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ベッドに入っても大ちゃんは上を向いたまま…
寄り添ったらいつもみたいに肩を抱いてくれたけど…
いつもとどこかちがくて…あたしは目をつぶってる大ちゃんをじっと見上げてた…
大ちゃんは起きる気配が無くて…

「ちゅっ!」

いきなり大ちゃんの頬っぺにキスをしてみた。
どんな反応するのかと楽しみに待ってたらオデコにちゅっ!っと返されて…

「おやすみ。」

だって!!
ええーーーっっ!?どうして大ちゃん!あたし本当に何かした?えーーーー???



その晩大ちゃんはあたしには手を出さず普通に眠ってた!





「まどか!」
「結城君…」

朝学校の自転車置場で偶然一緒になった…お互い自転車通学だから…


「どう?考えてくれた?」
「うーん…あのさ…」
「ん?」
「あたし付き合ってる人がいるんだ。」
「え?そうなの?知らなかった…じゃあ…無理かな?」
「あのね…その相手ってあそこのアパートの大家さんなの。」
「え?大家?マジで?」
「うん…兼喫茶店のマスターであたしのバイト先の雇い主。」
「ええっっ!あの人がまどかの相手?」
「そう!」
「オヤジじゃん?」
「何ですってっっ!」

思いきり結城君を睨んだ!大ちゃんをおじさん呼ばわりなんて許さないんだから!

「おじさんなんかじゃ無いわよ!」
「ああ…ごめん…悪かったよ…じゃあ今まで悪かったかな?
俺まどかは誰とも付き合ってないと思ってたから…」
「ンー…良い意味で刺激になったからいいんだけど昨日から様子がおかしくて…」

「昨日?ああ…もしかして俺の話し聞かれたのかもな…まどかと付き合うって…」

「付き合うんじゃ無いでしょっ!!」

「そうだった。」
「もう…でもびっくりだったよ…あんな告白されてさ…」
「だって頼めるのまどかだけだからさ…何とか頼めないかな?」

「……協力してあげたいけどさぁ…大ちゃんに言わないわけにはいかないな…」

「だよな…え?って大ちゃん?」
「本当は 『 亮平さん 』 なんだけど大家さんだから大ちゃん。」
「ええっ?名前で呼んでないの?」
「だって…前から大ちゃんだもん…」

そんなに驚く事かな??

「でも今は恋人なんだろ?それってなんかいつも 『 大家さん 』 って呼ばれてるみたいじゃん?」
「そうかな?あたしはそんなつもり無いんだけど…」
「ただのアパートの住人ならいいけど彼女にずっと 『 大家さん 』 なんて俺はヤダな。
彼女には名前で呼んで欲しいよ…自分の名前のちゃん付けならまだ許せるけどさ…」
「自分は名前のちゃん付けで呼ばれてるんだ?」

思わず横目で見ちゃった。

「俺は 『 大輔クン 』 だよ。でもいつか…」
「ん?」
「 『 大輔 』 って呼んでもらうんだ。」
「何嬉しそうな顔してんの?」
「その時を想像して!」
「でも結城君がこんな人だとは思わなかったな…」
「こんな人って?」

「うん?あ…変な意味じゃなくて…勉強出来てスポーツも出来て女の子にも人気があってさ…
なんか優等生って感じだったけど…普通の男の子だったんだね…」

「……普通だよ。好きな人とは付き合いたいと思うしHな事もしたい!彼女の全てが欲しい…」

「わあ…情熱的!」
「でもさ…いつまで経っても子供扱いの年下男でさ…苦労してるんだよ…」
「ふーん…あたしも子供扱いだけど…時々は対等に相手してくれる様になったよ。」
「いいよなぁ…やっぱり女の子って大人っぽいのかな…
女の人から見ると年下の男なんてやっぱりガキに見えるのかな?」
「まあ頑張りたまえ!!」

バシンっっ!と結城君の背中を思いきり叩いた。

「ゲホッ!あ…りがとう…」

そんな話しをしてる間にあたし達は教室に着いていた。




「こんにちは。」

「あ…お帰りなさい。」

夕方を迎えるちょっと前に店の前を掃除してたら新しい入居者の小学校の先生の…えっと…
ああ…相原さん!

「ただいま。お店寄ってもいいですか?」
「あ…はい…そうぞ。」

初めて彼女がオレの店に寄った。

「すみません…こちらに越して来てもう大分経つのに1度もお店にお邪魔しなくて…」

「あ…そんな気にしないで下さい…オレの店に来るなんて強制じゃ無いんで…」

そんな他愛も無い会話をした…
相楽さんとは違う…ちょっと控え目な感じで…若いと言うか…元気と言うか…

「やっぱり小学生相手だと体力勝負ですか?」
「え?そうですね…低学年だと体力も必要ですけど…高学年になるともう考え方は
子供よりもちょっと大人な考えなので…ちゃんと向き合わないとって思います。」
「オレに教師は無理だな…きっとすぐゲンコツが飛びそうです。」
「今そんな事したら大変ですよ…色々複雑になってますから…」
「そうですよね…テレビなんかで良く見掛けますけど…先生も大変そうですもんね…」
「…はい…だから…自分がしっかりしなきゃって…思うんですけど……」
「? どうかしました?」
急に考え込んだ様に見えたから…
「あの…管理人…いえ…坪倉さん…」
「はい?」

「今…付き合ってる方とか…いらっしゃいます?」

「え?」


こ…これは??
また…相楽さんのパターン??なのか???

そう言えば最初から此処に決めてたって言ってたし…

まさか……?いや…まさか……な…


「ただいまぁ ♪ 大ちゃん ♪ 」

ド キ ーーー ン ッ ッ ! ! ! 

いきなりまどかが店の入り口から入って来るから心臓が飛び出るぐらい驚いた!!

「…お…おかえり…」
「ん?どしたの?あ…尚美さんいらしゃい…えっと…」
「?」

何だかまどかの様子がおかしい?

「……ごちそうさまでした。またお邪魔させていただきます…」
「あ…はい…」
「…………」

何だか彼女がソソクサと帰った様な感じで…なんか……何なんだ?
え?もしかしてまどかと一緒は居ずらかった…とか?

まさか…な…

「………」

まどかも何だかよそよそしい…
いつもなら…いや…新しい住人にならもう長く住んでる相手みたいに話し掛けるのに…

「別に…世間話してただけだからな。」
「え?」
「……また…相楽さんの時みたいに気にしてるのかなって…」
「あ…やだ…そんな事思って無いよ。」
「…そっか…ならいいけど…」
「……大ちゃん…」
「ん?」

「ちょっと自意識過剰なんじゃない?」

「は?」

「だって若い女の人なら必ず大ちゃんの事好きになるなんて思ってるんじゃないの?」

「は?…ばっ…そんな事思ってる訳無いだろっ!!
オレはお前がまた要らん心配するんじゃないかと思って親切に……
気にして無いなら…別にいい…今言った事は忘れろ。」

「大ちゃん…?」
「…………」
「何だか…最近すぐイジケてる気がする…」
「何だそれは?そんな事無い…お前の考え過ぎだ…」
「そっかな……」



そんな事を言ったけど…本当はまどかの言う通りで…

最近のオレはまどかのちょっとした行動に一喜一憂してる……大人気ない…






「あ…タバコ…」


その日の仕事が終わった後…部屋で一服しようと思ったらタバコが無かった事に気が付いた。

「タバコ買ってくる。」
「え?今から?」

もう時計は10時半を廻ってたが吸いたいと思うと我慢出来なかった。

「すぐそこだし…行って来る。」
「あ…じゃああたしも行く!」

まどかが濡れた髪をタオルで拭きながらそう言ったけど…

「まどかは風呂から出たばっかだろ?パジャマだし…いいよ…オレ1人で行って来るから。」

「…大ちゃん…」


別に素っ気なく言ったつもりは無い…強く言ったつもりも…

自分としては普通に言ったつもりだったのに…何となく気まずい雰囲気だった…




部屋を出て…歩いて約2分程の販売機でタバコを買って戻ると
買いに行く時にはいなかった人影が建物の近くに見えた。

暗い塊だった影が近付くにつれて見分けがつく様になって…
見れば男女のカップル?

女の方は後ろ姿だったから今は誰だか判らないが男の方は…

「ん?え?アイツ…何で…?」

間違いない!あれはまどかのクラスメイトの結城って男だ!
まさか相手は…まどか?
オレがいなくなったこのちょっと時間に…会ってるのか?

もうオレの心臓はドキドキのバクバクだ!!

目を凝らして良く見ると…相手はまどかじゃ無い…
ホッと胸を撫で下ろして…疑ってしまったのかとまた罪悪感にも似た気持ちが湧き起こる。


ちょっと遠くで成り行きを見守ってると結城という奴が周りを気にしながら…
相手の女にキスをした…

そして止めてあった自転車に乗って帰って行った…いつまでも手を振りながら…



あの野郎……一体何のつもりだっ!!
まどかにもチョッカイ出しながらしっかりとキスまでする様な相手もいるのか??ふざけんなっ!!

相手の女はオレの前を歩いてる…これは…一言忠告してやった方がいいのか?

『アイツはあなたとクラスメイトの女の子と二股掛けてます!!』 って!

なんて言える訳無いよな…突然赤の他人にそんな事言われたら怪し過ぎだもんな…

でも不思議なのはいつまでも相手の女がオレの前を歩いてるって事だ…
家が同じ方向なのか?…って…オイオイ…嘘だろ?ここってオレのアパートじゃん…ってあれは…


えっ!!??相原さんっっ!!??



目の錯覚じゃ無い…部屋に通じる階段を上ってるのは…紛れもないあの相原さんだ!!


「え?…何でだ???え??」



オレはそんな相原さんを目で追いながら…

納得いかない気分でしばらくそのまま考え込んでしまった。