05
「ったくスゲエとこ住んでるよな。」
車からオレの住んでるマンションを見上げてそんな事を言われた。
あの後傍に置いてあったワゴン車に無理矢理連れ込まれてマンションまで来た。
真っすぐ此処に来たって事は調べてあったんだ…
オレは後ろの席で声を掛けて来た男の人にがっちりと肩に腕を廻されて捕まってる…
こんなに知らない男の人に密着されるのなんて初めてで…
しかも何だかすごく危険な目に遭ってるんだ…オレ…
でも…やっぱりそれ以上にこの人に密着されてるのがすごく嫌だ!!
車には運転席に1人とオレから部屋の鍵を取り上げて仔犬を連れに行った人と…この人と…
全部で3人だ。
でもこの人達一体何で?
「何で…?」
恐る恐る聞いた…
「ああ?あの犬はちょっと訳ありな犬なんだよ。金のなる犬だな…ふふ…」
「 ? 」
金のなる犬?
やっぱり半獣が犬の姿になってるの??
でもあの姿になるのはしいなだけって言ってたし…トウマさんも何も言ってなかったよな…
「ちゃんと犬を連れて来たら開放してやるよ。」
「…………」
オレは無言でそう言った彼を見つめた……
がちゃ!
『 !! 』
玄関が開いた…耀が帰って来たのか?…ん!でもこのニオイは…
ソファで寝そべったまま様子を伺う。
しばらくして開いていたリビングの入り口から見た事の無い野郎が1人周りを伺いながら入って来た。
軽そうな奴……誰だ?こいつ…
「……うわっ…すげぇ部屋…」
『…………!!』
伺いながら入って来た男の手に見覚えのあるモノがにぎられてる…
耀が持ってるここの部屋の鍵だ!!あのキーホルダーは間違いない。
…と言う事は……この野郎耀からこの鍵を奪ったって事だよな……
オレは大人しくでも視線は男から離さずに観察してた。
「犬って…こいつか?」
オレに向かってそう言うと近付いてくる………来てみやがれ…顔面の急所に蹴り入れてやる!!
オレはそんな素振りをコレっぽっちも見せずにジッと奴が近付くのを待ってた。
「いや…確かこんな薄汚ねぇ犬じゃない。白い犬って言ってたっけ…」
カッチーーーン!!! なっ…なぁにぃーーーーーーっっ!!
オレよりもその犬っころの方が価値があるとでも言うのかっっっ!!この馬鹿男っ!!!
「っと…何だよそっちか。」
オレの殺気に追いやられダイニングテーブルの下で大人しく寝てた犬っころを見つけて移動する。
……ほう…オレの家に盗みに入るなんて大したもんじゃないか…
しかも超レアな半獣のオレを薄汚いなんてほざきやがって……
そんな事より…オレの飼い主に手ぇ出すなんて身の程知らずが…
……こいつ…殺す!!
オレは静かに戦闘態勢に入る……
「大人しくしてろよぉ〜〜金のなる犬ちゃん ♪ ♪ 」
そんなふざけた事を言いながらびくついて大人しくなってる犬っころを抱き上げた。
「入れ物…入れ物っと…お!あれか…」
そう言いながら部屋の隅に置いてあったキャリーバックに犬を入れてリビングを出る。
オレはそっと奴の後ろをついて行く…足音をたてずに…
「くそっ…ホント豪華な部屋だな…まあここまでとはいかないが
多少は贅沢できる金が手に入るからな…くっくっ…」
そんなひとり言を呟きながら玄関に向かう奴に声を掛けた。
『それは良かったな。』
「 !!!……だっ…誰だっ!? 」
笑えるほど驚いて振り向いた奴の顔面に思いっきり走り込んで飛び蹴りを叩き込んだ!
「 ぎゃっ!!! 」
この姿じゃ人型の時とまではいかないが元々半獣のオレには怪力が備わってる。
人間1人位吹っ飛ばすにはこの姿でも余裕だ。
案の定オレに蹴り飛ばされた野郎が吹っ飛んで玄関の廊下を転げて動かなくなった。
『まあ死にはしないだろう…ったく半獣ナメんな!!それに薄汚いなんてふざけんなっ!』
オレはこの姿でも毎日風呂に入るしブラッシングもちゃんとしてんだぞ!耀がだけどなっ!!
奴と一緒にキャリーバックも吹っ飛んで廊下に転げてたがオレはシカトだ。
だいたいこんな事になったのも多分この犬っころのせいだ。
『…………』
オレはリビングに戻って器用に携帯のボタンを押して耀の携帯に電話を入れた。
携帯は耀が出かける前に開いていってくれるしボタンは爪を出せば簡単に押せる。
「…何だよ…遅せぇな…たかが犬一匹連れてくんのに何十分掛かってんだ…あの野郎…」
オレを捕まえてる男の人が機嫌悪く呟く。
「なあ…ホントに犬連れて来たらコイツ帰してやんの?」
運転席の男の人が後ろの席に身を乗り出して話し掛けて来た。
「 !! 」
え…?どう言う…事?
「ああ?……そうだな…結構いい身体してんだよ…コイツ…」
「………」
ちょっと…何言ってるの?この人達…
オレは心臓がさっきよりもドキドキ言い出す…
「あ!」
乱暴に引き寄せられた。
「ガキっぽい顔してるくせにエロイ身体してるよな…」
「…うっ…や…だ…離して…」
身体を抱きしめられて首筋に唇を押し付けられた…
やだ…気持ち悪い…触れられて吐き気がする…
…やだ…やだ…やだ……怖い……しいな!!!
「運が悪かったと思って諦めるんだな。ちょっと味見でもするか。くっくっ」
「あっ!!…やっ…やああぁぁ!!!」
座ってた座席に押し倒されてオレの上に覆い被さってくる…
「後で俺達もだからな。」
「わかってるって…」
「………やっ…ううっ!!」
口を手で塞がれて声が出ない……しいな!!!
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「 「 「 ! ! ! 」 」 」
その時オレの携帯が鳴った。
「……『しいな』って誰だ?」
オレに覆い被さってた男の人がオレの携帯を見て怪訝な顔でオレに聞く。
「……い…一緒に…暮らしてる…ひと……」
オレはやっとの思いでそう言った…だって…それが今のオレにはやっとだったから…
オレがそう言い終わると男の人が携帯に出た。
『……犬を取りに来た奴は殴り倒して捕まえた。』
「…!!なっ…なに?おい!部屋には犬しかいないんじゃなかったのかよ!」
運転席の男の人に向かってそう怒鳴る。
「だって…こいつ犬しか連れてなかったぞ…しばらく見張ってたけど男がいるなんてなかった!」
そうか…昨日からしかこの人達オレの事見てないんだ…
だから狼姿のしいなを連れてる所しか見てないんだ…
ここ結構警備厳しいから住人の事聞いても教えてくれる様な事無いし…
大学でもしいなと一緒に暮らしてるって人にはあんまり話してないから…
『 このお前達の仲間と犬と女を交換だ。 』
「……なに?」
『オレには犬なんてなんの興味も無い。女が無事に帰れば問題ない。』
「………ほんとか?」
『ああ…』
「わかった…じゃあ今から…」
『犬は今此処にはいない。』
「はぁ?何言ってやが…」
『オレは犬が大っ嫌いなんだよ。だから知り合いの所に預けてある。』
「………この一緒に住んでる男…犬が嫌いなのか?」
「え?……あ…うん…」
何でそんな事聞かれるのかわからなかったけど…しいながあの仔犬を毛嫌いしてるの本当だから…
「じゃあ早く連れて来い。そしたら交換だ。」
『わかった…このマンションの裏の公園に午前1時に来い。』
「午前1時だぁ?なんでそんな深夜に…」
『犬を連れて来るのに時間が掛かるしお前達も人目に付きたくないだろうが。』
「………仕方ねーな…わかった…妙な事するなよ…したら…」
『そっちこそその女に手ぇ出すんじゃねーぞ…ちょっとでも手ぇ出しやがったら…
捕まえたこの男と犬………殺す。』
「……!!!」
「 ? 」
しいなと話していた男の人の動きが一瞬止まる…どうしたんだろう?
「わ…わかった……ちゃんと連れて来いよ……」
『…………』
マジギレで電話を切った。
本当なら今すぐにでもこんな犬を渡したって構わないんだが
なんせこんな身体じゃどうにもならない…クソッ!
仕方無くそのままトウマに電話を掛けた。