03
「耀が浮気?あの耀がか?」
「ああ…そいつの子供が耀の腹にいる…」
「は?妊娠したって事か?」
「ああ…最近耀の体臭が変わったから変だとは思ってたがそう言う事だった…」
「まあ…確かに人間とオレ達との間じゃ子供は出来ないからな…
にしても耀が?何か信じられないな…」
トウマが納得いかない顔で悩んでる。
「オレだって信じられなかった…」
お前よりもな…
朝っぱらからオレは亨の大学の部屋に転がり込んでる…
すぐにトウマもやって来て昨夜の事を話してるってわけだ……
「何だ…じゃあ僕がわざわざあんな話をしなくても良かったんじゃないか…」
「………」
オレは無言…トウマはやれやれと言う顔をしてる。
「で?耀は?」
「知らねぇ…昨日出て行った…」
「出て行ったんじゃなくて追い出したんだろ?」
「………」
確かに出てけって怒鳴ったが…一緒になんていれる訳ないだろうが…
「今頃耀どこにいるのかな…」
「は?」
「だって前住んでたアパートは引き払ったんだろ?
荷物も全部お前の所にあんのにどうしてんだよ?」
「オレが知るか!」
「冷たいなぁー」
「その子供の父親の所にでも行ったんじゃないの?大学には?」
「いなかったよ。だから俺真鍋んトコに来たんだから。」
「そう…」
「でもやっば信じられないよなぁ…あの耀がしいなの他に?」
「お前と契約を交わす前からの付き合いだったんじゃないの?」
「だってさ…大学でだってほとんど人と話さないしさ後は俺かしいながいつも一緒にいたんだぜ…
そんなそぶり全然なかったけどな…」
「オレが狼の姿の時だろ…」
「まさか!特にその時は早く帰ってたよ。お前が待ってるって…あの身体じゃ不便だろうからって…」
「!!」
「それにさ…耀はお前が初めてだったんだろ?
キスだってお前が初めてだった娘が…一緒に暮らしてるのに浮気なんてするかな?」
「…そ…そんな事言ったってな耀が妊娠してるのは事実なんだからな!
浮気したって証拠だろうがっっ!」
「あの子が浮気しようがしてまいがどうでもいい!早速新しい飼い主との契約だよ。」
「嫌だねっ!契約なんて当分する気は無いっ!」
「!!!」
亨があからさまにムッとした。
「なあ真鍋…」
「なに!」
「怒るなよ…本当に人間と半獣との間に子供は出来ないのか?」
「今まで聞いた事無いね。理論上不可能ではないけど…
やはり基本的に種族が違うせいかお互いが相手の遺伝子を受け入れないみたいだね。
もし人間と半獣の間で妊娠が確認されたら…それは半獣の歴史が大きく変わる。」
「………」
「じゃあ耀が半獣の…しいなの子供を身篭る確率は…」
「今までの調査ではその確率は0だね。」
「やっばそうか…」
「たださっきも言ったが理論上は不可能では無い…」
「0じゃないって事か?」
「理論上はね。ただ実際問題限りなく0だ。」
「なあしいな…」
「あ?」
「やっぱさ俺耀が浮気なんて信じられないんだよな。」
「オレの方がお前より耀が浮気したなんて信じられないんだよっ!でもな…確率は0なんだぞ!」
「でもさ…もし突然変異で出来てたらどうする?」
「は?突然変異ってなんだ…!?」
「お前等相性めちゃくちゃ良かったんじゃないか。
しかも今までお前から人間を受け入れた事なんて無かっただろ?
もしかしてもしかしたら…って事も有り得るかも…な?お前狼の半獣だし!」
「……ちょっ…待て…」
心臓が…ドキドキといい出した…本当に…もしかしたら……?
「望月君に連絡つかないの?」
「え?ああ…携帯オレの部屋に置いて行ってる…」
昨日身の回りの物なんて耀は何一つ持って行かなかった…
「お手上げだね。」
「この薄情者野郎!!!」
「イテッ!!」
バシッっと頭をトウマに叩かれた!
「あっさり耀を見切りやがって!」
「そんな事言うけどなオレがどんだけショックだったかわかるか?
契約解除とオレとは出来るはずの無い子供で妊娠だぞ!!」
「うろたえやがって…」
「違うよトウマこれはね男の嫉妬だよ。浮気された怒り!」
亨がもっともらしく言う。
「やかましいっっ!!!」
確かに途中から怒りまくってたが…
「お前の責任で耀をちゃんと見つけ出せよ!」
「まあ見つけだしても2度と飼われる事は無いけどね。」
亨が嫌味ったらしく笑いながら言う。
「そしたら俺が耀に飼われる ♪ 」
「!!!」
「もう何も文句言えないよなぁ〜しいなぁ〜 ♪ 」
ニヤニヤ笑いながら言いやがって…
「…………」
でも2人が言ってる事は真実で……本当の事だ…
あの時…もし耀の妊娠の事が無かったら…契約の解除は止めさせるつもりだったのに…
もう…オレと耀が半獣とその飼い主と言う関係になる事は…2度と無い……
「耀…気分はどうだい?」
ベッドに横になってるオレの部屋に右京さんがにっこり微笑みながら入って来た。
「はい…気分はいいです…」
「そうかい…でも無理をしてはいけないよ…大事な身体なんだから。」
「はい…」
あの日…しいなに出て行けって言われてマンションを飛び出して…
いつの間にか降り出してた雨の中をフラフラと歩いてた…
「そのままでは風邪をひくよ。」
「…………」
そんな声を掛けられてボーっとした意識の中で顔を上げると…
雨の中に…傘を差した右京さんが微笑んで立っていた。
そのまま右京さんの屋敷に連れて来られて…お風呂やら着替えやら…
何から何までお世話になって…
暖かい紅茶をフカフカのソファで飲んだ時に…いつもの…そっと…優しい声で…
「何があったのか僕に話してごらん。」
って右京さんが言ってくれて…
オレはそんな右京さんの声にホッとして…急に涙が込み上げた。
だから声を出して泣いて…泣いて…泣いて…
右京さんはそんなオレが泣き止むまで待ってくれて…
やっと泣き止んだオレは今までの起きた事全てを…右京さんに話した。
次の日右京さんの所の専属の病院でちゃんと検査してもらって…
しいなの言う通り…オレは妊娠してた…
「耀…おめでとう。」
「右京さん…でも…オレ本当にしいな以外の男の人となんて…」
「わかっているよ…耀がそんな事の出来る子では無いと僕はわかってる。」
「右京さん……」
「耀…これは奇跡と言うものだよ。」
「奇…跡?」
「ああ…とても素晴らしい奇跡…だから堂々としておいで…いいね?」
「…はい…」
そう言って右京さんはオレの頬を優しく撫でてくれた…
草g右京さん…オレを救ってくれた人…
母さんを自殺に追いやってしまった罪の重さに耐え切れなくて死のうとしてたオレを助けてくれた…
とってもお金持ちで…古くから続く旧家の当主でとっても偉い人のはずなのに…
見ず知らずのオレを治療してくれて…
男だと思って生きてきたオレを女の子だとわからせてくれた…
とても不思議な力を持ってて…とっても厳しい人で…でも…
とっても優しい人…しいなとは違う…オレの…大事な人…
今まで…オレの事を陰ながら見守っててくれたらしい…
「あの時も雨の中を1人でフラフラと歩いていたね…」
「そうですね……そうだった……」
「でも…あれからは楽しく生活していた様で僕は嬉しいよ。」
「はい…」
楽しかった…特にしいなと知り合ってからは…
「ゆっくりお休み。もう何も心配する事は無いから…じゃあまた後で顔を見に来る。」
「はい…」
右京さんが部屋から出て行って…オレは窓の外に目を向ける…
とっても広くて大きなこのお屋敷は至る所から青々と茂る木がたくさん見える…
その枝がサワサワ揺れて…オレはそんな風景を見てホッとしてる…
オレの…お腹にしいなの赤ちゃんがいる……
しいなは人間と半獣の間では子供は出来ないって言ってた…
だからオレが他の男の人と…浮気したって…信じ込んでた…
でもそれは今から思うと仕方の無い事で…オレだって信じられない…
右京さんは…『 奇跡 』 だって言ってくれた……
「赤ちゃんか……オレと…しいなの…赤ちゃん……ふふ…」
数日前までしいなとあんな事になって落ち込んでたのに…
今は赤ちゃんの事を考えるとこんなにも嬉しい気持ちになる……
「……しいな……」
いつか…しいなも信じてくれるかな…
……この子が…しいなの子供だって…