04
耀がオレのマンションから出て行った5日後…
新月が訪れてオレはまた仔狼姿になった。
『……………』
耀がいなくなったマンションにずっと1人…
何をするわけでも無くほとんどをソファの上で過ごしてる…
人間と半獣の間での妊娠はありえない…
それは当然の事だから耀の腹の中に子供がいると言う事は人間の男と交わったって事だ…
オレは…と言うか世の中の誰もがそう思う…
研究者の亨でさえもありえないと言う気持ちの方が強いらしい…
オレは……確かに耀がオレと暮らしながら他の男となんて信じてない…
どんなヒイキ目に見てもオレ達は上手くいってた…
お互いずっと一緒にいるもんだと思ってた…
でも…オレの子供であるはずがない…出来るはずの無い子供がいるって事は……
「良く平気だな…お前…」
暇つぶしにやって来たトウマがオレを覗き込みながら嫌味を言う。
オレを心配して来たなんて言ってるが絶対ウソだ!
『は?』
「あんなに耀のこと大事にしてたのに…異常なくらい。」
『………今更どんな顔で会えっていうんだよ…』
「は?」
『オレがあの時……耀にどんな事言ってどんな事したか…』
「まあこの部屋見りゃわかるけどな…」
トウマがリビングを見渡して呆れた様に言う…リビングはあの日のまま…
窓ガラスはヒビが入ったままでダイニングのイスはぶっ壊れて散乱…
壁には幾つも穴が空いて至る所に血が飛び散ってる。
「派手にやったな…」
『………』
それでもオレの気持ちは収まらなかったが…
「元に戻ったら探しに行くんだろ?」
『耀が行く場所の心当たりが無い…』
「は?」
『お前が言う通り耀は此処以外行く所なんて無いんだ…』
それをオレは…そんな耀を…追い出した…
だからそんなオレの事…許すわけがない…呆れて見切られて…
そんなオレの所に戻って来るはずない…
しかも契約の切れた今前ほど耀を感じれるかどうか…
それからオレの気持ちと比例してか…いつもより長い7日後に人型に戻った。
「……………」
人型に戻った次の日…
マンションの近くのあの公園の広場で目を瞑って立ってた…
神経を集中して耀を感じる……何処だ…何処にいる…耀…
「はぁ……駄目だ…」
結構な時間神経を集中したが耀の気配は感じ取れない…
「満月ならもう少し違うんだろうけどな…クソ…」
何で今は新月なんだ…
「ん?」
気付くと公園の入り口に誰かが立ってた。
見た事の無い…背はオレよりちょっと低め…短い髪に黒いスーツに…
オレをじっと見つめながら歩いて来る。
「?」
「君がしいなかい?」
オレの3mほど手前で止まって話し掛けられた。
「何だお前?」
「僕?………耀のお腹の子供の父親だ。」
「何!?」
オレは一瞬で戦闘体勢だ。
「…と言ったら満足かい?」
「は?」
「僕は草g右京…名前くらい知っているか?」
「クサナギ?」
ああ…確か耀を治療したって言う男…?
「耀は僕の所に居る。」
「なっ…!!」
思わず一歩踏み出した…
「僕に近づくな!」
「は?」
「僕に気安く近づくなと言っている。」
「何?ん?」
何だ?近付くなって言いながら…自分からオレに近付いて来やがった?
「!!!!」
パ ン ッ !!! と乾いた音が公園の広場に響いた!
「なっ…!!」
コイツ……いきなりオレに平手打ちしやがった!!
「テメェ…!!」
「この大馬鹿者がっ!!」
「!!!」
そう言って絡み合った瞳は今まで見た事の無い禍々しい瞳…
半獣の瞳とも違う…でも人のものでも無い…
「邪眼…」
「よくも耀を傷つけたね…許さないよ…」
「………」
「あの子を侮辱する事は僕が許さない!」
「侮辱?」
「ああ…誰にでも身体を許すなどと思う事が耀を侮辱しているのと同じ事だ。」
「それは…」
「どれだけの素晴らしい奇跡が起こったか馬鹿な君にはわからないだろう。」
「……奇跡?」
「………耀を君の所に帰すつもりは無い。」
「!!!」
「どうせ一緒に暮らせるわけでもないのだしね…君から契約を解除したのだから…
耀と産まれてくる子供は僕が責任を持って面倒を見る。二度と耀に会う事は許さない!
話はそれだけだ。もう会う事も無いだろう。新しい飼い主と上手くやっていきたまえ。」
「…待てっ!!!」
オレに背を向けて歩き出そうとする背中を呼び止めた。
「何だい?」
冷めた瞳で睨まれた。
「耀の…お腹の…子供は……」
「君の子供に決まっているだろう。何を疑う事があるんだい?」
「!!!」
初めて…きっぱりと言い切られた!!
オレはその瞬間頭の中が真っ白になった……
「……オレの…子供……耀の腹の中に……オレの……」
ずっと……そんな独り言を繰り返して…
オレはアイツがいなくなった後も…しばらく公園で立ち尽くしてた……