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輅 (miku) : 東雲家の4男で中学3年生。




「ん?」

もうすぐ終了と言う帰りのHRの最中に携帯が動いた。
メールだ…こんな時間に誰だ?みかげか?

携帯を開けて送信者の名前を確かめた瞬間………

うげっ!!!

心の中でそう声を上げてた!!




「みかげ!」

「芫くん?」

珍しく芫くんが1年の教室の近くまで来た。
前は時々私の事を迎えに来たりしてたんだけどそうすると周りがざわめくから…

芫くんに頼んで迎えには来ない様にしてもらった。
芫くんは不服そうな顔してたけど…それなのにどうして?

「どうしたの?」
「いや…今日ちょっと一緒に帰れなくなったから…」
「え?」

そんな事…初めてだ…

「だから帰り気を付けて帰れよ。誰に声掛けられても返事なんかしないで速攻家に帰れ。
なんなら兄貴待って一緒に帰れ。ああ…その方がいい。」
「そんな…大丈夫だよ。1人で帰れるから…それに途中まで友達と一緒に帰るし…」
「そっか…じゃあ気を付けて帰れよ。後でメールするから…」
「うん…」

そう言って私の頭をポンって触って行った……




「ったく…面倒だな…」

みかげの所から自分の昇降口に降りて速攻校門に向かった。
何で今日なんだよ…いきなり来やがって…

結構な生徒が帰り始めてる…参ったな…
とにかく目立たない様に……ってそんなオレの考えをものの数秒でぶち壊してくれた!

「 芫 ク〜〜〜ン ♪ ♪ 」

「 !!! 」

大きな声でオレの名前を叫びながら校舎の陰に隠れてたアイツがオレにガバッと飛びついた!!

「…!!!ばっ!!ばか!声がデカイ!!」
「え?何で?久しぶりだから嬉しいんだもん ♪ ♪ 」
「わかったから……目立つな!!ただでさえ私服で目立ってんだから…お前!」
「仕方ないじゃんここの生徒じゃ無いんだもん。」
「いいから行くぞ!」
「うん!!」

周りの注目を集める中…オレはオレに飛びついた奴の腕を掴んで早歩きで学校を後にした。


「おい!今の芫の奴じゃなかったか?」
「ああ…誰だ?あの可愛い子ちゃん?」
「さあ…でも私服だったからここの生徒じゃないよな?」
「何だよ元カノ?」
「まさか!だって芫の奴今まで誰とも付き合って無いだろ?」
「じゃあ昔引っ掛けた女が乗り込んで来たとか?」
「……やっべーーマジありえるんじゃね?」
「珍しいけどな…でも今の彼女が知ったら…即サヨナラじゃん?」
「真面目そうな子だもんな…あの子…」
「今までの罰が当たったんだよ……やっぱ悪い事は出来ねぇな…うんうん…」

その場にいたいつもつるんでる連中がそんな話をして頷いてたなんてオレは知る由も無く…
その場にいたら全員殴り倒してやったのに!!!

オレはその時学校から大分離れた道を歩いてた。


「ちょっと…芫クン早いって…苦しい…」
「いいからもう少し頑張れ!ウチの学校の生徒がいない所までの辛抱だ!」
「何で?どうして芫クンの学校の人がいたらダメなの?」
「余計な噂立てられない様にだよっ!!お前ワザと学校に来たんだろ?嫌がらせか?」
「ひっどーーーーいっっ!!!芫クンいつからそんなに冷たい人になったのっ!!
昔はあんなに優しかったのに…」
「ってワザとらしく泣き真似すんなっ!!お袋は?」
「ちょっと用事済ませてくるって ♪ だから一番先に芫クンに会いに来たんだよ ♪ 」
「真っ直ぐ家に行け!」
「ホントいつもより態度冷たい!!何で?芫クン??」
「何でも無いって…お前が一緒だと何かと面倒な事起こすだろ?だからだよ…」
「あ!わかった!!会わせたくない人がいるんだ…そうでしょ?」
「 !!! 」
相変わらず鋭い奴…
「そんな事無いって…ほら切符買うから待って…」
「やだっ!!このまま家に行くなんてヤダもん!!!折角久しぶりに芫クンに会えたのに…
もっと一緒に歩きたいっ!!デートしたいっっ!!!」
「そうやって喚くなっ!!何がデートだ!何が悲しくて弟とデートしなくちゃいけないんだよ!輅!」
「いいじゃん!!本当に久しぶりなんだからさ!!僕がどんなに芫クンに会いたかったかわかる?
今日をどんなに楽しみにしてたかっ!!皆全然僕に会いに来てくれないし……淋しかったんだからね!!」
「……そりゃ悪いと思ってるけど…仕方ないだろオレだって忙しいんだよ!」
「悪いと思ってるって言ったね!!じゃあデート!!デート!!!!」
「……だから……」
「 ふふ ♪ ♪ 」

上機嫌で笑ってる輅の顔を見て邪険に出来るわけもなく…
オレは諦めの溜息をついて……観念した……



「東雲君なら可愛い彼女と慌てて帰ったわよ。」

「!!」

校門を出る時に上級生の女の人達に捨てぜりふの様に言われた…
言った相手の女の人達はクスクスと笑いながら離れて行った。

「なに?あれ…やな感じ〜〜〜」
「気にする事無いよ。みかげちゃん!」
「え?……うん…」
「何自信の無い返事してんのよ!大丈夫だって先輩なら!みかげっちにベタボレなんだから!」
「ベタボレって…」

心配してないと言えばウソになるけど…今までこんな事無かったし…
それに不安と言うか…胸の中がモヤモヤしてて苦しい……これって…

「後でメールしてみればいいじゃん。なんなら今直接電話掛けてみれば?」
「…!!何よぉ…そのニヤけた顔は…」
「だってラブラブの2人の会話聞いてみたいじゃん ♪ 」
「そんな事無いよ…普通だよ。」
「みかげちゃんは冷めてるからなぁ…」
「え?」
「だって2人の時ってイチャイチャなんてあるの?」
「…イチャ…イチャ?」
「そう!自分から先輩に甘えたりさぁ…」
「あ…甘える?う〜ん…」

どうだったかな?どっちかって言うと芫くんが私をかまってくれてると言うか……

「ありゃりゃ真面目に悩んでるよ…」
「たまにはサービスしないと飽きられちゃうよ!」
そう言って頬っぺた抓られた。
「い…痛いって…サービスって…」

「初めてを捧げる!」

「やっ…!!ちょっと変な事言わないでよ!」

「変な事なんかじゃないじゃん!好きならいいんじゃない?」
「だって…まだそこまで気持ちが…」
「やっぱ勢いだよ!勢い!」
「え?」
「月並みだけど先輩の誕生日とかさ…」
「人事だと思って…」

「でもさ興味はあるんでしょ?」

「え!?」

そう聞かれてこの前の保健室での事を思い出した。
ドキドキして恥ずかしくて…でも嬉しい気持ちがあった…

皆と話すとそんな気持ちが大きくなって…やっぱり女の子パワーはスゴイ。




「芫クン楽しい?」

「…………」

弟と2人ファミレスで向かい合ってパフェ食べるのが何で楽しい?

「……多少は…」

ウソでもそう言っておかないとウルサイからな……
輅(Miku)はウチの4男坊の中学3年生。
確か中学の入学と同時に親父の転勤と共に転校して行った。
何でオレ達と離れなきゃいけないのかとゴネてたがお袋に説得され渋々承諾してた。
もともと快の奴はこいつがお気に入りだったし輅も快には懐いてた。
悠とはあんま相性が良くないらしくオレとは1番年が近いせいか良く懐いて
いっつもオレの後を追い駆けてきてたっけ…

でも…オレの場合懐いてるというか…気に入られてるというか…
ちょっと他の2人の兄貴とは違うらしい……


「ねえまだ色んな女の人と遊んでるの?」

「 !!! 」

パフェを一口頬張りながらそんな事を聞く。


「実はねぇ最近彼女が出来たんだよ!!」

「!!お前ら……!!!」

「 !!! 」

突然いつもつるんでる連中がオレ達の席に割り込んで来た!

「お前等…後つけて来たのか?」
「東雲く〜〜んまずいんじゃないのぉ?こんな可愛い子とぉ〜〜」
「は?」

ガッシリと肩に腕を廻されてニヤけた顔で意味ありげに笑う。
「みかげちゃんに言っちゃうよぉ〜〜浮気してるって!」
「あほかっ!!浮気なんてしてねぇって!!」
「じゃあこの子は一体何なんだよ?ん〜〜?」

「弟の輅だよ。」

「弟ぉーーーー!!!???」
「マジかよ??」
「妹じゃなくてか???」

「弟の輅です。初めまして!」

そう言ってにっこり笑った顔はどうみても女の顔だ。
快の奴が気に入ってるがコレ!男くせにどう見ても女の顔で…なかなかの可愛さらしい…
快の奴が言うには 『 並みのアイドルなら勝てる! 』 だ。

「ひえ〜〜女の子でも通じるだろ?」
「でも芫の弟がこんな可愛い顔なんて初耳だぞ?」
「別に改まって言う事でもないだろ?」
「しかし…まあ…もったいねぇ…」

いい加減そっから離れろ!

「そう言えば彼女が出来たって…?」
「ん?ああ!そうそう!年下の可愛い彼女が出来たんだよぉ〜君のお兄様!」
「……へぇ…一緒の学校の人?」
「ああ!1年生だけどね。」
「1年?僕より1っこ上か…」
「うわぁ…『僕』だって…やっぱ本当に男なんだ……」
「しつこいぞお前等…」

それにコイツにはその手の話は禁句なんだよ…特にオレのは…

「なあ記念に写真撮ろうぜ。」
「よしっ!輅ちゃんも入って入って!」
「ちゃんって何だ?男だって言ってんだろ?」
「いいじゃん!いいじゃん!ほら!笑え!!」

そんなんで何枚も色んな奴の携帯で撮り合ってた。

「芫クンの携帯でも撮ってよ!」
「はぁ?何で?」
「いいじゃん!記念に!芫クンの携帯に僕の写真あるなんて嬉しいもん。」
「あのな…」
「すいません!これで撮ってもらえます?」

そう言ってオレの携帯を渡す…兄弟で撮って…しかも男同士の何処がいいんだか…
しっかりツーショットで何枚も撮られた。

「この写真僕の携帯に送ってもいいでしょ?」
「いいけど?」
「じゃあ携帯貸してね。」

そう言って慣れた手付きでオレの携帯を弄くる。

「随分慣れてんな。」
「だって僕この携帯の色違いだもん。芫クンとおソロだよ ♪ ♪ 」
「……………」

オレがコイツを苦手わけは……コレだ…
どうやら輅の奴はオレに特上級の兄弟愛を抱いてるらしい……勘弁してくれ……


「あ…!」

家に帰る途中でメールが届いた。
送信者は芫くんだけど…何だかいつもと違う…だって…題名が付いてるし…

「楽しんでます?」
最後にハートマークが付いてる!?
「何で?」
慌てて開くと…写真付き…?
「!!…え?」

思わず足が止まる…だって…そこに写し出された写真は……
すごく可愛い女の子と腕を組んで密着して…
本当に楽しそうに写ってる芫くんの写真だったから……


「輅?」
「え?ううん…何でもないよ ♪ 」
「?」

輅が意味深な顔で微笑みながらオレに携帯を返した。



「ふあ…」

頭真っ白なまま家に帰って自分のベッドに倒れ込んだ。

「芫くんが…浮気…?まさか……」

その時の私はあの写真の子が芫くんの弟さんなんて知らなくて…

「どうしよう…直接芫くんに聞いてみようかな…」

こんな時どうしたらいいのかな?
やっぱり直接本人に『この女の子は誰!』って問い質せばいいのかな?
でもそれじゃ芫くんの事疑ってるみたいで失礼だよね……
私に写メール送って来るなんて後ろめたい事が無いって事で…
やっぱり気にしない方が……ってあ〜も〜ホントどうしたらいいの!!

「こんな事初めてだもん…わかんないよ…」

私は俯せのまま枕をギュッと抱きしめて…閉じた携帯をずっと見つめてた…

そう言えば今日は芫くんと手を繋がなかったな…芫くんとキス…しなかったな…



「芫ク〜ン ♪ 一緒に寝てもいい?」

「快と寝ろ!ってか1人で寝ろ!ガキじゃあるまいし…」

「だって快兄は僕の事抱き枕みたいにして寝るから苦しいんだよね。
だからって客間の布団ベッドじゃ無いから寝難いし…悠の所なんて論外だもん!」

悠の奴は呼び捨てか…相変わらず犬猿の仲だな…

「なあ…何で悠の事そんなに邪険にするんだ?」
「え?」
「?」

「悠の奴が諸悪の根源だから!絶対許さない!!」

「は?」

「そんな事より彼女ってホント?」
2人でベッドの上で向かい合って座ってたから輅がズイッとオレに近づいた。
「ああ…ホント!」
「どんな娘?」
「どんな?普通だよ。」
「普通って遊んでたの?」
「違う!真面目な娘。今まで誰とも付き合った事無いし厳しい兄貴が目を光らせて
育ってきた正真正銘の箱入り娘!」
「え?何それ?」
「とにかくオレが今まで相手にしてきた女とは180°違う娘。」

「へえ……なんだ珍しモノ好きか…」

「ん?」

「ううん…で?彼女におやすみメールしないの?」
「そんなのいつもしてないって…」
「え?そうなの?ふ〜ん…」

まあいつもはみかげを送ってそのままオレが満足するまでキスするから
ワザワザそんなメール送り合う必要無いし…
みかげはそう言うメールもともと送って来ないからな…
そう言えばゴタゴタしててみかげにメール出来なかった…みかげからも来なかったし…

まったく…オレってみかげに特別に思われてないのか?

「はあ……」
「?どしたの?芫クン?」
「いや…色々とな…」

「別れちゃえば?そんなため息つくなら…」

「は?」

「だって相手にそんなに気を使うんでしょ?何だかいつもの芫クンじゃないもん。
今までの芫クンなら女の子相手にそんな顔も態度もしなかったじゃん。」
「そ!不思議だろ?」
「!?」
「だから付き合ってんだよ。ってか付き合いたかった。」
「芫クン…」
「だからみかげの事イジメんなよ。」
「あ!ヒドイ!僕は冷静な判断をしてあげてるだけだもん。」

ちょっとふて腐れた顔してるがこれで少しは納得してくれたのか?

「ほら寝るぞ。」
「うん。」


まさか輅の奴がみかげに誤解を抱かせる様な写メールを送ってたなんて

オレはこれっポッちも知らずに久しぶりに再会した弟との昔話に花を咲かせてた。