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『…ん?』

次の日…目が覚めても身体は狼のままだった…

『チッ…まだ戻らないのか…』
がっかりだ……
『ん?』
視線を感じて顔を上げると

『!!』

耀がだらし無くニヤけた顔でオレを見てる。

『なっ…なんだ?』
「え〜〜だって可愛いんだもん。」

『………』

どうやら耀はこのちんまい狼姿のオレがいたく気に入った様で
ぬいぐるみの様に抱きまくりの頬擦りのキスの嵐だ。
元はオレだって分かってんのか?疑問だ…まあオレも何気に満足してたりするんだが…



「しいな1人で大丈夫?ご飯とかさ…」
『大丈夫だって言ってんだろ。もう何度この姿になってると思ってる?』
「そうだけど…」
『耀の方こそオレが行かないからって浮気すんなよ。浮気したら殺す!』
「え!」
『相手の野郎をな!耀は二度と外に出さない。』
「ええ!?悪代官みたい…」
『浮気しなきゃいいんだよ。イチャイチャもすんな!同じ目に遭う!』

「……しないってばそんな事…誰もオレの事なんて見向きもしないって…」



「耀〜 ♪ おはよう ♪ 」

「!!!」

正門を入った途端トウマさんに捕まった!!

「え?何で?」
「耀に会いたかったから。ん〜 ♪ 」

「 わ っ !! 」

ガ ッ !! キスされそうになって思わず身体が動いちゃた!!

「ウ ガ ッ ! イ デ ッ !! 」

トウマさんの顎にオレのアッパーカットが炸裂!

「はっ!あ…ごめ…やだ…急にそんな事するから…」

自分でも分からないけど男の人に迫られると勝手に手や足が出ちゃうんだ…
自分でもどうしようもなくて一瞬だけその時オレは記憶が飛ぶ…なんでだろう?

「……う〜イテテ…あれ?しいなは?」
「留守番。」
「ああ…元に戻らなかったのか?」
「うん…」
「ったく…難儀な身体だよな…しかもしいなだけなんてね。」
「あ…トウマさん…」
「ん?」
「後で時間あります?」
「あるよ!何?」
「あの…ちょっと聞きたい事と言うか…教えてもらいたいって言うか…
しいなの事とか…半獣の事とか…教えて欲しいなぁって…
オレあんまり半獣の事知らないで飼い主になったから…」
「え?そんな事?何なら今からでも?」

「いや…後でで…って言うかちょっと顔近い…し…手も握らないで下さい…」

「まあ遠慮しないで。」
「いや…」

こんな所しいなに見られたら大変だよ…

「じゃあ後で俺の部屋で。」
「いえ…此処の食堂で…出来ればもう少し目立たないでもらえると…」
「え?」

もう通る人通る人振り返っていく…半獣を隠そうとしないから注目の的だ。
携帯で撮ってる人もいるし…

「ああ…気にしなくていいのに!目立つの慣れてるし ♪ 」
「オレは慣れてませんから…じゃあ後で…」
「ほ〜い ♪ 」


一抹の不安は残るけど……これで…少しはしいなの事…分かってあげられるかな…

分かってあげられるといいな…




「俺達半獣はねどうやって生まれてくるか未だに解明されてないの。
俺もそうだけど今生きてる半獣は気付いた時はもう人間に保護されて研究所で暮らしてるんだ。
1人でふらふら山の中を歩いてるんだって。
アイツ等が言うにはどこかの山に洞窟があって半獣の子供はそこから出て来るらしい…
でもその洞窟を捜索しても中は何も見付からないんだってさ…だから半獣は珍獣なんだ…
あ!その山は国家機密だから誰も知らない。半獣の俺達ですら知らされてないトップシークレット!」
「へえ…」
「そんな半獣なんだけどさ昔から人間の下なんだよね…」
「!!」
「一体誰が最初に半獣と交わったんだか…お陰でそれから半獣は人間の玩具になった。」
「!!!」

スカイブルーの瞳が真っ直ぐオレを見つめる…オレはその瞳に射抜かれた。

「半獣は繁殖が難しいんだ…だから数が少ない分大事にはされてるけどね…
時が経って半獣の立場も大分良くはなって来たけど相変わらず人間の都合で振り回されてる。
多分繁殖を確実なモノにする為に俺達は“あっち”の能力に長けてるのかもしれない…」
「あの…しいなって幾つなの?」
「え?しいな?」
「ハタチは過ぎてるでしょ?」
「半獣はね生まれて半年で人間の15歳になる。」
「半年で!?」
「そう。個人差はあるけど大体1年で人間のハタチ位になるよ。」
「ええ!?」
「それからは人間と同じかな…まあ多少早死にの傾向があるらしいけどね…
最初に一気に成長するからかな?」
「あの…半獣同士の子供っているの?」
「いるよ。ホント少ないけどね。その子は本当の純血だから他の半獣とは待遇が違う。
本当に重要な要人の元にしか飼われない。
いくら大企業の社長や政治家でも飼えないんだ。」
「へえ…」
「しいなも特別なんだよ。」
「え?」
「聞いてると思うけど狼の半獣はしいなだけなんだ。」
「らしいね……」
「昔からいる犬型や猫型と違ってりサンプルが無いから小さい頃は散々調べられたらしい。
結構キツイ検査もあったらしくて1度研究所から逃げ出したらしいし…」
「え!?」
「すぐに連れ戻されたって言ってたけど…」
「………」
「そんな事があって今じゃ人間嫌い。まあ最初の飼い主も最悪だったしね。」
「あ…確か真鍋教授?」
「そう…あの人ドSの変態だから!」
「えっ!?」
「ってしいなが良く言ってたんだ。確かにあの人色んな事に厳しいから…色々叩き込まれたらしいよ。
研究チームのメンバーだし色々やられたんじゃないかな?その恨み?人間嫌いは…」
「………」

「飼い主の当たりハズレはあるからね。一応半獣の身体を傷付ける行為は今は禁止されてるから…
ある程度の安全は保証されてるし審査も厳しいから早々ヤバイ目には遭わないけど
昔は扱いも酷かったらしい。」

「………」
オレはトウマさんの話を聞いて何だか気分が悪い。

「どうしたの?耀?」
「ううん…ただ聞いてると人間って何だか勝手だなぁって…」
「そう思ってくれるなんて優しいね。耀は…
でもね…悲しい事に…半獣の性なのか…元は結局犬と猫だろ?
人間に飼われてる方が安心するって言うか…自分の存在理由があるって言うか…
人間もそこんところは分かってんだよね。はぁ……」
「そう言うものなの?」
「そう。だから当たりの飼い主に当たったらずっと一緒にいたいって思うわけ!」
「…はあ…?」
あれ?雰囲気がちょっと変わった?

「しいなは狼だからそう言うのが無いんだ。」

「え?」

「人間に媚びたりしないから人間を服従させようとする。」
「えっ!?」
「だからアイツの飼い主になるのは大変だからさっさと契約打ち切って俺の飼い主になってよ。」
「ト…トウマさんって今誰にも飼われないの?」
「そう。俺今フリー!」
「そんな事もあるの?」
「犬型はそんな珍しく無いからね。しいなは半獣の中でも超レアだからみんな飼いたがる。」
「へえ…」

「でも俺なら耀に尽くすよ!何でも言う事聞いてあげる。」

「わっ!」

向かい合って座ってたのにいきなりオレの横に来て手を握られた!

「ちょっとトウマさん…落ち着いて…みんなも見てるし…」
「だから見られるのは慣れてるって言っただろ?」
「いや…それとはちょっと違う気が…」

半獣が珍しくて見てるんじゃ無くてやってる事にみんな興味があるんだ…すごい接近されてるし…

「だってどうせしいなとは契約しないんだろ?」
「!!」
「ならいいじゃない…早い方が良いと思うけどなぁ…」
「…でも…オレ…真鍋教授と約束…」
「その真鍋教授が次の飼い主の事振って来たんだよ?気にしなくて良いんじゃない?」
「………」
「ね?」
トウマさんの掌がオレの頬に触れる…

「俺が耀の傍にいてあげるよ…考えてみて…チュッ」

「!!」

頬にキスされた!!

「今度しいなに内緒でデートしよう。じゃあまたね!午後の講義始まるよ。」

「……」



キスされた頬が…物凄い違和感だ…

オレの知ってるキスじゃない……オレの知ってるキスは…………