13
『………ん…』
目が覚めるともう耀がベッドにいなかった。
ベッドから降りて少しだけ開いてたドアを擦り抜けてリビングに向かう。
くっ付いてるキッチンから何だか何とも言えない臭いが漂って来る。
「あ!しいな起きたの?今しいなの朝ごはん作ってるんだよ。」
『料理の腕は壊滅的にダメだったんじゃないのか?』
「人様のはね。今のしいなのご飯なら大丈夫だと思うんだ。」
『…………本当に大丈夫なんだろうな…普通のメシでいいんだぞ。』
ペットフードなんて出したら襲ってやる。
「大丈夫だってば!はい。熱いから気をつけてね。」
『…………』
何と言えばいいんだか…目の前に出された“モノ”は混ぜご飯なのかチャーハンなのか
リゾットなのかお粥なのか??謎だ!臭いは…多少するが刺激臭ではない…
「早く食べてみてよ。」
耀は満足気でニコニコだ。
『…………パクリ!』
恐る恐る一口食べた。
『 !!!! … ふ ぐ っ !!! 』
しいなが一口食べてあまりの美味しさに身体が震えたらしい。
だよね!このくらいの料理ならオレにだって…?
「しいな?」
しいなが固まったまま動かない…?
バ タ ッ !!!
「わーーー!!しいな!!??」
しいながばったりと倒れた!!
「ちょっとしいな?」
小さな身体を抱き上げた。ガクッと頭が傾いた!!
「ぎゃーーーー!!!しいな!どうしたの?ちょっと!?」
『……ゲホッ…耀……』
「ん?」
『どうやったら…こ…こんな料理…作れるんだ…?』
「えー!?変なのなんて使ってないよ!!味付けだってそこにあったの…」
『どうやってあそこにある調味料で…こんな味になるんだよ……うえっ…』
「だから美味しくなると思って全種類…」
『…!!全種類?……バカかっ!!普通考えればわかんだろうが!!』
「だって………」
『買いに行くぞ!もう近くのコンビニで良いから!行くぞ!』
オレは思い切り不満気…
「チェ…おかしいな…」
『なら食べてみろ。だいたい味見したのか?』
「えー大丈夫だろうなぁって…」
『なら遠慮しないで食え。』
「………ぱく!」
一口分摘んで食べた。
「 !!! … う え っ !! 」
速攻で流しに飛び付いた。
「ゲホッ…えーなんで?」
『調味料全種類入れて美味しく作れると思える方がどうかしてるんだよ。もう2度と作んな!』
「…………」
言い返したかったけど言われてる事は本当の事だから黙るしかない…
「じやあちょっと待っててね。」
コンビニに動物は入れないから…入口の近くでしいなはちょこんと座ってる。
まさか本当は182cmのなかなかのイケメンなんて誰も思わないだろうな…しかも半獣だなんて…
『…………何だか屈辱的だ…』
入口の脇でこのオレが待たされる?くそ!この怒りは帰りに耀の胸で晴らすと決めた!
『ん?』
目の前に影が出来て見上げると1人の男が立ってた。
「情けない姿だなぁ…しいな?」
『お前…!!』
「こんなちびっちゃい姿…どうやったらなれるんだか教えてもらいたいね…ふん…」
ひょいと摘み上げられた。
どいつもこいつも何でオレを摘み上げる?
「しいな!!」
買い物が終わって外を見るとしいなが男の人に摘み上げられてたから慌てて飛び出して叫んだ。
「あ!」
「!!」
バ キ ャ!!
「 ブ ッ ! 」
しいなが摘み上げられた状態なのにあんな小さな足で目の前の男の人の顔面を蹴り飛ばした!?
蹴り飛ばした男の人がのけ反りながら摘んでたしいなを放り出すと計算されてた様に
オレの腕の中にしいなが収まった。
「しい…な?」
『バカが…』
「………」
顔面を蹴られた男の人が震えてうずくまってる…
「何してんの!しいな!すいません…大丈夫ですか?」
心配でうずくまってる男の人を覗き込んだ。
「顔蹴んなよっ!」
『黙れ!犬っころ!!』
「しいな!って…あーあなた……半…うぐっ!!」
叫びそうになる口を細く長い綺麗な指で塞がれた。
「!!!」
「しぃ〜〜あんまり騒がないで。ただでさえ目立ってるからさ。」
「……コク!…」
間近でそんな事言われて…でも半獣ってみんなこんなに…カッコイイの?
『馴れ馴れしくオレの飼い主に触るんじゃねー』
今度はしいなが手刀を繰り出した。
素早くて見えないんですけど???
「おっと2度も喰らうかっての…」
そんな手刀をいとも簡単にかわして笑ってる。
「俺トウマ!よろしく!」
家までの帰り道…歩きながら自己紹介だ…
本当に半獣だ…耳にしっぽ…しいなが犬っころって言ってたから彼は犬型?
「オレは耀…望月耀です…」
『こんな奴に名前教える事なんか無いぞ!耀!!』
「でも…」
「よろしく。耀!しいなの新しい飼い主…じゃないんだよな?」
「え?」
思わず足が止まってしまった…