01





耀が飼い主になって一緒に暮らし始めてから半年が過ぎた。

仔狼姿も何度か繰り返しその時オレは耀の胸に抱かれる心地良さを堪能する。
オレの場所…オレだけの場所だ。

他の誰にも渡さない…オレだけに許されてる特権。


半獣の時は耀の全てを堪能する…反抗も拒絶も許さない。

満月のハイテンションの時は気を使わなきゃならないから面倒だが
流石に耀が持たないから仕方ない。

短時間を何度も何度も繰り返す…
3日ほどそんな状態を繰り返すと耀の身体にはオレのモノの印が時間の経過と共に増えていく…

耀はちょっと痛いと言ってオレに注意するがそんなのオレの知ったこっちゃない。


それは何故かと言うと…耀はオレのモノだからだ!!!


ただ…最近ちょっと耀の様子が変なような気がするのは気のせいか…
何処がと言うわけじゃ無いが…何だろう?

雰囲気と言うか…姿そのものと言うか…

そう…不快とかとは違う…今までと…どこか匂いが違うような気がする……




「望月君があの子の飼い主になってもう半年経つのかな?」
「あ…はい…そうですね…その位経つのかな…」

そんな会話を真鍋教授の部屋でしてる…今日は珍しく真鍋教授に呼ばれたんだ…

いつもはあんまり真鍋教授と話す事は無い…
どうやらしいながオレと真鍋教授の接触を避けてるらしい…

まあ…オレも真鍋教授は苦手だから助かるけど…
だってトウマさんが言うには半獣の瞳が利かないオレを研究したがってるって聞いたから…

今の所何も言われて無いけど…


「もう…充分じゃないかな?」

「はい?」

突然そんな事を言われてオレは訳がわからない…


「あの子が半獣の中でも珍しいと言うのは知ってるよね?」

「はい…狼の半獣はしいなだけだって…」

「半獣が存在する理由も…」

「…………」

何だろう…真鍋教授の瞳が冷たくて…冷酷なモノに変わる…
オレは心臓がドキン…ドキンって…なってきた…

「あの子を飼いたいと言う申し出が後を絶たない…」
「え?」
「あの子は僕達の研究には無くてはならない子だ…
たった1体の狼の半獣と……莫大な研究費を生み出してくれる。」
「…え…で…でも…オレとは正式に飼い主になる契約はしてるって…」
「ああ…正式な手続きだよ。」
「そ…それに…飼い主と相性が良ければ何年も…ううん…ずっと一緒にいられるって…」

「君はあの子とずっと一緒にいたいのかい?」

「え?」

「一緒にいたいのかと聞いているんだよ。」
「…一…緒に?」
「ああ…君にはあの子の半獣の瞳の効力は低いのは知ってる。
多分君のトラウマの治療をしたのがあの 『 草g右京 』 だからだろう…」
「右京さん…だから…?」
「まあその事は今はどうでもいい事だけれど…質問に答えなさい。
君はしいなと一緒にいたいのかい?」

しいなと…一緒に……?

「もしもそう思っているのなら…それは半獣の能力のせいだ。」
「え?」
「半獣は傍にいるだけで人間を惹き付ける。それは半獣の本来の能力で瞳の能力とは別物だ。
瞳の能力はそれを更に確固たるものにする補助的なものに過ぎない。」
「そ…んな…」
「では君はあの子の事が好きだとでも言うのか?」
「………」
「あの子を…人間でない半獣を好きだと言うのかな?人に飼われる為だけに存在する生物を?」
「そ…そんな言い方しないで下さい!そりゃしいなは半獣だけど外見以外オレ達と変わらない!
ちゃんと人を好きになれるし…思いやりもあるし…」

「じゃあの子は君の事を好きとでも言ったのかな?」

「え?」

「君もしいなに好きだと伝えたの?」

「…そ…それは…まだ…」

「人と半獣の間で『恋愛感情』などと言うものは発生しない。もし相手の事を愛おしいと思うのは
半獣の能力のせいで『好き』と言う感情ではない。」

「……だったら…何なんですか?そうだとしてもオレとしいなは上手くいってる…」

「君から契約を解除してもらいたいんだ。」

「え?」

真鍋教授が何の感情も込めずに…サラリと言うもんだから…
オレは言われてる意味が理解出来なかった…

「あの子が君との契約を解除するなんて言い出さない…だから君から申し出て欲しい。」

「契約の…解除?」

「ああ…飼い主から申し出れば簡単だ。
満足したとそれだけの理由でなんの障害も無く契約は解除される。」

「解除…ってしいなから言うんじゃ…」

「今まではね。あれは気難しいし気紛れだから自分が気に入らないと飼い主に囁いて
強制的に契約を解除させる。まあ短期の周期で飼い主が変わったから僕達にとっては
都合が良かったけど…今回は無理そうだから…君に言った方が早いと思ってね。」

「…どうして?」


オレは…何でだか心細くて涙が出そうだ…怖いと言う気持ちまで込み上げる…

だって…このままじゃ…きっとオレ達……契約を解除させられる…

しいな……しいな……オレの傍に来て!!!今すぐ!!!!


「あの子を呼んでも無駄だよ。」

「え?」

オレはいつの間にか身体を強張らせてて…ギュッと目を瞑ってたらしい…
そして…心の中でしいなを呼んでた。
「今あの子は研究室で眠ってる。」
「眠って…る?」
「ああ…半獣と飼い主は契約が成立するとお互いの意識が敏感に反応するから…
最近あの子も警戒し始めてね…君が大学にいる間は特に神経を尖らせてるみたいだ。
他の飼い主の時は逆に遮断してたみたいだけど…君は余程の相手らしい。
だから定期検診の日を狙って君に声を掛けた…しいなはクスリで眠ってる。
今はもう新月に向かってる時期だから麻酔も簡単に効くしね。」
「………どう…して…」
「なに?」

「どうしてしいなにそんな事をするんですか!!!」

「あの子は特別だからだよ。僕達の研究材料としても…他の半獣にとってもね。
あの子が引き出したお金が今までどれだけの半獣の為に使われて来たか…
君にはわからないだろうけどね。だからあの子は他の半獣には無い色々な特権が与えられて
自由が認められてる…でも1人の飼い主に飼われると言う自由は認めるわけにいかないんだ。」

「え?」

「それにもし…雌の狼の半獣が生まれたら…あの子の意思とは関係なく交わらなければならくなる。
子供が出来るまでね…狼と狼の子供なんてそんな素晴らしい事は無い。
でも…そんな事君に耐えられるかな?たとえ半獣同士と言えどもあの子が他の子と交わるのを…?」

「…………」

「その前にあの子がそれを承諾しない…まあ雌の狼の半獣が現れる確率は少ない…
でもその前に…君が飼い主である以上あの子が他の飼い主に飼われる事が無いのだけは事実らしい。
それは非常に僕達にとって困る事で何の利益も産まない。」

「…………」

オレは…もう…何も言えなくて…

「次の新月の前にしいなとの契約を解除したまえ。これは…お願いではない…命令だ!望月君。」



どうやって部屋に辿り着いたんだろう…気付いたらリビングのソファに座ってた…

しいな……しいな…オレ…どうしたらいいんだろう……



「耀?」

「………あ…しいな……お帰り…」
「何してる?明かりもつけないで?」
「え…?あ…」

いつの間にかこんなに暗くなってたんだ…もう日が暮れだして空には星も何個か輝いてた。

「ちょっと夕焼けの空見てたら感動してぼーっとなっちゃった…」
「もしかしてオレがいなくて淋しかったのか?」
「誰が?自惚れてるなぁ〜違うよ…お腹空いたなぁ〜って」
「何だ食い気か?」
「しいなは?身体大丈夫だったの?」
「ああどこも異常なしだと。」
言いながら電気のスイッチに手を伸ばすから…
「あ!点けないで!」
「ああ?」
しいなが疑わしげな声を出した。
「しいな…ここに来て。」
オレは座ってるソファにしいなを呼んだ。
「?…何だよ?」
疑いながらしいながオレの隣に座る。
「!!」
コツンとしいなの肩に頭を傾けた。
「どうした?」
「ううん…ただこうしたいだけ…」
「は?」

しいなが不思議に思っても構わない…でもオレは今しいなとこうしてたかったから…
怪しまれても気にしない……

「耀?」

「………うっ」

ダメだ…勝手に涙が零れる…

「ホントにどうした?何かあったんだろ?」
しいなが心配そうにオレの顔を覗き込むから…
「な…何にも…何にも無いよ…しいな…」
「ウソつけ!正直に話せ!ハッ!まさかトウマの奴に何かされたのかっっ!!」
「違うよ!ホント何でも無いから…ちょっと感傷的になっただけ…夕焼けが綺麗だったからさ…」
「ホントかよ…」
「ホントだよ………ねぇ…しいな…」
「ん?」

「オレ達…いつまでも一緒に居られるかな…」

「は?いきなり何言い出すんだよ。」
「そうだけど…」
「いれるに決まってんだろ…今更何言ってんだ…」
「………しいな…」
「ん?」

「どうしていつまでも一緒にいれると思うの?」

「は?ホント今更だな…耀がオレの飼い主だからに決まってるだろ!まあ世間的にはだけどな。」
「………そっか…そうだよね…」

オレとしいなの関係はそう言う関係なんだよね……

「しいながオレと交わったのは契約だったからだよね……」
「なっ…何だよ…今更ばっかりだな…そりゃ最初はどの飼い主でもそうだ。」
「じゃあ今は?」
「は?今…?い…今は…」
「今は?」

「お前はオレのモノだからだ!オレが交わりたいから交わる。
耀だってオレと交わりたいから嫌がらずに交わってるんだろうが!」

「オレが…交わりたいと思ってるから…」

「耀?」

「………しいな…」

耀がオレの方を見もせずに俯いたまま…でもうっすらと笑ってる様に見える…

「何だ?」

「もう……いいや…」

「は?」

「しいなと一緒いるの……飽きちゃった…」

「!!!!」

「……ごめん…ずっと最後まで飼うなんて言ったのに……
もう…しいなの相手するの疲れちゃった…」

「………」

オレは突然の事で…息が止まる…

今…耀は何て言った?…もう…いいって…オレは要らないって言ったのか…?


本当は問い詰めて追求したかった…
急に何言い出すんだと怒鳴りたかった…でも…

俯いたままの耀の頬に零れた涙が伝って落ちるのを見て…
耀にそんな事を言わせたのはオレなのかとふとそんな不安が過ぎったから…

オレはその後の言葉を飲み込んでしまった……