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快  (kai)   : 東雲家の長男で人気小説家。來海を溺愛。
來 海(kurumi): 快の元担当編集者。快と恋人関係もうすぐ結婚。





「…はぁ…」

パソコンの画面を眺めながら溜息が出た…
あれから快さんからは連絡も無いし…私も連絡してないし…

式場にはまだ何も連絡はしていない…
快さんが1日でも早く式を挙げたいのはわかってるし…私だって別に……

でも……

「あら森川さんそれって…」

同じ編集部の先輩の福山さんが通りすがりながら私のパソコンの画面に気が付いた。

「あ…」
「もう少しね。結婚式…素敵じゃないそのウエディングドレス。」

パソコンの画面を覗き込まれてそんな事言われた…

「いくつかの式場探して…このドレスが一番気に入ったんです。」

申し込んだ式場のウエディングドレスが映し出されてる…

「似合うんじゃない。快先生もこんなの着た森川さん見たら惚れ直しちゃうわよ。」
「……だと…いいんですけど…」
「?なんで?快先生は気に入ってないの?」
「いえ…快先生は全然文句なんて言わないんですけど……」
そう…快さんは私の望み通りにしてくれてる…日取り以外は…
「けど?」

「私の方にちょっと問題が……」

「え?」



「プッ…クスクス…」
「もうそんなに笑わないで下さいよ!」
「ごめんなさい…」

何となく福山さんに全部話しちゃった…

「可愛いわね…森川さんって…快先生が参っちゃうわけだわ。」
「からかわないで下さいよ!そのお陰で今快先生との間がぎくしゃくしてるんですから!」
「あと約2週間か…やっぱりそう言う専門の所に行った方が早いんじゃないかしら?」
「自分でも努力はしてるんですけど…」
「でも無理すると身体に悪いわよ…」
「はい…」

確かに最近身体がだるかったりするのよね…

「でもその前に…」
「その前に?」

「ちゃんと先生と話し合って仲直りしなさい!」

「……え?」

流石お姉さんタイプ……メ!って顔されて…諭されてしまった……



「何だ?」

超不機嫌な顔で出迎えられた…嫌だなぁ……

「………話があって来たの…」

珍しく來海がオレの家に来た。



「新しい日取り決めて来たのか?」

リビングのソファで向かい合って座った…何で隣に座らねぇ!!

「日取りは…前のままで…いいから………」
「ああ?何で?それが嫌でゴネてたくせにか?」
「………」
「あ?」
來海が自分の鞄から一枚の紙を取り出してオレに見せた。
紙にはウエディングドレスの写真が印刷されてた。

「?…このウエディングドレスがどうした?」
「あの式場にあるの…式場探した時に見付けて…だからあの式場にしたの…
そのウエディングドレスを着かったから…」
「……なら着ればいいたろ?オレは何も文句はねぇ。」
「私だって着たい!!着たいんだけど…」
「ああ?何だ?はっきり言え。」
「…………」
「?聞こえねぇ…」
「………ふ…」
「ふ?」

「太ってて着れないのっっ!!」

「は?」

「……あの日…ドレスを見せてもらったの…快さんが式場の人と話してる時に…
それで合わせてみたらちょっとキツくて……」

來海が顔真っ赤の挙動不審状態で話し続ける…ちょっと笑える…

「は?」

「だから式の当日までにダイエットしてこのウエディングドレス着るつもりだったの!
1ヶ月あればどうにかなると思って…なのに…快さん…早目の日取り決めちゃうから…」

「……だったら他のにすりゃいいだろ?」

「嫌よ!!これがいいの!!一生に一度なのよ!!
このウエディングドレス着た私を快さんに見て欲しいの!!
このウエディングドレス着て………快さんと結婚したかったの……」

「來海………ふっ…」

「快さん?」
「まったく…お前って女は……」

オレの為に…か…どうしてそんなに健気で可愛いんだか…
しかも自分で自覚してねぇところがまたオレをくすぐるんだよな……

「?」
「こっちに来い。」
そう言って來海に手を差し出した。
「………」
來海がオズオズとオレの方へ歩いてくる…隣に座らせて抱き寄せた。

「まだ着れないのか?」
「……多分…色々頑張ってるんだけどなかなか変化が無いんだもん…」
「そんなに太ってるとは思わねえけどな…」

ギュッと抱きしめて確認したが大人の女の身体でオレは大満足の身体なんだが……

「何だか引き締まって無いのよね…」

自分の身体を確かめながらそんな事を言う…

「ならオレが良いアイデアを授けてやる。」
「本当?」
「ああ…今日から式の当日までここに泊まれ。」
「え?何で?」
「これから毎晩ダイエットの運動手伝ってやる。」
「快さんが?」
「ああ…マッサージもしてやるぞ。」

「………なんか…怪しい…」

「なんだ?未来の旦那が信じられないのか?」

「………そう言うわけじゃ……」
でも怪しいのは事実で…
「にっこり笑顔が怪しい!」
「そうか?さて早速運動だ!!」
「え?」

クルンと天井が回って快さんが私を見下ろしてる。

「たっぷりと汗掻かせてやる。身体も嫌って言う程揉みほぐしてやる。」

「え?…今から?…此処…で…?」
「ああ…早い方がいいだろ?昨日は協力してやれなかったからな……
何だ…だったら早く言やぁいいものを……」
「………」

ますます怪しい笑顔なんですけど……

「だ…ダメ…こんな所でなんて…皆さん帰って来るし……」

逃げられないのは分かってたけど……

「大丈夫だ…こんな早く誰も帰って来ねぇよ……」
「うそ……」
「本当だって…いいから黙れ。旦那の親切は素直に受け取るもんだ。」
「まだ旦那様じゃ…あ…んっ……」

ゆっくりと舌を絡ませるキスをされた……しっとりとした…大人のキス…

「結婚したら 『 あなた 』 だぞ。」

「……え…?」

それ冗談でしょ?
さっきよりももっとにっこりな顔で微笑まれた。




「……あっあっあっ!もう…そんな…態勢…無…理…!!」

「大丈夫だって…ウエスト細くなるぞ。」

「も…ウソばっかり…あっあっ!」

ただ単に恥ずかしい格好させてるだけなんじゃないのかと思うけど……

ずっとソファで快さんに抱かれ続けてる…
リビングのソファなんて初めてで…本当に誰も帰って来ないわよね…
心臓がドキドキ…ソワソワ……

なんて最初はそんな事を気にしてたけど今は…無理……

「あっ…アン…快…さんっっ!!!ンアッ!!あっあっああっ!!!!」

グングン押し上げられて…攻められて……
でも…確かに汗いっぱい掻いてるかも…って……



「……………」 「……………」

玄関を入った瞬間そんな声が廊下に響いて来た…
オレは…まあ…昔からの事で驚いたりはしないが
みかげが顔真っ赤の硬直で玄関で固まってた。


「…あっ!あっ!あっ!快……さ……ダ…メ…んあああっっ!!!」


…おいおい…大丈夫か?
快の事だから激しく抱いてんだろうな…しかも昨日喧嘩したみたいだし…


「みかげ?」

ビクンっ!!!

「 は……はいっ!!! 」

もの凄い驚かれた。

「外…行くか?」
「は……は…はい!!!」

しかも思いっきり敬語…

仕方なくオレとみかげは今帰って来た道をまた駅に向かって歩き出した。




それから数週間後…

真っ白なウエディングドレスを着た花嫁が…

快と2人幸せそうに…

祭壇の前で誓いのキスを交わしてた………