04





「なぁ…ちょっと聞きたいんだけど…」

「?」

休み時間を今か今かと待って1時間目が終わると速攻転校生に話し掛けた。

「…!!」

周りに群がってた女達が一瞬にしてビクリとなった。
…裏では喧嘩にも手が早いと噂が流れてる(らしい)オレが
普段あまり周りの事を気にかけないのに最初の休み時間に
転校生に声を掛けるなんて…
しかも男の転校生となればヤバイ事になるのかと緊張が走る。

「なに?」

当の本人はまったく気にしていない様子…普通にオレを見上げてる。

「あのさ…」
「?」
「もしかして…妹とかいたりする?」
「え?」
「1年に?」
「………」

何だよ…早く答えろよ…!!

「いるけど…なんで君がその事知ってるんだ?」
「もしかして『みかげ』?」

もうオレの心臓はドキドキだ……

「………」

何だ?どうなんだ?

「そうだけど……ホント…何で君がそんな事知ってるんだ?」
「ちょっとした偶然で…で?この学校にいる?」
「ああ…一緒に編入したから…」
「そっか…ありがと。サンキュ!」

そう言ってオレはサッサと自分の席に戻る。
もうオレは気分がワクワクで叫んで飛び上がりたいほどだった。
さっきまでの超低かったテンションなんて何処かにすっ飛んだ。

「……もう…逃がさないからな…」

オレはクスクスと小さく笑いながら…今度は放課後が待ち遠しかった。



「やっほ!!」

「…あっ!」

1年の昇降口であの子を見つけた。
1週間前見たあの時と同じ姿…同じ顔…同じ声…
同じ態度…か?オレを見た瞬間ビックリしてる…なんでだ?

「オレの事憶えてる?」
「………コクン…」
「それは良かった。もうオレなんて過去の人かと思ってたよ。」

にっこりと笑顔付きでイヤミを言った…オレにしてみたらそんなの珍しい…
でも何故か気持ちが収まらず勝手にそんなセリフが口から漏れた。

本当は会えて嬉しくて嬉しくてたまらなかったはずなのに……

「………」

視線が後ろを気にしてる…見ればダチとおぼしき女が2人オドオドと立ってる。

「友達…出来たんだ。」
「……うん…」
「君達ちょっと待っててくれる?すぐ済むから。」
「……コクン」
と無言で2人が頷いた。
オレは彼女の腕を掴んでちょっとその場から離れた所に連れて行く。

「降りる駅どこ?」
「七生…」
「じゅあ今日夕方6時にその駅前で待ってる。」
「え?」

ビックリした様にオレを見上げてる…何でそんなにビックリするんだよ…

「待ってる。」

それだけ言うと友達ににっこりと微笑んでオレは足早に離れた。
行くとも…言われなかったし必ず来いとも念を押さなかった…

彼女は…みかげは…来るのか?



「ただいま。」

そう言いながらキッチンに向かって冷蔵庫の中から飲み物を取り出して一口飲んだ。

「おかえり…新しいクラスどうだった?大丈夫だった?」
先に帰ってたお兄ちゃんがソファに座りながら声を掛けてきた。
「大丈夫だよ。友達も出来たし…それに勉強も前の学校と進み具合同じだったし…」
私もそのままお兄ちゃんの隣に腰を下ろした。
「そうか…良かったな。」
「うん…お兄ちゃんは?」
「僕も同じだよ…友達はまだこれからかな…僕はみかげみたいに積極的にはいけないから…」
「お兄ちゃんなら女の子方が先に仲良くなれるんじゃないの?」

妹の私から見てもお兄ちゃんは優しそうな雰囲気が漂ってるから…
実際本当に優しいんだけど…ふふ…ちょっと…ううん…かなり自慢のお兄ちゃんだもん。
前の学校でだって密かにファンクラブまであったんだよねぇ…
お兄ちゃんは知らなかったみたいだけど…

「…なんだよそれ…まあ確かに男子より女子の方が話したかな…
女子って好奇心旺盛だね…根掘り葉掘り聞かれたよ…」
「へぇ…答えてあげたんだ?」
「多少は…ね…ああ…みかげ…」
「ん?」
急にお兄ちゃんが真面目な顔になった。

「お前…3年の『東雲』って奴…知ってるよな?」
「…え?」

私は心臓がドキリとなる…その後ドキンドキンって動き出した。

「僕と同じクラスなんだけど…最初の休み時間に聞かれたよ…妹はいないかって…
彼は偶然知り合ったって言ってたけど…彼と一体どんな関係なの?みかげ…」

「…………」

お兄ちゃんがじっと真っ直ぐな視線で私を見つめる…
こうなったお兄ちゃんは結構手強い…誤魔化しが効かなくなるから……

「……先週…好奇心であの学校見に行ったの…
放課後だったし…ちゃんと制服も着て行ったから誰にも不審に思われる事無いし…
どうせ1週間後には通う事になってたし…」
「…そんな事してたの?まったく…みかげは相変わらずだな…」
「ごめんなさい…」
「で?そこで彼と知り合ったの?」
「うん…」
「そう…で?それだけ?」
「えっ!?」
お兄ちゃんが意味ありげな視線を私に向ける…きゃぁ〜〜マズイ!!
思わず視線を逸らしてしまった…
「あ!視線逸らした!何か隠してるな?正直に言いな!みかげ!!」
「…………えっと…その………」
「え?なに?」
「その…交際…申し込まれた………」
もうボソボソと…聞えたかな??だって…そんな事お兄ちゃんに言ったら…
「なっ!?知り合って直ぐって事??」
「…うん……」
もう私は1回りも2回りも小さくなってる…
「まさかOKなんてしてないよね?」
顔を覗き込まれた…ちょっと怒ってる?
「……あの…その…すごく強引で…だから断れなくて…」
「はぁ??何それ?付き合ってるって事??」
「いや…それっきり今日まで会ってもいなかったし…携帯も教えなかったから話もしてなくて…
だから…」
「じゃあ断るんだね?」
「え?…うん…そのつもり…」

何だか…ちょっとだけ胸の奥が痛んだ…様な気がしたのは気のせいかな…

「僕が代わりに断ってあげようか?」
「えっ!?いっ…いいよっっ!大丈夫!!それくらい自分で出来るから…」
「そう?」

お兄ちゃんは心配性…
忙しいお父さんの代わりに小さい時からお兄ちゃんはお父さんの代わりまでしてくれた…
そんなお兄ちゃんをお母さんも頼りにしてて…
お兄ちゃんに任せておけば大丈夫と絶対の信頼を置いてる…

「でもそんなに簡単に交際申し込むなんて…確かに軽そうな男だったもんな…」

スルドい!!お兄ちゃん。
クラスの友達になった子も言ってた…特定の人を作らないで遊んでるらしいって…
でもなかなかの顔立ちに結構人当たりも良くて女子には優しいから
全学年の女子に人気があるんだって…

そんな人がなんで私なんか…

「……そ…そう?でも優しかったよ……」

そう…彼は優しかった…それに彼は私の恩人にもなるわけで…
でもお兄ちゃんにその事は言えなかった…だってその後……

「優しくても付き合う気が無いならちゃんと断っておいでよ。」

「うん…」

私はそんな気の無い返事をする……




時計が5時40を指してる…もう出掛けないと…
あの時は…本当に彼の行動にドキドキして…惹かれたのは事実だったんだけど…
家に帰って落ち着いて考えてみると…やっぱりちょっと…
今までの私の行動からすると早まったかな??なんて考えが湧き起こって来た…

だから…彼に会えないことをいい事に…このまま自然消滅になれば…
なんて思いも無かったわけじゃない…

だって…彼って…今ままで私の周りにはいなかったタイプで…
惹かれる反面…引いてしまうところも無きにしも非ずで…



どうしよう…どうなるんだろう…私は…どうしたいんだろう……




駅のロータリーのちょっと手前の物陰からずっと駅を観察してる…
ここの駅は入り口が一方向しか無いから待ち合わせ場所を間違えるはずもなく……
6時5分前に着いた電車から降りて来たのは…彼だ……

「どうしよう…出て行くのに勇気が……」

お兄ちゃんが出掛けてて良かった…じゃなきゃ出掛けるのも一苦労…
「………はぁ…」

このままと言うわけにもいかず…仕方なくそろそろと彼の前に出て行った。

「へぇ…ちゃんと来たんだ。」

「………!!」

彼の手が伸びて頭をクシャリとやられた。
「?」
私は訳がわからなくて?顔…

「良かった…触れた。」

「??」
余計わからない……

「ん!」
「!?」
目の前に手を出された。
「いなくなったら困るから。」
「………あ…」
しっかりと手を繋がれた。


彼が勝手に切符を2人分買って改札を抜けた。
「え?何処行くの?」
引っ張られる様に歩きながら聞いた。
「オレんち」
「え?」

私の顔を見もしないでそんな事を言う……って…いきなりお宅訪問?



電車に乗っても彼は一言も話さない…
手は繋いだまま…チラリと彼を見上げた…

「…!!」

彼も私の視線に気が付いてチラリと私を見てすぐに視線を窓の外に向けた。
どうしよう…どう見ても彼…怒ってるよね…でも…そんな事怖くて聞けない……

3つ目の駅で降りて改札口を出ても…彼はただ黙って歩くだけで…
やがて着いた彼の家も何故かノンストップで玄関を通り過ぎた。

「あ…あの…おじゃまします…って…ちょっと…!!!」

慌てて靴を脱いでそのまま階段も足早に上がって行く。

え?え?これって…いきなりお部屋訪問?こんな急に?

心の準備…出来てないよぉーーー!!!!



        どうしようっ!!!