03





「え?吉泉なんていない?」

「はい。うちのクラスにはそう言う名前の人は…」
「ここ1−Aだよね?」
「はい…」
「本当に吉泉って子いない?」
オレはもう1度念を押して聞いてみた。
「はい…うちのクラスにはいません。」
何だかものすごく済まなそうな顔してるから…
「あ…ごめん…ありがとう。」
思わず謝ってしまった。


「うそだろ?」
思わずそんなセリフが口をついた…
昨日…確かにいたよな?抱き上げて…抱きしめて…キスだってしたよな?
一緒に飯だって食べたし…食べたよな?制服だってちゃんとここの着てたし
上履きだって…ちゃんとここの指定の履いてたし…1−Aって確かに言ってた…

次の日の休み時間…早速みかげに会いに1年の教室までやって来たのに…
そんな生徒はいないと言われた……

一体…何だよ…狐につままれたみたいだ……
オレは訳が分からず…仕方なく教室に戻った。


「あん?どうしたん芫?ぼーっとして。」
「いやさ…」

オレは昨日あった事をクラスの奴に話した…多少話をはしょって。


「うえぇ〜〜〜〜〜マジ?うおーさみぃ!!!」
「ヤベーんじゃね?それ?これ?これか??」
そう言って自分の胸の前に両手をタランと垂らす。
「まさか…ちゃんと足あったし…重さだってあったぞ…」
「携帯の番号は?聞いたんだろ?」
「それが昨日は持ってないって言って教えてもらえなかったんだよな…
番号も憶えてないって言うし…まあ今日学校で会えるから別にいいかなって思ってさ…」
「じゃあ連絡取れねーのか?」
「ああ…」
「ふ〜ん…そんなおかしな事もあるもんなんだな…」
「で?その子可愛かったのか?」
1人が身を乗り出して聞いてくる。

「え?…ああ…まあな。」

確かに可愛かったよな…オレが付き合ってもいいって思うほどなんだから…
でも…可愛いだけじゃ無かった…
何かこう…オレと合う?って言うのが身体でわかったって言うか…
うまく言えねーけど………

「はぁ〜〜〜くそっ…一体どうなってんだよ…」

昨日偶然知り合ってすぐキスもして…(ってオレが勝手にしたんだけど…)
ちゃんとオレと付き合うって納得してたじゃねーか……

オレ…騙されたのか??
オレが?この…オレが???

騙されたと言う気持ちより…もう会う事が出来ない方が…
オレはすごく残念で…もし幽霊だったとしても…もう一度会いたいと思った…

もし…もう一度会えたなら…今度は有無も言わさず抱きしめて…
必ずオレのモノにする…もう2度と後悔しない様に…

オレと…離れられない様に………



「芫君どうしたの?何か機嫌悪っ!!」

連れて来られたクラスの奴の家で後からやって来た女2人が
オレの態度を見てそんな事を言う。

「…………ふん…」

横目でチラリと見てそのまままた窓の外に視線を戻した。

「え?何?今の態度??チョームカつくんですけどぉ!」
「まぁまぁ…どうやら変なのに係わったらしいんだよ…それでご機嫌斜めでさ。」
なだめる様にそう説明して自分の隣に座らせる。
「なに?変なのって?」
「……コレだよ…コレ!」
そう言ってまたあの手をやった。
「え?コレ?」
「うそぉ〜〜ヤッベーじゃん!」
「でも冗談でしょ?そんなの信じらんないよぉ…あたしらの事からかってんでしょ?」
「芫がそんな嘘つくと思うか?マジだよ!マジ!」
「 「ええ〜〜〜うそぉ〜〜〜!!」 」


「オレもう帰るわ。」

そう言って腰掛けてた窓枠から立ち上がった。
「え?もう帰んのか?芫?」
「ああ…やっぱテンション上がんねぇ…」

それにこんな所の話のネタにされてたまるかっての…

「ああ…お前らさ…」
「え?」
帰り際にオレに声を掛けられた女2人の顔がパッと明るくなった…勘違いすんな…

「お前ら香水つけ過ぎ…匂いキツイ…」

呆れる様に言い捨ててその匂いが充満した部屋からサッサと退散した。

「な…何ですってぇ〜〜!!ちょっと!余計なお世話だってのっ!!」
「ムカつく!!」

階段を下り切る前に後ろから階段を下りる音がした。
「待てよ芫!俺も帰るから一緒に帰ろうぜ。」
「高野…」

いつもつるんでるメンバーの中でオレと一番仲のいい奴だ。
気を使わず…何気にお互いがどうすれば相手にとって一番良いか
言わなくてもわかる相手。

「あんま考え込むなよ。忘れた方がいいんじゃね?」

2人で駅までの道を歩きながら昨日の事を話し出した。

「忘れられればオレもこんなに落ち込まないって…」
「はぁー??マジかよ。お前が?」
「そうオレが。」

オレは普段から1人の子となんてなった事も…女と付き合った事も無い。
女と付き合うなんて面倒くさいしその気になれば抱き合うだけなら
相手を選ばないし…今までだって後腐れない奴を相手に散々遊んで来た。

そんなオレが…昨日会った女の事をこんなにも気にしてる…

「…めでたく初彼女だったんだぜ…」
「!?…はぁ?今何っつった??」
「そんな化け物見る様な目で見んなっ!!!」
もの凄い驚いた顔された。
「だっ…へ〜…うそだろ?お前が??彼女??よっぽどの女だったんだな。」
「別に普通の女の子だったよ…」
「女の子??お前そんな言い方滅多にしないだろ??」
「背がオレより低くて華奢で短い髪でクリッとした目で一発でオレとウマが合った。」
「………芫…」
「ホントにもう2度と…会えねぇのかな……」
「…そんなに会いたいのか?」
「会えるんだったらタバコ止める!!」
「ってお前タバコなんて吸ってねぇだろうがっ!!うそつき野郎が…
そんなんじゃ一生会えねぇな!いや…あわせてやらねぇ!」
「なんでお前がそんな事決めてんだよ。」
ガスッと軽く肘鉄を脇腹に叩き込んだ。


あれから1週間…何の手掛かりもなくあっという間に過ぎた。

やっぱもう会えるチャンスも無いのかと半ば諦めかけてた…


そんな月曜の朝…

「今日は転校生を紹介する…」

担任が連れて来た男に向かって目で合図した。
痩せ型で…でもヒョロットした感じじゃない…オレより少し低いくらいか?
真っ黒な短めな髪に…メガネを掛けて…超真面目そうなタイプ。

男の転校生なんか興味無いっての…
まあ女でもそんな興味湧かないけど…

そんな事をぼーっとする頭で考えながら転校生から視線を外した。

今のオレが興味ある事と言ったら……

「吉泉 智一です。父の仕事の都合でこちらに引っ越して来ました。これから宜しくお願いします。」

オレの身体がピクリとなる…
今…こいつ…なんて言った?…名前…『吉泉』って言ったよな?


オレはさっきまでボーっとしてた頭が嘘の様にスッキリと晴れて…

担任の隣で立ってる新しいクラスメイトから視線が外せなくなった。