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快  (kai)   : 東雲家の長男で人気小説家。來海を溺愛。
來 海(kurumi): 快の元担当編集者。快と恋人関係もうすぐ結婚。
悠 (yuu) : 東雲家の次男でホスト。





「…あっ…あっ…は…ぁ…」

外は立ってるだけでも汗が噴き出て来る暑さなのに
芫くんの部屋は快適な温度に保たれてる。

「…んっ…アン……げ…ん…くん…」

それなのに私の身体はしっとりと汗に濡れてて……
私の汗なのか芫くんの汗なのかわからない……
ちょっとずつ慣れてきた私は最近芫くんの部屋に来ると
必ずと言っていいほどこうやって芫くんに抱かれてる……
恥ずかしいけど…芫くんに優しくキスされて誘われると受け入れちゃう自分がいて…


「ふぁ……あっあっあっ…ああ…ンン!!!…」

最後はいつもこう……
最初は静かに私を押し上げてた芫くんが私の身体の変化を見計らった様にだんだん激しく…
力強く押し上げてくる…だから私は芫くんにつかまったり…シーツを掴んだりして
どこかに行っちゃいそうな自分の身体を押さえてる…

本当はそんなはず無いんだけど…でも身体と頭がそう感じるから掴まらずにはいられない…

自分の身体がこんな風になるなんて知らなかった……

1度そうなると後はちょっとした芫くんの動きであっという間に
何度もそんな事を繰り返す……

そうすると何度目かから私は記憶が無くなって…
気付くと芫くんの腕の中で目を覚ます……

でも…今日は……


「ん……?」

芫くんのベッドの中で目が覚めると芫くんがいない…
見れば珍しく自分の机の椅子に腰掛けて机の上の資料を見てる。

「芫くん?」

布団に包まったまま顔だけ出して芫くんを呼んだ。
「目覚めた…」
「うん……」
いつもだけどこの時が恥ずかしい…

「あ!服着なくていいから。オレまだ満足してない。」

「!!!」

こっそりと服を着ようと布団の下からベッドの下に落ちてる自分の服に伸ばした手が
ピタリと止まった。

「え…?まだ?」
「そ!みかげが起きるまで待ってたんだ。」
「も…もうおしまいじゃ…?」
「甘い!何日ぶりだと思ってんの?みかげは家に誰もいない時じゃないとさせてくれないから。」
「あ…当たり前でしょ!!!あんな声誰かに聞かれたら…」
「ウチの家族に気兼ねする事無いのに。」
「するもん!!普通するでしょ?」
「ウチの家族は普通じゃないからいいんだよ。

もしかして悠の奴がオレの部屋に盗聴器仕掛けてるのも有り得る!」

「ええっっ!?ホント?」

「冗談だよ…そんな事してたらオレが悠を殺す!」
怪しいと言えば怪しいんだがあんまり言うとみかげが警戒するから止めておく。
「………」
「冗談だって…」

言いながら芫くんがベッドに歩いて来た…
ズボンだけはいて上は裸のまま…未だにじっと見る事が出来ないんだよね……
でもがっしりしてて小麦色であったかくて……私は好きなんだけど…

ギシリと芫くんがベッドに座って私の頬に手を伸ばす…

「大分慣れて来たな……」
「!!!な…何見てたの?」
話題を逸らしちゃった…

「え…?ああ…」




「!?」

ドサリとソファに座ってたオレの目の前に快の奴が何かの資料を落とした。

「ああ?」
「オレ様命令だ。申し込みはしといた行ってこい!」
「は?」
見れば予備校の夏季講習のパンフだ。
「何で?」
「お前も受験だろうが。東雲家で浪人は許さねぇ!!これも兄弟愛だ。馬鹿弟!」

「…………」

まあ確かにそろそろそんな時期で準備しなきゃとは思ってたが…

「手回しがいいな…快……」
「女1人食わせて行くにはある程度の学歴は必要だ。資格のつもりで受けろ。」
「は?」
「何処の大学行くのかしらねぇが三流は止めとけ。受けるなら一流受けろ。」

「………」

だよな…確かお前は一流一発合格だもんな……
悠の奴ははなっから大学なんて受ける気無かったから快の奴もノータッチだった……



「え?夏季講習?」
「そう…快の奴が勝手に決めて来たんだだけど…何でかウチってそう言うのにうるさくて…
賭け事とおんなじ様に考えてるから…負けは敗北で許されない…」
「へえ…でも受けるからにはやっぱり受からないとね!」
今までとは違ったしっかりした顔だ。
「………」
「なに?」
「いや…」

何だろう…みかげがウチの家系に合ってる気がして……

「2人の将来の為に頑張ってね!!芫くん!」
ぎゅっと握り拳まで作られた。
「あ…ああ……」

何となく…今オレってみかげの尻に敷かれてる???

「その前に快の結婚式があるけどな…」
「そっか…」
「式場が空いてなくて超機嫌悪かったんだぜ…」
「快さん來海さんの事溺愛だもんね…見た目からは想像出来ないけど…」
「あれは溺愛って言うか支配だよ。」
「あれ?この予備校…」
「ん?」

「お兄ちゃんも行ってる所かな?」

「は?」

ウソだろ…最悪!


「みかげ…」
「ん?」
「気分転換!」
「え?あ!!」
ガバッと掛け布団を引っぺがした。
「きゃあきゃあ!!やだ!!」
裸の身体が…昼間だからバッチリ芫くんに見られた!
「あ!!」
肩を押されてベッドの上に仰向けに倒される…
「みかげの身体が見たいから布団剥いだんだから見せて。」
「そ…そんな見せれる様な身体じゃ……」
ホント…胸はそんな大きくないし…身体だってプニプニだし……
「そんな事無い…」
「ん……」

芫くんがそっと近付いて来て……優しくキスをしてくれた……




「だから何でだ?」

オレは腕を組んで來海を睨んでる。

「だから…その…
そんなに急いで式を挙げる事無いんじゃないかなぁ〜って…思っただけで…」

來海の奴はオレと視線を合わせずに不貞腐れ顔で横を向いたままだ。

「じゃあいつならいいんだよ。」


オレは出版社の近くの喫茶店で超不機嫌だ。
何故か來海の奴が結婚式の時期が早いと言い出しやがった。


「もう式場も押さえてんのに今更何だ?」
「押さえてあるって…快さんが決めてきちゃったんじゃない…」
「ちゃんとお前に話はしただろ?式場もちゃんとお前の指定した場所だろうが。」
「そうだけど……本当はもっと後だったのに…」
「空いてる日がお前が言ってた日にちより1ヶ月も後なんだぞ。
だったらちょっと位早くても前の日付で予約したって構わねぇだろうが?」
「まだ遅い方がいいよ!!こっちだって予定があるのに…」
「どんな予定だ?たかが2週間の違いだろうが!!」
「どんなって……それは…」
「何だ?ハッキリ言え!」
「……何でそんなに怒るの?」
「怒るだろう?早く式を挙げるのを反対する理由説明しねぇんだからな!!」
「……………」

「切れてない男でもいるのかよ。」

「 !!! 」

來海の奴が目を真ん丸くしてオレを見た。
來海にそんな男がいない事は分かってた…いたらオレが速攻手を打ってたし…
ちゃんと目を光らせてた…

だが!あんまりにもゴネやがるから思わずそんなセリフが出た。

「……ヒドイ…快さん…私…そんな相手…」
「じゃあ何だ?」

「………もう…いい…」

「いいって…何がだ?」
「だから…式の日取りはいつだっていいよっ!!!」
「 !!! 」

カチンと来た!逆ギレか?

「わかった。」
「え?」
「なら來海が都合の良い日取りで申し込みし直してこい。」
「快さん…」
伝票を持って立ち上がった…そんなオレを來海が戸惑った顔で見上げてくる。

「決まったら連絡しろ…じゃあな。」

「…快さん!!」


まったく……どんなにオレが1日でも早くお前の事を手に入れたいか…まだわかんねーのか…




「何?來海ちゃんと喧嘩でもしたのかよ?」

悠の奴がリビングに入るなりウンザリした口調で呟く。

「…………」

快の奴は無言。
オレは触らぬ神に祟りなし!と言う事で何も聞かず触れず…ただその場にいるだけにしてる。

「大体男のクセに快は結婚式にこだわりすぎなんだよ。いいじゃんさっさと籍入れちゃえば?」
「ばかやろう!一生で一度なんだぞ。そんないい加減な事出来るかっ!!」
「まったく…変なトコで真面目でこだわり持ってんのな…親父とお袋の為か?」
「それもあるが來海にとっても一生に一度の事だからな。ちゃんとしてやるのが男の甲斐性だろうが!」
「ヘイヘイ…そんでモメてりゃ世話無いけどな。」
「死にてぇか…悠?」
ギロリと快が悠を睨んだ。
「じゃあ來海ちゃんの好きにさせてやればいいじゃんかよ。」
「日取り以外は好きにさせてる…」
「日取り?」
「ああ…オレは1日でも早く式を挙げたいんだよ…だがそれ以外は何も文句ねぇ…」
「何?日取りでモメてんの?」
「オレが決めた日取りじゃ來海は気に入らんらしい…」
「何?仏滅?」
「そんなわけあるかっ!!ド阿呆っっ!!」
「じゃあ何?」
「知るか!!!」
「どうでもいいけどよ…酒飲むの止めろよ。お前酔わないんだからもったいねーだろ?
水飲め水!!しかも高級品ばっか飲みやがって…ウチの店で飲め!」
「何が悲しくて野郎に囲まれて酒飲まなきゃいけねぇんだよっ!!」
「可愛い男もいるぞ!ウチの店には ♪ ♪」
「死ね!!!」


「 ………… 」

2人のそんなやり取りをソファで寝っころがりながらボンヤリ見てた…

一生に一度…か…
快の奴見かけとは裏腹に結構真面目に相手の事を考えてやがんだよな……

早く……一人前になりてぇな……まだ何年学生が続くんだか……

先が長くてオレはガックリだ……