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「え?今月一杯でここを出て行くんですか?」

「はい。お世話になりました。」

「相楽さん…」



あの日から1週間…休みだと言う相楽さんがお店に現れて
『 今月一杯で引っ越す事になりました。 』 とオレに告げた。

「え?本当に?」
「はい。ここに来る前に不動産屋にも行ってきました。」
「そうなんですか…随分急で…何て言ったらいいか…
もしかして…この前の事が原因ですか?」

オレは聞かずにはいられなかった…

「私フラれた相手と毎日顔を会わせられるほど強く無いんです…」
「!!あ…すみません…オレ…」

でも…何て言ったら良いんだ…?

「嘘ですよ。」
「はい?」
「ちょっと困らせてみました。フフ…ああスッキリした。」
「え?」
「前から異動の内定が出ていたんです…そろそろあるだろうと思ってましたから。
だからもし坪倉さんとお付き合いしたら遠距離恋愛になるのかと思ってたんですけど…
おかしいでしょ?そんな事まで考えてたんですよ。」
「あ…いや…」

オレは笑えなかった…

「楽しく過ごせました…食べ物も飲み物も美味しかったです。ありがとうございました。」
「相楽さん…」

「大ちゃん!」

「!!まどか!」

物凄い勢いでお店のドアを開けて飛び込んで来た!

「あ!良美さんこんにちは!大ちゃんあたしやったよ!テストも赤点無かったし
成績も2番だけど上がったよ!ウフフ ♪ 」

「あら良かったわね。頑張ったんだ。」

「うん!ありがとう良美さん ♪ じゃあたし着替えて来るね!」

またバタン!とドアが閉まって店の中に静寂が訪れた。

「相変わらず騒々しい奴だな…」

オレは呆れ気味…と言う事は今度はオレが約束を果たすって事か?
ああ…今夜から大変かもな…

「いつも元気ですね…見ててこっちまで楽しくなるわ。」
「まどかは相楽さんの事お姉さんみたいだって言ってましたよ。」

「本当ですか?嬉しいわ…じゃあ良しとしようかしら…坪倉さんの事…」

「え″っ?」

心臓がドキンとなった。

「お相手まどかちゃんですよね?」
「あ……えっと…」

別にうろたえる事は無いんだが…いきなりの事で心の準備が…

「やっぱり…仲が良かったですものね…お2人。」
「いやぁ…」
「ここに来た時にはもううらやましい程でしたよ。」
「え?そんな風に見えました?」

第三者からはそう見えてたのか…気付かなかったのはオレだけって事なのか…

「もしかして気付いて無かったとかですか?」

「え?はは…実はそうだったみたいで…気付いたのつい最近なんです…
お恥ずかしいんですが…本当に誰とも付き合うつもり無かったんですけど…
でも…あいつはそんなオレなんてお構い無しで…
気付いたらチャカリとオレの中に入り込まれてました…」

「……のろけられちゃいましたね。」
「え?あっ!そんなつもりは…」

この歳で照れた!




「え?良美さん引っ越すの?」

まどかがカウンターから身を乗り出して聞いてくる。

「仕事で異動だって。」
「へえ…デパートなのに?」
「全国規模の店だからな…今月一杯だって…」
「そっかぁ…後で良美さんの所に行ってこよっと…」
「ああ…ちゃんと挨拶してこいよ。」
「うん…………」
「!?…何だよ?」

まどかが意味ありげにオレを見てる。
どうしてだかは分かってたがあえて聞いた。

「ウフフ…明日お店休みだよね…」
「ああ…」
「あたしも今日で学校お休み。」
「ああ…」
「それで成績も上がったし…」
「ギリチョン2番な…」

「………約束覚えてる?大ちゃん?」

やっぱりそう来るか…

「……ああ…覚えてるよ。」
「夜が楽しみだね ♪ 」
「……年頃の女がそう言う事を真昼間から言うな!」
「それだけ期待してるの〜 ♪ 」
「期待するのは良いがちゃんと仕事しろよ。」
「わかってるってば ♪ 」

まどかはずっと前から『今日』を楽しみにしてるが…
オレとしてはただ期待と憧れが先走ってる気がする…
まあオレも気を使うつもりだがまどかはそっちの知識は無いに等しいんじゃないかと思う…

「はあ………」

何だか複雑な心境なのは否めない…



「 ♪ ♪ ♪ ♪ 」

「……………」

お互いシャワーを浴びてオレの部屋のダイニングキッチンにいる。
まどかはずっとハイテンションだ。


「まどか…」

「なに?大ちゃん?」

すでにニコニコだ。

「……別に無理しなくても良いんだぞ?」
「え?何で?無理なんかしてないよ…むしろ嬉しいもん。」

「!!」

まどかがおもむろにオレの目の前にやって来てキラキラの瞳でオレを見つめてる…

「だって今夜心も身体も結ばれるんだよ ♪ 大ちゃんは嬉しく無いの?」
「正直まどかの親の事を考えると複雑だな…宜しくって言われてるし…
何だか裏切ってるみたいで…」

「あ!それなら大丈夫だよ。こっちに高校決めた時にちゃんと全部話して
嫁に出したつもりでいてって言ってあるから。」

「は?」

「だからお母さん大ちゃんに宜しくってしつこいくらいに言ってたでしょ?」

「なっ…」

あれは…そう言う事だったのか…

「安心した?」
「え?ああ…まあ…」

って安心していいのか?

「まどか…」
「もういいでしょ…」

そう言ってオレの身体に腕を廻してオレを見上げる…

「…後悔しないか?別にオレは急がないぞ…」
「あたしは急ぎたい…早く大ちゃんのものになりたいの…」
「………」
「大ちゃん…お願い…」

まどかが望むならと思った…まどかがこれで満足するのならと…
でもオレは不安が無いわけじゃない…

もし…まどかが途中で気が変わってやめたいと言ったら…
オレは…やめる事が出来るのか自信が無かったから…

久しぶりだからとかじゃなくて……

オレの方がまどかよりも自分のものにしたいと言う気持ちが強いのか…?

ちょっと自分なりにビックリだった。




「どうベッドに連れて行って欲しい?」
「え?」
「お姫様抱っこ縦抱っこ…オンブ?」
「オンブ?やだよそんなの!お姫様抱っこに決まってるでしょ!」
「やっぱり。」
「そう思うなら聞かないで!」
「失礼。」

どうもまどか相手だと文香とはしなかったこんな悪ふざけをしたくなる。
ついつい構いたくなってからかって…ムキになるまどかを見るのが愉しい。
面白い程オレが期待してる反応をしてくれる。
逆に真面目に相手をすると途端に焦り出す。
そんなまどかが可愛い…可愛い?まったく…


まどかをベッドに優しく下ろした…そのまま両手を着いてまどかを見下ろす…

期待一杯の顔しやがって…



「大ちゃん…」
「ん?」

やめる気になったのか…なら今のうちの方がオレも止められる…

「あのね…大ちゃんが文香さんとあたしを比べるのは仕方ないと思うの…
だからあたしは気にしない…でもね…」

「………」

「あたしを文香さんの代わりにはしないでね…」

「まどか…」

「あたしを抱いてね…約束ね…」

時々まどかはオレをびっくりさせるほど真面目な事を言う…本当にピンポイントで…

「ああ…約束する…」
「うん…じゃあ…その…宜しくお願いします……」
「ぷっ!」
「も…笑わないで!」
「ワルイ…じゃあ…本当に良いんだな?やめるなら今のうちだぞ…」

「大丈夫…大ちゃんの事好きだから…」

「オレも好きだよ…まどか…」

「え…?大ちゃん今…」

「好きだよ…」



もう一度そう言って…

     何か言いかけたまどかの口をオレの口で塞いだ…