02
ハルキ、早く帰ってこないかな……。
コンビニから帰ってから、ソワソワとハルキが帰ってくるのを待ってる。
それなのに、今日はハルキ帰ってくるの遅くなるんだって。
「うぅ〜ハルキ〜」
お風呂も入らずに、ソファの上でゴロゴロと時間をつぶしてる。
だって、お風呂はハルキと入るって決めてるんだもん。
「はっ!」
ガチャリとカギのあく音がした。
ハルキが帰ってきた。
ソファから起き上がって、バタバタと駆け出して玄関を目指す。
「ハルキーーーー」
「うわっ!なんだ?」
くつを脱いでるハルキに、走った勢いのまま胸に飛び込む。
ちょっとよろけたけど、ハルキは片手で壁につかまってましろをもう片方の手で
だきしめてくれた。
「ハルキーー」
「なに?どうした?なにかあったのか?」
「あのね……ん?ハルキなんかクサイ」
抱きついたハルキから、なんだかいつもは匂わない変わった匂いがする。
「ああ、お酒飲んだんだ」
「おさけ?」
「ときどき家でも飲んでるだろ?アレ」
「あの顔が赤くなるやつ?」
「そう」
「でも、いつもよりクサイ」
「今日はけっこう飲んだしな。で?なにがあった」
「あ!あのね、あのね!!ハルキはましろのこと、愛してないの?」
「は?」
家に帰って玄関で靴を脱いでると、真白が突進してきて酒でちょっとフラつくオレに、
いつものように飛びつくように抱きついてきた。
これが、かなりの衝撃だったりする。
結婚式をうちの親に急かされ、今日はそっち関係の知り合いに相談してた。
タイミングがよかったのか、たまたまキャンセルがでて、大安の日に空きができたという。
すかさずその日を押さえてホッとしたのか、つい酒が進んで今日は少し飲みすぎたみたいだ。
飲みすぎでヨロケながら、なんとか真白を抱きとめて、何に慌ててるのか話を聞けば、
いきなり “真白のこと愛してないの” ときた。
一体オレのいない昼間に、なにがあった?
焦って不安そうにオレを見上げる真白を見下ろして、詳しい話を聞く。
「なに?誰かに何か言われたのか?ソウジさん?」
「ううん、言われたんじゃなくて、ましろが聞いちゃったの」
「ん?」
「あのね、公園で赤ちゃんがお腹にいる人が言ってたんだけど、 “愛されてるから赤ちゃんできた” んだって!」
「え?」
「だからそれって、ましろはハルキに愛されてないから赤ちゃんこないんでしょ?」
「…………」
どうしてそういう話を、ドンピシャで聞いてくるかな?
「真白、“愛してる” って意味わかってるのか?」
「え?えっと……んっと、“好き” よりもうれしいことばなんだよ。それ言われるとテレビの女の人
すっごくうれしそうに笑うの。だからきっと、とってもいい言葉なんだよ」
どうやらニュアンスはわかってるらしい。
「赤ちゃんこないのは、ましろがハルキに愛されてないからなの?」
「真白……」
オレにしがみつきながら、眉がハの字に下がってなんとも情けない顔をする。
そういえば真白には “愛してる” とは言ったことがなかったのか。
愛し合ってなくても子供はできるんだけど、それを真白には言うつもりはない。
確かに愛も必要だろうけど、実際はやることやれば子供はできる。
「そんなことないよ。オレは真白のことが好きだし愛してる」
「ホント?」
「じゃなきゃ真白と結婚なんてしない」
言いながら真白の頭を撫でる。
そのまま頬を指先で撫でて、顎に触れて上を向かせる。
「ハルキ……」
「真白」
チュッと触れるだけのキスを何度かして、そのまま舌を絡める深いキスをする。
「んっ……ハルキ……」
玄関からリビングに繋がる廊下で、真白を抱きしめて貪るようにキスを交わす。
前から真白とのキスはオレの頭を真っ白にするのに、今夜は酔ったせいもあるからか、
余計何も考えられないくらいに真白とのキスに夢中になる。
「はぁ……真白……」
ウルウルと潤んだ瞳の真白と見つめ合う。
「ハルキ……」
オレの名前を切なそうに呼ぶ真白を抱き上げて、リビングのソファにふたりして倒れ込んだ。
「にゃっ……ハルキ……」
キスを繰り返しながら、真白の着ている服を一枚ずつ脱がして真白を裸にした。
真白の身体中に唇を押し付けて、吸い上げてオレの痕を全身につけていく。
頭の中が真っ白になりながら、心地いい真白とのキスを繰り返して真白の身体を解していく。
「んぁ……ハルキ……ハル……キ……ましろのこと……愛してる?」
「ああ、愛してるよ」
「じゃ……じゃあ、赤ちゃんくる?」
「そんなにほしいのか?真白」
「ちがうよ」
「?」
「それがハルキがましろのこと愛してるってことなんで……しょう?」
不安そうな瞳を揺らしてオレを見上げる真白。
世の中のことに疎くても、オレが真白のことをどう思ってるかには敏感で、素直な真白は
ありのままでオレにその気持ちをぶつけてくる。
真白が頼れるのはこの世の中でオレただひとり。
米澤もいるけれど、真白は彼女とは一線を引いてて、そんなに頼ってる様子はない。
米澤も魔女という立場と、監視役という立場から、あまりオレ達に干渉はしてこない。
真白にはオレだけという優越感というわけではないけど、オレだけを求めてくる真白を愛おしいと思う。
だから色々なことを覚悟の上で真白を受け入れたんだから。
「くすっ……それもそうだけど……赤ちゃんこなくてもオレは真白のことを愛してる」
「!!」
「愛してるよ、真白」
「ハルキ……」
愛してるの意味を、真白はなんとなく理解してるみたいだけど、オレから直接言われると、
理屈抜きで真白には伝わってるのか?
さらに真白の瞳がウルウルとする。
「結婚式……決めてきたから、オレのためにウェディングドレス着てくれよな」
「けっこんしき?」
「結婚式をしてもオレは浮気なんてしないから……真白はなにも心配することなんてないんだからな」
「……うん……」
真白が本当に嬉しそうに微笑むから……色々なモノがオレの頭からすっぽ抜けた。
しかも、ときおり耳に届く真白の 『にゃっ』 とか 『んにゃ』 なんて猫の鳴き声が余計オレを煽る。
どのくらい時間が経ったのか、目が覚めたら夜中で裸の真白を抱きしめてソファで眠ってたらしい。
自分ははだけてはいたが、ワイシャツとズボンを穿いたままだった。
どんだけ切羽詰ってたんだ、オレ?
さすがにこのままでは風邪をひくだろうと、お風呂に入るためにオレにひっついて寝てる真白を起こす。
眠そうに目を擦る真白が起き上がるの待って、お風呂に入ると告げると真白がソファから立ち上がった。
「ハルキ」
「ん?」
真白が立ったまま動かない。
「ほら、早く来い」
明日……いや、もう今日だけどオレは会社があるんだよ。
そんなこともすっかり抜け落ちてた。
酔いのせいか……真白との行為のせいか?
どんだけ盛ってたんだ、オレ?
「なんか、身体からでてきたよ?なに?」
「!!」
真白が困った顔でオレを見上げる。
オレは真白のそんな言葉で、真白の下半身を凝視してしまった。
あ!避妊すんのすっかり忘れてた!!!!
「え?ハルキ?」
オレは無言で真白を抱き上げて、即行で浴室に飛び込んだ。
結婚式……早めに挙げられてよかったかもしれないと、ホッと胸を撫で下ろした。
もしこれで子供ができたら……ハネムーン・ベビーだと周りは思うんだろうか?
なんてどうでもいいことを思いながら、ちょっと遅い真白との入浴時間を堪能した。