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大ちゃんの座ってる席の横に立ってやっと相手の女の人の顔が見れて……

見た瞬間息が止まった……だって……目の前にいる人は…

………文香さん?


「こんにちは。」
「………こ…んにちは…」

座ったままニッコリと微笑まれて…でも私はもうビックリでちょっとパニック!

「こちら佳奈枝さん。文香の妹だ。」
「え?…文香さんの…?妹…さん?」
「佳奈枝です。初めましてまどかさん。お義兄さんがお世話になってるみたいで…」
「え…あ…いえ…」
「お世話してるのはこっちの方だ。食事の面倒まで見てるんだからな。」
「それ込みで家賃払ってるんだからいいじゃない!」
「そうだったか?なんかまどかにはサービスのし過ぎで良くわからないな…」
「いいじゃない!私は特別なんだから…」
「……………」

何だろう…なんとなく…嫌な気持ちになった…

あたし…この人に…文香さんの妹さんに…

大ちゃんと仲が良いって所…見せつけてるみたいだ…


♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

「お…」

その時お店の電話がなった。

「ちょっと失礼。」
「ええ…」
「…………」

何となく気まずい2人にきりになった気がする…

普段あたしはあんまり人見知りなんかしたりしない…
別に自分から話しかけるのも嫌じゃないし…でも…佳奈枝さんは…

今までの相楽さんとかお店に来るお客さんとは違う気分…

「本当にお義兄さんとお付き合いしてるの?」

「え?」

「いえ…随分お若いし…それに…」

それに?

「姉さんとは大分タイプが違うからどうしてかと思って…」
「え?」
「やっぱり若さが武器なのかしら…」
「………」
「お義兄さんも男ですもんね…若い女の子に言い寄られれば悪い気はしないでしょうね。」
「………」
「私…ずっと待ってたの…お義兄さんが姉さんの事忘れるまで…」
「え?」
「私…姉さんに似てるでしょ?双子かと間違われた事もあるのよ…
だから逆に私の事お義兄さん避けてたみたいだから…ちょっと辛かったけど…
まさかあなたみたいな子に横から手を出されるなんて思わなかった…
お義兄さんしばらく恋愛とかに興味なさそうだったから…安心してたのに…」

「あの……」

え?どう言う事?この人大ちゃんの事…ずっと…好きだったって…こと?

「………」

「今日から私達ライバルかしら?」

「え…」

心臓がドキドキドキド……

「佳奈枝さんご主人から伝言!今から迎えに来るって。」

「あ…はい…すみません分かりました。」

大ちゃんの方を向いてニッコリと笑う。

「え!?」

今…ご主人って?言った??

「あらやぁね〜あっさりバレちゃった ♪ 」
「へ?」

そう言ってぺろりと舌を出して笑った。

「え?え?」
「ちょっとイタズラしちゃった。ごめんなさいね。まどかさん。」

「は?」

そう言って左手の薬指のリングも見せてくれた。
本当に結婚してたんだ…

「だって〜いきなりこんな若い彼女が出来たなんて言うんですもん。
しかもお義兄さんったら嬉しそうに話すもんだから…
私の立場から言ったらちょっとそんな気分になっても仕方ないでしょ。」

「……はぁ」

それって…ど…どうなんだろう?

「姉さんのお墓参りに来たの。主人の転勤でしばらく会いにこれないから…」
「遠くなんですか?」
「そう…ちょっと遠いわね…でも久しぶりにお義兄さんに会ってびっくりしたわ。
随分雰囲気変わっちゃって…今まで心此処に非ずって感じだったのに…
それもまどかさんのお陰みたいね。」
「あ…はあ…」

何だか照れる。

「喜ぶことなんでしょうけど…姉さんが望んでた事だから…でも…何となく淋しい気もするわ…」

「………」

「オレが何だって?」

大ちゃんが戻って来て話に加わる。

「大ちゃんが生き生きしてるって〜 ♪ あたしのおかげで ♪ 」
「は?まどかの?」
「そう ♪ 」
「まあ毎日まどかの面倒みてればいやでも働かなきゃいけないし活気も出るよ。」
「だよね〜」

そう言ってまどかがニヤリと笑う。
何だよ…その意味ありげな笑いは…


それからすぐに佳奈枝さんの旦那さんが迎えに来た。

「すみません…相手してもらってしまって。」

そう言って笑った顔はとっても優しそうな顔の男の人。
転勤の前に自分の雑用も済ませてきたらしい…

「青森だって?」
「はい。冬は雪が凄いらしいですから今から覚悟しないと…」
「絶対カマクラ作るわ!」

佳奈枝さんが拳を握り締めて宣言する!

「え?」
「だってこっちじゃ作れるほど雪なんて降らないもの!」
「佳奈枝…」
「はは…佳奈枝さん可愛い ♪ 」

可笑しくて思わず笑っちゃった。

「私は可愛いのよ ♪ 貞明さん。」
「はいはい…じゃあ亮平さんこれで…」
「ああ…気をつけて。」
「じゃあねまどかさん…お義兄さんの事よろしく…」
「はい。お任せ下さい!」
「オレは大丈夫だっての…」
「あ…あの…佳奈枝さん…」
「ん?」

車に乗り込む佳奈枝さんを呼び止めた…

「あの…大ちゃんも私も…文香さんの事は忘れませんから…」

「え?」

「あたし達文香さんがいたから出会えたの…文香さんがいたから想いが通じたの…
だから…絶対文香さんの事は忘れない…忘れたりしないから……」

「まどかさん……」
「まどか…」

「…………」

そう言ったあたしの肩を大ちゃんがぎゅっと抱き寄せてくれた。

「ありがとう…まどかさん…姉さんもきっと幸せよ…安心してるわ…」

「はい…」
「じゃあ元気でね。」
「ああ…そっちも元気でな。」

そんな挨拶を交わして佳奈枝さん達は帰って行った…