06





「え…快さんて小説家なんですか?」
「そう。サインあげようか?」
「エロ小説だろ?」
「官能小説と言え!バカ弟が!飲み物が足りん!持って来い!」
「テメェで持って来い!」
「悠お前の仕事だ。ホストはその為にいるんだろ?」
「タダ働きはしねーの。みかげちゃんの頼みなら持って来てもいいけどね ♪ ♪」
「代金は何だ?金か?物か?」
「俺とのデート ♪ ♪ もちろん朝までね ♪」

「あ…私もう失礼しますから…お気遣いなさらずに…」

そう言って立ち上がると彼が私の腕を掴んだ。

「まだ話は終わってないの。おら…お前ら出てけよ。」

お兄さんに達に向かって命令口調で文句を言った…ウチじゃあり得ない…
お兄ちゃんに命令口調なんて…


「………はぁ…仕方ないな…」
快さんが立ち上がる。
「俺もそろそろ仕事の時間だし…またね。みかげちゃん!こいつと別れても俺とは遊ぼうね♪」
そう言って悠さんにウインクされちゃった。

「別れねぇよ…縁起でも無い事言うな。」
付き合ってるかどうかも怪しいのに……

バタンとドアが閉まって…また2人だけになった。
何だか最初よりも気まずい雰囲気……

「あの…私本当に帰らないと…」
「……後で送ってくから…もう少し付き合えよ。」
「でも……」
何気に警戒しちゃう…だってもうお兄さん達の助けは入らない気がするし……

「何にもしないって…気が失せた。」

「ほん…と?」
「ホント。」


2人で床に座って向かい合った。
私は正座…彼は片膝を立ててる。

「みかげは…オレと付き合う気無いの?」
「……自分でも…良く分かんない…今は半分半分…かな…」
何にも気にせず正直に話した。
どうやらそれが私の欠点でもあるらしい…ってお兄ちゃんに時々言われる。
「うわっ…すげぇ正直……しかも中途半端。」
「だって…本当の事なんだもん…」

「……さっきは本当に悪かった…」
「…………」
「でもオレのモノにしたかったから…会えなかった1週間みかげは何にも感じなかったのかも
しれないけどオレは……オレはもうみかげに会えないのかと思って…落ち込んでたよ。」

「…え?……本当?」

「本当。」

彼が照れた様な顔をしてる…本当の事なのかな…

「送ってく…行こ…」
「え!?あ…うん……」

彼が急に立ち上がって部屋のドアを開けた。



帰りの電車の中でも…来た時と同じ様に彼は何も話さない…
ああ…でも…来た時と同じじゃない…今は…手を繋いでないもん……

このまま…どうするんだろう?
私達…付き合うのかな?それとも…私があんな事言ったから無しになったのかな?
彼の態度からじゃわからない…って事は私から聞くしかないって事??
え…うそ…そんな事…出来ないよ………

私は正直に相手には言ってしまうのに自分では相手に聞く事が出来ない…
どうせ臆病者ですよ……

迷ってるうちに私の降りる駅について家までの道を歩いてる。

「こっちでいいの?」
「……あ…うん…」

歩きながらずっと沈黙…彼は私の前を黙って歩いてる。
初めて会った時の彼とは全然違う…あの時はあんなに軽い感じで積極的だったのに…
そっか…もう気を使わない相手に愛想振り撒いても仕方ないもんね……

でも…何か……胸の中がポッカリしてる感じ…
やだ…何言ってんのかな…断る為に彼に会いに行ったんだからこれで…

「みかげ…」

「…ん?」
返事をして彼を見ると彼は前を見たままで…私を見てない…

「オレ達彼氏と彼女だから…オレはそう思ってる…」

声だけで…彼が照れてるのがわかる。
きっとあんなに軽い感じの彼だけど…こう言う時はちゃんと真面目で…照れるんだ…
何だかこれって彼の意外な一面?なのかな…

「そうだよな?」

まだ私の事を見ようとしない…だから彼の背中に向かって返事をした。

「……うん。」

「……!?…え?マジ?」
もの凄く驚いて彼が振り返った…え!?そんなに??
「うん。マジだよ。」
私は至って真面目にもう1度返事をした。

「……絶対違うって…また無かった事にしてくれって言われると思ってたよ。
うわぁ〜〜〜ほら!触ってみ?心臓バクバクだろ?」
そう言って私の左手を掴んで自分の胸に当てた。

「な?」
本当にバクバク。
「本当だ…くすっ!」
思わず笑っちゃった。
「あ…何だよ。笑うなよ…」
「だって子供みたいだから…」
「!!!……悪かったな……」
うわぁ…もの凄い照れてる…
「くすくす…」

「何でイヤだって…言わなかったんだ?」

「……あなたの意外な一面が見れたから?」

「?…何だソレ?何処がだよ?」
「その照れた顔。」
「………!!!」
「あんまり人に見せた事無いでしょ?」
「……………」

あれ?本当に図星だったのかな?何気に顔が赤い??



「………みかげ…」
「ん?…あ…」

ちゅっ……

彼が屈んで…いきなり…でもそっと…私に触れるだけのキスをした…
そして優しく私の事を抱きしめる。

「もう…オレの腕の中からいなくなったりすんなよな…」
「………」
急に抱きしめられて…そんな事言われて私はビックリのドッキリで…
「今度いなくなったらオレきっとみかげの事捜し回る…」
「……わかった…もう…急にいなくなったりしない…」
「急にだけじゃない…何があっても…どんな事があってもオレの前からいなくなったりすんな…」
「……うん…今まで…ごめんなさい…もう…しない……」

「約束だぞ…みかげ…オレと一番大事な約束だからな…」

「……うん…約束する…」

そう2人で約束して…また彼が優しいキスをしてくれた…
恋人同士ってこんなにキスするものなのかな??

でも……彼の唇が柔らかくって…暖かくって…
触れるだけのキスってなんか気持ちいいかも…


「あ!後もう1つ約束!」

今度は手を繋ぎながら歩いてる彼がそう言って私を見た。

「ん?」

「オレの事『あなた』じゃなくて『芫』って呼んでよ。結婚したら『あなた』でもいいけどさ。」

そう言ってニッコリと笑う。

「…………」

そう言えば…名前で呼んだ事なかったかも…

「でも…恥ずかしいだもん!!男の人名前なんかで呼んだ事無いし……」

「じゃあ練習!ほら言ってみてよ。」
「え〜〜〜……恥ずかしいな……げ…芫くん…?」
「もう1回!」
「芫…くん…」
「もう1回!」
「芫くんっ!!」
もうヤケクソっ!!

「なに?みかげ…」

!!!!…ドッキーーーーン!!!

そう言ってニッコリと笑いかけるから……だって…彼って…芫くんって…

素敵!!……なんて思っちゃったっ!!!
だめ…まともに芫くんの顔見れなくなっちゃった……心臓もドキドキ!!!

「あれ?どうしたの?みかげ…顔真っ赤だよ?」

「なっ…何でもないっ!!何でも無いってばっ!!」

「何だよ?変なみかげ…」
「…………うう……って…ああっっ!!!」
「ん?どうした?」

「曲がり角通り過ぎてた!!もう!すっごく戻らなきゃ!!芫くんが悪いんだよ!!
私の事訳がわからなくなる様な事するからっ!!」

「え?何その濡れ衣!!オレのせいじゃないじゃん。オレみかげん家知らないんだぞ!?」

「……………」

ごもっともで何も言い返せない…

「まあいいじゃん ♪ ♪ そしたらもう少し一緒にいられるし。」
「もう…いい加減なんだから……」
「ちゅっ!機嫌直して。じゃあ戻ろう…」
「そうやってホッペにキスしたって機嫌なんか直んないもん!!」
「じゃあ今度は濃厚なのしてみる?これも勉強の内だよ。」

「やらしいっ!!!」

「はは…みかげ免疫無さ過ぎ!だから2人で勉強するぞっ!!」

繋いでいない手を芫くんが高々とあげた。

「芫くんの場合 『復習』 なんじゃないの?」

疑いの眼差しで睨む。
ちょっと八つ当たり気味??

「じゃあオレが手取り足取り教えてあげる。オレの家庭教師厳しいよ。」
「そんな家庭教師いらないもん。」
「タダだよ?タダ!!喜んでよ。」

「イ〜〜〜〜ッッ!!!」

「みかげっ ♪ ♪」

「なに?」


「呼んだだけ!」
「変なの…」


そんな会話を繰り返して…今度は曲がり角を間違えずに曲がった…

本当は…もう1回くらい通り過ぎてしまおうかなんて思ってしまった私がいた……