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 * 最後のほうに男同士の超軽い未遂キスシーンあり!ご注意を!! *




「オレはルースそして彼がリッシュ。いつも一緒にいてこっちに来た時も2人でいた。
こっちでの宿主を捜していた時大怪我をして今にも死にそうな人間がいた。
全部で4人いたが2人はすでに死んでいた。
朦朧としている人間に入り込むのは簡単だった……オレ達が人間に入り込んですぐ
宿主は怪我が元で死んだ。オレ達の同化は間に合わなかったから助けることが出来なかった……
だからオレ達は宿主のいない身体をもらって傷の回復を待った。
宿主の精神がないせいか身体との同化は短時間で済んだ。
だが宿主が死んだせいで人間の記憶がオレ達にはあまりない。
これまでの生活で多少知識は手に入ったがそれでもまだ足りない。
後でわかったのだが怪我をしていた4人は家族で車が山道から転落したらしい。
助からない高さだったらしいから今オレ達が普通の姿で出て行くわけにもいかず
記憶も定かでないからこの人間の住んでいた所もわからない。
オレとリッシュの宿主は兄弟だった」

そこまで一気に話すとルースは一息ついて黙って右京君を見つめた。

「で?僕にどうしろと?」

じっと黙って話を聞いていた右京君が口を開いた。
開いて発した言葉はなんの感情もない突き放したような言い方だった。

「迷惑をかけていることはわかっている……
オレ達はこの人間がどこに住んでいてどんな暮らしをしていたのか知りたい。
そして出来ればしばらくここに置いてもらえないだろうか」

「なぜ?」

「オレ達は今は人と馴染んで暮らせていない……ここでこの世界に慣れながら先のことを考えたい」

「その手助けを何故僕がしなければいけない?」

なんの迷いも躊躇もなく右京君は即答した。
その声は最初から変わらない冷めた言い方だ。

「もう!!何だよっ!コイツのことは面倒をみて僕達のことは知らん顔かよ!」

リッシュの我慢の限界が来たのか右京君に大声を出してくってかかる。

「ロストは僕が直接係わった。だから僕が最後まで責任を持つのは筋と言うものだ。
そのロストの宿主を彼になってもらった。
だから彼の人生の責任を持つのも僕の責任だと思っている」

肘掛に肘をかけ片手で自分の顎に指をかけながら見下す眼差しで淡々と話続ける右京君。
静かな喋り方と声が2人のことには無関心だってのが伝わってくるようだ。

「だから……お前に係わってない僕達のことは……知らないって……か?」

リッシュがフルフルと震えてるように見える。
きっと怒りが込み上げてるんだろうと思うけど……相手は右京君だからな……大ごとにならなきゃいいけど。

なんて一抹の不安が過ぎる。

「当然だろう。ボランティアで彼の面倒をみてるとても思ってたのかい?」

右京君が微かに微笑んだ。
明らかに相手を馬鹿にした笑いだった。

「……ムカつくっ!!お前すっごくムカつくっ!!ルース!コイツ殺していい?」

「リッシュ!」

流石にリッシュもそんな右京君の態度に気づいてあっさりとぶちキレる。
仕方ないと言えば仕方ないんだけど……なんだかなぁ……
リッシュはいいように右京君に転がされてる気がする。

ただその場が一瞬で異様な空気がたち込める。
リッシュが放つ妖気が解放されてるんだ……でも……

「僕を殺すって?この僕を?そう……面白いことを言うねお前は」

「 「 !!! 」 」

その場の空気が凍りついた。
右京君が 『 邪眼 』 を発動したからだ。

「妖魔如きが偉そうなことを言う。妖魔の肉体ならまだしも人の身体を借りないと
ここでは生きていけないくせに。僕に刃向かうつもりかい。
面白い……ならば自分の身を守る為に僕も抵抗することにしようか?」

言いながら座っていたイスから静かに立ち上がるとゆっくりとリッシュのほうに歩いて行く。

右京君の一族は昔から不思議な能力を持っている。
『邪眼』 と呼ばれる特殊な瞳で念を込めて相手を見つめると相手の意思を思うがままに操れる。
“目力”とも言うのだろうか?一種の催眠術のようなものらしいけど右京君はその力が異常に強くて
相手の記憶までも操れる。

そして……命を奪うことも可能らしい。
『呼吸を止めろ』 と命じればいいだけだ。

「……な…なんだよ……来んなよ!!」

ルースもリッシュも右京君の瞳に射抜かれて動けない。
右京君の瞳は一層禍々しさを増して妖しく光っている。

すっと手を伸ばしてリッシュの顎を優しく持ち上げる。

「…………」

リッシュは黙ったまま右京君を見つめ続けてる。
見つめてるんじゃなくて目を逸らすことができないんだ。

さっきとは違う意味でリッシュの身体は震えてる。

でも右京君から逃げることは出来ないしルースもオレも動くことが出来なかった。

「 「 !!! 」 」

ゆっくりと顔を近づけてリッシュの唇に右京君の唇が触れる瞬間……

「くすっ……“死ね”」

静まり返った部屋に右京君の声が紡ぎ出された。

「待て!右京!!」

オレの中のロストが右京君を止めた。

「なぜ止めるロスト。僕に命令するのかい?」

リッシュの顎を掴んだまま瞳だけでオレを睨む。
珍しくロストがオレを押しのけて表に出て来た。

「そこまでしなくてもいいだろう……右京」
「これは正当防衛だよ。やられる前にやらなければね」

そんなことを言いながら右京君は楽しそうだ。
笑ったわけでもないんだけどなんとなくそう感じる。

「またそうやって拗ねるな。大人気ないぞ」

「僕に意見するな。黙って見ているがいい。僕に失礼な口を利いた報いだ」

視線を目の前のリッシュに戻して言い切る。
そして目を細めた。

「右京!!私はこの2人も助けたい!!」

「 !! 」

「私の……頼みだ……頼む……少し時間をくれ」

未だにリッシュの顎を掴んだままオレのほうを振り返る。
うわぁーーとんでもなく不機嫌な顔。

「……………君が責任を持つと言うのかい?」

スッとリッシュから離れるとオレに……ロストに向かって問い掛けた。

「ああ…」
「……そう。ではロストに免じて一週間時間を与えよう。その間僕は君達を観察させてもらう。
ぜいぜい僕に愛想を尽かされないように気をつけることだね」
「すまない右京。恩に着る……」

フッと部屋の中の空気が変わった。
緊張が解けたみたいに穏やかな雰囲気が漂い始める。

「言っておくがここにいる間僕に向かって暴言は許さない。
僕はいつでも君達をこの世から消滅させることが出来ることを憶えておきたまえ」

2人にそう言い放つとオレ達に背を向けて右京君は部屋から出て行った。


「………ふう」
「………はあ」
「………ひゃあ」

3人で一斉に溜息をついてその場にへたり込んだ。
と言ってもソファにドサリと座り込んだんだけど身体から力が抜けた。

「何なんだよ今の?あいつ人間?いくら純正な妖魔じゃないからって僕達のこと
眼力だけで押さえ付けたよ?」

「命拾いしたなお前。次は知らんからな。右京を怒らすな!わかったか?2人共」

ロストがオレの身体でオレの声で喋ってる。

自分の身体の中に閉じ込められてるような……暗いどこかかから水面を見上げてるような……
でもちゃんとロストが見てるものが映像としてオレにも感じることが出来る。
なんとも変な感じでやっぱ慣れない。

「彼はなんだ?あの瞳は人のものではないぞ!!」

ルースが珍しく興奮気味だ。

「あれが右京だ。人間の身体から私達妖魔を取り出すことが出来る。
そして自分の中に取り込んで消滅させることもな」

「 「…………」 」

経験済みのロストの言葉とついさっき会った右京君を思い出したのか

ルースとリッシュは黙ったままだった。