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「みかげ!」

「!!」

1年の教室に向かう朝の中廊下でみかげを見つけた。
オレとしては普通に呼んだのに何だ?振り向き方が何だかぎこちない。

「昨日は悪かったな…ちょっとゴタゴタしてて連絡出来なくて…」
「…う…ううん…」
「今日は一緒に帰れるから。それにちょっと話しもあるし…」
「はっ…話し?」
「?ああ…」
「わ…わかった…じゃ…帰り…ね…」

「?みかげ?」

みかげがオレの方を振り返りもせずそそくさと教室に向かって歩き出した。

「?何だ?」


「………」

まともに…芫くんの顔が見れなかった。
朝目が覚めると芫くんからのメールが届いてた。
きっと昨日メール送れなかったから朝のラブコール?なんて思ったらまた題名にハートマークが…
しかも送られて来た時間が夜中の3時…?どう言う事?題名は可愛い寝顔?

「何?」
不思議に思いながらメールを開けるとまた写真付き…でもアドレスは芫くんのなんだよね…
「!!なんで?」
写し出された写真には気持ち良さそうに眠ってる芫くんの寝顔が!!

「え?何で?この布団って芫くんのベッドの布団だよね!?え…どうして?」

誰かがこの時間に芫くんと一緒に…芫くんのベッドにいるって事?え?どう言う事??
芫くんに電話した方が良い?どうしよう……

そんな事考えてアタフタしてたら遅刻しそうになって今に至ってる…
話しがあるって…なに?心臓がドキドキ…

自分がこんなに小心者で…うじうじ者なんて思わなかった……



「………」

みかげの様子が変だ。
学校からの帰り道…オレの問い掛けには上の空…
それにみかげから話し掛けて来ないしオレを見ようともしない。

だから手を繋ぐ様な雰囲気じゃなくて黙って学校から駅までの道を歩いてる。

「みかげ」
「!!なっ…何?」
なんでそんなにビックリするんだ?
「昨日の事怒ってるのか?」
「え?!」
まただ…スゲーびっくりしてる…?
「なん…で?」
「態度が変。」
「!!」
「もしかして気付かれてないと思ってた?」
「…べ…別に…」
「別にじゃないだろ?何だよ昨日連絡しなかったのそんなに怒ってんのか?」
「そんな事…」
「みかげだってオレに何も連絡して来なかったんだからお互い様だろ?」

あ…何でだ…?オレそんな事言うつもりなんか無いのに…

何でみかげを責めるような事言ってんだ?

「だから違うもん…」
「じゃあ何だよ?明らかに変だろ?」
「………」

今度はだんまりか…

「……オレとは話したく無いか?」

「!!」

そう言った途端みかげが責めるような顔でオレを睨んだ。

「何だよ?」
「………」
「みかげ?」

みるみるみかげの瞳が潤んであっという間に涙が溢れた!

「みかげ?」

オレはびっくりで心臓がいきなりドクドクと言い出す。

「こんな写真見せられて平気でいろって言うのっっ!!」

「え?」
そう怒鳴られてみかげの携帯押し付けられた。
何なんだ一体?

「は?何の事だよ?」

オレは訳がわからず渡されたみかげの携帯に視線を落とすと
何でだか昨日ファミレスで撮った輅とのツーショット写真が写し出されてた!

「!!」

何でこの写真がみかげの所に?

「みかげの事ほっといて遊んでたの怒ってんのか?だから昨日は事情が…」
「違う!!そんな事怒ってるんじゃないっっ!!」
「は?じゃあ何だよ?」
「!!!」
何だか物凄い呆れた顔されてる?

「一緒に写ってる子誰!!」

「は?」
「誰なの!!」

「……みかげ…」

もしかしてこれは…

「他の…女の子と遊びたい…の?」

これは…

「………」
「?芫…くん?」

ヤキモチ妬かれてるのかあっっ!?ウソだろっっ!!超ウレシーーっっ!!

「芫くん?」
「え?ああ…コイツはオレの弟の輅だよ。」
「え?」
「前話した事あるだろ?弟の事…離れて暮らしてるって。」
「う…うそ…だってどう見たって女の子だよ!」
「輅の奴見た目女みたいなんだよ。だから快のお気に入り。」
「…う…うそ…」
「ウソじゃない…昨日急にこっちに来て学校まで来たから…慌てて帰ったってわけ。」
「何で?」
「昔から輅の奴オレの周りの事うるさくてさ。だからみかげに会わせたらちょっと面倒だから
避けてたんだけど…輅の奴の方が一枚上手だった…まったく…いつの間にこんなの送ってたんだ…
この時クラスの連中もいてそいつらにコレ撮って貰ったんだ。」
そう言って携帯を私に返す。
「………」
私は返された携帯を見つめたまましばらく放心状態…
「ちゃんと紹介するから…オレん家行こう。」
「…!!芫くん…」

芫くんが私の目の前に…いつもと同じ様に…手を差し出してくれた…



「弟の輅で〜〜す ♪ よろしく!みかげさん。」

「はあ…よろ…しく…」

ホントに芫くんの家にあの子がいた…私はもう目が点…これで男の子?
女の私から見ても可愛い……

「可愛いでしょ?」
「え?あ…うん!」
「自分で言うなっっ!それにお前男だろーが。可愛いとか言うな。」
「いいじゃん。本当の事だもん ♪ 」
「何であんな写真勝手に送ったんだよ?」
「ちょっとしたご挨拶だよ。ふふ ♪ 」
「写真だけ送ってか?良くみかげのアドレスわかったな?」
「僕と同じ携帯なんだよ?アドレスくらい探せば直ぐにわかるよ。
芫クンの友達が彼女の名前言ってたし…
それに気になるなら何か言ってくるかなぁーって思ったんだけど…気にならなかったの?」
「…そ…それは…」
「みかげはシャイなの!」
「そう言う問題かな?」
「そう言う問題!じゃあ部屋に入って来るなよ。聞き耳も立てるな!」
「はいはい…ちぇ…つまんないの。」
「ほらみかげオレの部屋行くぞ。」
「うん…」

未だに私は弟さんから目が離せない…ホント可愛くて男の子なんて思えない…


「びっくり…男の子でもあんなに可愛い子がいるんだ…」

芫くんの部屋に入った後もしばらくその話題から離れられなかった。
「そうか?オレは昔から見てるし…普通だと思うけど…男としか見れないし…」
「そうなんだ…」
「あのさ…」
「ん?」

「もしかしてヤキモチとか妬いてくれてたわけ?」

「はあ?!」

芫くんが珍しく嬉しそうな顔で私を覗き込んでそんな事を聞いて来る。

「な…なんで?」
「だってさっき輅の事で怒ってただろ?」
「だ…だからあんな写真送られて来たら気にはなるでしょ?それだけだもん。
べ…別に怒ってたわけじゃ……」
「何で直ぐにオレに連絡してこなかったの?聞けばよかったのに?」
「だ…って…その…」
「その?」

「そんな事聞いたら…疑ってるみたいで…悪いかなぁ……って…
芫くんが浮気なんて信じられなかったし…そんな事するはず無いって思って…だから…」

「オレの事信じてくれてたんだ?」

「…うん…朝までは…ね…」

「朝まで?なんで?」
「これ…」
「ん?」
そう言ってみかげが自分の携帯をもう一度オレに渡した。

「なっ…何だコレ?」
「夜中に送られて来たみたいなんだけど…朝それ見たら…何だか…不安になって…」

写し出された携帯の画面はオレの寝顔の写真…ったく輅の奴…いつの間に…

「こんな時間までこの人は芫くんと一緒にいるんだ…って思ったら…不安もあったけど悲しくなった…」

「みかげ…」

「私…こんな事初めてで…どうしていいか分からなくなって…
でも芫くんに直接聞くには勇気も無くて…だから朝話があるって言われた時には
もしかしてもう別れようって言われるのかなって思って…凄く怖かった…」

「別れるなんて言わない…」

「そうだけど…んっ…」

床に向かい合って座ったままそっとみかげにキスをした…

「2日ぶりのキスだ…ずっとしたかった…」

「芫くん…」

「オレも悪かった…ちゃんとみかげに連絡して話をしてれば
みかげをこんな不安にさせること無かったのにな…ごめん…」

「ううん…私も連絡しなくて…ごめんなさい…だってメールでも芫くんの言葉聞いたら
会いたくなっちゃうから…声なんか聞いたら電話切れなくなっちゃうもん…
だから…我慢してるの…でもこう言う時は今度からちゃんと芫くんに連絡する…
ちゃんと芫くんの話聞くから…」

「…我慢なんかしなくていのに…会いたくなったらオレが会いに行ってやるよ…いつでも…な…」

「だって…悪いもん……」
「相変わらずムードないなぁ…みかげは…」
「え?」
「そう言う時は 『うん』 って言えばいいんだよ。」
「だって…」
「だってじゃない…オレだっていつもみかげに会いたいんだからさ…」
「……ホント?」
「ああ…」

そう答えてみかげにまたそっとキスをする…
今度は深い深い恋人のするキスをした…時間なんて忘れるくらいの深い深いキス…

「オレの事…好きか?」
みかげの耳元に囁いた…
「うん…好きだよ…あ…ねえ…」
「ん?」

「話ってなに?」

「……急に現実に戻すなよ。もうちょっと今のラブラブな感じ浸ってたかったのに…」

オレはがっかり…みかげはもう甘い恋人ムードから脱出してる…
切り替え早いなぁ……

「明日快の小説出してる出版社の創立30周年のパーティーがあるんだってさ。
みかげもどうぞって快に誘われてさ。出てみる?輅もそれでこっちに来たらしいんだよな。」
「パ…パーティー??いいの?私なんかが??」
「ああ…たまにはどうだって言われてさ。快の奴がオレに声掛けるのも珍しいんだぜ。」
「あ…でも…行ってみたいけど着て行く服が無いかも…」
「ああ…それなら来るなら快の知り合いのスタイリストが服貸してくれるってさ。
だからその事は心配する必要なし。どうする?みかげが出るならオレも行くけど…」

「行く!!行ってみたい!!」

「そっか…じゃあ快にそう言っとく。後で時間聞いて連絡するからさ。」

「うん。わぁ〜〜何だか楽しみ〜〜 ♪ ♪ 」



本当は嬉しかった…

オレはみかげの中で未だに特別な存在にはなってないんじゃないかって思ってたから…

ヤキモチを妬かれるって事はオレのことが好きってことだから…

みかげには悪いがみかげの気持ちが分かってオレは満足だ…



そんなオレの目の前で……みかげが超上機嫌な顔で笑ってる……