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─ ちっちゃいなあ… ─

『………』

─ ミルク美味しい?ずっといてもいいんだよ……

              オレが飼ってあげるから… ─




『………耀…ん?!』

「あ!でも今度またさっきみたいな事したら一緒に寝てあげない!」

そう言ってオレを片手でひょいと持ち上げる。

摘むな!!

『耀…』
「何?」

『何で裸で寝てないんだよ!』

「え?!」

『裸で寝ろって…あ…オイ!何すんだ…』
ベッドの上に仰向けに押さえ付けられた!?
「しいな…今の自分の立場わかってる?」
『は?』

「オレの方がしいなより何倍も大きいって事!」

『だから何だよ?そんな事でオレはビビらない…って…
ちょっ…バカ!やめっ…くっ…あは…うっ…』

「くすぐりの刑実行!」

仰向けになった狼しいなを思いきりくすぐってやった。
ものすごくくすぐったがるしいなが面白かった。




『はぁ…はぁ…』

散々くすぐられて死ぬかと思った…加減しろっての……まったく…
元に戻ったら覚えてろよ…泣かせてやる!!

「しいな…」
『!!』

耀が優しくオレを両手で抱き上げた…そのまま腕に抱かれて耀の胸に抱かれた。
やっぱ耀の胸は大きくて柔らかい…フカフカしてて気持ちいい…

「もう寝よう…オレが抱いててあげる…おやすみ。しいな…」

そう言ってオレを抱きながらベッドに横になる…

『……おやすみ…』

人型の時とはエライ違いだ…しかも半獣の瞳も使って無いのに耀のこの態度の違い…
今のオレにメロメロじゃないか…まったく…訳わかんねー
……ま…それに免じて元に戻ったあとの仕返しは我慢してやるか………

ああ…この姿になって良かったなんて思えたの…今夜が初めてかもな……

見上げたら耀の顔がすぐ近くにあったからちょっとだけ伸びをして耀の唇をペロリと舐めた。

「…ん?何しいな…またおやすみのキス?…んー…」
寝ぼけてるな…


便乗して何度も耀にキスをして耀の腕と胸に埋もれて眠った。

                     最高に気分の良い新月の夜だった。





『え?何これ?』

目が覚めたら本物の狼になってた…
自分が人ではなくて半獣なんだと理解してから1ヶ月…ついに身体まで…ため息が出た。

「ん?なに?」

部屋に入って来た今オレの世話をしてる男が驚いた様子も無くオレを見てる。
『亨…』
あ…喋れた。

「は?しいな?お前どうしたの?」

『わかんない。起きたらこんな風になってた。』
「これは…こんな事例聞いた事ないよ…」
ひょいとオレを摘んで持ち上げた。
『摘むなよ。』
「ふぅ〜ん…これは検査だね。」
『また色々すんの?あのチクッとするのヤなんだよな…』
「今日はチクッで済まないよ。」
『………』
「なるべくお前に負担がかからない様にはするけどね。」

もう何度検査と言うものをやったんだろう…
時々とってもつらい時もあるけど逃れる事は出来ないから諦める。

オレは他の半獣より珍しいんだって…色んな事されて痛いの我慢して…
結局何でこんな姿になったのかわからないまま3日後オレは元に戻った。

それから新月の度に狼になった。
だから月の満ち欠けによるものだと断定されたけど何故そうなるかと言う
メカニズムは解明されなかった。
狼だから…ただ1つの当て嵌まる説明はそれだけ…
確かに満月を挟んでオレはとんでもなくハイになる…



何度目かの新月の日…監視の目を盗んで外に出た。

車で監視付きでは何度か外出したことはあったけど車の外には出してもらえなかったから
初めて1人で外に出たんだ。

しかも狼の姿で…

見る物見る物新鮮で人間が一杯で…このまま外で暮らせたら…自由になれたらな…

頭に残ってる最初の記憶は真っ白な部屋で3人の白衣を着た連中がオレを見下ろしてた…


トコトコと人混みの足元を歩いた。
途中抱き上げられそうになるのを何とかかわして逃げた。
大分歩いて流石に疲れてきて…運の悪い事に雨まで降って来たし…
仕方なく何処の屋根の下に落ち着いた。

歩き疲れたのと雨に濡れたので動けなくて…身体も冷えてガタガタと震えて丸まってた…

目の前をあんなにたくさんの人間が行ったり来たりしてるのに
誰1人オレに気が付かずに足早に通り過ぎる…

ああ…こんな事なら退屈で胸くそ悪い研究室だったけど出るんじゃなかった…

なんて思い始めてた…オレ…このまま凍えて死んじゃうのかな…
ぼーっとなる意識の中でそんな事まで考える。

勝手な言い分だけど……オレの事捜しに来いよぉ〜〜〜〜!!!



      「どうしたの?迷子?」

ん?

「じゃあオレの所で雨宿りするといいよ。」

誰だかわかんないけど人間がオレに話し掛けて来た。

「あったかいミルク飲ませてあげる…」

濡れた身体をタオルで拭かれて抱き上げられた。
何か布らしきもので身体を包まれて…
ギュッと抱かれてたからだんだん身体もあったまってきた…
抱いてる人間が歩く度に心地良く揺れて眠気が襲って来る…

いつの間にかオレは人間の腕の中で眠りに落ちた。



『……!!』

どのくらい寝てたんだろう跳び起きるとフカフカのクッションの上でタオルに包まって寝てた。

「あ!起きた?」
『…………』
此処で話す訳にもいかないから無言…
「可愛いなぁ…大丈夫…オレ小さい生き物好きなんだ…ふふ…」

そう宣言する通りこの人間はオレを大切に…大事に扱ってくれた…
何度も何度も頬擦りとキスを繰り返しされた。
くすぐったかったけど嫌じゃなかった…暖かくて…気持ち良い…
夜も一緒のベッドに眠った。


次の日の朝…人間よりも先に目が覚めた。
どうやら人型には戻らなかったらしい…珍しくホッとする。

ちょっとだけ開いてたキッチンの窓に前足を引っ掛ける。
自分が通れるくらいの隙間を開けて…外の面格子はぎりぎり身体が通って難無く外に出れた。

本当はもっとあの人間といたかった…
でもいつ元に戻るかもわからない身体じゃいつまでも此処に居れる筈も無く…
トボトボと朝の街を歩く…

此処が何処だかわからない…ふらふら歩いてたらバタバタと足音が近付いて来て
あっさりオレは連れ戻された…

まさかオレが逃げ出すとは想定外だったんだろう…
その後色々な機能が付いてるからと強制的にGPS機能付きのピアスを今更付けられた…
まあこいつらの監視下の身じゃ仕方ない…今のオレは1人じゃ生きていけないから…

それから大分経って1人で外出が許される様になったオレはおぼろげな記憶を辿って
何日もかけてあの人間の住んでいたアパートを探し出した。



でもその人間は…既に引っ越した後だった…