02





「まあまあいらっしゃい!待ってたわ!」

「ただいま。」

電車で約1時間半…何ヶ月振りの実家だろう。

「お正月以来かしら?本当帰って来ないんだから。」
「ごめん…色々忙しくて…」
「そりゃこんな可愛い相手がいたんじゃこっちになんて帰って来ないよな。」
「いや…」

チラリと真白を見た。

「あ!は…はじめまして…」

来る前に何度も練習した挨拶だ。

「まあ玄関先で話もないだろ。上がりなさい。」
「ああ…祐斗は?」
「ちょっと出てるわ。でもお昼過ぎには帰るって。」
「そう。」


会社員の父親と専業主婦の母親後は歳の離れた大学生の弟。
ごくごく普通の家庭だとオレは思う。

だから…そんなにもめずに話は進めると思うんだけどな…

「もうビックリよ。いきなりお付き合いしてる人を連れて来るなんて言うんだから。」
「ああ…驚かして悪い…」

子供の頃から親には何も迷惑も心配も掛けてこなかった…
だから親のオレに対する信頼度はあると思うから早々反対されるとは思わないが…

「まあ春悸もいい年だからそんな相手がいてもおかしくないだろ。」
「でも随分お若いお相手ね…まさか高校生なんて言わないわよね?フフ…」

母親がちょっと心配そうな顔で笑う。
確かに真白はパッと見高校生に見えなくも無い。
実際の年齢は幾つかわからないが米澤からもらった戸籍謄本を見ると
真白は二十歳って事になってた。

まあその年齢が一番無難と言えば無難だし…

「ハタチだよ。」
「そう…えっと…真白…さんでしたよね?」
「!」
「珍しいお名前よね。でも可愛らしいわ。」

「 ハルキがつけてくれたの ♪ 」

「 「 え!? 」 」

「なっ!!!」

真白の奴喋ったと思ったら変な事言い出して!!!
しかも大きな声でハッキリと!!

「あ…あら…それはどう言う…?」
「それは…うぐっ…」

それ以上何を言うつもりだ!!真白!!猫だったとでも言うつもりかっ!!
オレは慌てて真白の口を塞ぐ。

「め…珍しい名前だろ?で…でも色白の真白いはピッタリだよな…はは…」
「そ…そうね……あら?春悸…それ…」
「あ…」

母親が真白の口を塞いでるオレの手の指に光る指輪を見付けたらしい…

「あ…あの…2人共…驚かないで欲しいんだけど……」
「なんだ?」
「実はオレ達…もう籍も入れて夫婦なんだ。」
「え?」
「あら…まあ…」
「電話でこの事は話す気になれなくて…黙ってて悪い…」
「いつ入籍したんだ?」
「先週…」
「あちらのご両親は?その事知ってるのか?」
「真白は親も身内もいない…」
「亡くなったのか?」
「ああ…」

ほとんどがウソの事で多少罪悪感が無いわけじゃない…
でもホントの事なんて言えるはず無いもんな…だからこのウソは貫き通さなくちゃいけない…

「そんなに急いで…もしかして出来ちゃったの?」
「まっ…まさか!!そんなんじゃないから!」
「あら…そう…」
「何ガッカリしてるんだよ…」
「え?だって今時出来ちゃった結婚なんて当たり前だから春悸もそうなのかって…
だってあなたもう27でしょ?私達だって早く孫の顔が見たいわよ。」
「あ…あのな…」

「お前が決めたんだろ?」

「え?」

父さんが真面目な顔で聞いてくる。

「もう勢いで決める様な歳でもないしな…早いって歳でもないし…良いんじゃないか!
春悸が決めたんなら。なあ母さん。」

「…………」

半分は勢いなんだけど…まあ…いいか…

「そうね…それにもう籍入れちゃったんでしょ?今更反対って言うのもね…」
「それに反対したら別れるのか?」
「まさか!!」
「じゃあ父さんも母さんも何も言う事は無いよ。春悸…おめでとう。
ついに所帯持ちか…頑張れよ。」
「父さん…」
「じゃあ今夜はお祝いね。泊まって行くんでしょ?って言うか泊まって行きなさいよ。今回くらい。」
「ああ…そのつもりで来た。」

本当は真白の事もあるからサッサと帰りたかったんだけど…
長居していつボロが出るかわからないし…でも今回は仕方ない…

「祐斗にも早く帰って来る様に連絡しないとな。」
「そうね…まあ〜忙しくなるわ ♪ ふふ…」
「オレの部屋まだ使える?」
「ええ…あなたが出てった時のままになってるから…
来るって言うからちゃんと空気の入れ替えも掃除もしておいたから使えるわよ。」
「じゃあ荷物置いて来る…真白行くぞ。」
「は〜い。」

階段を上がって向かって右の部屋がオレの部屋…高校を卒業するまで使ってた部屋だ。
ドアを開けると…昔のまま…布団は無かったがベッドに机に…本棚に…懐かしい…

「ここにもハルキの匂いがするよ。」

部屋に入るなり真白がそう言ってクンクンと匂いを嗅ぐ。

「当たり前だ。オレの部屋だからな…って言っても10年近く使ってないけど…」
「ふ〜ん…」

そう言って真白がベッドに腰掛ける。

「ずっと黙ってて疲れた。ちょっとも話したらダメなの?」
「真白が話すとヤバイんだよ…さっきも余計な事言いそうになって…
ハラハラさせて…寿命が縮む所だ。」
「じゃあ真白ずっと話しちゃダメなの?」
「ちょっとの間我慢しろって。まあ普通の話なら構わないんだけど…
どこでどうボロが出るかわからないからな…」
「何か出るの?」
「真白が元は人じゃ無いってのがバレたらマズイから。その辺わかれよ真白。」
「うん…わかった…」

何となく真白がシュンとなってる気がして…

「明日には帰るしちょっとの我慢だ…真白…ちゅっ!」

座って俯いてる真白の顔を顎に指を掛けてクイッと上を向かせて唇に触れるだけのキスをした。
途端に真白の顔が明るくなる…まったく…現金な奴だよな。

「ハルキ…」

真白が立ち上がってオレの首に腕を廻して抱きつく。
前は真白が飛べたからオレはそのままだったけど今は真白は背伸びするのが良いところで…
補えない背の差はオレが屈むしかない。

「ん……ちゅっ…クチュ…ふぅん……」

何でだか…その気になって結構濃厚なキスになってた…
もともと真白とのキスはオレは頭真っ白になるしいつもならそうならない様に
真白に何気にセーブさせる様にするんだが…今は真白のしたい様にさせてたから…

そんなキスを自分の部屋でって言うのもドアが閉まってて見られる心配が無いと思って
気を抜いてたのか…誰かが階段を上がってくるのなんて気付かなかった。

「ん……ンン……」

「兄貴っ!!!結婚したんだって!?」

そんな声と同時に部屋のドアが バ ン !! と勢い良く開いた。

「 う”っっ!!! 」

「 !! 」

真白にキスをしながら弟の祐斗と視線が合った。

とんでもなくバツが悪いーーーーー!!!

「やっ…ああ…えっと…悪い!!」
「ノックぐらいしろよ。」

一応兄貴の威厳を保ちつつ…内心は恥ずかしさでいてもたってもいられなかった。

「ハルキ?」

こんな時真白は至って普通で…一番落ち着いてたんじゃないか?

「ああ…弟の祐斗(hiroto)で真白だ。」

焦っていい加減なお互いの紹介だった…

「おとうと?」
「弟の祐斗です。初めまして真白ちゃん ♪ 兄貴にしてはこりゃまた可愛い嫁さん捕まえたな〜
もしかして高校生?」
「そんなはずあるわけないだろ。ハタチだよ!ハタチ!!」
「へえ〜どう見ても 「幼な妻」 だろ?ヤラシイな〜兄貴!」
「アホかっ!!変な想像するな!」
「おとうと……えっと……」
「ん?何?真白ちゃん?」
「………真白?」

何だかオレは嫌な予感がする。

「 おとうとはだめよっっ!!なの!! 」

「は?」
「…………」
「 ♪ ♪ 」


祐斗指さしの大きな声で…真白が満足気な顔でそう言い切った。

だから…昼ドラの見過ぎだって…真白…