31




吉泉 智一 (Yoshiizumi Tomokazu) : みかげの兄でシスコン気味。みかげと芫の交際をあまり良く思っていない。
                             芫のクラスメイト。





「はぁ…」

夏休みに入って前から決めてた夏季講習が始まって早1週間…
殆んど朝から晩まで塾に缶詰状態で…みかげに会うなんて…

しかも前からみかげはオレとメールのやり取りなんてしないから
もう1週間みかげの声を聞いてない…

ホントみかげはオレに冷たい……ってオレも連絡しないのも何だが…
1度声を聞いたら会いたくなって…みかげを離せなくなって…

情け無い事になるのは目に見えてる…

しかも…1番の問題は…



「おはよう…」
「オス…」


みかげが言った通り…みかげの兄貴と同じ予備校だった…しかも同じクラス…



「結構真面目に通ってるな。まさか東雲がこんなに頑張る奴とはね。」
「兄貴もうるさいし…大学に進学するのは決めてたし…仕方ない。」
「しかも毎日手作り弁当で……まさかみかげ以外に付き合ってる子がいるんじゃないだろな?」
「いるかっ!これは兄貴の嫁さんが作ってくれてんだよ……なあ…」
「ん?」

「みかげ…元気か?」

「何?連絡取り合って無いの?」
「オレ達携帯でやり取りするより直接会う方が満足するんだよ…
だから滅多に携帯でやり取りしない。」
「へぇ…元気だよ。僕にお弁当作ってくれるし…」
「何!?」
「なんなら君の分も作る様に言おうか?まあ味は保障しないけど。」
「なんだそりゃ?不味いのか?」
「不味いわけじゃ無い…微妙なだけだ……」
「へぇ……でも…いいや…こっちも結構気ぃ使って作って貰ってるから…
みかげの手作りは後々の楽しみに取っとく。」
「そう?まあいいけど……東雲!」
「ん?」

「気が向かなくてもみかげに連絡してやってくれ…毎日毎日携帯とにらめっこしてるから…」

「みかげが?」

「ああ…いい加減ちょっと可哀想だ…」



シスコンの兄貴が気に入らないオレなんかにそんな事を言うなんて…ちょっとビックリで…

久しぶりにみかげに会いに行こうかと考えただけでもう気分がウキウキとなった。




「芫くん…?」


携帯が鳴って友達からだろうと思ってたら画面に表示されたの芫くんの名前…

もう夢じゃ無いかと思って何度も名前見直して自分のホッペをペシペシ叩いて
目を擦ったけどやっぱり画面に表示されてるのは…芫くんの名前……うそぉーーー!!!

あの芫くんが…掛けて来てくれた!!!
喧嘩した時も掛けて来てくれなかったのに……

『何だよ…すぐ出ろよ。忙しいのか?』
「ううん…だって…久しぶりで…信じられなくて…イタズラかと…」
『みかげの声聞きたくて……それに…会いたい…みかげ…』
「私だって…会いたいけど…芫くんの勉強の邪魔になるし…それに夜遅いから…」

お兄ちゃんも帰って来るのは夜の11時を過ぎてるから…

『ちょっとだけ会えないか?みかげの家まで会いに行くから…
ちゃんとみかげの兄貴には許しもらってるし…』
「え?本当に?…私は構わないけど…本当に私に会いに来てくれるの?」
『ああ…約束する。』
「わかった。じゃあ待ってる……」
『ああ…じゃあ夜…な…また連絡する。』
「うん…楽しみに待ってる…」


その後通話が切れても私はしばらく携帯を握り締めてた。

「ど…どうしよう…芫くんが会いに来るって…えっと…えっと…まずちゃんとお風呂は入って…
この前買った服…着よう…まさかパジャマって訳にはいかないし…
ってきっと芫くんはそっちの方が喜びそうだけど…」

私はそれからドキドキソワソワ…ああ…もう…どうして良いかわかんないよぉーーー!!

1週間ぶりに芫くんに会える…本当は毎日でも携帯で話したかった…
でも私と芫くんは携帯で話すより会って話したいタイプで…
まあ痩せ我慢してたのもあるけど……でも…今夜会えるんだぁーーー ♪ ♪

しかもこんな夜遅いのに……うれしーーーーーっっ ♪ ♪





「で?何で君と一緒に帰らなくちゃいけないんだ?」

「仕方ないだろ!同じ家に向かってるんだから!
オレだって何でお前と一緒に帰らなきゃいけないんだよ…罰ゲームか?
あんなに毎日勉強頑張ってるのにそのご褒美がこれか?…はぁ〜〜」

当然の事ながら同じ予備校に通ってて…同じクラスで勉強してるんだから
必然的に一緒の電車になるのはあたり前で…

「今夜は特別だから。」
「わかってるよ…お兄様 ♪ 」
「気持ち悪い呼び方はやめてくれ…」



しかし…きっとコイツにとって今夜の事は本当に譲歩した事なんだろうな…

なんて思いながら…心の中はみかげに会える事が嬉しくて……



知らないうちに歩く足の速度が早いのをみかげの兄貴に指摘された。