08





「ふわぁぁぁ〜〜〜やっぱりこの部屋が落ち着く〜〜」

彼が出掛けた間にあの高級マンションから自分のアパートに帰って来た。
隠してあった自分の服を見付けて靴の代わりにスリッパを履いて
タクシーを拾って逃げる様にこの部屋に帰った。
スエット上下にスリッパで…お金持ってなかったからアパートの前で
タクシーに待っててもらってお金を払った。
玄関は開いたままで一瞬ドキリとした。
あの時強引に連れてかれたから鍵なんて掛ける暇無かったし…
けど泥棒には入られなかったらしい…
お財布もあったし部屋から失くなったものもなかったから…よかった。

「シャワーでも浴びよ…」

ホッとして…もっとホッとしたくてシャワーを浴びた。
なのに身体中に残ってる歯型と擦り傷とキスマークの跡で現実に戻された。

指先で歯型の1つに触れる……
頭の中に彼の顔が浮かんだけど頭を振って追い出した。

部屋に戻って床に直接座ってお気に入りのクッションを抱きしめながらカフェオレを飲んだ。
ミルクと砂糖多め。

甘くて美味しい〜〜〜 ♪ 

鍵もチェーンもしっかり掛けた。
今度はすぐ警察に電話してやるっっ!!……って…飼い主の責任…どうしよう……
飼い主になるって決めたのは自分だし……でもまさかあんな半獣だとは……
もっと小さくて可愛いのかと思ってた……

そうだ!真鍋教授にも文句言わなくちゃ。話が全然違うじゃないか!!
ってでも真鍋教授って恐いからなぁ…文句なんて言えるかな……

「コクン……ふあぁぁあ〜〜〜和む〜〜」

今だけは……みんな忘れたい……

ガ ン !! バ キ ャ !! ビ ン !! バ ン !!!

「え?何!?」
立ち上がる間もなく大きな黒い影がズカズカと入って来た。

「何勝手に出掛けてんだ。耀!!」

「!!!ど…どうして?鍵に…チェーンだって……」

「鍵なんて掛かってなかったぞ。」
「う…ウソだ!!」
「帰るぞ。」
「帰るって……ここがオレの部屋だもん!!!」
「違う!耀の部屋はここじゃない。昨日教えただろ。」
「違……!!!」

彼の後ろからまた数人の男の人が入って来た。
みんな同じ服装……何?

「全部運び出せ。」

「はい。」

「え?一体……?あ!!」

座ってたのを無理矢理立たされた。
男の人達が段ボールに荷物を詰めだしてる。
この人達引越し業者の人?

「ちょっと何してんの?止めて!!あっ!!」

部屋の隅の角に押し込められた。
目の前には黒い大きな壁が両手をオレの背中の壁に着いて
逃がさない様に腕の檻を作って見下ろしてる。

「ここはお前が居る場所じゃない。帰るぞ。」
「………違う!此処がオレの部屋だよ!!」
「違う!もう此処は耀の部屋じゃない!耀の部屋は昨日のあのマンションだ。」
「違っ……!!ン!んんっ!」

彼の後ろでは男の人達が荷物を詰め込んでるのに……
舌を絡めるキスを激しくされる!

「ふ……ンア……ん……」

くちゅくちゅと舌の絡む音が静まり返った部屋に響いてる……
絶対男の人達に聞こえる……恥ずかしい……

「……はぁ…や…やめ……ハァ…ハァ…」
「シャワー浴びたのか?」

彼がおデコに唇を着けながら優しく囁く。
指先で濡れた髪を絡めながら……

「……うん……」
「いい匂いだな…今度は一緒に入るからな。」
「やだ……恥ずかしい……から……」

こんな部屋の角でなんだか2人の世界が広がってる……
警察に電話なんて頭から消えてた……

そんな世界も荷物を運び出す音で引き戻された。

「ちょっと!その棚何処持ってくの!!!」
「心配すんな。あのマンションに全部持って行く。」
「え?」
「だから………あのマンションで暮らせるだろ?」
「……オレの為に?」
「…一応…飼い主だからな……」
「……」

彼等の仕事振りは完璧で本当に何から何まで詰め込んで新しいマンションに運んでくれた。
別にあのマンションにいたくなかったのは自分の荷物が無かったわけじゃないんだけど…
彼が何だかえらい勘違いしてると思いながら…

でも変に一生懸命だから突っ込む事も出来ずに仕方なく一緒にあのマンションに戻った。

アパートの玄関を出る時に玄関の扉と枠の鍵の部分が見事に変形して
破壊されてたのとチェーンが途中からちぎれているのを見た……

それって…彼がやったんだ…半獣だから?


そう言えば昨日もオレの事楽々と抱き上げてたっけ……