07





「何で辞退出来るって教えてあげないんだ?」

此処は耀が通う大学の研究室。
窓辺に腰掛けるしいなにデスクの椅子に座ってコーヒーを飲みながら話すのは
この部屋の教授『真鍋亨』。
短い髪に縁無し眼鏡を掛けたいかにもインテリ風の男。
しいなより多少背が高い。歳は30代半ば。

「いいだろ…また新しい飼い主探すの面倒なんだよ。」
「まったく…お前って子は…」
「何でアイツには半獣の能力が効かない?」
「…言っただろ?あの子は他の子と少し違うって。
あの子は11歳の時から精神的なトラウマで男として生活してたのを半年前に治療して
女の子に戻ったばかりだ。しかも治療した相手はお前だって名前位聞いた事あるだろう?
あの草g家の当主『草g右京』だよ。」
「あの政財界で一目置かれてる一族だろ?しかも『邪眼』の持ち主。」
「そう…お前達の半獣の瞳と似ているけど彼のソレは他の誰とも比べものに
ならないほどの能力だそうだから彼が治療した子だからお前の半獣の瞳が
効かないのもその影響のせいじゃないの?」
「どんな繋がりだ?」
「家同士の繋がりだろう?それかあの子自身の繋がりか…」
「……」

「でも契約はしたんだろ?」

「………まだしてない。」

「?なんで?」
「オレの能力が効かないから。」
「え?何?効かないからってあの子に手が出せないの?」
「……うるさいな!今まで1度もそんな事なかったんだぞ!慎重になんのも当たり前だろーが。」

「自信が無いだけだろ?」

「!!」

「自分だけの力であの子に好かれる自信が無いだけだろ?」
「!!」
「半獣はそこに居るだけで周りの人間を惹き付ける。
今までその能力無しで契約したのは僕だけだものね。」

「お前はオレからじゃなくてお前から勝手に契約したんだ!!ガキだったオレを力づくで!!」

「その後は上手くいってただろ?契約が切れた後もこうやってお前の良き理解者じゃないか。」
「人の事研究材料にしてるくせに。」

「だってお前は半獣の中でも更に特殊なんだよ。
元々数の少ない半獣の中で今の所生存しているのは犬型・猫型…狼はお前だけ…
研究の意欲が湧くの当たり前だろ?研究で分かった事は半獣は同種族間でしか
繁殖出来ないから1人しかいないお前にはこれから先の繁殖は不可能。
人間との間での繁殖も不可能だからお前が死ねば狼の半獣はいなくなる。
だからお前の半獣の瞳の力は他の半獣より強いのかな…本能的に繁殖相手を探し出す為に。」

「…さあね…」

「だから研究材料になる代わりにお前にはかなり自由が与えられてる。
それなのに何が不満なの?飼い主を短期間で何人も取り替えて……」

「………飼い主が気に入らないから。」

「まったく…確か草g家にも猫型の半獣が1人いたはずだよ。
でも3年近く一緒にいると聞いたけど……余程相性がいいのか?」
「……飼い主がアタリだったんだろ?…まあいい…」
「帰るの?」
「ああ…耀の奴勝手に前のアパートに逃げたから連れ戻す。」
「へえ………大変だね…お前も。そんなにあの子がいいの?」
「………今までいなかった飼い主だ。オレを要らないって言った。」
「お前を?と言うか半獣を?世間のどれだけの人間が半獣を欲しがってると思う?」
「耀にはそんな事関係無いんだ。だから余計アイツが良い。」

「じゃあ素直にそう言えば良い。ずっと前から君に飼われたかったって。
僕を使ってまであの子を飼い主に選んだんだし…それに後2日で新月だよ。」

「…………」

「へぇ…お前のそんな顔初めて見たよ。これは新しい研究データが採れそうだ。くすっ……」

「外道が!」

そう捨て台詞を亨に浴びせて早々に研究室を後にした。



─  どうしたの?迷子?
 
         じゃあオレの所で雨宿りするといいよ。

                あったかいミルク飲ませてあげる… ─




              「…………耀……」


オレは今のオレの気持ちと同じ様な…どんよりと曇った空をしばらく見上げていた…