間さんに話をして右京君に取り次いでもらった。

その途中の廊下でさっきからずっとリッシュはブウたれてブツブツ文句を言い続けてる。

耀は次の約束をして仕方なく今日は帰した。
本当ならもうちょっと耀とイチャイチャするつもりだったのに……
ったくオレの方が文句言ってもいいくらいだっての。

右京君に会うにはすぐにというわけにはいかなくて1時間ほど経ってから右京君が暮らしてる
母屋に来るようにとのことだった。

「右京君はここのご当主様なの俺様だからそのつもりで」
「はあ?何様だい。僕が教育し直してあげるよ」
「どうかな?気を付けないと消滅させられるよ。右京君気まぐれだから」
「何それ?」
「会えばわかる」
「…………」

リッシュは頭の後ろで両手を組みながらまだブツブツと呟いてる。
ルースはさっきから黙ったまま静かに歩いてる。

言われたとおりいつもの応接間に3人で入ってソファに座った。

「ふわぁーーー広い部屋!しかも豪華」

リッシュが座った途端天井を仰いでそんな言葉を漏らす。

建物自体は古いはずなのにそんなことを全く感じさせないほど管理が行き届いてる。
置かれてる家具も古そうなのに品があって目を奪われるんだ。

オレも初めて屋敷の中を見せてもらったとき驚きと感嘆ばかりだった。
弟の一唏も目をパチクリさせてたっけ。

「人呼んどいて待たせんの?ホント何様だよ」

この部屋に来てものの5分でまた文句を言い出すリッシュ。
ったく一体何歳なんだよ!お前?ガキじゃあるまいしもうちょっと辛抱できないのか?

「だから右京様だよ」

オレは同じ言葉を繰り返す。
でもそれが右京君のことを一番言い当ててる言葉だから仕方ない。

「だから何それ?」

ガ チ ャ !

「 「 「 !! 」 」 」

静かに入口の扉が開いて右京君が入って来た。
オレは1日ぶりか……

「…………」
「…………」

ルースとリッシュは黙って右京君がこっちに歩いてくるのを見てる。

草g家の当主で“邪眼”という一族独特の力を一番強く使うことのできる男。
見た目は年齢よりも幼く見えるけどその気質はなかなか激しい。

応接間に置かれた右京君専用のイスにゆっくりと腰を掛けて足を組む。
肘掛に肘をついて両手を組むと静かにオレ達を見る。

「僕に会いたいと言うのは君達かい?」



応接間に右京君の静かなそれでいて重みのある声が落ちると

部屋の空気がピシリと鳴った気がした………