03





「おはようございます。」

「おはようございます。」

いつもの朝の挨拶を研究所の担当者と交わす。

「しいなもおはよう。」
「ああ…」

相変わらずしいなはぶっきらぼうな返事。

「慎重かつ優しく調べろよ。」
「大丈夫だって!まったく…」


オレはいつもちょっとだけ不安……
だって知らない人ばっかりで…いつもこの子をどうにかされちゃうんじゃないかって不安になる…
だから毎日の検査はしいなに一緒に来てもらう。

前は部屋に来てもらってたんだけど毎日の事でしいなの限界があっさり来た。

オレ達の部屋に研究所の人が頻繁に来るのが我慢ならないらしくて…オレ達が来る事になった。


「まったく相変わらずなんだからしいなは…子供の頃はあんなに素直で可愛かったのに…」

いつもオレの検査をしてくれる前園さんがため息混じりにそんな事を言うから…
前園さんは当たり前だけどいつも白衣を着てて軽くウェーブの掛かった髪の毛を
後ろで1つに縛ってる。

お化粧してて…綺麗で…大人の女の人だ。


「え?前園さんしいなの子供の頃の事知ってるんですか?」
「ええ。しいなが初めて此処に来る前から勤めてるから。」
「え?」

「だからしいなの身体の隅から隅まで知ってるわよぉ〜 ♪ フフ… ♪ 」

「意味ありげに言うなっ!!」
「へえ…」
「お前は注射が下手だったからオレは採血が嫌いなんだ。」
「今は上手くなったでしょ?」
「今更だ!」

「だけどアンタがパパねぇ…しかも人間との間でなんて…
自分も超レアなのに子供はそれの更に上を行く超レアだものね。」

「オレの子供なんだからそんなの当たり前だ。」

「研究意欲が湧くわ!」
「変な事すんなよ!」
「しないわよ!」

そんな2人の会話を黙って見てた…

オレの知らないしいなをここにいる人達は…
特に前園さんは子供の頃のしいなを知ってるんだ…

何だか…ズルイと思っちゃうオレって…


「耀!」
「ん?」
「外出て来る。」
「え?」
「すぐ戻る。」
「うん…んっ!!」

しいなが研究所の人が居る前でちょっと長めのキスをした!

「もっ…!!しいな!!」

止めてよ!すっごく恥ずかしいっっ!!

「じゃあな。耀の事頼むぞ。2人に何かあったら殺すからな。」

2人ってお腹の赤ちゃんの事もだ…



「いつからあんな風になっちゃったのかしらね…やっぱり最初の飼い主がいけなかったのかしら…」

しいなが出て行ったドアを見つめながら前園さんがそんな言葉を漏らす。

「そんなに違うんですか?」
「うん。とっても素直で可愛くてね…狼の姿になった時は女子の所員で取り合いで…」
「え?」
「フカフカで肉球フニフニでしょ?ほんの半年くらいだったけど研究所のアイドルだったわ。」
「はあ…」

確かに仔狼姿のしいなはとっても可愛いもんな…

「ふふ…」
思わず顔が綻ぶ。
「でも真鍋が初めての飼い主になってから変わってきたかな…」
「真鍋?」
「ああ…あたしと真鍋って此処に同時期に入ったから…それに同い年だし。」
「へえ…」
「きっと半獣って言うのがどう言うものか教え込まれたんでしょうね。
真鍋から良く逃げて来てここに隠れてたわ…」
「………」
「その後誰かに飼われる度に性格がひねてっちゃって…今のしいなの出来上がり。」
「え?」

「でもそれは仕方の無い事であたしにはどうする事も出来なかったし…
でも根は優しい子なんだよね…あ!そうだ!しいなの子供の頃の写真見る?」

「えっっ!?あるんですか!!」

「あるわよぉ〜写真でしょ…ビデオでしょ…しかも真鍋がプライベートで録ってた
超レアなお宝映像まで!」

「プライベートって…?」
「真鍋の奴ああ見えてもしいなが可愛いくって仕方なかったらしくて…」
「真鍋教授が?」
「そう…だから自分が最初の飼い主に強引になったんだから。可哀相なしいな…」
「はあ……」
「女子の間でブーイングの嵐よ。だから腹いせにプライベートのしいなの映像
真鍋に内緒でゲットしてやったの!」
「……ヘエ」

真鍋教授相手にスゴイな…

「可愛いわよぉ〜 ♪ 」

前園さんがDVDの準備をしてる間オレはワクワク!だってしいなの子供の頃なんて…



『ここ何処…』

「うわぁ…しいなちっちゃい!」

画面に映し出された2歳くらいのしいな…話し掛けてる相手を見上げるしいなの可愛い事…
ご飯を食べるしいな…着替えるしいな…オレは時間の経つのを忘れて画面に食い入る。

大分経った頃…


「あれ?この子…」

画面に映し出された2人の半獣…1人はしいなで…あと1人…
歳は15・6歳くらいで…ちょっと迷惑気味のしいなの肩に腕を廻してるのは…

「え?トウマさん!?」

「そうトウマはしいなの事がお気に入りだったから…暇さえあればしいなの傍にいたかしら…
トウマも純血の半獣の子供だからね。結構初めての飼い主は慎重になったわ…」
「純血って…」
「半獣同士の子供よ。」
「え?そうなんだ…」

「トウマが初めてじゃないからそんなに神経質にはならなかったけどしいなは
たった1体の狼の半獣だから…最初の頃は研究所内もピリピリしててね…
だからしいなの狼姿は癒されたわよぉ〜最近は抱かせてもくれなくなっちゃったから
つまんないのよね。あなたは良いわねぇ…狼のしいな抱きたい放題でしょ?」

「はあ…まあ…」

キスもしたい放題だけど…それは内緒!

「そうだ!しいなの写真後で携帯に送ってあげるわね。」
そう言ってオレにウインクする。
「本当に?ありがとう!」

「やっと笑ってくれたわね。」

「え?」

「ずっと暗い顔してたから…お腹の赤ちゃんに良くないわよ。」

「あ…ごめんなさい…」

「謝る事じゃないけど…色々不安はあると思うけどあたし達だってそのお腹の子供の事は
無事に生まれて来るのを楽しみに待ってるのよ。そりゃ研究対象ってのもあるけど…
だってこの世で初めての人間と半獣の子供だもの…
でもみんなしいなの子供が生まれるって喜んでるのよ。
しいなの繁殖は諦めてたから…だから無事に生まれて来るまであたし達も
サポートするからあなたも安心してその子を無事に産んでね!」

「……はい…ありがとうございます…」

オレは此処に来てから初めて…何だかホッと出来た気がした……