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「東雲!ちょっといい?」

「あ?」

講習が終わってやっと堅苦しい所から解放されたと思ったら出口で女に声を掛けられた。

声を掛けて来た相手は同じ学校の 「 花咲 」 と言う女。

見た目茶髪のピアスで生活指導の教師に常に目を付けられてる奴が
この予備校の同じ夏季講習に参加してたのには驚いた。

そう言ってやったら 『 そっくり同じセリフ返してやるわよ! 』 って面と向かって言われた。

まあ今まで遊びまくってたモンがこれからの将来の事をマジで考え出したって事か?


「愛の力は偉大だわね〜あの東雲芫が彼女の為にイソイソと予備校に通うなんてさ〜」
「煩いよ。何だよ?オレ早く帰りたいんだけど?」
「…………」
「男なら紹介しねーぞ。」
黙ってるから先に答えてやった。
「違うわよ!」
「じゃあ何だよ?」
オレは少しイライラ…
「あのさ…」
「?」

何だ?そのモジモジは?

「……オレ付き合ってる彼女いるから無理!」

何だか言い難くそうだからそっちかと思って先に断った。

「バッカッ!!違うっつーのっっ!」
「はあ?じゃあ何だよ?」
「…だ…だからさぁ…」
「?」

「吉泉って…付き合ってる娘いるのかな?」

「は?吉泉?吉泉ってあの吉泉?」

「そんなに名前連呼しないでよっっ!」
「何で?」
「えっっ!?何でって……」
「?」
「………」

バツの悪そうなそんな態度が全てを物語ってるよ…ふ〜ん…そう言う事…

「物好き…」

「煩いっっ!あんたよりマシでしょ!いいからどうなのよ!!」

「さあ…いないんじゃね?オレは見た事ないけど…」
「何で?アンタ達ダチじゃないの?」
「…………」

クラッっと一瞬眩暈がした…

「気色悪い事言うな!一瞬眩暈がした!」
「何よソレ?」
「とにかくオレはそんな事知らない!知りたくも無い!!自分で本人に聞けよ。」

オレは付き合いきれずにサッサと外へ出る…帰らせろ!
そんなオレを追い駆けて来て腕を掴まれた。

「聞けないからアンタに聞いてるんじゃない!!」

確かにそうだが……

「オレに聞かれても知らねえ!」
「使えないわねぇ〜〜」
カッチン!
「知るかっ!吉泉ならまだ中にいるから聞いてみろよ!」
「だから…」
「僕に何か?」
「あ…」
「ひっ!!」

振り向くと吉泉が立ってた。
相変わらずのインテリ眼鏡の嫌味な顔…もろガリ勉タイプ…
でも剣道をやってるせいか身体つきはひ弱じゃ無いし
みかげが 『 ブラコン 』 になるほどの兄貴ぶりだから女子の受けも良いらしい。 

将来オレの義理の兄になる男……今から考えても恐ろしい。
相手も同じ事を思ってる…と!オレは思う。

「何?浮気?この僕の目の前で?」
「馬鹿か!そんなわけあるか!こいつがお前に聞きたい事があるってさ!」
「僕に?勉強の事なら僕よりも講師の先生に聞いた方が良いんじゃない?」
「益々アホか!んなわけ無いだろ!」
「じゃあ何?」
「だから本人に聞け!オレは帰る!」
無駄な時間くった!
「おい!東雲!?」

そんなオレを呼ぶ声は無視して歩き続ける…

「ん?」

え?目の錯覚??
今…この先の曲がり角を……みかげが曲がって行かなかったか?
ホンの一瞬の後ろ姿だったけど……

「まさか…」

オレは猛ダッシュで追い駆けた。

10秒ほど後で同じ曲がり角を曲がると大通りの歩道は人がいて
なかなかみかげらしき人影を見付け出せない。

でも…あれは…きっとみかげだった…
こんな時間に…こんな場所で何してたんだ?

オレの事待ってたんなら何で先に行く?

そんな事を思いながらもきっとこの先の駅に向かってるのはわかってるから
走ってるのと同じ位の速さで見えないみかげを追い駆けた。

携帯に掛けてる時間も勿体無い…このまま追いついて捕まえた方が早い。


「チッ!」

駅の近くで電車が入って来るのがわかった…
しかもあれがみかげならみかげが乗る電車だ…
運の悪い事に乗るホームは改札口を入って直ぐのホームだから
飛び込んでギリギリでも乗る事が出来る。

「くそ…間に合え!」

普段の行いが悪いのか…最近みかげと会ってないから2人のタイミングが合わないのか…
改札口を通る寸前で電車が発車した。

「…みかげ!」

離れて行く電車のドアの窓ガラスにみかげが立ってるのが見えた。

見間違いじゃない!

「みかげ…何だよ…」


どんどん遠ざかっていく電車をいつまでも見てた…

携帯に掛けようとは思わなかった…どうせ出ない事がわかってたから…


だからオレは…すぐ次に来た電車に飛び乗ってみかげの後を追い掛けた。