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「え?新しい入居者?」
『はい。小学校先生です。もうそこに決めてらっしゃるみたいなんですが1度ちゃんと
見ておきたいと言う事なのでこれからお連れしますので。宜しくお願いします。』
「はあ…」
まあそれは当たり前だろう…
『また若い女性ですよ。今度こそ進展なさるといいですね。』
「は?」

そう意味ありげに担当の不動産屋はそう言うとさっさと電話を切った。
相変わらず余計なお世話だよ!


「何?新しい人が来るの?」

「ああ…」

お店の電話の受話器を戻したオレに待ってましたとばかりにまどかが話しかけてくる。

「良美さんが引っ越してまだ2週間くらいなのに…」
「まあここは駅から近いし色々生活には便利だしな…」
「女の人?」
「え?」

まどかがカウンター越しに目を細めて覗き込む。
今は丁度お客も途切れてちょっと休憩中。

「何だよその目は…女の人だって。小学校の先生だってさ。」
「小学校の?」
「もう決めてるみたいだけど1度見たいらしい。」
「ふ〜ん…」
「だからその顔やめろ。」
「浮気しないでよ!」
「するかっつーの!信用されてないんだなオレは…」
「だって…大ちゃん女の人に好かれやすいからさ…」
「取り越し苦労だよ。」



「お世話になります。」

「あ…こちらこそ…」

『美人』と言うよりは『綺麗』と言う言い方が合うような20代前半の人だった。
ストレートのちょっと長めの黒髪に控え目なお化粧…

「相原尚美さんです。24歳独身ですよ。」
「はあ…」

オレは別にそんな事どうでもいいんだが…横に立つまどかの視線が痛い。

「彩賀さんお久しぶりね。元気にしてた?」
「はい…」

オレがここを買った時からの担当の北島さんだ。
もう結構いいお歳の世話好きなおばさん…って感じかな…
オレも最初は再婚話し良く勧められたし…
まどかと結婚するなんてわかったら何か煩そうだな…

「彼独り身だからどう?なかなかお相手見つからなくてね。
本人もまるっきりその気無くて…貴女とならお似合いだと思うんだけど…」

「絶対ありえませんから。」

「 !! 」

オレ以外の3人が別々な驚いた顔をした。

「あ!すいません…オレ失礼な事言いましたよね…」

マズイ…

「いえ…そんな事言われても困りますよね…」

大人の対応ありがとうございます…

「まったく…このままじゃ一生独身よ。」

「大丈夫ですよ ♪ あたしがいますから!」

「 !! 」

オイオイ…

「あら嫌ね彩賀さん!あなたとそんな事になったら問題よ!」
急に真面目な顔になったぞ!
「何でですか?」
「親元から離れてお預かりしてる大事なお嬢さんに手をつけるなんて!世間的にもね!」
「………」

あれ?珍しくまどかが黙ったな…

「話しが逸れたけど次の日曜日に引っ越して来ますから宜しくお願いしますよ。」
「次の?随分急ですね…」
「はい…新学期が始まる前に落ち着きたいんで…」
「ああ…」

なるほど…

その後簡単に部屋を見ると2人は満足げに帰って行った。


「!?」

2人が帰った後まどかがオレの手を握ってきた。

「どうした?」
「…あたしと付き合ってるのがバレたら大ちゃん困るの?」
「え?」
「……」

まどかが不安げな顔でオレを見上げてる。

「ああ…さっきの北島さんの言った事気にしてるのか?」
「だって…」
「気にするな。オレ達は真剣でちゃんと結婚も考えてるんだし卒業したらするんだろ?オレと…」

真面目にまどかの瞳を見つめて問い掛けた。

「…………」

大ちゃんがハッキリそう言ってあたしを真っすぐ見つめる…

その顔は真剣で年上の…大人の男の人で…何だか大ちゃん…カッコイイ…

「はい…」

うんじゃなくてはいって返事しちゃった…だってそんな雰囲気で…

「 ! 」

そう返事をすると大ちゃんがあたしの唇にそっと人差し指で触れた!

「本当はキスしたいけど今ここじゃ無理だからな…これで我慢。」
「大ちゃん…」

あたしは嬉しくて…あたしの方が大ちゃんに飛び付きたい気分だった ♪


「あれ?まどか?」

「え?」
「 ! 」

2人で声の方に振り向くと店からちょっと離れた場所に自転車を押しながら男が立ってた。
私服だったが多分高校生?しかもまどかを知ってるとなると…

「結城君!?」

「!!」

結城?結城って確か…まどかの同じクラスの…まどかに……試験勉強を教えた…男…?