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大人としての威厳と見栄と理性で何とか自分のまどかを押し倒すと言う衝動を押さえ込んだ。

まどかがここに来て丸2年…大体最初からオレはあいつを受け入れ過ぎてたと思う。
あっさりと1つのベッドで寝てキスまでして…朝起こしてやってほとんどのご飯作ってやって…
何から何まで面倒見てやって…
いつの間にかそれが当たり前で自分の役目なんじゃないかと思ってたふしがある。

何で何の違和感も無くそんな事になったのか…自分でも不思議だった。

でもオレとまどかの間には初めから文香がいて…
文香がオレとまどかを引き合わせた…
何となくああ…だからなのかと思える自分がいる。

ただ…歳…離れすぎだろ?文香…



「大ちゃん…」

ビ ク ン ! 

「なっ…何だ?」

「あの…あのね…」

何でだ…いきなりまどかの何でもない動作や仕草や言動がこうも気になる様になったんだ!
大体最近のオレはまどかに振り回されっぱなしだ!

「今日から…大ちゃんのベッドで一緒に寝ても良い?」
「!!!なっ!だっ…駄目に決まってるだろうっっ!」
「え?何で?」
「なっ…何でって…言っただろ?1つのベッドでオレとまどかが寝るのはマズイって!」
「今も?」
「今もって?」

「だって大ちゃんあたしの事好きなんでしょ?
あたしも大ちゃんの事が好きなんだからもう何も問題無いと思うけど…」

「…………」

違う!逆に問題なんだよ!

「駄目だったら駄目!」
「えー!何で?」
「大人の事情!」
「もうそればっかり!何なの?大人の事情って?」
「!!そっ…それは…」

大人の事情と言うが…オレの事情と言うか…

「とにかく今夜から大ちゃんと一緒に寝るからね!」

「だから…」


もうオレの言う事なんて聞いちゃいない…でも…

まどかの言う事はもっともで…あんなキスをオレからしたくせに今更だ…




「ちゃんと試験勉強してるか?」
「してるって!大ちゃんこの状況でそんな話しないでよ!」

大ちゃんのベッドで2人並んで寝てるのに大ちゃんはさっきから学校や試験の話ばっかり!

「大ちゃ〜ん ♪ 」

だから甘える声で大ちゃんに抱き着いた。

「変な声出すな。」
「………ジー……」
「何だよ…」

まどかが期待一杯の眼差しをオレに向けてる…

「大ちゃんあたしの事好きなんでしょ?」
「…だから?」

「ちゃんと言って!」

「 !! 」

「ちゃんと言ってもらってないよ!」
「そうだったか?」
「うん。」

「………………」

ふと…ちょっとからかってやろうと悪戯心が働いた。

オレがどんだけその気にならない様に気を逸らしてるかなんてこれっぽっちもわかってない…

爆弾発言を何の前触れも無く人に落として…そう言えば何もかもまどかは知ってたんだもんな…


「いいよ…はっきり言う…」

「え?」

真面目な顔でまどかに向き直った…まどかが焦ってるのが顔でわかる。

今までまどかは男と付き合った事は無い。
まあ学校で話すくらいはあるだろうがさっきのキスも知識では知ってるって言ってたし…
多分テレビや雑誌で知ってるくらいだろう…

まどかの首の下にオレの腕を入れて肩に手を廻してオレの方に抱き寄せた。

「大ちゃん…?」

じっと視線を合わせてキスをする角度で顔を近付けていく…



『いいよ…はっきり言う…』

って言った大ちゃんが改まってあたしに向き直った。
抱き寄せられて…何だか真面目にキスしてくる様な雰囲気で…
あたしの心臓はドキドキしてる…また…さっきみたいなあんなキスされるのかな…

息出来なくて…頭クラクラして…心臓がバクバクする……大人のキス…

「…あっ…」

あと数ミリって所まで大ちゃんの唇があたしの唇に近付いたからあたしはそっと目を瞑った。

なのに…

「おやすみ…まどか…」

「へ?」

唇には何も触れる事無く…大ちゃんの低くて…甘い声が耳に響いた…

「大ちゃん…?」

もう最初の位置に戻ってる大ちゃんがにっこりと笑って仰向けに寝転んだ!

「ちょっ…大ちゃんっっ!!!何?今の!!!」

「正直に今の気持ちを言った。」
「お休みの挨拶が?」

もう目を瞑って布団まで掛け直してる大ちゃんに向かって思わず言葉を荒げる!

「ああ…お休み…」

「………大ちゃん!!!!」

しっかり目まで瞑っちゃった!!!

もーーーーーーっっ!!!ズルイんだからっ!!誤魔化した!!!







「…朝からその顔は止めろって…」

「ふーんだ!誰のせいよ!」

まどかがいつもの自分の場所のキッチンテーブルのイスに座って膨れっ面だ。
昨夜の事が未だにご立腹らしい。

「ほら…支度しないと学校遅れるぞ。」
「わかってるわよっ!!!」

昨夜寝る前はあんな風だったけど…もしかして…?なんて期待して寝てたあたしがバカだった!
大ちゃんは素っ気なくて…あたしに指一本触れずに平気な顔して朝まで眠ってた!!

「…………」

まどかが睨み付ける様にオレを見てる。

「何だよ?」
「大ちゃんにはがっかり!」
「は?」
「なぁ〜んにもしてくれないんだもん!!」
「何が何にもだ?」
「……そのくらい察してよ!!鈍感男!!」
「は?」
「まさか…大ちゃん……」
「な…何だよ…」
まどかが何か別の生き物でも見る様な目付きでオレを見る。

「もしかして女の人抱けない身体なの?勃たない…とか?」

「 !!!!……朝っぱらから何言い出すんだ!!お前はっっ!!! 」

あまりの驚きに思わず怒鳴ってしまった!!!
よりによってなんて事言い出すんだっ!!コイツはっ!!

「それに年頃の女がそんな下品な事言うんじゃないっっ!!!!」

「だってそれ以外無いじゃないっ!!両想いの恋人同士が一緒に寝てるのに
何にもなしだなんてっっ!!普通抱擁の熱いキスの………でしょ?」

「……お前自分が高校生だって忘れてんのか?」
「今時高校生でもそんなの普通だもん!」
「ああそう…でもオレはハイそうですか…っていう勢いでそんな事しない。」
「……痩せ我慢して…」

ボソッとまどか呟いた。

「勝手にそう思ってろっ!」

相手に出来なくてまどかに背中を向けて着替える為にキッチンを出た。
まったく…あいつは…オレがどんだけ気を使ってるかわかってるのか……

「大ちゃん……」

「?」

寝室で着替えてるとまどかが入り口のドアから顔だけ出してオレを呼んだ。

「あの……変な事言って…ごめんなさい…」
「……もういい…」
「怒った?」
「別に…」
「…怒ったんだ…」
「………だから怒ってないって…!!!」
「………」
「まどか…?」

まどかがオレの背中から抱きついてオレの身体にまどかの身体が密着する…

「早く大人になるから…」
「ん?」
「早く大人になって大ちゃんの相手ちゃんと出来る様になるから…」
「誰もそんな事言ってないだろ…」
「だって…あたしが高校生で子供だから何もしないんでしょ?」
「子供だとは思ってない…でも…だからってそんなに急がなくてもいいだろうって思ってる…」
「大ちゃん…」

「オレはもう30で結婚もしてそれなりに人生経験積んでる…
でもまどかはまだ17歳でちょっと前まで親元で普通に生活してて…」

「?」

大ちゃんは何を言いたいんだろう?

「……だから…オレの年でまどかの年の女の子とああ言う事ってどうなのかなって…」

「?やっぱり幼いって言ってるの?」

「違くてさ…オレも学生の頃は何とも思わなかったけど…やっぱり女の子ってそう言うの
身体に負担が掛かるって言うか…精神的にも疲れるんじゃないかなって…」

「??」

ますます分らない??

まどかが怪訝な顔してる…多分オレの言おうとしてる事は伝わっていないんだろう…

「んー…だからオレは文香とそう言う事をしてた。夫婦なんだし当たり前なんだけど…
相手が成人の女で…その…もうそう言う事に慣れてたからオレも何とも思わないけど…」

「大ちゃん…」

「まどかは初めてで…もし昨夜そう言う事してたら今日少なからずショックと言うか…
普通ではいられないと思う…だから何もしなかった…」

「あたしの…ために?」
「そう…今大事な時期だろ?成績下がったら受験にも響くしな…」

「じゃあ…いつなら大丈夫?」

「は?」

「試験も終わって学校が休みならいいの?」

「え?いや…」

なんでそう切り返してくる??

「じゃあ夏休みね!試験も無いし学校も休みだしっ ♪ ♪ 」
「はあ?!」
「決まり!!よしっ!試験頑張るね!俄然やる気になって来たっ!!」
「ちょっと…待て…勝手に…」

何でそうなる??でも浮かれまくってるまどかはもうオレの言葉も聞いちゃいない…

「あ!そうだ!大ちゃん ♪ 」
「ん?」

そう言って振り返るとまどかがオレの首に腕を廻して抱きつく。
と言うか多少身長差があるからオレにぶら下がってる状態に近い…

「お店でご飯食べるから行ってらっしゃいのキス出来ないでしょ?
だから今ここでしよう ♪ ♪ 」

まどかがにっこりとオレに笑い掛けながらそんな事を言う…
確かに他に人が来たら2人っきりじゃ無いからな…
それにしても……こいつは次から次へと…

「はいはい…昨夜ガッカリさせたお詫びにオレがしてやるよ。」
「ホント?」
そのくらいなら…な…
「ちゃんと最後までついて来いよ…テレビや雑誌とは違うんだからな。」
「…う…ん…頑張る…」
ちょっと自信なさげなまどかだ…

「よし……いってらっしゃい…まどか…」

「行ってきます…大ちゃん……ン……」


大ちゃんはあたしの身体をしっかりと抱きしめて…
自分の身体で抱きかかえる様にあたしを包んでくれた…

やっぱり大人の…濃厚な長いキスはあたしにはとっても刺激的で…
相手が大ちゃんだからなのかもしれないけど…

結局頭真っ白になって…最後まで立ってられなくて…

ずっと大ちゃんがあたしを支えてくれてた…


あたしは分らなかったけど…時計の針がしっかり5分は進んでて…

あたしと大ちゃんはその後慌てて着替える羽目になった。