05





「ここか…」

オレは郊外に建つとんでもなく広い敷地の門の前で立ち尽くしてた。

「どんだけ広いんだよ…」

屋敷が見えねぇ……
周りには整備された背の高い木々が上品に生えてる。


昨日オレの前に現れた男のは此処の屋敷の当主で草g右京と言う男…
耀とどんな繋がりかは知らないが耀がここに居ることだけは分かってる。


「………」

オレは落ちてる枯れ葉を拾って鉄の柵に投げた。
投げた枯れ葉は柵に当たってハラハラと道路に落ちた。

「電流は流れてないか…」

警備が厳重だって聞いてたんだが…

昨日のアイツの様子じゃまともに正面から行っても耀に会わせてくれないだろうし…



「せっと…」

オレは片手ずつ柵を掴んで力を込めて左右に引っ張った!

「 … く っ っ !!! 」

流石に満月の時とはいかないがそれでも人間なんか比べものにならない程の怪力は出る。



「ふう…こんなもんか…」

とりあえずオレが通れるくらいの隙間をこじ開けた。

「さてと…」

オレはこじ開けた柵の隙間に足を踏み入れた。





しいなの所を飛び出してもうすぐ2週間…しいな今頃何してるんだろう…
新月も過ぎたからもう仔狼から戻っちゃっただろうな…

ああ…オレの楽しみが…

あのチビチビのフカフカのフワフワの肉球フニフニがぁ〜


「………」

もうしいなに会えないのかな…

オレはずっとベッドで横になったままだ…
時々散歩に歩いたりするけどあの日から気分が悪くて歩くだけでフラフラするんだ…
赤ちゃんが出来たせいだって言うけど…オレには何でだか分かってる…


会いたい…しいな…会いたいよ……涙が込み上げる程…会いたい…



「!!!」

今耀を感じた!

「あっちか!」

オレは耀を感じた方に走り出した。


「…どうやら見付けたようだね…フフ…まだ見込みはありそうかな。
その為に警備を引かせてあるんだから…上手くやってくれないと…ね…」



草g家の敷地内に入ってからオレは何の障害も無く耀に向かって走り続けてる。
警備員も出て来る気配も無い…どういう事だ?
まあオレには好都合だが…

どこまでも続く林を抜けて屋敷がやっと見えた…




「マジかよ…」

目の前には見付けられるなら見付けてみろと言わんばかりの
デカイ屋敷がオレの視界を埋め尽くしてる…

デカすぎて…何処に耀がいるんだよ…

「………耀…」

とりあえず手当たり次第に部屋を捜すしか…



「!!!」

しいな?今…しいなの呼ぶ声がした様な気がした…

でも…そんな事無いよね…しいなが此処に…オレに会いに来るなんて…
だってオレが此処に居る事知るはず無いし…オレ右京さんの事しいなに話した事無いから…


「しいな……」


ため息をついて大き目な枕に寄り掛かった…ちょっと疲れて目を閉じる…

しいな…今頃何してるの…まだ機嫌悪いのかな…オレの事怒ってるかな…

まだオレがしいな以外の人となんて…思ってるのかな…


ゆっくりと閉じてた目を明けると……

「え?」

窓ガラスの向こうに……

「しい…な…?」

自分の目を疑っちゃった!!
だって…ちょっと目を瞑ってただけなのに…目を開けたら窓の外にしいなが立ってたから…

ここからでも分るくらいに…肩で大きく息をして…オレをジッと見てる…

「…………」

オレはベッドから下りもしないで窓の外のしいなをじっと見てた…
だって…行けないもん…

しいながオレの事…どう思ってるかわからなかったし…
今更どんな顔と言葉でしいなに話せばいいのかわからないし…

オレは掛け布団をギュッと握り締めてた…

それから2人でどの位そうしてたんだろう…しいながゆっくりと歩いて来て窓際に立った。


「??」

どうするんだろう?って見てたら…


「わあ!!!しいなちょっ…タンマ!!!だめっ!!今開けるから!!!」


しいなが両手でゲンコツを作って振り上げるから…
オレは慌ててベッドから飛び出して窓の鍵を開けた。

もう素手でガラスを割ろうとするなんて…相変わらずやる事が乱暴なんだから…

しいなはオレが開けた窓を飛び越えて部屋に入って来た…
オレはまたベッドに戻って布団には入らずにベッドに腰掛けた。

やっぱり立ってるのは辛いから…


「……まだ…調子…悪いのか?顔色…悪いぞ……」


久しぶりのしいなの言葉……

ちょっとバツの悪そうな…照れてる様な…そんな声…怒ってはいないみたいだけど…


「うん…ちょっと…あ!でもどうして?良くオレが此処にいるってわかったね?」

「草g右京って奴に会ったから…耀が…此処にいるって…言ってたし…」

「右京さんが?しいなに会いに来たの?」
「ああ…」

殴られた事は言わないが……



「…………」

「…………」


2人でそのまままた無言だ…もうとんでもなく空気が重い……

しいなは窓際に立ったままオレの方に来ようともしないから……


やっぱりオレの事…まだ怒ってるんだ…でもそしたらしいな一体何しに…


「耀…」
「ん?」
「もう…聞かない…これが最後だ…これから先一生聞かないから正直に答えろ。」
「?……うん…」

「オレ以外の男と交わってないんだな?」

「!!!」

オレはちょっとビックリで…心臓がまたドキンとし始める…

また…あの時の繰り返しなのかな…


「耀…」
「……うん…しいな以外の男の人と…交わってなんか…ない…」
「浮気はしてないって事だな?」
「…うん…オレ…浮気なんて…してない……」

「じゃあ…腹の中の子供は………オレの子供なのか?」


しいながあの時と同じちょっと辛そうな顔でオレに聞く…

でも今は怒ってはいないみたい…


「………そう…だよ…しいな……」

オレは自分で…涙が込み上げてくるのがわかった……

「この…子はね……しいなと……オレの子供なんだ……」

オレの瞳に溜まった涙はあっという間に零れて…頬を伝って落ちた…

言えた…

しいなにこの子とこと…ちゃんと伝える事が出来た……

「 !!! 」

しいなが窓際から駆け出して…ベッドに座ってたオレをギュッと抱きしめてくれた!

「…耀……本当に…オレの子供なのか…」
「本当だよ…」
「半獣と人間の間じゃ…子供は出来ないんだぞ…なのに…」
「これはね… 『 奇跡 』 なんだって…」
「奇…跡?」

しいなが抱きしめたオレをそっと離してオレの顔をジッと見つめる。

「うん…右京さんが言ってた… 『 これは素晴らしい奇跡だ 』 って…
だから 『 堂々としていなさい。 』 って…」

「耀…」

「しいな…オレの言う事…信じてくれるの?」

「……ああ…信じる…だからこやって迎えに来た。」
「迎えに来てくれたの?オレの事…」
「ああ…帰るぞ。」
「でも……オレ達もう飼い主の関係じゃ無いんだよ…それでも一緒にいてもいいの?」

「そんな事気にすんな!オレは耀と一緒にいたい。だから一緒にあの部屋に帰る。」

「……うん!!!」


もう半獣とその飼い主と言う関係じゃ無い事でしいなと一緒にいれるのかどうか
本当は不安だったけど…今はこうやってしいなと一緒にいれる事が嬉しい…

オレを…迎えに来てくれた…オレの言ってる事も信じてくれるって……

久しぶりのしいなの感触…やっぱりしいなと一緒にいると安心する…

だからオレは力一杯しいなの首に抱きついて…しいなに一杯甘えるんだ…




「不法侵入の現行犯だね。」

「 !!! 」

「右京さん!!!」

部屋の入り口にいつの間にか右京さんが立ってた。

「……しいな…」
「邪魔すんな!耀は連れて帰る!」
「お腹の子を自分の子供と認めたのかい?」
「ああ…」

「…まったく…初めから耀を信じていればこんな事にならなかったものを…」

「…………」
「右京さん…お願いします…このまましいなと一緒に帰らせて下さい!!」
「身体は?大丈夫なのかい?」
「はい……」
「そう……毎日楽しかったのに…これから淋しくなるね…」
「右京さん…」

「だが!現実問題今のままでは君達は一緒にいられない。
飼い主と言う契約はもう2度交わす事は出来ないのだから。」

「もうそんな事関係ない!オレは誰とも契約しないし誰にも飼われたりなんかしないっ!!」

「それが彼らに通用するのかい?」

「……なら耀を連れて逃げて…何処か2人で暮らす!」

「……まったく…身重の耀にそんな事させるつもりかい!そんな事僕が許さないよ!!」

「うるせえっ!!お前には世話になったがもうオレ達の事に口出しすんな!!」

「少しは落ち着きたまえ。キャンキャン煩い!!
…確かに飼い主と言う契約は出来ないが他の契約なら出来るだろう。
それに狼の半獣の君が他の半獣より色々な責任が多い事も承知してる…」

「他の形の契約?」

「今まで半獣に関してはそう気に止めていたわけでは無いんだが…
まあそれなりに協力はしていたつもりなんだが…耀の為に…本腰を入れる事にした。」

「は?」
「右京さん?」

「君の為なんかじゃ無い!耀の為だ!!いや…耀と生まれて来る子供の為にか…」

「右京さん…」

「言っただろ?もう何も心配する事など無いと…僕に任せておいで…」



そう言ってアイツは自信ありげな笑顔を耀に向けた。

そしてその後…屋敷の車でオレ達をマンションまで送り届けてくれた。